ZODIAC~十二宮学園~

団長

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WE CAME IN — we were given life to be happy

極東決戦編その4

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四月二十三日
列車は朝早くエールシュタットに到着した。下車すると突然、コタン副宮長が叫んだ。
「神風、三江、防毒面をハンナと光星に貸してやれ。」
そう言われて防毒面を金さんに装着した。
「金さん、苦しいかもしれないけど、喉を痛めたら歌えなくなっちゃうから我慢して。」
金さんはいつもどおり笑顔で承諾した。ハヤテも光星明に防毒面を装着させた。コタン副宮長は水無瀬水鳥に防毒面を装着した。
「水無瀬副宮長、水の魔法で結界は作れるか?」
「はい。できます。」
そう言って簡単に呪文を唱えると水中結界があらわれた。結界の中にいれば、少しの時間ならば水の中でも息ができる便利な魔法である。頑丈な結界であるが今日はいつもより少し小さく六人と一匹が入れる大きさではない。コタン副宮長がE-ウォッチで魔力を確認すると少しゲージが下がっているようだ。
「何か嫌な感じがせんか?」
「空気が埃っぽいですが、砂が飛んでいるのでしょうか?」
「早くこの街から離れよう。」
東京まで二千キロぐらいあるが、文字がもう読めない。エールシュタットは『鐫城市』と表記することは駅で確認した。言葉が通じるかはククルと光星明の二人に任せるとしよう。
駅から街の中心に向かうと異様な光景が目に付いた。人々は道端で寝そべっている。生きているようだが目は虚ろで疲労感が伝わってくる。腐敗臭のするゴミが道のあちこちに落ちている。衛生面はよくない街だが、それだけではないようだ。少女が通りの中心で何かをしているようだ。
「ククル、翻訳してウチに伝えて。」
少女はひたすら両手を向けてくる。
「食べるものか鉱物が欲しいと言っている。」
「無理じゃ。ワシらは同情ビジネスに付き合っている暇はないのじゃ。」
コタン副宮長はキッパリと答えた。エールシュタットでは紙幣ではなく鉱物で商品を売買している。少女は同情を引くための囮である。裏では親などの大人が食料や鉱物をかき集めている。子供たちには決して届かないのである。これは貧困地域では観光客に対して行われるよくある手口である。光星明が何か伝えようと少女に近づいたとき突然、少女が大量の鼻血を出して倒れた。
「コタン副宮長、病院に連れて行きます。」
「おい、光星。これは・・・」
聞く暇もなく病院がどこにあるのか街の人に聞きに行ってしまった。
「神風、少女を介抱してやれ。」
「いいのですか?」
「許可する。」
少女を起こして下を向かせて氷の魔法で目と目の間のおでこを冷やす応急処置である。しかし、なかなか血が止まらない。
「コタン副宮長、病院の場所が分かりました。」
光星明はすぐに戻ってきた。こういう行動力はなかなかのものであると感心してしまう。ククルを肩に抱えている金さんは少女に近づき言葉をかわそうと話しかけた。
「ウチはハンナ・ノルン・金城。あなたの名前は?」
「铃玉(リンユー)。」
とりあえず铃玉を病院に連れていきたいが、東京までの足も確保しなければならない。六人と一匹を二組に分けることにした。俺、金さん、コタン副宮長とククルは東京へ向かうための方法を調べることにした。铃玉はハヤテ、水無瀬水鳥と光星明に任せることにして集合場所と時間を決めて別れた。街の人に聞いてみるが一様に東にそびえる山を超えるルートを答えてくれる。
「あの山は近づきたくないのう。嫌な予感しかせんわ。」
コタン副宮長が口にしたことは本当である。早朝から大勢の男達を乗せた飛行艇が山に向かい、鉱石を積んで街まで戻ってきている。コタン副宮長は飛行艇の運転手である魔法使いに話を聞くことにした。
「すまんが、少し話がしたいのだが良いか?」
ククルがすぐさま同時通訳に入る。
「あんた達は華鉱社(かこうしゃ)の従業員か?そうでないなら乗せられない。」
「華鉱社?この飛行艇の持ち主か?」
「飛行艇だけではない。あの東にある山はすべて華鉱社のものだ。まぁ、この街も華鉱社のもといっても言い過ぎではない。華鉱社の炭鉱でみんな働いて賃金をもらっている。」
「そなたも雇われの身か?」
「そうだよ。仕事の途中だからもういいか。」
今度は金さんが笑顔で話しかける。
「待って。この街の現状をどう思う?子供は倒れて大人は疲労で病んでいる。」
「お嬢さん、そのマスクを付けながら言っては説得力がない。」
そう言われると金さんは防毒面を取ろうとするが、俺はそれを静止した。
「ワシらは東京まで良ければそれでよい。そなたたちの暮らしに口を挟むつもりはない。」
「東の山は避けて南に回って行くことだな。」
そういうと男は飛行艇で山に向かった。南回りは少し遠くなるがそれしか手がないようだ。とにかく一刻も早くこの街を出たい。防毒面をしているせいか、金さんは喉が渇いてきたようである。
「ハンナ、少し我慢できるか。この街の水を飲む訳にはいかんから。」
俺は井戸らしきものを見つけてE-ウォッチで水の成分を調べると120[μg/l]の高濃度の鉛が検出された。どうやら住人はこれを生活用水として使用しているようだ。時間が来たのでハヤテたちと合流するため街の中心へむかった。
「水無瀬副宮長、どうだった?」
「病院は患者で満室でした。あと铃玉の鼻血を調べたら18[μg/dl]の鉛が検出されました。」
「間違いないのう。この街は鉛中毒の巣窟じゃ。」
「あと铃玉の親の住所が分かりました。飛行艇の運転を父親がやっているそうです。ハヤテと明ちゃんが向かっています。」
「分かった。铃玉の家で神風と光星に合流しよう。」
飛行艇の運転手は炭鉱で働いている労働者より労働環境はいいのだろうと思うがこの街は滅んでしまうのではないだろうか。铃玉の家に着くと铃玉は下を向いたままである。まだ鼻血が止まらないのだ。光星明から話を聞くと骨折も頻繁に起こっているという。金さんは母親である人に話を聞いてみた。
「铃玉の鼻血はいつからですか?」
「産まれてからずっと。小さい頃は毎日、看病して大変だった。でも神教の巫女さんが売っているこの新聖液(しんせいえき)を飲み水に入れると良くなるの。」
そう言って新聖液の瓶を取り出すと六人は驚いた。御札が貼ってあり、それは紛れもなく列車内で金さんを殺そうとした犯人が持っていた御札と同じだった。急いで液体の成分を分析すると市販の漂白剤と同じ塩素水だった。
「どういうことだ。くいなはどう思う?」
「金城さんを殺すのが目的ではなく、私たち十二宮学園の学生をこの街に入れたくなかったのでしょうか。仮に華鉱社と神教が繋がっているとしたら詐欺ですよね。」
「あ~、もう我慢できない。華鉱社を捕まえられないの?」
「明ちゃん、落ち着いてください。華鉱社を労働基準法や環境保護法違反で起訴しても何も解決しません。むしろ、会社が無くなってしまうとこの街の人々は暮らしていけなくなります。それに恐らく学園都市もここの鉛や亜鉛を工業製品に使用しています。」
「じゃあ、くいなは放っておくの?あたしは嫌だよ。」
「んあ~、あのさぁ、あんたは自分が偽善者のつもり?この街中の人の一生の面倒を見きれるの?できないよね。そんな金も地位もないもん。あんたがしようとしていることは捨て猫に餌をあげる程度なの」
「何だと!このメス犬が」
光星明が金さんに飛びかかろうとしたのをハヤテと水無瀬水鳥が止めた。この光景はもう何度も見せられている。俺も金さんに言い過ぎだと言おうとしたとき、コタン副宮長が虎杖丸のこじりで床を叩いた。大きい音ともに全員が静まりコタン副宮長を見つめた。
「ワシはこれ以上この街の件に介入するのは反対じゃ。東京に南回りで急ぐべきじゃ。」
「コタン副宮長、あたしは・・・」
「もうよい。六人と一匹でできることは限られておる。そこを理解してくれ。」
コタン副宮長の言うことは正しい。仮に铃玉を助けられたとしてもこの街にいる子供全員を助けないとそれは不公平である。人間の一生にかかる費用はとてつもなく高く重い。犬や猫を拾うのとは桁が違う。さらに根本的な原因である華鉱社を仮に無くしてしまったらこの家庭は終わりだ。愛や善意で地球は救えないのだ。
「光星、気持ちはわかるが諦めよう。」
そのとき少し考え込んでいた水無瀬水鳥が大きな声で訴えた。
「あのコタン副宮長、私に少し考えがあります。もしかしたらこの街を救えるかもしれません。」
「ほほう。金牛宮副宮長の知恵を拝借しようか。」
こうして作戦がおおかた決まった。俺は面倒なことに首を突っ込むのは気が引ける。水無瀬水鳥が立てた作戦ということで協力している。俺と金さんはエールシュタットの住人と思われるように制服の上から借りた服を身につけた。金さんの上着は胸が大きくサイズがなかったのでマントと顔が隠れるフードを着てもらった。防毒面を付けていると怪しまれるかもしれないと思ったからだ。铃玉が新聖液を買いに行く後をつけて店の場所と店員がどこから新聖液を手に入れているのかを探ることとなった。正確に言うと新聖液ではなく御札である。新聖液の元は市販の漂白剤なので関係がない。店に陳列されている新聖液がなくなったのを確認して铃玉を買い物客として送り出した。俺と金さんは店が見える位置で街角に隠れながら様子を伺う。ククルがすべて撮影しているので後で証拠として突き出すにはちょうどいい。店主は新聖液をとりに神教の巫女のもとに行くようだ。
「まず、神教の巫女はうそでしょ。」
「そうだろうな。何処へ行くのかわからないが仲介人がいると時間がかかりそうだ。」
店主は別の店に入っていった。店先を見て飲み屋を装っているが風俗か薬物の店だとすぐに感づいた。铃玉にこの店の位置をコタン副宮長に知らせるように伝言した。そしてククルを使ってシャブが欲しいと店先にいる用心棒に頼んだ。ククルが通訳すると用心棒は幾ら出せるか聞いてきた。ここまでは予想通りの展開である。この手の薬物中毒者や酔っ払いが鉱物の本当の価値がわかるわけがない。金さんが持ってきた安物のアクセサリーから一つのガラスビーズを見せた。さらに、アクセサリーそのものも見せて大量に持っていることをちらつかせた。用心棒はすんなりと店の奥に連れて行ってくれた。店内の様子はすべてククルが撮影している。金さんは店にいる人々の心情を読み取っていた。言葉がわからないので怒り、悲しみや殺気など感情だけ伝わってくるというらしい。記憶操作の魔法も言葉の壁があると万能ではないようだ。
「んあ~、ウチはこういうお店は寒気がするわ。殺気が凄い。」
「ククルを見ても誰も怪しまないのだな。」
「通訳の機械だと思っているのでしょ。早く連絡来ないかな。」
水無瀬水鳥が華鉱社と宗協連を調べている。この街の神教は宗協連に登録されていないことが分かれば十分だ。店の一番奥でテーブル席に座るように言われた。持ってきたのは薬草と白い塊だった。純度が知りたいといい粉状にしてもらったものを吸引器に入れるところを現認した。E-ウォッチで成分を調べると間違いなく違法ドラックだった。
「薬草の方は大麻みたい。」
「あとは巫女だ。」
店員に頼んで巫女に会いたいと伝えた。正確には店の頭を出して欲しいとお願いした。機嫌よく店主と思われる人が出てきた。ククルを机の上に置き店主の顔がはっきりと写るようにした。この動画は近くにいるコタン副宮長のE-ウォッチに送信され、すぐに水無瀬水鳥のもとにも送信された。この間、ククルは通訳ができなかったので店主は何を言っているのかわからなかった。
「風翔、魔法使いは全部で八人、拳銃所持は十六人みたい。すぐに拳銃を打てる人はいないみたい。それと、店の入口に大きな銃が置いてあるから安心だって思っている人がいるみたい。」
「便利な魔法だな。まぁ、俺は左手だけで勝負するしかないけどな。」
「んあ~、風翔にはウチがついているから大丈夫だよ。」
しばらく時間稼ぎをするとE-ウォッチから連絡が入った。
「金さん、いくよ。」
「いいよ。」
手筈通りに、俺が左手で制服の刀剣ホルダーからリボルダーを抜くと大声で叫んだ。
「全員動くな!」
一瞬で店内が静寂に包まれた。
「風翔、右手前の人!」
俺からは右奥で見えない壁に向かって一発打った。金さんはマントからアサトライフルを手に取り叫んだ。
「喋らないでね。魔法禁止よ!」
言葉は伝わっていないだろが何を言いたいかは理解したようである。勿論、金さんはアサトライフルなど扱えないし魔法の方が威力抜群だが脅す意味ではこっちの方がよい。
「風翔、一人が店の入口に向かった。逃げようとしているのかな?」

そのとき大地震とも思われる揺れと地響きが来たと思うと、店の入口から店の奥まで四方八方に人を避けるように斬撃と突風が走った。衝撃でほとんどの人が尻餅をついた。

店は屋根が吹き飛ばされてもはや建物ではない状態になっている。俺はあっけにとられていたが、コタン副宮長が虎杖丸の刃を剥き出しにして煙草をくわえながら現れた。まさに鬼である。怖い先輩だ。
「容赦はせんぞ!逃走するものは我が愛刀の錆にしてやる。水無瀬副宮長、拘束術式!」
「了解しました。」

 ハヤテとともに現れた水無瀬水鳥は一瞬で店内に居る人を拘束した。水無瀬水鳥が令状を読み上げるのを聞くと店主は指名手配犯だった。他の店員も違法薬物の所持と使用で緊急逮捕となった。駆けつけた街の警察は事の重大さを知ったのか連邦警察まで呼んでくれた。ハヤテが金さんのもとに来て預けたアサトライフルを金さんから慎重に引き継いだ。
「よし、これで一つは潰したな。ハンナは明のところに行ってくれないか。ククルは借りるぜ。」
「あいつと一緒なのは嫌だけど、ウチができるのはここまでかな。今のところ周りに敵意がある人はいないみたい。」
「本番はここからだな。」
「ハヤテ、何かわかったのか?」
「華鉱社とこの街の偽神教は繋がっていた。宗教法人にして脱税もあった。」
「水無瀬は華鉱社の社長を捕まえたの?」
「ちょっと、離れた場所でいい空気を吸いながら暮らしているようだ。すぐにそっちに行くよ。三江も来てくれ。」

連邦警察に現場を任せて社長宅に向かった。驚いたのは広い庭に塀があり頑丈な門である。穏便に済ませたいが時間もない。水無瀬水鳥が門番に令状を読み上げると、近くで大きな魔力を感じたコタン副宮長は虎杖丸の柄を握り大きく息を吸うと飛んできた風や火の魔法だけでなく建物ごとひと振りで切り裂いた。家は真二つになり地面も半部に割れている。
「コタン副宮長、魔法使いましたか?」
不意に現場と関係ないことを聞いてしまった。
「ワシは戦場以外に魔法を使ったことないぞ。言っただろ虎杖丸はわがままじゃ。刀が切りたいものすべてを切り裂く」
「ハヤテ、三江くん行きますよ。」
水無瀬水鳥はいたって冷静で拘束術式を使い社長の目の前まで来た。とても細身の男で震えている。壊れた机の下にいるので両手を挙げて出てくるように促した。
「言葉がわからないは通用しません。」
ククルが同時通訳をしている。とりあえず社長の言い分を聞くらしい。金牛宮は加害者にもかなり丁寧に接するように指導されている。
「名前は?」
「イース・・・イース・アンブル・ディアモン・・・」
聞き取りづらい小さな声で答えたが、水無瀬水鳥は強気に迫った。
「本名を名乗りなさい!戸籍まで調べてあります。」
「イースだ。ただのイースなのだ。爵位も立派な苗字もないのだ。」
どうやら本当のことを喋り始めた。決して裕福ではないむしろ、貧困の家庭で育ったイースは学校に行けずに炭鉱で働いていたという。そこで上司から鉱物の見分け方を教わり琥珀(アンブル)とダイヤモンド(ディアモン)で稼ぎ始めた。自分しか見分けがつかないものは貯めていったという。そして、貯蓄で起業して今の山を買い、華鉱社を立ち上げたという。しかし、山からエールシュタットに流れる風や水に関しては知識がなかったという。
「起業した時、連邦に提出した書類を見せなさい。」
「わからない。本当だ。昔の書類で今は地下の書斎にあるかもしれない・・・。」
「わかりました。家宅捜査の令状を取ります。神教と名乗って新聖液を造ったのもあなたですか?」
「名は知らない男から持ちかけられた。本当だ。信じてくれ。神教の信者も増えたのだ。」
「異端審問局に確認してもいいですか?」
「構わない。自分は本当にエールシュタットの景気を良くしようと思ってやったのだ。奴らは鉱物を支払っても溜め込むばかりで使わないのだ。」
「そなたは宗教を隠れ蓑にして溜め込んでいたではないか。」
「もし自分の資金が無くなったら奴らが襲ってくるのだ。今でも夢でストライキを思い出す。あの時は若かったから知らなかった。」
「『世界システム開発局』という機関をご存知ですか?」
「何だ?それは?分からない。知らないのだ。」
「本当ですね?」
「本当だ。信じてくれ。」
両手を挙げたままイースはしゃがみこんでしまった。顔は青白くなり逮捕される恐怖もあるようだ。しかし、こいつはいい弁護士を雇って保釈金を払えばすぐに外に出られるだろう。そう考えるとこの一件ですべて解決しない。再び鉱山開発をするだろう。教育を受けていないイースという男はそういう生き方しか知らないのだ。
「では最後に一つあなたの鉱物を見る目を信じて、山と華鉱社の資本金全部合わせて総資産はいくらぐらいになりますか?」
「カラットか、グラムか?」
「どちらでも構いません。」
「7700万カラットは見込んでいる・・・これが無くなったら自分も奴らもエールシュタットが終わってしまう。」
「いいでしょう。水無瀬家がすべての資産を買取ります!」
「は?」
「おいおい、水無瀬副宮長いいのか?金額は予想以上で半端ないぞ。」
「構いません。水無瀬家次期当主の私が契約を結びます。華鉱社は完全子会社にします。」
最初に聞いた時には驚いた方法だがこれぐらいしか解決する手段が思い浮かばなかった。水無瀬家は連邦でも名の知れた名家で様々な企業に投資をしている。これで解決されるかどうかは不透明である。有限の資源である鉱山に頼りきっているこの街の体質の問題である。街の政官民宗の全てが華鉱社に頼りきっているのがまるわかりだ。
「コタン副宮長、そろそろ虎杖丸を収めてくれませんか?」
「すまぬ。いつもの癖だ。自白の強要になってしまったかの?」
「この場での聴取は効力を持ちません。罪は認めましたから後は連邦警察に任せましょう。」
これが金牛宮副宮長の立ち振る舞いだ。とても頼もしく惚れない男はいないだろう。もしかしたら女でも惚れてしまうのではないだろうか。同い年の女性とは思えない眼差しは何を思っているのだろうか。俺より賢いことは凄く良くわかっているが、もはや天才を飛び越えている。超天才。
「さて、この屋敷にある酒、飲料や食料はどうするかのう?水無瀬副宮長。」
「今日は私が全部奢りますから街の人、一人一人に平等に分けてしまいましょう。これだけの量の飲料水は見たことありませんね。」
コタン副宮長が虎杖丸で割った地面からは地下室に大量の酒樽や飲料水が目に付いた。イースの家宅捜索の令状を取る前に水無瀬水鳥は大きな買い物をした。
 铃玉の家に戻ると金さんと光星明が待っていた。依然として、二人の仲は悪いが良い知らせもある。铃玉の父親は今朝、飛行艇で声をかけた男性で名前は霄漢(ショウカン)と言う。金さんたちが話を上手くつけて飛行艇で東京の近くまで乗せてくれるという。今日は霄漢の家に泊めてもらうことになった。本当はホテルに宿泊する予定であったが娘の铃玉を助けた礼がしたいという。六人と一匹を泊めるには場所、食事代の問題があるのだが構わないという。とりあえず連邦警察に提出する証拠を保持するためにククルをコンセントに繋いだ。この家では貴重な電気である。そして、铃玉の母親であるリベラからたくさんの食事がだされた。勿論、イースの豪邸地下室から見つかった酒、飲料や食料である。コタン副宮長は一度断ったのだがお酒を飲み始めた。これはもう止まらないだろう。エールシュタットは『鐫城市』と書くのだが『鐫』という字は鉱山が誕生してつけられた名前であって元はビール(エール)の街だという。
「ワシはこの街、ビールで溺れる街にしてしまえと思う。グフフ。」
「コタン副宮長、飲みすぎですよ。」
「水無瀬副宮長はお堅い。おっぱいは柔らかいのに不思議www」
俺とハヤテは顔を赤くしたままよそを向いた。
「風翔のエッチ。」
「いや、金さん男なら誰だったそうなるって。」
「神風、ワシのおっぱいと水無瀬副宮長のおっぱいどっちがいいのだ?」
「えっ!」
ハヤテに飛び火した。こうなるともう手がつけられない。
「ちょっと服を脱がないでください。」
「バカをぬかすな。ハンナの大きさになるまで揉むぞ。」
「んあ~、ウチの胸を触ってみますか?」
「良いのか?やった~」
そして、笑顔の金さんの胸をコタン副宮長はためらいもなく鷲掴みにした。俺とハヤテは目をそらすことができない。
「んふうん」
「ちょっと、変な声出さないで。」
「あんた、顔真っ赤にしてそれを言う。」
「もうやめてください。小さい子もいるのですから。」
「铃玉はもう寝ておるぞ。小さい子ってワシのことか。ワシの胸は小さくて・・・(涙)それは大事ですよおぉぉぉ!ワシは鉄と銃弾の匂いだけでぇぇぇ、アーハーアァッハアァーー」
「大惨事だな。ハヤテ、コタン副宮長を運ぶのを頑張ってね。」
「こんな時だけ片手だけしか使えないアピールするなよ。同じ白羊宮だろ。」
お酒を飲んだコタン副宮長と霄漢は先に就寝した。残った五人はリベラから魔法の話を聞いた。リベラはイデアルの出身だが亡命して国籍を連邦に変えたという。
「テンくんと同じですね。」
不意に水無瀬水鳥が呟いた。双葉テンはイデアル出身だったのか。知らなかった。しかしハヤテ、水無瀬水鳥と双葉テンは幼馴染だと聞いていたが出会いはどうだったのだろうか。今は関係ない話なので学園に戻ってから聴くことにしよう。
「イデアルでは魔法はとても重要視されていて、研究も盛んだ。魔法の最大火力を発揮するエネルギーというものがどのようなものか研究されている。わたしは魔法使いではないから興味がなかったけど夫の風の魔法を見て何処か遠くへ連れて行ってくれる言葉はうれしかった。そのとき、初めてわかったのよ。魔法っていうのは――――なのよ。」
「あれ?肝心な部分が聞き取れなかった。ククルの調子がおかしいのかな?」
「違うと思います。きっと、連邦には存在しない単語だと思います。明ちゃんは分かりましたか?」
「へっ、うん。でも言葉では表せない感情みたいのが流れ込んできたよ。」
光星明の顔を見ると涙を浮かべていた。
「あれ?おかしいな・・・?」
「明ちゃん・・・」
俺には光星明の泣いた理由がサッパリ分からなかった。魔法使いではないが、魔法の本質が何なのか気になってしかたない。金さんはいつもの笑顔だった。嫌いな奴が泣いているのを笑顔で見ているのが怖い。辞めてほしいが双子宮でアイドルの訓練をしているとこうなるのだろうか。
「俺たちも早く寝よう。明日は飛行艇を借りるけど霄漢の仕事を長く邪魔したくない。」
「そうだな。ハヤテの言うとおりだ。荷物は今日中にまとめておこう。」
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