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9、役割分担
しおりを挟む「いくら美味しくても、そんなにたくさん食べられないですよ……」
美味しいお菓子を、好きなだけ食べて良いと言われてボクは、夢中で頬張っていた。
「こらっ! もう起きる時間は過ぎてるぞ。起きろ、ムウ!」
ボクを包んでいた暖かさが急に冷えて、目が覚めた。お菓子を頬張っていたのは夢で、ファルさんと目が合ってしまった。
「夢かぁ……」
ボクはがっかりして起きて目をこすった。とたんにお腹が、グゥ! と鳴った。
「もう朝食の時間だ。ジミーが待っている。支度して来い」
フン! とファルさんは、あきれ顔をした。
「は――い。すみません」
どうやら寝坊したようだ。つい『お菓子の作り方 プロフェッショナル編』という本を遅くまで読んでしまった。
「お前にはその本は、まだ早いんじゃないか?」
ヒョイとその本を拾われてしまった。
「わっ! そうですけど、イラストが良くて!」
生クリームのデコレーションが綺麗で眺めていた。
「まだボクには技術がなくて作れないけど、いつかこんな綺麗なデコレーションを飾って見たくて……」
見てるだけでも、楽しい。
「……そうか。すまなかったな。早くしないと遅刻するぞ」
そう言い、ファルさんはボクの頭をポンと叩いて本を返してくれた。
「急いで支度します!」
ボクはベッドから降りて支度を始めた。
「俺は先に行くからな」
ファルさんはボクの部屋から出て行った。ぶっきらぼうだけど、こうして寝坊したボクを起こしに来てくれる優しい人だ。
「お早うございます!」
リビングにいくとジミーさんが朝食を食べ終わっていた。
「おはよ。先に食べてたよ」
ジミーさんは、小さく手を挙げて挨拶してくれた。
「すみません、寝坊してしまって。朝食をいただきますね」
キッチンへと進むと、美味しそうなフレンチトーストがあった。ジミーさんがキッチンにやってきて、フレンチトーストを温めてくれた。
「自分で好きなものを作って飲んで」
「はい」
サラダや太めのソーセージなど作ってあった。美味しそう。
「早く食べてね」
「ありがとう御座います」
ジミーさんも自分の使ったお皿を洗って先に行ってしまった。ボクも早く食べてお店に行かないと。
フレンチトーストは激ウマだった。
これお店で出したら喜ぶんじゃないかな?
ボクは急いで味わって食べて、お店に行った。時間はギリギリだったけど。
「お早うございます!」
もうみんな、従業員はそろっていた。
「「お早う」」
双子さんは声をハモって挨拶してくれた。
「お早う、ムウ君」
キースさんが僕の所に近づいて話しかけてきた。何だろう?
「お早うございます。キースさん、何かありました?」
何だか元気がないというか、いつものキースさんと違うような。
「ああ。やはりアラン様が忙しくてね。お店の三分の一のお菓子を、『見習いパティシエのお菓子』としてお店に並べるということに決めたんだ」
見習いパティシエのお菓子? ボクは首を傾げた。
「あと、それに。将来的に君たちが自立……もしも自分のお店を持ちたい時や、他のお店で働きたくなった時のためもあるけど、お菓子作りを学んで欲しいとアラン様から話があった」
ボク達がお菓子作りを習えるには嬉しい。アラン様のお菓子は美味しくて評判だ。そこで習った者は優遇されるだろう。
「嬉しいです」
ボクは素直に口に出した。
「嬉しいです」
ブルーさんがボクの隣に来てキースさんに言った。
「お、俺も教えて欲しい。アラン様に恩返しをしたい!」
レッドさんが走ってやってきた。
「良かった。では順番に始めましょうか」
「はい」
ブルーさんとレッドさんは、全くお菓子を作ったことが無いと言った。基本的な道具の使い方を、ジミーさんから教わるそうだ。
「ボクは姉と一緒に、家族のお菓子を作ってました」
ボクは兄弟が多かったので姉と一緒にお菓子を作っていた。なので基本的な事は知っていた。
「ブルー君とレッド君はクッキーなどの焼き菓子を作ってもらって、ムウ君はケーキ作りをやってもらおうか」
ふむ……と、皆の話を聞いてキースさんは言った。
「初めは見習い……ということで、君達には申し訳ないけど値段を半額にしてお店に置く予定です」
それはそうだ。きっと形や品物自体が全然違うものだし、同じ材料を使っているとはいえ同じには売れない。
「分かりました」
ボク達三人は、理解して返事をした。
「では。明日から午前中を、ブルー君とレッド君のお菓子作りの練習をする時間にして、午後からムウ君のお菓子作りの練習をする時間にしましょう」
キースさんが皆に伝えた。
従業員、全員が頷いた。
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