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キスから始まる異世界バトル(2)

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 リリスに触れているだけの筈の唇が異様に熱い。
 唇から自分がどんどん別のモノに変わっていく様な、熱い様な冷たい様な不思議な感覚が身体中を駆け巡っていく。
 心臓の音が全身に響いて、今にも破裂しそうだ。

 異変を感じとったのか、リリスはいつの間にか目を開けて何か話しかけてきてくれているが、聞き取る余裕はない。
 二頭のチャルロックサウルスも同じく何かを感じたのか、喰い付こうとした大口を引っ込めて様子を見ている。

 しかしそれも限界だったのか、俺の身体の異変が収まってきたタイミングで、リリスの方にいたチャルロックサウルスが、リリスに喰らい付こうと迫ってきた。

「リリス、下がって」
「へ? ……ちょ、ちょっと!」

 何故だかわからないが「できる」と思ったから、真正面から突っ込んでくるチャルロックサウルスの突進を、同じく真正面から受け止める。

「う、うそでしょ……ヨシヒト?!」

 驚いているリリスを尻目に、今度は喰らい付こうとしている大口を強制的に閉じさせ、全身を使ったヘッドロックをしながら、全力で顔面にパンチをお見舞いしてやる。
 魔人種の身体になった時から、いつの間にか手や腕や身体の肌に刻まれている紫色の模様が何故か光を発しているが、そんなのお構い無しに暴れまくる。
 同じく暴れるチャルロックサウルスと格闘しながら、ひたすら首を絞め上げながらめちゃくちゃに殴りまくっていく。
 そしてチャルロックサウルスの動きが弱ったタイミングで、その横っ面を思いっきりぶん殴った。

「グギャォッッ?!」

 殴られた一頭のチャルロックサウルスは少し横向きに吹っ飛びながら、ゴロゴロと転がって動きを止めた。

「グギャオオオ!!!」

 今度は後ろからもう一頭のチャルロックサウルスが迫ってくるのが足音でわかったから、片腕でリリスを庇いながら、もう片方の腕で全力の裏拳を叩き込む。
 当たり所がよかったのか、大きく吹き飛んだチャルロックサウルスは近くの巨木に身体を打ち付け、これまた動かなくなってしまった。

「ヨシヒト……すごい……」
「いやあ……マジかよ……」

 命の危機から一転。
 二人してあまりに現実離れな現実に、ただただ頭が追いついていなかった。

「俺、どうなってんだ…………?」
「ボクたち……ちゅーしただけ……だよね?」
「そう、だな……でも、リリスの方から何か不思議パワーみたいなモノが流れてきた感じがしたぞ?」
「え、うそだぁ?! ボクにそんなスキルや魔力なんて……」

 そこまで言うと、リリスはアッと言う表情になる。

「……ママの仕業かも」
「リリスのママ? 何で?」
「ボクがウチを出る前に、ママが色々持たせてくれてたって話したでしょ? 多分、ボクが危なくなった時に発動する魔力が封じ込められた道具か何かがあったんだよ。ボクのママすっごく過保護だから……」
「なるほど? そのリリスママが用意してくれてた魔力が俺に流れてきて、俺がめちゃくちゃパワーアップしたと……ちなみに、俺が魔人種に転生してなくても同じ効果は期待できたか?」
「……ほぼ間違いなく魔力に耐えられなくて、バラバラに爆発してたんじゃないかな?」
「マジか! あぶな……んん??」

 リリスとそのまま話していると、両目に熱い感覚が集まってくる感じを覚えた。
 ついさっき感じた、不思議なパワーが集まってくる感覚だ。

「リリス! なんか今度は目に違和感が……!」

 すると次は、変化が視界に現れた。

『種族「小悪魔」 名前「リリス」 LV5
 スキル 「幻惑LV4」「魔力操作LV8」「大悪魔の娘LV5」
 HP10/16 MP1/66 SP11/30』

「あ、また忘れてた……! て言うかヨシヒト、ボクのステータス勝手に見たでしょ! この、えっち・すけべ・へんたい!」
「いやいやいや! 裸とか見た訳じゃないんだから、流石に理不尽だろッ!」

 て言うか、何で俺がリリスのステータス見れるんだよ! そう言う異世界方式か? と聞くと、リリスは形の良い大きな胸を張りながら説明を始めた。

「ボクはね、ヨシヒトの世界にボクとけーやくしてくれる人をスカウトに行った訳じゃない?」
「……らしいな」
「当然、相手を見つけた時にけーやくしてもらえる様に、現地で色々とニーズをリサーチしていた訳さ♪」
「…………なるほど?」
「そして、色々参考にして行き着いた結論がぁ……その両目! ヨシヒトが魂の状態から、ボクが肉体を調整すると言う重労働の甲斐あって発現したそのスキル! 名付けて『鑑定魔眼』! 魔力を持っていたり、マナの影響を強く受けてる物の状態をステータスにして確認できる様にした、ボクのかんがえたさいきょうの転生特典なのだー!」

 うん、ほぼ間違いなくアニメ・マンガ・小説辺りを参考にしたな。
 大きな胸を張ってドヤ顔のリリスは正直可愛いが、一旦置いておいて俺の鑑定もしておこう。

『種族「魔人種」 名前「ゴトウ・ヨシヒト」 LV1
 スキル 「魔紋様LV1」「鑑定魔眼LV1」「大悪魔の眷属LV1」
 HP21/35 MP25/30 SP19/30』

『種族「チャルロックサウルス」 名前「なし」 LV9
 スキル 「大喰らいLV4」
 HP10/41 MP13/13 SP36/45』

『種族「チャルロックサウルス」 名前「なし」 LV7
 スキル 「大喰らいLV3」
 HP12/34 MP11/11 SP11/40』

 ついでに伸びてるチャルロックサウルス達もステータス鑑定しておいた。ちなみに、殴って伸した順に鑑定している。

「リリス。チャルロックサウルスを鑑定したら両方とも息があったけど、やっぱりトドメって刺した方が良いよな?」
「そうだねー。チャルロックサウルスはホント、マジでめちゃくちゃしつこいからねー」

 そう言われて、こっそりと息を整える。
 手が震えるのを、身体を動かす振りをして誤魔化す。
 HPの数値を0にすれば良いだけな筈なのに、胸が苦しくなる様な気分になる。

 ……いやいや、これで罪悪感なんて感じていてどうする! 

 復讐の為に、世界最悪の大悪人になるんだろうが! 
 何も、惨殺しなきゃいけないなんて事はないんだ! 
 自分を喰おうとしてきた魔物の一頭や二頭、殺せないでどうする……! 
 俺はこれから先、知っている人間を自分の復讐の為に殺していくかもしれないんだ……!! 

 両手で頬をパンッと叩いて、改めて気持ちを入れる。

「リリス。俺のステータスに『魔紋様』ってスキルがあったんだけど、どんなスキルかわかるか?」
「おお! 『魔紋様』はねー、魔人種が良く会得してるスキルだね。身体の紋様に魔力を流すと、その部分が魔力でパワーアップする感じみたいだよ」

 なるほど。ならさっきのスーパーパワーは、魔紋様スキルのおかげか。
 そして、俺の魔紋様は手足や胴体にもあるみたいだから、攻防両方に活用出来そうだ。

「じゃあリリス。ちょっとあのトカゲ野郎共にトドメ刺してくるから、万が一危なくなったら助けてくれ」
「はーい♪ くれぐれも、無茶はしないよーに!」

 HPの概念があって数値が可視化している以上は、そのポイントを0にさえ出来れば相手を倒せると言う事である。
 そして、例え魔物と言えども生物の形をしている以上は、脳や心臓など急所の事情もある程度は同じ筈だ。

 もう、覚悟は決めた。

 吹っ飛ばされて動けないでいる近くのチャルロックサウルスからゆっくり近づいて、首元に狙いを定める。
 そして魔紋様で強化した両腕で、HPが0になるまで拳で・手刀で、無心で攻撃し続ける。

 一頭目が終わったら、もう一頭へ。
 作業として、同じ事を繰り返す。




 全てが終わった頃には、両腕を血塗れにした俺の近くに、二頭の魔物の無惨な死骸ができていた。
 明らかに過剰で、惨たらしい損壊。

 でもこの瞬間、俺はコイツらを自分勝手に傷付ける事が、堪らなく楽しく、興奮したんだ。


 リリスが大喜びしながら駆け寄ってくる音がする。
 こう言う時、どんな顔をすれば良いんだろう? 

 間違いないのは、俺の悪人としての人生が始まったって事かな。


 
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