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一章 若鷹 【ジルド王子 視点】

7.ミネヤとマリーナ

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 「アルル!?」
思わず俺はアルルの側まで駆け寄っていた。

 破れて乱れた服、倒れている三人……。
「大丈夫か?……何かされたか?」
アルルの衣服を整え、頬に付いていた泥をハンカチで拭いてやった。……どう見ても、倒れている三人がアルルを襲ったにしか見えない。

 「……、……て、ない」
「え?」
アルルが小さな声で俺に話しかけてきた。

 「にいさま……達が、いつもの様に……殴って来ようと、したから……」
アルルはガクガクと震えだした。
「アルル」
俺はアルルの両手首を掴み、顔を見た。真っ青な顔をしている。
「……で、突き飛ばしたら……、怒って、三人に押さえられて……、服を破かれて……。いつもと、違う目つきになって……」

 「もう、いい。全部言わなくていい!」
瞳に涙の膜が張るのが分かった。三人に押さえられて、服を破かれた。何をされそうになったか、俺は察した。
 母親は違うが、腹違いの兄弟だ。反吐が出る。

「恐くなって……、光が、光が溢れて」
光?光が溢れて?……言っていることがよく分からないが、まずアルルを落ち着かせないと。そっとアルルの背中を優しく撫でた。

 「自分で自分を守れたのだな」
そう言い、背中を撫でながら軽くアルルを抱き寄せた。
「っ!……うん」
ほっとしたように力が抜けて、俺の胸におでこをポスンとつけた。
「息を深く吐いて、吸って。それを数回するんだ」
アルルは言われた通りに呼吸をしているうちに、顔色が良くなってきた。

 「よし。良い子だ」
今度は頭に手を乗せて、撫でた。
「あ」
いかん。他国の王族に対して、頭を撫でてしまった。すぐに頭から手を離した。
「どう、したの?」
アルルがポカンとしたように上目遣いで俺に聞いてきた。

 「いや、他国の王族に失礼、だな……」
アルルから離れようとした。
するとアルルはガシッと両手で俺の胴体にしがみついて、頭を左右にふるふると振った。

「もう少し……撫でて」
「アルル……」
細い腕にぎゅっと力を入れ、離れまいとした。
「かわぃぃ……、おっと」
可愛い。アルルが可愛い。

 肩に腕をまわして、もう片方の手で頭を撫でた。
「怖かったな。でも、よく自分で身を守ったなアルル」
撫でながら話しかけた。
「うん……。 “守る方法を身に付けろ” って、ジルドが教えてくれたから」
俺が言ったから?……くっ!、可愛い。
アルルの体の震えは止まり、俺の胸に頬をスリスリと擦りつけてきた。 


「何事です?」

教会の扉から茶色のフード付きのマントを着た、女性が出てきた。四十代位の年齢。アルルの母親だろうか?
「ミネヤ!マリーナ!」 
俺の胸から顔を出し、女性達を呼んだ。茶色のマントを着た女性の隣に、アルルの従者マリーナがいるのが見えた。

 「まあ!?アルル様!これは!?」
倒れている王子達を見つけて、従者マリーナは両手で口を覆った。
「騒ぐでない、マリーナ」
片手でマリーナを制した女性は、倒れている三人と俺達を交互に見て状況判断していた。
「これは……」

 「ミネヤ……あの、ね」
アルルが説明しようと話しかけた。だが、ミネヤと呼ばれた女性は破れたアルルの服を目ざとく見つけて、顔色が変わった。
「アルル様」
ミネヤは教会の入り口から俺達の側まで駆け寄って来た。それから地面に跪いた。

 アルルの顔、破れた服、俺の顔を順番に見てから倒れている三人を見た。 
「助けて下さったのですね?」
ミネヤはキッパリと言った。

「俺が来た時には……「ありがとう御座います!ジンガルト王子様」」
ミネヤに遮られた。
「他国のジンガルト様が王子達を、助けるためとはいえ危害を加えたとなると国際問題になりますわね?ええ、私達は一切口外いたしません!」
ミネヤは一気に話しだした。
「なので、アルル様に起こったことは……ジンガルト様、秘密に。わたくしがうまく王族側に説明しますわ」
にっこりとミネヤは笑った。有無を言わせない迫力があった。

 俺が王子達を倒した事にされた。
「……」
細腕のアルルが素手で倒せるはずがない。他の【何か】が王子達を倒した。アルルの【何か】の力が。
 説明するにも俺は見ていないから説明出来ない。俺とアルル、倒れている三人。どう見ても俺が倒した風にしか見えない状況だ。
だが、ミネヤは全部を把握した上で俺に『黙っていろ』と言ってきた。お互いの為に、と。

 「承知した」
アルルの為でも俺の為でもある。王子達に(何か分からない力だが)危害を加えた事が知れたら、アルルと俺はただではすまないだろう。王子達が悪いだろうが、危害を加えた事を盾にする。

「王子達の記憶を消しますから。お任せ下さい」
ミネヤは俺に頭を下げて、言った。








 






 

 
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