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23 奪われた日常 (麗奈 視点)
悔しい、悔しい、悔しい!
警備員につまみ出され、絹山百貨店への出入りを禁じられた。
ありえない!
次に百貨店に来たら、警察沙汰にするとまで言われた。
なんなの。偉そうに!
電車に乗り、慣れない乗り継ぎをして、マンションに帰った。
そう自宅ではなく、マンションに―――
「ただいま……」
「おかえり。麗奈」
憂鬱な私を聡さんが出迎えてくれた。
マンションと言っても中古で天井も低いし、壁も薄いし、眺めも悪い。
部屋の数も2LDKしかないっていうのもどうなのよ!
「仕事は見つかったの?」
「ああ。大学の友人の紹介でなんとかね」
聡さんは絹山百貨店の社長の座を追われ、前の会社には戻れず、新しい仕事を探していたところだった。
聡さんの親はさすがにそんな息子を見かねて、露原の家が所有していたマンションをタダで借りることができ、一緒に住んでいた。
以前住んでいた高級住宅地から、かなり離れた場所にある。
聡さんの親ができの悪い息子を遠ざけるようにして、わざと一番遠い場所のマンションを与えたことはわかっている。
それなのに聡さんは気にする様子もなく『気楽でいい』なんて、強がりを言っちゃって。
「どこに行っていたんだ?」
「お姉様のところよ」
「もうやめておけよ」
「うるさいわね!」
「自分が惨めになるだけだ」
聡さんはふうっとため息を吐いた。
あのジャージ男時任朗久に負けてから、聡さんはどこか落ち着いた。
開き直りかしら?
「惨めなのはお母様のせいよ!お母様がまさか家を売るなんて思わなかったわ」
「家を売りだしてよかったじゃないか。買い手もすぐに見つかったんだし」
「ぜんぜん、良くないわ!」
お母様は家を売却すると、さっさと実家に帰ってしまった。
私も一緒に行こうとしたのだけど、お母様の実家から断れ、『二人も面倒をみれない。麗奈は若いんだから働きなさい』と言われて仕事まで紹介された。
働いたことのない私にとって、お茶くみもコピーも苦痛で毎日がクタクタ。
お母様も酷いわ。
私にこんな生活をさせるなんて!
でもまあ、聡さんが一緒に暮らそうと言ってくれたおかげで、アパート暮らしだけは免れたわけだけど。
まさか、家賃があんな高いものなんて知らなかった。
住んだら、電気代や水道代までかかることも初めて知った。
だから、聡さんには感謝してるのよ?これでも。
「もういいだろう。確かに今まで贅沢な暮らしをしてきたからね。最初は辛かったけど、色々なことを自分で決められるし、選べるのは嫌じゃないかな。親からも遠くなって、兄と比べられなくなったのも気楽でいい」
「……そうね」
あの地域で暮らすだけの財力を失った私達に周囲は冷たかった。
お母様も実家に帰ったのはあの地域でやっていけなくなったから。
絹山百貨店を失ったと聞いた近所の人達は口を利いてくれなくなっただけではなく、私の友人達は付き合いを控えだして、私のスケジュール帳は白紙になった。
それは私だけじゃなく、聡さんも同じはず。
でも、前向きな聡さんは『本当の友人だけが残った』と言っていた。
なにが、本当の友人よ!
私には誰も残ってないわよ―――聡さん以外はね。
どこで私は間違えたの?
気づいたら、何もかも失っていた。
「そういえば、麗奈に手紙が来ていたよ」
ほら、と聡さんが白い封筒をくれた。
差出人の名前がなく、封筒をあけると、そこにやっと名前が書いてある。
「時任からじゃないの!」
「ええっ!?なんだって?」
「パーティーを開くですって…?」
あの悪魔のような男は『祝賀パーティー』と題された招待状を送ってきた。
こともあろうか、場所は―――絹山家だった。
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