BLR15【完結】ある日指輪を拾ったら、国を救った英雄の強面騎士団長と一緒に暮らすことになりました

文字の大きさ
54 / 72
その後 二人の物語

52.アランの一日店長

しおりを挟む

 「い、いらっしゃ……いマセ」

「それでは聞こえませんよ? 練習したから大丈夫ですよ。緊張しすぎず皆さん、自信を持って言いましょうね」
「はい!」
 
 アラン様のお店のオープニング。
アラン様のお店だけど従業員の皆が慣れるまで、僕がお店の管理や従業員の接客などをお世話することにした。

 お店の金銭的な管理は、元アランの部下 キースさん。怪我のせいで騎士を辞めた所に、アランに誘われた。商家の三男25才と聞いた。優しそうな感じだ。
 彼は甘党で、アランの作るお菓子のファンだったそうだ。
今、アランとキースさんはケーキ等をガラスケースに並べている。

 人間の従業員のあとの二人は、孤児院出身の男の子の双子。社会に出るのは初めてで、基本的な常識を身につけてもらう。
  
 狼の獣人のファルさんは、飲み物担当。
王国に出稼ぎに来て、獣人というだけで捕まりそうな所をアランに助けられたそうだ。飲食の仕事を探していると言うので採用した。

 あとの獣人二人はうさぎの獣人さんと……。もう一人は秘密だそうだ。この二人はお仕事の経験があるということで、即戦力に。
 
 お店の外にはお客さんが並んでいる。
ご近所さんがお祝いに、お花の入ったカゴを贈ってくれたので店内に飾ってある。嬉しい。

 開店の時間になったので、扉を開けた。
「お待たせしました。英雄騎士 アランのお菓子のお店【猫の舌】開店しました!」
 僕がお客さんにご挨拶すると、わっ! っと賑やかに声があがり、拍手が聞こえた。

 末永く愛されるお店にしたいな。

「いらっしゃいませ!」
「いらっしゃいませ」
従業員の人達も、練習の成果で笑顔で接客できている。良かった。

「英雄騎士のアラン様がお作りになったの? まあ、美味しそう。アップルパイとレモンケーキを、テイクアウトでお願いします」
 あの方は貴族の御婦人かな? アランが接客している。
「……ありがとう御座います。今日中に、お召し上がり下さい」
「ひっ……!」
 
 ――顔が怖い。いつもより眉間のシワが深く、顔が強張っていた。アラン、緊張している。
側にいたキースさんが、アランのフォローをしていた。
「ありがとう御座いましたー!」
「ありがとう御座います」
 ……た、たぶん大丈夫だろう。
 
 入り口から入った真っすぐの場所は、持ち帰りのお菓子やケーキがガラスケースに入っている。
喫茶スペースは、その奥になっている。

 喫茶の方にもお客さんが入って、忙しくなってきた。僕もお手伝いをしたりした。
非番の騎士さん達がお手伝いに来てくれて、並ぶお客さんの列を整理してくれた。

 好評で忙しくしていたら、突然怒鳴り声が聞こえてきた。
「獣人のくせに、なんでここにいるんだよ!」
「あっ! やめて下さい……!」
うさぎの獣人のムウ君が、おじさんに腕を掴まれた。少し顔が赤い? こんな昼間から酔っているのか?

「ムウ君!」
僕がとめようと近づいて行く。
「お客さん。お店うちの従業員に乱暴はやめていただきたい」
「あっ!!」

 アランが、ムウ君の掴まれた腕をおじさんから離した。
 ギリ……と、おじさんの腕を少し強く握った。
「ああ! 悪かった、悪かった! 離してくれっ!」
パッと離すと、おじさんは床に座り込んだ。
 
「アラン様、この人は私達にお任せ下さい」
 サッと非番の騎士がやってきて、おじさんの両脇を抱えた。
「今度はお酒を飲んでないときに、ご来店をお待ちしておりますね」
 アランがおじさんに話しかけた。

「……悪かった。今度は飲まなかったときに来る。子供がクッキーを欲しがっていたんだ」
 ガクリと、うなだれたお客さんにアランは、5枚入りの猫の顔クッキーの袋を渡した。
「金はいい。今度はお子さんと来るといい」
そう言っておじさんの内ポケットに入れた。

「……ありがとう」
おじさんは反省して素直に、騎士さんに連れられて言った。
 店内からは歓声と拍手が起こった。
アランは歓声と拍手に驚き、照れてお店の奥に引っ込んでしまった。

「さすがアラン様ですね。オレ、殴ってやろうかと……」
「ファルさん、駄目ですよ」
狼の獣人のファルさんは、ちょっと血の気が多い。気をつけてもらわないと。

「すごいね! アラン様!」
「カッコいいね! アラン様!」
双子が目をキラキラさせて、僕に話しかけた。
「そうだね。カッコいいね」
 三人でニコニコ笑って、アランを褒めていた。

「ありがとう御座いました……」
涙目のうさぎの獣人 ムウ君はみんなに謝っていた。
「ムウ君は悪くないよ。酔って怒鳴った人が悪いから。でも次に飲まないで来てくれるって」
「はい」
僕はムウ君の肩を、ポンポンと叩いた。

 あとは特に揉め事もなく、順調に営業できた。

「お疲れ様でした――!」
用意したケーキ類や持ち帰りのお菓子など、完売した。

 アランはギクシャクしながらも、慣れるとふとした瞬間に笑顔が溢れてお客さんを魅力していた。
 好評で、良かった……。


 後片付けも終わりバレンシア公爵家に帰ってきた。
 
「アラン、疲れたでしょう? お疲れ様でした」
僕は夕食を食べ終わりお風呂にも入って、アランの部屋にお話しに来ていた。
「……ルカも、いつもより倍働いたから疲れただろう? 大丈夫か?」

 自分より僕の心配をしてくれる。
「大丈夫です。お屋敷に来てから、栄養のあるものをたくさん食べているので筋肉もつきました」
 寝間着の袖をまくって、力こぶを見せた。アランに比べると、全然無いけれど前よりマシになった。

「どうかな? うん。前より筋肉がついたな。良かった」
 力こぶにアランは触れた。アランの手のひらが僕の力こぶを覆う。
「もっと鍛えますね」
 本当に鍛えよう。

「あ! マッサージをすれば、アランは疲れが取れるし僕の筋肉も鍛えられるかも? マッサージをしますよ? アラン」
「え?」
 僕はアランの腕を引っ張り、ベッドへ寝かせた。

「うつ伏せになって下さいね!」
「ああ。分かった」
 ゴロンとひっくり返って、うつ伏せになってくれたアラン。

 ベッドに上って、アランの胴をまたぐ。
「あ、ごめんなさい!」
 背中が広いから、ペタンと背中にお尻をつけてアランの背中に座ってしまった。
 すぐに離れて膝立ちになった。

「じゃあ、肩から揉んでいきます!」
グッと力を入れて肩の辺りを揉んだ。
「……?」
硬い……。孤児院でおばあちゃんの肩を揉んであげたときと、まったく違う!

 指がツボに、まったく入って行かない……。え、筋肉鍛えすぎじゃない? それに無駄な脂肪が全然ない。
 すごい……。

 しばらくアランの背中を揉んでいたけど、指が痛くなってきた。おかしい。
「ルカ。指が痛くなってしまうから、もうやめよう」
「う……、はい」
 無理だった。

 アランの背中のたくさんの傷を見て、心が傷んだ。
こんなに傷だらけで……。痛かったのだろうな。
 そう思って、背中を撫でていた。

「ルカ、くすぐったい」
「あっ!」
 無意識に撫で回していたようだ。

「次は、ルカをマッサージしてやる」
「あれ?」
クルンと視界が回り、いつの間にかアランと僕の位置が代わって僕が仰向けになっていた。
 アランに見下されていた。

「ほら。うつ伏せになれ」
体術というのか、僕は簡単にアランの少しの力で体をうつ伏せにされた。
「え? え、どうやって……あっ!」
 軽い力だったけれど、アランは僕の体をマッサージし始めた。

「わっ、ん! あっ、効く~」
「騎士団では、騎士同士がマッサージをし合ったりするから皆、上手だ」
 なるほど……。とても気持ちが良い……。

 え……寝てしまいそう。
「このまま、寝てもいいぞ」
「ふぁい……」
 アランの指が的確に、ツボに入って気持ちが良い。

 僕は完全に、アランのマッサージに負けて寝てしまった。
 
 目が覚めたとき、アランの顔が近くにあって驚いた。
「お早う。寝顔を見ていた」
 アランの笑顔が眩しかった。
「あの……。寝相は大丈夫、でしたか?」
前科があるので心配で聞いてみた。

「それは、もう。堪能した」

 僕はアランに、どんな寝相か必死で聞いた。
アランは笑うばかりだった。
  
  
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ちっちゃな婚約者に婚約破棄されたので気が触れた振りをして近衛騎士に告白してみた

BL
第3王子の俺(5歳)を振ったのは同じく5歳の隣国のお姫様。 「だって、お義兄様の方がずっと素敵なんですもの!」 俺は彼女を応援しつつ、ここぞとばかりに片思いの相手、近衛騎士のナハトに告白するのだった……。

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8) 和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。 この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか? 鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。 もうすぐ主人公が転校してくる。 僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。 これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。 片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。

この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!

ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。 ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。 これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。 ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!? ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19) 公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年BLです。

婚約破棄されてヤケになって戦に乱入したら、英雄にされた上に美人で可愛い嫁ができました。

零壱
BL
自己肯定感ゼロ×圧倒的王太子───美形スパダリ同士の成長と恋のファンタジーBL。 鎖国国家クルシュの第三王子アースィムは、結婚式目前にして長年の婚約を一方的に破棄される。 ヤケになり、賑やかな幼馴染み達を引き連れ無関係の戦場に乗り込んだ結果───何故か英雄に祭り上げられ、なぜか嫁(男)まで手に入れてしまう。 「自分なんかがこんなどちゃくそ美人(男)を……」と悩むアースィム(攻)と、 「この私に不満があるのか」と詰め寄る王太子セオドア(受)。 互いを想い合う二人が紡ぐ、恋と成長の物語。 他にも幼馴染み達の一抹の寂寥を切り取った短篇や、 両想いなのに攻めの鈍感さで拗れる二人の恋を含む全四篇。 フッと笑えて、ギュッと胸が詰まる。 丁寧に読みたい、大人のためのファンタジーBL。 他サイトでも公開しております。

当て馬だった公爵令息は、隣国の王太子の腕の中で幸せになる

蒼井梨音
BL
箱入り公爵令息のエリアスは王太子妃候補に選ばれる。 キラキラの王太子に初めての恋をするが、王太子にはすでに想い人がいた・・・ 僕は当て馬にされたの? 初恋相手とその相手のいる国にはいられないと留学を決意したエリアス。 そして、エリアスは隣国の王太子に見初められる♡ (第一部・完) 第二部・完 『当て馬にされた公爵令息は、今も隣国の王太子に愛されている』 ・・・ エリアスとマクシミリアンが結ばれたことで揺らぐ魔獣の封印。再び封印を施すために北へ発つ二人。 しかし迫りくる瘴気に体調を崩してしまうエリアス…… 番外編  『公爵令息を当て馬にした僕は、王太子の胸に抱かれる』 ・・・ エリアスを当て馬にした、アンドリューとジュリアンの話です。 『淡き春の夢』の章の裏側あたりです。 第三部  『当て馬にされた公爵令息は、隣国の王太子と精霊の導きのままに旅をします』 ・・・ 精霊界の入り口を偶然見つけてしまったエリアスとマクシミリアン。今度は旅に出ます。 第四部 『公爵令息を当て馬にした僕は、王太子といばらの初恋を貫きます』 ・・・ ジュリアンとアンドリューの贖罪の旅。 第五部(完) 『当て馬にした僕が、当て馬にされた御子さまに救われ続けている件』 ・・・ ジュリアンとアンドリューがついに結婚! そして、新たな事件が起きる。 ジュリアンとエリアスの物語が一緒になります。 エリアス・アーデント(公爵令息→王太子妃) マクシミリアン・ドラヴァール(ドラヴァール王国の王太子) ♢ アンドリュー・リシェル(ルヴァニエール王国の王太子→国王) ジュリアン・ハートレイ(伯爵令息→補佐官→王妃) ※たまにSSあげます。気分転換にお読みください。 しおりは本編のほうに挟んでおいたほうが続きが読みやすいです。 ※扉絵のエリアスを描いてもらいました ※のんびり更新していきます。ぜひお読みください。

裏乙女ゲー?モブですよね? いいえ主人公です。

みーやん
BL
何日の時をこのソファーと過ごしただろう。 愛してやまない我が妹に頼まれた乙女ゲーの攻略は終わりを迎えようとしていた。 「私の青春学園生活⭐︎星蒼山学園」というこのタイトルの通り、女の子の主人公が学園生活を送りながら攻略対象に擦り寄り青春という名の恋愛を繰り広げるゲームだ。ちなみに女子生徒は全校生徒約900人のうち主人公1人というハーレム設定である。 あと1ヶ月後に30歳の誕生日を迎える俺には厳しすぎるゲームではあるが可愛い妹の為、精神と睡眠を削りながらやっとの思いで最後の攻略対象を攻略し見事クリアした。 最後のエンドロールまで見た後に 「裏乙女ゲームを開始しますか?」 という文字が出てきたと思ったら目の視界がだんだんと狭まってくる感覚に襲われた。  あ。俺3日寝てなかったんだ… そんなことにふと気がついた時には視界は完全に奪われていた。 次に目が覚めると目の前には見覚えのあるゲームならではのウィンドウ。 「星蒼山学園へようこそ!攻略対象を攻略し青春を掴み取ろう!」 何度見たかわからないほど見たこの文字。そして気づく現実味のある体感。そこは3日徹夜してクリアしたゲームの世界でした。 え?意味わかんないけどとりあえず俺はもちろんモブだよね? これはモブだと勘違いしている男が実は主人公だと気付かないまま学園生活を送る話です。

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。 愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。 それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。  ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。 イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?! □■ 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! 完結しました。 応援していただきありがとうございます! □■ 第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m

過労死転生した悪役令息Ωは、冷徹な隣国皇帝陛下の運命の番でした~婚約破棄と断罪からのざまぁ、そして始まる激甘な溺愛生活~

水凪しおん
BL
過労死した平凡な会社員が目を覚ますと、そこは愛読していたBL小説の世界。よりにもよって、義理の家族に虐げられ、最後は婚約者に断罪される「悪役令息」リオンに転生してしまった! 「出来損ないのΩ」と罵られ、食事もろくに与えられない絶望的な日々。破滅フラグしかない運命に抗うため、前世の知識を頼りに生き延びる決意をするリオン。 そんな彼の前に現れたのは、隣国から訪れた「冷徹皇帝」カイゼル。誰もが恐れる圧倒的カリスマを持つ彼に、なぜかリオンは助けられてしまう。カイゼルに触れられた瞬間、走る甘い痺れ。それは、αとΩを引き合わせる「運命の番」の兆しだった。 「お前がいいんだ、リオン」――まっすぐな求婚、惜しみない溺愛。 孤独だった悪役令息が、運命の番である皇帝に見出され、破滅の運命を覆していく。巧妙な罠、仕組まれた断罪劇、そして華麗なるざまぁ。絶望の淵から始まる、極上の逆転シンデレラストーリー!

処理中です...