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8、意外な才能
しおりを挟む双子のレッドさんとブルーさんの次に、ボクがケーキのデコレーションをすることになった。
「はい」
どんなデコレーションにしようかな? ボクは頭の中に思い浮かべて、生クリームの絞り袋を手に取った。
まず縁に生クリームの絞り袋でくるりと、丸く小さいソフトクリームのような形に形作って飾っていく。真ん中だったところにちょっと大きく、丸く生クリームを絞り出す。
縁の生クリームで飾った間に、ヘタを取り除いたイチゴをとがった方を上に置いていく。
真ん中の生クリーム部分には、洗ってヘタの付いたままのイチゴをそっと乗せて半分にしたイチゴを隣に置いてみる。
「えっと……」
ケーキ作りの道具で、平らに整えた生クリームに波線を跡付けることが出来る装飾用のへらで上面と側面に波線を良い感じに引いていく。
「おー!」
皆から歓声が上がった。
細かくなっているビスタチオを真ん中の生クリーム部分に何粒か乗せて、上から粉砂糖を編みから粉雪のようにかけてボクのデコレーションは出来上がり……。
「あっ!!」
テーブルに手を置こうとしたら、横に置いてあった生クリームの絞り袋の上に手を置いてしまった。
生クリームの絞り袋は僕の手で押しつぶされて、絞り口から勢いよく飛び出してしまった。
ぴゅるる!
「ムウ……」
ファルさんが顔を自分の手のひらで覆った。
「「あーあ!」」
双子さんは同時に言った。
出来上がったデコレーションの上に、生クリームが飛んでしまった。
「……またドジをしてしまった」
ボクはガクリと頭を下げた。
「せっかく、うまくできたと思ったのに……」
最後の最後で台無しにしてしまった。
「私達はムウ君の、上手なデコレーションの仕上がりを見てましたよ。そんなに落ち込まないで下さい」
キースさんがボクを慰めてくれる。
「そうだ。上手だったぞ」
ファルさんも上手と言ってくれた。皆、ボクの近くに来てくれた。
「はい……」
これはボク達が試食できるからいいけど……。
今度またデコレーション出来るときがあれば、失敗しないようにしたい。
「俺達に比べれば、めちゃ上手だったし! な? ブルー」
「ですね」
双子さんもそう言ってくれた。
「ありがとう御座います!」
キースさんが調理場から、皆の分のお皿を持ってきてくれた。
「一人ずつ試食しようか」
「はい」
ボク達は、ケーキやお菓子をお客さんにお出しする側。なかなか食べる機会がないので、定期的にお店のお菓子を試食する。
どんな味なのか知る良い時間だ。美味しいケーキやお菓子を食べられて嬉しい。
「生クリームの甘さや柔らかさ、スポンジのフワフワ感や自分で感じて記憶しておいて下さい」
キースさんが皆に伝える。
ケーキを切って取り分けて、それぞれ試食をする。
「生クリームは甘すぎず、スポンジとのバランスが良くて美味しいな」
ファルさんが大きな口でケーキを食べて言った。
「そうですね。甘すぎずというのが難しいですけど、良い甘さです」
キースさんも一口食べてから話しかけた。
「スポンジ、フワフワ……イチゴの酸味と合う」
ぱさつかず、しっとりしている。ボクは美味しくて夢中で食べた。
「美味しい……」
「うまい」
双子さんも嬉しそうに食べている。
「従業員用の紅茶とコーヒーを淹れたから、好きな方を飲んでくれ」
ファルさんが飲み物を作ってくれた。ボクと双子さんは紅茶を選んで、キースさんとファルさんはコーヒーを選んだ。
お店の開店前のひと時。ホッとリラックスして、お店のお菓子の試食をした。
「あー、美味しかった! 試食最高」
レッドさんが笑顔で言い、食べ終わったお皿を洗いに行った。
「ジミー、調理場に置くから好きなときに食べてくれ」
ファルさんが調理場の方に向かって話しかけた。
「ありがとう」
ボクが調理場の方へ振り向いた時には、ジミーさんの姿はなかった。素早い。
「ムウ君、ブルー君とレッド君は少しずつ、お菓子やケーキ作りを勉強してもらいます」
キースさんが笑顔でボク達に言った。
「ムウ君は、ケーキの飾りつけなどから始めてもらいます」
ケーキの飾りつけ?
「ボクが、ですか? ……大丈夫かな」
さっき、失敗したし……。
「何事も、やってみないとわかりませんよ? それにムウ君は才能があります」
キースさんがボクの肩に手をポンと置いた。
「練習すれば大丈夫です」
「失敗を怖がってると、何も進まないぜ」
ファルさんがボクの背中を軽く叩いた。
「「そうだよ」」
双子さんもそう言ってくれた。
みんな……。
「は、はい! 頑張ります!」
励まされてボクは頑張ることにした。単純かもしれないけれど、これからお客さんも増えると思うし役立ちたい。
「じゃ、そういうことで。各自、開店準備しよう!」
ファルさんが気合を入れて皆に言う。
「はい!」
それぞれ自分が出来ることをやる。それが一番いい。
「開店しますよ」
キースさんが扉を開けて、『オープン』プレートを扉に下げた。
「いらっしゃいませ!」
お客さんが並んでいた。今日も忙しくなりそう。
でもお客さんの笑顔を見るのは嬉しい。
今日も頑張ります!
応援ありがとうございます!
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