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LET'S START THE STAGE
極東決戦編その7
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四月二十七日
出演者がまだ全員そろわないということで今日は久しぶりに休みになった。金さんは買い物がしたいと言っていたが外出は許可がおりなかった。コタン副宮長と水無瀬水鳥は諸々忙しくやることがたくさんあるとのことだ。学園からの課題をおこなったり、四人でフォー・フロンツをしたり、ダンスの練習をした。光星明がステージに出るタイミングは金さんに与えられた時間内でなくてはならない。二人で話し合っていても喧嘩ばかりして話が前に進まない。俺には関係のないところで話し合って決めて欲しい。
四月二十八日
遂に東京ドームのライブの日がやってきた。六人と一匹は重苦しく朝食を済ますと準備にはいった。俺とハヤテは通常装備に着替える。十二宮学園の迷彩服に防弾チョッキを着る。動きにくくなるが念の為に魔法陣が描かれた鉄板を背中と腹に入れた。刀剣ホルダーはいつも制服に付けているものと同じものを装着した。コンバットブーツの紐はハヤテに絞めてもらった。ハヤテとお互いに確認し合って一通り服を着終わった。次は武装する。弾丸が入ったリボルバーと十五連発の拳銃を確認してホルダーにしまった。ハヤテは弾丸に魔法陣が描いてあることを一発ずつ確認していた。そして、ハヤテはアサトライフルを俺に渡した。
「俺が呪文を唱えたらすぐに撃てるようにしておいてくれ。」
「了解。ハヤテは魔力の調子は大丈夫?」
「問題ない数値だ。薬品と携帯食料は俺が持つよ。銃火器持っていると重いだろ。」
「確かに。魔法が使えない俺の装備は倍以上の重さがあるからな。」
ハヤテは慎重に武装の確認をして玄関に移動した。その後を俺は続いた。コタン副宮長と水無瀬水鳥も通常装備に着替え終えて待っていた。コタン副宮長は武装しているのかと疑うほど身軽な格好だった。いつもと違うのは刀剣ホルダーに虎杖丸が収められており背中にはスナイパーライフルを背負っていた。水無瀬水鳥は警官服に防弾チョッキを着て魔法陣の描いた御札を確認していた。二人ともいつもの制服のスカートではなくスラックスなのが新鮮で初めて見る姿は凛々しかった。特に胸に付けた副宮長の階級バッジがいつもより輝いていた。金さんと光星明が来るのが遅い。
「遅いのう。水無瀬副宮長、部屋を見てきてくれないか?」
「分かりました。」
しばらくすると金さんと光星明が水無瀬水鳥に引き連れられてきた。金さんはキャミソールドレスがしっくりこないようで悩んでいたという。
「金さん、何着持ってきたの?」
「十着ぐらい。気分によって変わるし、ウチは見た目が派手な方がいいかなと思って。」
よく見ると装飾品も結構付けている。色の組み合わせはコバルトブルーに統一したようであるが自分では他人の目が気になるようである。
「風翔はどう思う?まずかったらもう一度着替え直してくる。」
「あ、うん。大丈夫だよ。」
「んあ~、それだけ・・・。まぁ、いいか。」
そう言って上から双子宮のレースが付いた厚手の黒いコートを羽織った。同じくステージに立つ光星明はピンクのワンピースに洒落た模様の入った白いジレと黒いタイツで現れた。
「本当はあたし、青色が良かったのだけどこいつと被るのが嫌だったから変えた。」
「私は喧嘩しないように言いましたが。」
喧嘩の仲介した水無瀬水鳥は光星明にピンクとホワイトの二階層ケープを羽織らせた。首から下げた光の核石が見えないためである。俺が金さんの、ハヤテが光星明の制服、普段着などの荷物を預かった。Kが外で荷馬車を用意してくれている。時間がないので急いで東京ドームに向かった。大きな建物は破壊され、昔のオフィスビルだと思う建物の窓はすべて割れていて壁には銃痕がある。道端は壕、壊れた自動車や魔法の衝撃の跡がたくさんある。この街が旧都だという面影はない。東京ドームの上空にはファルクン・ナイツが展開している。東京に来る前に飛んでいくのを見た部隊だ。ライブのために空から警備をおこなっている。東京ドームに着くと人々がたくさん集まっていた。正門とは反対側の入口前で六人と一匹は最後の確認をした。
「よいか、何が起こっても慌てずにワシの指示を聞け。E-ウォッチは常に確認すること。不審者はすぐに報告しろ。」
コタン副宮長と水無瀬水鳥はこうして指揮をとるためにドーム警備の大隊に向かった。俺たち四人は出演者の控え室に向かった。慌ただしく準備に追われている。俺は金さん、ハヤテは光星明の側に付きメイクの順番を待っている。出番は最後なので慌てることはないが外のグラウンド、観客席とステージがカメラに映し出されているのを見ると多くの人で既に埋め尽くされている。本番は刻一刻と迫っていた。俺まで緊張している感じになった。
くいな「メインステージ、舞台と観客のスペースをとるのが難しいです。」
コタン「水中結界は発動できるか?」
くいな「舞台の前を空けてもらえればできます。」
コタン「今から入場規制する。」
連邦とイデアルの来賓と報道陣も到着した。たいした人物ではないが一応、国の代表として来ているので少しでも友好的になってくれればと思う。正午にライブ開催の合図とともにメインスクリーンに水無瀬水鳥の妹である水無瀬水萌が映し出された。聖帝猊下の生中継に一同が画面に釘付けになった。祭服を着て右耳に十字架、左耳に月と星のイヤリング、右手首には法輪、オームと九芒星、左手首には五芒星、卍と双剣のブレスレットをしている。幼くひ弱な体だが杖神をついて立ち上がると訴えるように言葉を発した。
「楽に生きる術が二つあります。全てを信じるか、全てを疑うか。皆さんはどう思いますか?わたくしは心も体も未熟ですぐに人を信じてしまいます。信じる者同士は、ささいな違いで争うことに警鐘します。我々、宗教協力連合は万人の平等こそ宗教の理想であると考えています。信仰の違いが序階や序列の争いになってはいけないのです。皆さんの信仰が多くの人々を救うと信じています。」
スピーチが終わるとドーム内は来賓と観客の盛大な拍手が鳴り響いた。さすがは全ての宗教の長である。しかし、水無瀬水萌はたしか十一、二歳の子供だったような気がする。その毅然とした振る舞いは本当に選ばれた偉人なのだろうと思った。水無瀬家の人はみんな天才なのだろうか。最後、水無瀬水萌は天使のように微笑んだ。俺には関係ないが、このライブが極東の宗教対立を和らげることになるだろう。そして、一組目の出演者がメインステージに立ちドームのボルテージは一気に跳ね上がった。金さんはいつもの笑顔でメイクをする。東京では貴重な化粧品であるが実は金さんは自前で持ってきていた。学園でのミニライブのときに楽屋で乙女宮の学生からメイク方法と道具一式をもらってきたという。光星明の方を見ると苦労しているようだ。
「え、あたし付けまつ毛したことないよ。」
「明、メイクアップアーティストの人に任せろよ。アイラインとか左右ばらばらだぞ。」
「目元とまぶたを触られるのは慣れてなくて・・・髪はいつものポニーテールが楽なのだけど。」
ハヤテも呆れているが、担当のメイクアップアーティストの人がかわいそうだ。しびれを切らせた金さんが光星明のメイク台のもとにあゆんだ。
「あんた、仮にもウチの出番のときに登場するのだから少しは言う事聞け。ウチが顔をやります。」
「変なことしないでよね。」
「少しその達者な口を閉じてくれるかしら。」
そう言って金さんは光星明の顔に化粧水を塗った。アイメイクとしてパレットからピーチ色を選んだ。手馴れたように目に付けまつげをつけた。眉尻はやや長めに調整した。光星明は痛がる素振りも見せなかった。チークには大人さを出すために斜め上に丸くピーチ色のパウダーをつけた。チョコ色のパウダーを持ってきた。変な色を選んだように思ったが、ノーズシャドウを上手くつけた。
「あんたは、鼻が低いほうだからこれで高く見える。あとはリップだけど、ピーチで統一していいかな?」
「凄い・・・人は見掛けによらないのだね。」
「喧嘩は売ってないのよね。」
「いや、感心しているのだよ。ありがとう!」
「ウチのライブをぶち壊さないでね。」
金さんは笑顔で合図地をした。俺には関係ないが、二人の仲がここに来てよくなるとは思っていなかった。
「ヘアメイクは専門の人に任せましょう。ポニーテールではなくて、三つ編みにして持ち上げてしまったほうがいい。あんたのことだから首にかかる髪が嫌なのでは?」
「まぁ、任せるよ・・・。」
光星明は金さんに初めて心を開いたように思った。
「金さんもヘアメイクしてもらおう。髪の量が多いから時間かかるよ。」
人のことを気にしている余裕がある金さんは凄いが、ヘアメイクをしてくれる人に迷惑をかけるわけにいかない。いつも、二つのお団子にしている髪をほどくとかなりのボリュームの髪がある。ヘアメイクも悩むところである。ティアラを装飾することは決まっているが髪を上げるか下げるかで話し合っている。勿論、ククルを介して通訳してもらっているので俺には話の内容が分からないが、言葉がわかったとしても専門的でどうせわからない。結局、髪を上げて一つのお団子にした。いつもとは違った美しい姿である。この感覚はミニライブの時も感じたものと同じだ。しかし、あの時とは明らかに違うスタイルである。ギャル要素は皆無で大人っぽさをだした感じだ。そうこうしているうちにメインステージでは何やら逮捕者がでているようだ。興奮した観客がメインステージにあがろうとしたところを水無瀬水鳥が拘束術式を使ったと連絡が入った。真ん中の舞台で水中結界を展開しながら別の場所で拘束術式を使えるとは恐れ入った。コタン副宮長が二階席からスコープで警備しながら指示しているという。日が落ち始めたとき順番になり、俺たちはメインステージ袖に待機した。会場にマイク音で指名された。ククルが同時通訳をして「ハンナ・ノルン・金城が最後のトリを飾ってくれます。」と言われた。金さんはククルを肩に乗せてマイクを持ちメインステージにあがった。スポットライトがあたりまた一段と美しい姿になった。ミニライブの時もそうだったがスポットライトがあたるとこうも変わるものなのだろうかと思ってしまうほど輝いている。メインステージをゆっくりと歩きながら真ん中の舞台を目指した。その間も観客は美女にざわついている。真ん中の舞台に立つと水無瀬水鳥が目の下にいるのに安心したのか一息ついて音楽が流れるのを待った。メインスクリーンには歌詞が同時に流れる仕組みになっている。少し低い曲調の音楽が流れ始めた。金さんは好音で歌い始めた。
今温もりが消えたその後で
ぼくらの願いも嘘になるならば
「行かないで」 君の声が木霊して
全てを忘れていく
四角い箱に取り残された
揺りかごは酷く無機質で
重たくなって零れたはずの
愛しさがそれでも残った
僕の言葉が僕の心が
暖かく君を 照らして
いつか 届くのなら
今振り向いて視線が絡んだ
そんな瞬間も罪となるならば
「聞かないで」何も話したくないよ
全てを忘れても このまま
繰り返す色のない世界でまた
飽きもせず傷を増やしてく
サヨナラがいつかくると知っていて
行き場もなくさまよう
長い時間を費やしている
砂のお城とは知りながら
それでも今日も積み上げていく
いつか壊す日がくるまでは
例えば今夜昔見ていた
同じ光の 月さえも
いつか 変わるのなら
あと少しだけ隣にいさせて
夜の帳がおちてくそれまでは
「泣かないで」一言が胸を叩き
留まる事もなく 互いの
気持ちなら誰よりも強く
分かり合えていると信じていたこと
幻想が作り出した未来図に
僕らの夢が滲む
どうすれば微笑んだの?
こんなんじゃ笑えないよ?
この声が届く様に
もう一度 もう一度
僕の言葉が僕の心が
暖かく君を照らして
いつか 輝くなら
今 温もりが消えたその後で
ぼくらの願いも嘘になるならば
「行かないで」 君の声が木霊して
全てを忘れても このまま
繰り返す色のない世界でまた
君のこと愛しく思うよ
サヨナラがいつかくると知っていて
行き場もなくさまよう
音楽が流れ終わると観客から拍手がおこった。金さんも笑顔で答えた。真ん中の舞台で一回転して手を振った。金さんが肩に乗せたククルにマイクを近づけた。
「本日は東京ドームにお越しいただきありがとうございます。ハンナ・ノルン・金城です。ウチにこのような機会を頂き感謝でいっぱいです。できるだけ多くの人にウチのことを知って欲しいです。ハンナ・ノルン・金城を忘れないでください。」
金さんはひときわ大きな声で自分の名前を名乗り、好印象を与えた。
「ウチが通う十二宮学園には十二の宮、三十の学部、百を超える専門の学科があり学生が様々な自分の道を極めるべく、日々鍛錬しています。本日、ここで新しい魔法を皆さんにお見せします。」
金さんがうまく十二宮学園の話に持っていく。ハヤテが光星明に出番だといい、メインステージ袖から光星明が出て行った。スポットライトにあてられた光星明もなかなか綺麗に見える。しかし、緊張しているか、ヒールに履きなれていないのかもたついている。金さんが真ん中の舞台からメインステージにむかい光星明の手を取った。俺には関係ないが、何か会話をしたようだ。ここからでは聞き取れなかった。二人で真ん中の舞台に立った。
「世界で初めての光の魔法を使う魔法使いです。光の核石をご覧下さい!」
光星明がケープを脱ぐと光の核石が現れた。スポットライトがあたり、来賓と報道陣の視線も光星明に注がれた。会場にいる大部分の人は魔法使いですらない。それが、貴重な「光の魔法」を使うという。
「タイムスリップできるのですか?」
「マジかよ。過去に戻って失敗したことやり直せるのか?」
「暮らしは豊かになるの?」
会場全体がざわめく。そのとき、耳を裂く音とともに上空で爆発が起きた。爆風でグラウンドの立ち見の人たちは立っていられないほどだった。俺とハヤテはすぐに金さんと光星明のもとに走っていった。
「何事じゃ!」
コタン副宮長も突然のことで驚いたようだ。血まみれの人だった塊が空から落ちてきてグラウンドの観客の上に落ちた。ファルクン・ナイツの一人が撃墜されたことにすぐに気がついた。どこからか大きな声が聞こえた。
「そいつらは危険な魔女だ!殺せ。」
出演者がまだ全員そろわないということで今日は久しぶりに休みになった。金さんは買い物がしたいと言っていたが外出は許可がおりなかった。コタン副宮長と水無瀬水鳥は諸々忙しくやることがたくさんあるとのことだ。学園からの課題をおこなったり、四人でフォー・フロンツをしたり、ダンスの練習をした。光星明がステージに出るタイミングは金さんに与えられた時間内でなくてはならない。二人で話し合っていても喧嘩ばかりして話が前に進まない。俺には関係のないところで話し合って決めて欲しい。
四月二十八日
遂に東京ドームのライブの日がやってきた。六人と一匹は重苦しく朝食を済ますと準備にはいった。俺とハヤテは通常装備に着替える。十二宮学園の迷彩服に防弾チョッキを着る。動きにくくなるが念の為に魔法陣が描かれた鉄板を背中と腹に入れた。刀剣ホルダーはいつも制服に付けているものと同じものを装着した。コンバットブーツの紐はハヤテに絞めてもらった。ハヤテとお互いに確認し合って一通り服を着終わった。次は武装する。弾丸が入ったリボルバーと十五連発の拳銃を確認してホルダーにしまった。ハヤテは弾丸に魔法陣が描いてあることを一発ずつ確認していた。そして、ハヤテはアサトライフルを俺に渡した。
「俺が呪文を唱えたらすぐに撃てるようにしておいてくれ。」
「了解。ハヤテは魔力の調子は大丈夫?」
「問題ない数値だ。薬品と携帯食料は俺が持つよ。銃火器持っていると重いだろ。」
「確かに。魔法が使えない俺の装備は倍以上の重さがあるからな。」
ハヤテは慎重に武装の確認をして玄関に移動した。その後を俺は続いた。コタン副宮長と水無瀬水鳥も通常装備に着替え終えて待っていた。コタン副宮長は武装しているのかと疑うほど身軽な格好だった。いつもと違うのは刀剣ホルダーに虎杖丸が収められており背中にはスナイパーライフルを背負っていた。水無瀬水鳥は警官服に防弾チョッキを着て魔法陣の描いた御札を確認していた。二人ともいつもの制服のスカートではなくスラックスなのが新鮮で初めて見る姿は凛々しかった。特に胸に付けた副宮長の階級バッジがいつもより輝いていた。金さんと光星明が来るのが遅い。
「遅いのう。水無瀬副宮長、部屋を見てきてくれないか?」
「分かりました。」
しばらくすると金さんと光星明が水無瀬水鳥に引き連れられてきた。金さんはキャミソールドレスがしっくりこないようで悩んでいたという。
「金さん、何着持ってきたの?」
「十着ぐらい。気分によって変わるし、ウチは見た目が派手な方がいいかなと思って。」
よく見ると装飾品も結構付けている。色の組み合わせはコバルトブルーに統一したようであるが自分では他人の目が気になるようである。
「風翔はどう思う?まずかったらもう一度着替え直してくる。」
「あ、うん。大丈夫だよ。」
「んあ~、それだけ・・・。まぁ、いいか。」
そう言って上から双子宮のレースが付いた厚手の黒いコートを羽織った。同じくステージに立つ光星明はピンクのワンピースに洒落た模様の入った白いジレと黒いタイツで現れた。
「本当はあたし、青色が良かったのだけどこいつと被るのが嫌だったから変えた。」
「私は喧嘩しないように言いましたが。」
喧嘩の仲介した水無瀬水鳥は光星明にピンクとホワイトの二階層ケープを羽織らせた。首から下げた光の核石が見えないためである。俺が金さんの、ハヤテが光星明の制服、普段着などの荷物を預かった。Kが外で荷馬車を用意してくれている。時間がないので急いで東京ドームに向かった。大きな建物は破壊され、昔のオフィスビルだと思う建物の窓はすべて割れていて壁には銃痕がある。道端は壕、壊れた自動車や魔法の衝撃の跡がたくさんある。この街が旧都だという面影はない。東京ドームの上空にはファルクン・ナイツが展開している。東京に来る前に飛んでいくのを見た部隊だ。ライブのために空から警備をおこなっている。東京ドームに着くと人々がたくさん集まっていた。正門とは反対側の入口前で六人と一匹は最後の確認をした。
「よいか、何が起こっても慌てずにワシの指示を聞け。E-ウォッチは常に確認すること。不審者はすぐに報告しろ。」
コタン副宮長と水無瀬水鳥はこうして指揮をとるためにドーム警備の大隊に向かった。俺たち四人は出演者の控え室に向かった。慌ただしく準備に追われている。俺は金さん、ハヤテは光星明の側に付きメイクの順番を待っている。出番は最後なので慌てることはないが外のグラウンド、観客席とステージがカメラに映し出されているのを見ると多くの人で既に埋め尽くされている。本番は刻一刻と迫っていた。俺まで緊張している感じになった。
くいな「メインステージ、舞台と観客のスペースをとるのが難しいです。」
コタン「水中結界は発動できるか?」
くいな「舞台の前を空けてもらえればできます。」
コタン「今から入場規制する。」
連邦とイデアルの来賓と報道陣も到着した。たいした人物ではないが一応、国の代表として来ているので少しでも友好的になってくれればと思う。正午にライブ開催の合図とともにメインスクリーンに水無瀬水鳥の妹である水無瀬水萌が映し出された。聖帝猊下の生中継に一同が画面に釘付けになった。祭服を着て右耳に十字架、左耳に月と星のイヤリング、右手首には法輪、オームと九芒星、左手首には五芒星、卍と双剣のブレスレットをしている。幼くひ弱な体だが杖神をついて立ち上がると訴えるように言葉を発した。
「楽に生きる術が二つあります。全てを信じるか、全てを疑うか。皆さんはどう思いますか?わたくしは心も体も未熟ですぐに人を信じてしまいます。信じる者同士は、ささいな違いで争うことに警鐘します。我々、宗教協力連合は万人の平等こそ宗教の理想であると考えています。信仰の違いが序階や序列の争いになってはいけないのです。皆さんの信仰が多くの人々を救うと信じています。」
スピーチが終わるとドーム内は来賓と観客の盛大な拍手が鳴り響いた。さすがは全ての宗教の長である。しかし、水無瀬水萌はたしか十一、二歳の子供だったような気がする。その毅然とした振る舞いは本当に選ばれた偉人なのだろうと思った。水無瀬家の人はみんな天才なのだろうか。最後、水無瀬水萌は天使のように微笑んだ。俺には関係ないが、このライブが極東の宗教対立を和らげることになるだろう。そして、一組目の出演者がメインステージに立ちドームのボルテージは一気に跳ね上がった。金さんはいつもの笑顔でメイクをする。東京では貴重な化粧品であるが実は金さんは自前で持ってきていた。学園でのミニライブのときに楽屋で乙女宮の学生からメイク方法と道具一式をもらってきたという。光星明の方を見ると苦労しているようだ。
「え、あたし付けまつ毛したことないよ。」
「明、メイクアップアーティストの人に任せろよ。アイラインとか左右ばらばらだぞ。」
「目元とまぶたを触られるのは慣れてなくて・・・髪はいつものポニーテールが楽なのだけど。」
ハヤテも呆れているが、担当のメイクアップアーティストの人がかわいそうだ。しびれを切らせた金さんが光星明のメイク台のもとにあゆんだ。
「あんた、仮にもウチの出番のときに登場するのだから少しは言う事聞け。ウチが顔をやります。」
「変なことしないでよね。」
「少しその達者な口を閉じてくれるかしら。」
そう言って金さんは光星明の顔に化粧水を塗った。アイメイクとしてパレットからピーチ色を選んだ。手馴れたように目に付けまつげをつけた。眉尻はやや長めに調整した。光星明は痛がる素振りも見せなかった。チークには大人さを出すために斜め上に丸くピーチ色のパウダーをつけた。チョコ色のパウダーを持ってきた。変な色を選んだように思ったが、ノーズシャドウを上手くつけた。
「あんたは、鼻が低いほうだからこれで高く見える。あとはリップだけど、ピーチで統一していいかな?」
「凄い・・・人は見掛けによらないのだね。」
「喧嘩は売ってないのよね。」
「いや、感心しているのだよ。ありがとう!」
「ウチのライブをぶち壊さないでね。」
金さんは笑顔で合図地をした。俺には関係ないが、二人の仲がここに来てよくなるとは思っていなかった。
「ヘアメイクは専門の人に任せましょう。ポニーテールではなくて、三つ編みにして持ち上げてしまったほうがいい。あんたのことだから首にかかる髪が嫌なのでは?」
「まぁ、任せるよ・・・。」
光星明は金さんに初めて心を開いたように思った。
「金さんもヘアメイクしてもらおう。髪の量が多いから時間かかるよ。」
人のことを気にしている余裕がある金さんは凄いが、ヘアメイクをしてくれる人に迷惑をかけるわけにいかない。いつも、二つのお団子にしている髪をほどくとかなりのボリュームの髪がある。ヘアメイクも悩むところである。ティアラを装飾することは決まっているが髪を上げるか下げるかで話し合っている。勿論、ククルを介して通訳してもらっているので俺には話の内容が分からないが、言葉がわかったとしても専門的でどうせわからない。結局、髪を上げて一つのお団子にした。いつもとは違った美しい姿である。この感覚はミニライブの時も感じたものと同じだ。しかし、あの時とは明らかに違うスタイルである。ギャル要素は皆無で大人っぽさをだした感じだ。そうこうしているうちにメインステージでは何やら逮捕者がでているようだ。興奮した観客がメインステージにあがろうとしたところを水無瀬水鳥が拘束術式を使ったと連絡が入った。真ん中の舞台で水中結界を展開しながら別の場所で拘束術式を使えるとは恐れ入った。コタン副宮長が二階席からスコープで警備しながら指示しているという。日が落ち始めたとき順番になり、俺たちはメインステージ袖に待機した。会場にマイク音で指名された。ククルが同時通訳をして「ハンナ・ノルン・金城が最後のトリを飾ってくれます。」と言われた。金さんはククルを肩に乗せてマイクを持ちメインステージにあがった。スポットライトがあたりまた一段と美しい姿になった。ミニライブの時もそうだったがスポットライトがあたるとこうも変わるものなのだろうかと思ってしまうほど輝いている。メインステージをゆっくりと歩きながら真ん中の舞台を目指した。その間も観客は美女にざわついている。真ん中の舞台に立つと水無瀬水鳥が目の下にいるのに安心したのか一息ついて音楽が流れるのを待った。メインスクリーンには歌詞が同時に流れる仕組みになっている。少し低い曲調の音楽が流れ始めた。金さんは好音で歌い始めた。
今温もりが消えたその後で
ぼくらの願いも嘘になるならば
「行かないで」 君の声が木霊して
全てを忘れていく
四角い箱に取り残された
揺りかごは酷く無機質で
重たくなって零れたはずの
愛しさがそれでも残った
僕の言葉が僕の心が
暖かく君を 照らして
いつか 届くのなら
今振り向いて視線が絡んだ
そんな瞬間も罪となるならば
「聞かないで」何も話したくないよ
全てを忘れても このまま
繰り返す色のない世界でまた
飽きもせず傷を増やしてく
サヨナラがいつかくると知っていて
行き場もなくさまよう
長い時間を費やしている
砂のお城とは知りながら
それでも今日も積み上げていく
いつか壊す日がくるまでは
例えば今夜昔見ていた
同じ光の 月さえも
いつか 変わるのなら
あと少しだけ隣にいさせて
夜の帳がおちてくそれまでは
「泣かないで」一言が胸を叩き
留まる事もなく 互いの
気持ちなら誰よりも強く
分かり合えていると信じていたこと
幻想が作り出した未来図に
僕らの夢が滲む
どうすれば微笑んだの?
こんなんじゃ笑えないよ?
この声が届く様に
もう一度 もう一度
僕の言葉が僕の心が
暖かく君を照らして
いつか 輝くなら
今 温もりが消えたその後で
ぼくらの願いも嘘になるならば
「行かないで」 君の声が木霊して
全てを忘れても このまま
繰り返す色のない世界でまた
君のこと愛しく思うよ
サヨナラがいつかくると知っていて
行き場もなくさまよう
音楽が流れ終わると観客から拍手がおこった。金さんも笑顔で答えた。真ん中の舞台で一回転して手を振った。金さんが肩に乗せたククルにマイクを近づけた。
「本日は東京ドームにお越しいただきありがとうございます。ハンナ・ノルン・金城です。ウチにこのような機会を頂き感謝でいっぱいです。できるだけ多くの人にウチのことを知って欲しいです。ハンナ・ノルン・金城を忘れないでください。」
金さんはひときわ大きな声で自分の名前を名乗り、好印象を与えた。
「ウチが通う十二宮学園には十二の宮、三十の学部、百を超える専門の学科があり学生が様々な自分の道を極めるべく、日々鍛錬しています。本日、ここで新しい魔法を皆さんにお見せします。」
金さんがうまく十二宮学園の話に持っていく。ハヤテが光星明に出番だといい、メインステージ袖から光星明が出て行った。スポットライトにあてられた光星明もなかなか綺麗に見える。しかし、緊張しているか、ヒールに履きなれていないのかもたついている。金さんが真ん中の舞台からメインステージにむかい光星明の手を取った。俺には関係ないが、何か会話をしたようだ。ここからでは聞き取れなかった。二人で真ん中の舞台に立った。
「世界で初めての光の魔法を使う魔法使いです。光の核石をご覧下さい!」
光星明がケープを脱ぐと光の核石が現れた。スポットライトがあたり、来賓と報道陣の視線も光星明に注がれた。会場にいる大部分の人は魔法使いですらない。それが、貴重な「光の魔法」を使うという。
「タイムスリップできるのですか?」
「マジかよ。過去に戻って失敗したことやり直せるのか?」
「暮らしは豊かになるの?」
会場全体がざわめく。そのとき、耳を裂く音とともに上空で爆発が起きた。爆風でグラウンドの立ち見の人たちは立っていられないほどだった。俺とハヤテはすぐに金さんと光星明のもとに走っていった。
「何事じゃ!」
コタン副宮長も突然のことで驚いたようだ。血まみれの人だった塊が空から落ちてきてグラウンドの観客の上に落ちた。ファルクン・ナイツの一人が撃墜されたことにすぐに気がついた。どこからか大きな声が聞こえた。
「そいつらは危険な魔女だ!殺せ。」
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歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。
守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。
織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。
そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。
毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。
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