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4章 二つの指輪
45.名前を呼んで
しおりを挟む「……しっぽも出ている」
もう無理です……。アラン様に撫でられて気持ち良くて、出てしまった。
「しっぽは、駄目ですよ」
しっぽまで撫でられたら僕はだめになってしまう。
「そうか。残念だ……」
甘えたいけど。
アラン様はソファから立ち上がって、食べ終わったお皿をキッチンに下げ始めた。
「僕も片付けます」
コテージの中の家具は丸太を加工して作られていて、テーブルなど大木を半分に切ったもので出来ていて凄いなと思った。
アラン様がお皿を洗って、僕が拭いて片付けた。
そのあとはトランプでゲームをしたりした。アラン様はゲームに強かった。一度も勝てなかった。
「手加減しないで下さいね!」と言った僕。後悔した。
お昼はサンドウィッチを作ってくれて、美味しく食べた。サラダは僕が作った。
きゅうりを切ったら、コロコロ転がってしまって焦った。それを見て、アラン様はナイフの使い方を教えてくれた。
ゆっくり流れる楽しい時間。アラン様と二人でいるから特別な日。
湖にいる鳥を図鑑で探してみたり、街なかでは見られない植物を観察したりした。
「夜ご飯は外で作って食べるから、寒くないように着込もう」
アラン様が、寒くないように僕をモコモコの服や上着を被せてくれた。
ん? 外で作って食べる?
テラスに出てみると、大きくて深さがあるフライパンみたいのに長い脚がついてあるものがあった。
「これは何ですか?」
観たことがなかったので、アラン様に聞いてみた。
「この中に炭を入れ、火を付けて網を乗せると肉が焼ける」
「そうなのですか」
炭は知っているけど、調理ができるってことなのか。
「これを焼く」
ドン! と簡易テーブルの上に置かれたのはかたまり肉。
「凄い」
下処理は終わっていると、アラン様は言った。
「ヤケドしないように、端に野菜を置いてくれないか?」
テーブルを見ると切られた野菜が、お皿に乗っていたのでトングで網に乗せていく。
ジュージューと美味しそうに焼けていく、お肉と野菜。いい匂いにお腹が空いてくる。
「俺のような貴族は、座っていれば温かい料理が目の前に置かれるし、それが当たり前と若いときは思っていた」
アラン様はお肉を焼きながら、話しかけてきた。
「騎士団に入って、何もかも自分でやらなくてはならなくなり、それは間違いと気付いた」
「争い時には野営をし、森で野生の動物を狩って捌き調理した」
長い争いの時のアラン様。大変だったと思う。
「あまり良い思い出はないので言いたくないが……。騎士団に入ってなければ、俺は腐った考えの貴族となっていたかもしれん」
アラン様は遠い目をして僕に話をしてくれた。
「……何かのきっかけで、自分が変わるときはありますよね」
――良くも悪くも。
「僕はアラン様に会えて良かった」
そうでなければ僕は、どうなっていたか分からない。「俺もルカに会えて良かった」
隣に並んでお肉を焼いているアラン様を見ていたら、こちらに顔を見せて微笑んだ。
「このアラン様の笑顔を、皆に見せてあげたいな」
僕がポツリと言うと、アラン様はまた眉間のシワが深くなった。照れているのかな?
お肉や焼いた野菜をたくさん、美味しく二人で食べた。他愛のない話をして時間は過ぎていった。
お風呂で僕は、アラン様の背中を洗って流してあげた。広い背中は洗い甲斐があったけど、傷だらけの背中に僕はこっそり泣いてしまった。
「お休み、ルカ」
「お休みなさい」
寝室は2つあって、奥の部屋に案内された。
「……明日、俺はここから隣国へ行く。屋敷の者に迎えにきてもらうように話していたから、すまないがルカは馬車で屋敷に1人で帰ってくれ」
「あ……。は、い」
そうだった。明日、アラン様は隣国へ行ってしまう。いつでも楽しい時間は、あっという間に過ぎてしまう。
「そんな顔をするな。危険はないはずの任務だ」
寂しくて僕は、下を向いていた。
「……一緒に寝てもいいですか?」
このまま別々に眠るのは嫌だ。
「寝相は良いほうです! たぶんイビキも寝言も、しないはず。端っこで寝ますから。……邪魔ですか?」
見上げてアラン様にお願いする。
「邪魔じゃないが……」
アラン様が戸惑っている。明日から隣国へ行くのに、誰かがいると眠れなくなってしまうだろうか。
「大人しくして、眠りの邪魔も何もしませんから!」
せめて出かけるまで一緒にいたい。
「分かった。一緒に眠ろう」
え、いいの!?
「ありがとう御座います!」
僕はアラン様の後ろから部屋に入って行った。枕は部屋から持ってきた。
部屋に入って見ると、大きなベッドがあった。アラン様も大きいからベッドも大きい。
「ルカは壁際に」
「はい」
四つん這いになって広いベッドを移動していく。
枕を置いて布団にもぐる。
アラン様はベッドに座り、布団に入ってくる。
「寒くないか?」
そう言いながら僕に布団をかけてくれた。
「大丈夫です」
二人共、横になって目を合わせる。
「無理を言ってごめんなさい。一緒にいたかったから……」
「謝らなくていい。それより……」
それより?
「アラン様ではなく、アラン と呼んでくれないか? ルカ」
アラン様と僕の間は人ひとり分が空いている。近づきたいけど、遠慮している僕がいる。
「……いいのですか?」
「もちろん。呼んで欲しい」
「……アラン?」
「なぜ、疑問形なんだ?」
また眉間のシワが深くなる。
「あ、アラン! では、なくて……」
言い慣れなくて、力んでしまった。恥ずかしい。
「アラン」
「……」
呼んだとたん、アラン様は顔を枕に伏せてしまった。
「アラン、どうしたの?」
ちょっと近づいて呼びかけてみたら、伏せた顔は見えなかったけれど耳が真っ赤になっていた。
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