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17 守りたい場所
買収すると朗久さんが言ったその日、仕事が終わるとすぐに絹山百貨店に向かった。
なぜ、買収するの?と聞くと、朗久さんはだいたいの説明はしてくれたけど、最後には『自分の目で見てくるといい。その方が早い』―――と、言われた。
どうやら、聡さんが絹山百貨店を大型スーパーにすると言っていたらしい。
それを阻止するべく、買収に踏み切るとのことだった。
買収されてしまえば、麗奈達は生活していけないだろうし、きっと慌てているに違いない。
買収される前に大型スーパーの計画をやめてもらおうと思って、百貨店まできたけど、待っていたのは麗奈達じゃなくて、従業員達だった。
「聞いてください!新社長がひどいんです!給料を下げれられて、ボーナスもですよ!」
「それから、見てください。国産にこだわった地下の売り場のスペースを減らして、社長が働いていた会社が取り扱う輸入品ばかり置いて!」
もしかしてこれ―――値札を見ただけで何が起きているのか、理解した。
急いで売り場から裏へ回り、事務所へ走った。
「すぐに伝票を見せて!」
「はい!」
聡さんの以前、働いていた会社で取り扱う輸入品がすべての売り場で納品されている。
「……なんてことを」
それも正規の価格よりも上乗せさせた金額で。
上乗せしたお金を抜いて、自分の懐に入れているのだろう。
すぐにわかることなのに。
なんて―――馬鹿なの。
警察沙汰にはしたくはないけど。
最悪、そうするしかない。
絹山百貨店のイメージが悪くなったらどうしよう……。
「莉世さん。顔色が悪いですよ。大丈夫ですか?」
「え、ええ」
こんな時、どうしたらいいか、判断ができないなんて。
朗久さんの顔が浮かんだ。
一人ではない―――しっかりしなくては。
USBをパソコンに差し込み、不正の証拠を手に入れた。
足が震えているのが、自分でもわかる。
お父様は遊び人で経営の才能はなかったけれど、不正だけはしなかった。
麗奈はこのことを知っているの?
すぐにでも朗久さんの所に戻りたかったけれど、店内の状況と鈴岡のおじ様に会ってからにしようと思い、事務所を出た。
「店内を見て回らなくちゃ」
売り場に出ると、確かにお客様の姿が減っていた。
紳士売り場に行くと、鈴岡さんと常連のお客様が話をしていた。
古くから、絹山百貨店をご贔屓にしている奥様だった。
「作れないってどういうことかしら!娘の旦那にスーツを新調しようと思っていたのに!」
「申し訳ありません」
平謝りする鈴岡さんに奥様が詰め寄っている。
私を目ざとく見つけると、すぐに寄ってきた。
「あらあ、絹山さんじゃないの!」
「ご無沙汰しております。奥様。結婚して、今は時任と名前が変わりました」
「まあ、そうなの?おめでとう」
「ありがとうございます。何かありましたか?」
「聞いて頂戴!以前、私の夫のスーツを新調した時にお勧めして頂いた生地があったわよね?絹山百貨店でしか手に入らない生地だっておっしゃられていたでしょう?今日伺ったら、作れないというのよ。どういうことなのかしら?」
「まあ……。少々お待ちくださいね。ただいま確認してまいります」
鈴岡のおじ様のそばに行くと、困った顔をしていた。
「これはどういうことなの?鈴岡のおじ様」
「絹山でしか取り扱わない生地を卸す業者に露原社長が文句を言ったんだよ」
「なぜ!?」
「高すぎると……今の時代に合わないと言われて」
「そんな。絹山百貨店のためにわざわざ生地を作ってくださっていたのに」
「紳士服だけではないんだ。婦人服売り場やほかの場所まで……。大量生産された安い既製品を多く取り扱うよう指示されてね」
「それでは、ただのスーパーになってしまうわ。絹山は絹山でしか手に入らない物があるから、価値があるのよ」
「そう説明したんだが、辞めろと言われてしまってはね……」
「おじ様に辞めろと!?」
「他の従業員がどうなるか、わからないまま、辞めれないと思って、恥を忍んで残っているが、どうしたらいいか」
「おじ様、待ってください。朗久さんと相談して、なんとかします!だから!」
「時任社長が異変を感じて駆け付けてきてくれたが、なにも言わずに帰ったよ」
「いいえ。ちゃんと考えを持っていますから。どうか、信じて待っていてください」
おじ様に言うと、不安そうな顔だったけれど、とりあえずは頷いてくれた。
こうなってしまえば、麗奈達の生活が、なんてことを言っている場合ではない。
百貨店から出ると、私は手を打つべく、朗久さんの元へと急いだ。
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