ZODIAC~十二宮学園~

団長

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極東決戦編その5

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四月二十四日
早朝四時起床した俺たちは出発の準備を始めた。俺の防毒面を金さんに装着した。
「悪いな。金さんは声が命だから我慢してくれ。」
「んあ~、ウチは全然構わないよ。むしろ風翔たちは大丈夫なん?」
「白羊宮の人間はこのくらい平気だ。」
コタン副宮長は水無瀬水鳥、ハヤテは光星明にそれぞれ防毒面を装着した。飛行艇乗り場まで行き空へと離陸した。
霄漢ショウカン殿、感謝する。ワシらだけではこの山を登るのは不可能だった。」
整備されていない山道には危険な生き物がうようよいるだろう。空を飛んでいけるのは楽である。山肌が見えてきた。かなり木を切られて穴だらけの崩れかけの山だ。E-ウォッチをみると空気中の鉄、亜鉛と鉛の濃度が高くなってきた。埃で視界も良くないので霄漢は高度を上げた。E-ウォッチは正常な空気成分になった。
「水無瀬副宮長、水中結界を頼む。」
「水よ、我が力となれ。水中結界!」
昨日よりも大きな結界が飛行艇をまるごと包んだ。結界内は酸素濃度も正常で温度も適温である。山が真下に見える絶景である。
「すごい光景だね。あそこに見えるのは海?」
「そうじゃ。湾岸地域が東京じゃ。」
「あと少しだな。」
飛行艇は山を超えてエールシュタットとは反対側の麓に着陸した。
「霄漢さんありがとうございます。」
「霄漢殿、感謝する。」
副宮長たちに続いて俺たちは霄漢にお礼を述べて見送られた。
「んあ~、ようやくおいしい空気が吸えるよ。はい、これありがとう。」
そう言って金さんは防毒面を返した。水無瀬水鳥と光星明も防毒面をコタン副宮長とハヤテに返して自然の空気に浸っていた。
「コタン副宮長、ここからどうするのですか?」
「神風、地図を出してくれ。」
「E-ウォッチは使えないのですか?」
「E-ウォッチでは道が表示されないからな。極東では魔法使いが少なく魔法社会になっておらんから昔から紙の地図で調べるのじゃ。神風、三江、貴様達も戦場に行けば紙の地図が多いから勉強しておくのだな。」
コタン副宮長は地図、磁石とE-ウォッチで現在地を地図上に記した。
「よし、行くぞ。」
「行くって歩くの?」
「当たり前じゃ。東京へはライフラインが破壊されておるかな。」

 歩き始めて一時間後
「んあ~、誰だよ、あと少しとか言った奴。」
「空から見たら近く感じたの。あたしの目がおかしいわけじゃないからね。」
「二人共、荷物持とうか?」
金さんと光星明の大きな荷物を俺とハヤテが手分けして背中に背負った。

 歩き始めて六時間後
「んあ~、暑い。喉が渇いた。」
「いいじゃない。塩には困らない。」
「あんたの塩はいらない。ウチの爪を煎じて飲ませてあげようか。」
「誰がそんなもの飲むのよ。」
「喉が渇いたのでしょ。」
何もない干からびた大地に突然、大きな機械が目に付いた。近づくにつれて大きくなっていく。
「あれ何ですか?」
「昔の人工衛星じゃ。宇宙から落ちてきたものだろ。日陰ができているから少し休もう。」
「金さん、光星、水だよ。」
「ありがとう。これどうしたの?」
「水無瀬が水の魔法で出した。魔力が減るからあまり使いたくないらしいけど。」
「くいな、ありがとう。」
「合流地点まであと三キロもないの。休憩はおしまいじゃ。出発するぞ。」
「・・・はい。」
日が暮れてからは危険な生き物が出てくるかもしれないので小走りで小さな町にたどり着いた。町の中心に行くとコタン副宮長よりかは、身長は低いが大きなサングラスをかけた男が声をかけてきた。
「姉御、こっちです!遅いですよ。」
「K。そなたに会えてよかった。ちと面倒事を片付けてきたからな。」
「お嬢さん、初めまして。職業上名前は教えられませんがK(ケイ)とお呼び下さい。」
そう言って水無瀬水鳥の両手を取り深々と挨拶した。
「初めまして。水無瀬水鳥です。」
「お目にかかれて光栄です。十二宮学園の頭脳にして金牛宮の副宮長をやっていらっしゃるとお聞きします。こんなにも美しい女性とは想像以上です。お近づきのしるしにサインをいただけないでしょうか。」
「冗談はいいから、さっさと案内せよ。」
「わかりましたよ。汚い荷馬車ですがどうぞお上がりください。」
「極東ではまだ『自動車』なる乗り物があると聞いておったが。」
「車を動かすガソリンが今は戦車と軍艦に優先的に回されているのですよ。荷馬車で我慢してください。」
「まだ、戦車など使っておるのか。旧時代の代物だろ。」
「極東では当たり前ですぜ。今日は日が暮れちまいそうなので、ホテルに泊まってください。一応、この町では高級ホテルですぜ。」
そう言って案内されたのは古めかしい旅館である。みやびやかな感じは全くしない寂れた旅館だ。俺、金さんとハヤテは初めて生魚の刺身というものを食べた。とても美味しく海の近くまで来たという実感が湧いてきた。水無瀬水鳥とコタン副宮長は食べたことが何回かある。副宮長であるし、水無瀬家では当然のように食卓に並ぶ日があるという。光星明は元の世界で食べたとことがあるという。
「何だか、変わった色と形の魚だね。食べられるからいいけど。」
「明ちゃんのいた時代からだいぶたっていますからね。海の生態系も大きく変わっています。」
「この魚は何て名前なの?」
「オオウミメダカ」
さすがククル。何でも知っている。
「夕食後は自由行動じゃ。私服でも構わん。ただし、ホテルからは外に出るなよ。」
「そう言われると、外出したくなりますよ。」
「バカもん。外はチンピラや殺人鬼だけでなく、危険な生物がうようよおる。極東では生態系が管理されておらんから過酷な氷河期を生き抜いた危険生物が多いのじゃ。」
「治安が悪いと、生態系も悪くなるのですか?」
「人間が環境破壊を続けていると、その環境に適用とする危険な生物が誕生するのじゃ。例えば、核兵器使用後は核を食べる微生物やバクテリアが誕生し、染色体異常で奇怪な生物が誕生したといわれておる。」
長氷河期が終わってからも戦争は続いた。思想、民族、宗教と資源の問題が未だに解決されないのはなぜだろうか。あまり難しいことは考えたことがなかった。東京に近づくにつれて学園都市という居心地のいい街に暮らせていることが幸せであり、同時に俺に遠い世界の話のような感覚にさせていた。金さんは東京でライブをやることに使命感があるのだろうか。いつも笑顔だからわからないのだ。俺も人のことは言えないが、性格からして、紛争で傷ついた人々を少しでも癒そうという意思があって東京に向かっているとは思えない。
「コタン副宮長、ウチは歌とダンスの練習がここまでできなかったのでしたいのですか?」
「構わんぞ。K、ホテル内に施設はあるか?」
「はい。宴会場がありますので自由に使ってください。」

 入念なストレッチをおこなったあと金さんはククルに音楽データをE-ウォッチから入力した。どうやら移動中はE-ウォッチで音楽を聞いていたらしい。俺と水無瀬水鳥の前で歌に合わせて踊りの練習を始めた。水無瀬水鳥に来てもらったのは鏡がないから水の魔法でダンスミラーを作ってもらうためである。水の魔法で透き通った水の綺麗なダンスミラーが出来上がった。そして、金さんはジャージ姿でひたすら練習をしている。
「あれだけ歩いたのに、よく体力が残っていますね。」
「金さんはこれが本職だからな。水無瀬も何か事件のこととなるとずっと考えられるだろう。当然だけど、双子宮では厳しい練習が毎日あるからな。」
双子宮のタマ宮長の噂は聞いたことがある。実際に会ったことはないがタマ宮長は元からあまり寝ないという。エンターテインメントという仕事は常に新しいことを創造しながら大衆がいかに注目してくれる『作品』になるか考えているという。飽きられたらそれで終わりのアイドルの世界で生きていくのは至難の業であると俺は考えている。
「努力は報われると言いますが、アイドルの世界でもそうなのでしょうか?」
「水無瀬は十分努力していると思うけど報われなかったことがあるの?」
「連邦の根幹に関わるような事件になったときは困りました。サンズイは地道な捜査が無駄に終わることが少なくありません。あ、この話はここだけの話で内緒ですよ。」
「副宮長になると大変だよな。そういう話を聞くと俺には上を目指す向上心がないのかな。」
「三江くんが頑張っていることは知っていますよ。」
水無瀬水鳥の言葉が胸に突き刺さる。自分はそんなに努力していない自覚があるからだ。留年しているし宮位も上がらないでいる。勉学も訓練も知らず知らずに手を抜いているのだろう。


四月二十五日
金さんの練習にずっと付き合うつもりだったがいつのまにか宴会場でそのまま寝てしまったようだ。誰かが布団をかけてくれたようだ。
「おはよう、風翔。」
「金さん、朝まで練習していたの?」
「んあ~、まさか。少し休んだよ。朝食後に荷馬車ですぐに出発するって。」
「わかったよ。すぐに準備する。」
荷馬車に荷物を積んでいると上空をファルクン・ナイツの魔法使いたちが高速で東へ風を裂きながら飛んでいった。
「連邦の空襲部隊ですか?」
「いや、あれは僧兵じゃ。東京の宗協連が呼び寄せたのだろう。」
「姉御、早く出発しますぜ。じゃないと東京まで着きませんぜ。」
荷馬車に揺られひたすら走り続ける。悪路のため座っているのが以外にきつい。しばらくすると難民キャンプにたどり着いた。
「K、ここらのキャンプは安全なのか?」
「まだ、マシなほうですね。水も食料も定期的に連邦の魔法使いが運んできます。チャーチも食料を提供と病人の看病をしてくれています。」
「全員、幌から顔を出すな。」
コタン副宮長が突然、御者台から命令を出した。外の様子は見えないが人々が荷馬車の周りに集まってきているようだ。なかには叫んでいる人もいる。
「明ちゃん、何言っているかわかりますか?」
「いっぱい人がいて色々な感情が流れ込んでくるけど、『子供に飯をくれ』、『何でもいいから何かくれ』とかあたし達が何かくれると思って集まってきたみたい。」
「俺たちは慈善団体じゃないって言ってくれよ。」
あまりに人が集まってきたのでコタン副宮長がアサトライフルを取り出して御者台に立った。
「K、道をあけろと言え。さもないと撃ち殺すと。」
Kが何と言ったか分からないが、人々は道を開けて荷馬車はスムーズに進むようになった。
「これでマシな方なのだな。物資が行き届いておらんではないか。」
「補給路が最近、潰されてから困っているので。自分たちは故郷を追われた被害者で何でも連邦や宗協連から与えてくれると思っている人もいます。理解している奴らは薬や臓器を商売にしています。」
キャンプ内にも格差があるのは当然だろう。ろくな教育を受けていないものは文字を読むことはできずに働けず違法なことに手を染めてしまうのは目に見えている。ここでは知恵を絞らないと生きていけない現状が伺える。しかし、その知恵すら教える場所がないのだ。本当に極東で産まれなくてよかったと安堵する。
「まっすぐ東京の宗協連本部に向かうぞ。」
コタン副宮長には見慣れた光景であるようだ。道に転がっている死人や生死がわからない子供を抱き抱えた母親を気にすることなく荷馬車を走らせた。

学園都市を出発して九日目の夕方、遂に東京の宗協連本部に到着した。本部周辺は僧兵がしっかりと守備をしているという。
「ようこそ、遠路はるばるお越しただきありがとうございます。わたくしがここの司教のヨハネ・サクラ・アイドリッヒです。気軽にサクラとお呼び下さい。」
太った丸い体型の中年男である。首からロザリオをさげているのでクロス教の信者のようだ。驚いたことに普通に言葉が通じるのである。俺たちのために気を使ってくれているのか、今の東京の現状を把握しているのか怪しい。
「水無瀬副宮長と神風、サクラ殿に東京の現状について聞いておけ。三江、ハンナと光星はワシについて来い。」
そう言ってハヤテたちと別れ広い部屋に入った。部屋には豪華な円卓があり、大型の機械設備や何かの実験設備と思われるものまであった。コタン副宮長はすぐに十二宮学園に連絡を取った。無事に全員、東京に到着したことと今後の金さんのライブの予定を話した。
「ここでは学園都市とも連絡が取れるのですね。」
「東京では数少ない通信環境が整った情報室じゃからな。お前らは休んでおれ。すぐに夕食になる。」
それはありがたい。金さんは夕食になるまで大きな鏡の前で踊りの練習をしていた。
「あたしは、あんなのどこがいいのかわからないよ。園児の遊戯に見えるけど大丈夫?」
「指摘してくれるなんて感謝するよ。あんたの目はもう手遅れ?」
「大きなお友達にはウケがいいのかな。」
「友達が少ないあなたに言われたくないわね。」
「元の世界にはいっぱいいました。」
「こっちで作らないの?その性格だと作れないのかな?」
「心配ご無用。ハヤテとくいながいます。」
この何度も魅せられたやりとりはいつ終わるのだろうか。口を挟む隙をあたえてくれない。
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