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4章 二つの指輪
番外編 ルカの寝相〜アラン視点〜
しおりを挟む~アラン視点です~
ルカに「アラン」と呼ばれたいので、話してみた。いつまでも、様付けはよそよそしい。
すると、恥ずかしながら「アラン」と言ってくれた。……破壊力は抜群だった。
照れた赤い顔を隠すために枕に顔を伏せた。
ルカは近づいて「アラン、どうしたの?」と、話しかけてきた。
あの声が、たまらなく愛しくてしばらく顔をあげられなかった。
邪念を祓うため、すぐに明かりを消した。
「ルカ、お休み」
頬にお休みのキスをして離れた。
「お休みなさい」
暗くしたので、ルカの顔をあまり見れなかったのが残念だった。
そのうちにルカから、静かな寝息が聞こえてきた。
良かった。眠ってくれた。
俺は眠れそうにないけどな。
明日は隣国へ行かなければならない。王命だから詳しくは言えなかった。急に俺でないと解決しない、とまで言われれば行くしかないだろう。
もっとルカと一緒に過ごしたいのに。
「うーん、アラン様……」
「ん?」
ルカの寝言か? 俺の名を、寝ていても呼んでくれるなんて嬉しい。しかし、様はいらない。早く、様をつけずに呼んで欲しいものだ。
もそもそ……。
いつもと違う場所だから、眠りづらいのだろうか?
暗さに慣れてきて、ルカの姿が見えてきた。
――耳が、出ている。
あのシルエットは、耳だ。今日、たくさん触らせてもらったから形を覚えている。
……寝ているときは、出したままなのだろうか。その辺をルカに聞いてみたいところだ。
横向きでこちら側に体をむけてきたので、顔が見えた。綺麗な緑色の瞳は、まぶたが閉じられているため見えない。だが、まつ毛が伏せられていて長いのが分かった。
幼く見えがちだが、こうやってじっくり見ると整った青年の顔だ。
年より下に見えたのは、細い体つきと愛らしい顔のせいだ。ルカは自立していて、俺にあまり甘えてこないと思う。
甘えてきたならば、存分に甘やかしたい。最近は少しずつ、甘えてきてくれているが。
「……いや、だ!」
「ルカ?」
急に表情がくもり、何かを手足で払うような動作を始めた。
「離し、て! 母様! 家に帰りたい……!」
家に帰りたい?
もしや。さらわれたときの夢をみている?
「ルカ」
声をかけるが聞こえてないようだ。手足をバタバタさせている。
「ルカ、大丈夫だ」
いきなり起こすのはよくない。静かに落ち着いた声で呼びかけた。
「……助け、て」
ルカは手を伸ばして、俺にしがみついてきた。目が覚めたのか?
「騎士、さま」
ギュッと寝間着を掴んで、震えている。やはりあの時のことを夢に見ている。
「もう大丈夫だから、ルカ」
首の下に腕を入れて抱きしめて、頭と背中を撫でる。落ち着いてくれればいいが……。
顔を上下に動かしている。頷いてるのか?
「アランさ、ま」
震えはとまったようだ。
目は覚めてない。もしかして今までも、このように悪夢をみていたのだろうか。
少しだけ枕元の明かりを灯して、ルカの顔を見る。
涙の跡があった。
「俺がいるから。守るからな、ルカ」
そう言って頭を撫でる。聞こえてるのかわからないけれど、これは本心だ。
「アラン……様」
落ち着いたか? 表情が和らいだ。眠りは深いみたいだ。
いつも明るく振る舞っているが、一人のときはどうなのだろう。
ルカの寝顔を見ながら心配になる。
「……好き」
ん? 好きと聞こえたような?
「わっ」
ルカが俺の胸に顔をスリスリ……としてきた。表情は笑っている。寝てる……よな?
「えっ!?」
フワフワの何かが、腰をサワサワしている?
しっぽか!? しっぽが俺の腰に絡んできた。それに体をかなり密着させてきた。
「ルカ……。寝相は良いほうだって、言ってなかったか?」
俺の首に腕をからませて、顔をスリスリ。体を密着させて腰にしっぽをからませて……。
俺は寝れないだろう。……このルカの密着。起きているのではないか? と疑ったが、どうやら完璧に寝ているらしい。
嬉しいが、どうせなら起きているときに甘えて欲しいものだ。
「わっ」
今、頬にキスされたのだが。
寝ているときは皆、無防備になる。だが、ルカのこの寝相はいつもなのだろうか?
ちょっと引き離さないと。
「ルカ、少し離れてくれ」
胴を掴んで離そうとした。が、ルカの抵抗にあって離せなかった。
……仕方がない。このまま眠ろう。
腕を首に巻き付けたままじゃ、痛くなるだろうだから剥がした。掴まるものがなくなった手は、何かを探すように動いていたので、俺の背中に片手だけまわした。ルカを抱きしめてやると静かになった。
しっぽは変わらず、俺の腰を撫でていた。くすぐったいが我慢した。
「この部屋に、ドリームキャッチャーが飾ってあるからもう悪夢はみないぞ。安心して眠れ、ルカ」
ルカから追加で購入して良かった。
ルカは俺の腕の中で、今度は悪夢を見ずに眠った。
モゾモゾとルカが動き出した。目が覚めたらしい。
「ルカ、まだ早い。もう少し寝てよう」
「え……? アラン様?」
まだ寝ぼけまなこのルカが、腕の中で顔を上げて俺を見た。
「様はいらない。アラン、だ」
様はつけないで呼ぶのに、時間がかかりそうだな。でもそれも愛しい。
「……アラン」
まだこの状況を把握してない。それにしても寝起きも可愛いな、ルカ。
「ルカ」
まだ寝ぼけている間に、オデコにキス。
「……っ!」
真っ赤になっているルカ。
「昨日はルカから、くっついて来たのだぞ?」
えっ!? と驚くルカ。本当に覚えてないのか?
「寝言も言ってたし、俺にあんな事を……」
「嘘ですよね!? 僕は寝相は良いほうと……!」
真っ赤になって反論するルカ。そうか、覚えてないのか。残念。
まあ、覚えてないのは残念だけど、俺だけの秘密にしておこう。
「お早う、ルカ」
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