評判が悪い妹の婚約者と私が結婚!?【時任シリーズ①】

椿蛍

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番外編 (朗久 高校生)

2 絹山のお嬢さん

「百貨店って言っても高級なかんじですよね」
全員が紳士服売り場に着いた時には帰りたそうな顔をしていた。
フロアは静かで落ち着いた雰囲気だった。
仕方ないと思いながら、緊張気味に声をかけた。
「すみません」
「はい」
若い女性の店員が立っていた。
「あの、スーツを作りたいのですが」
「かしこまりました。生地はどのようなものを好まれますか?」
「よくわからない」
「それでは、私が選んだものを見ていただいて、お気に召さなければ、また他の物をお選びしてもよろしいでしょうか?」
「ああ」
特に微笑むわけでもなく、淡々と生地のカタログを持ってきて、真剣な顔で選んでいた。
それが妙に居心地がよく、ホッとした。
「全員にスーツをお願いできますか」
「かしこまりました。ありがとうございます」
深々と頭を下げると、売り場には一人しかいなかったが、素早く採寸し、記入していく。
忙しそうに働く姿から、ずっと目を離せなかった。
きちんと纏めた髪に薄めの化粧、着ている物は紺のジャケットにプリーツスカート、スカーフを巻き、若いのにすっきりとした服装だった。
綺麗な人だなと思いながら眺めていると、時間はあっという間にすぎていて、気づくと全員分の注文を終えていた。
「ご注文ありがとうごさいました」
スーツが出来上がったら、連絡してもらうことにして、百貨店を出た。
外に出た頃にはもう日が暮れ始めていた。
地下鉄に乗り込んだ時には寮の門限になんとか間に合いそうなことがわかり、いつもの明るさを取り戻した後輩の真辺まなべが喋りだした。
「スーツ、無事に作れてよかったですね!」
「それも、いいスーツだ」
「店員の女の人、綺麗でしたね」
全員が同じことを思っていたらしい。
「でも、名札見ました?」
「いや」
こいつ、抜け目ないなと思いながら、名前は気になったので、なにも言わずに黙っていた。
「絹山さんでしたよ。絹山莉世さん」
「まさか、絹山百貨店の娘とか?」
そんなことあるか?と思いながら、全員が同じ気持ちなのか、沈黙したままだった。


◇      ◇       ◇      ◇      ◇


「絹山莉世さん、大学を卒業後、絹山百貨店に入り、社長である父親の秘書として働き、現在は勉強のため売り場を回る日々らしいですよ」
「いつの間に調べたんだ!」
パソコン同好会というクラブ名で校内の一室を占拠し、会社の事務所がわりにしていた。
仕事をしているのかと、思えば、何しているんだ。こいつら。
副社長がハッキングし、手に入れた社内報に書いてあったらしいが。
まったく、放っておくと、ろくなことしないな。
「国立大の経済学部卒業後、服飾の勉強のため、イギリスやフランスに短期留学もしているみたいですね」
「これは付き合う相手どころか、結婚相手も選ぶな」
「肩書きって、世間一般じゃ、物凄く大事ですからね」
それを聞いて、ガタッと椅子から、立ち上がった。
「社長?」
「ちょっと職員室に行ってくる」
部屋から出て、職員室のドアを開けると、一斉に教師達が俺を見た。
「どっ、どうした?時任ときとう。次はなにをするつもりだ?いや、なにかあったか!?」
何かあるのはこれからだ。
「大学に行こうと思う。国立大の経済学部に行くことに決めた」
「へっ!?」
担任が変な声を出した。
「いや、時任なら、どこでも受かるが。どうせなら、医学部はどうだ?法学部は?」
「経済学部」
ここは一択だ。
「お、おう。まあ、行く気になってよかった!本当によかった!」
職員室でなぜか拍手喝采が巻き起こった。
「あー!社長、ずるくないですか!」
「いきなり、いなくなったと思ったら、職員室かよっ!」
「俺も経済学部にします」
「いや、宮北みやきた。お前は理工学部に行けよ」
「は?ずるいだろ」
「お前らの考えなんか、お見通しだ!」
「進学の権利は平等だ」
「だまれ!」
職員室で大揉めして、教師が止めに入るという、大変な事態になったのだった―――


◇      ◇      ◇      ◇      ◇


そして、その数年後ーーー
「朗久さんも同じ大学の経済学部を卒業されたんですね」
「ああ」
女性店員だった莉世は俺の妻となり、掃除の際に見つけた卒業写真を眺めて、にっこり微笑んだ。
「どうした?」
「重役の皆さんと仲がいいなって、思っていました。同じ大学に進学されるなんて」
写真にはあいつらも写っていた。
「まあな」
詳細は絶対に言わない。
あの後、莉世に相応しくなるために会社を大きくし、ビルを手に入れて、大人の男として振る舞えるように努力したことは絶対に内緒だ。
その努力は知られたくない。
手の写真をそっと奪い、キスをし、写真をデスクの引き出しの奥深くにしまいこんだのだった。

【高校生編    了】

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