ZODIAC~十二宮学園~

団長

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BATTLE IN TOKYO

極東決戦編その10

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四月三十日
昼過ぎまで寝てしまった。部屋から出ると金さんが待ち伏せしていたかのように新聞を見せた。十二宮学園の学生が東京ドームのライブを護ったという見出しにハンナ・ノルン・金城は未来のアイドルという文言も見つけた。俺の名前は当然ない。
「東京でも学園都市の言葉の新聞が手に入るのだ。」
「んあ~、違うだろ!ウチのステージの写真も見てよ。」
「あ~、確かに。今年一年だけブレイクしそう。」
「コンサートで歌った曲は東京の情報通信網で配信されているのだよ。再生回数と再生時間見てよ。」
俺のE-ウォッチを無理やり動画に繋げると確かに十万時間以上見られている。コメント欄には誹謗中傷は少なく、光星明の光の核石の話題が多い。金さんは上機嫌でご飯を食べに行こうと誘った。宗協連の食堂で金さんと遅い昼食を食べていると他のみんなはどうしているのか気になった。
「金さん、コタン副宮長は?」
「何か、連邦の総司令部に報告に行っているよ。水鳥も連邦警察にククルが写した暴徒の人たちの画像を提出しに行っている。東京では治安を守るのも大変よね。」
「ハヤテと光星は?」
「連邦の食料配給センターに行っている。昨日の今日だから街の人たちが食料を求めてたくさん集まっていて警備と通訳が必要なのだって。」
「俺は学園都市に帰りたいな。」
「んあ~、まだ東京のお土産、買ってないよ。」
「外出許可がおりないだろ。俺たち東京の地理にも詳しくないし。」
「心配ないよ。ハヤテたちが帰ってきたらKが東京の観光に行くって。外出許可もおりたよ。」
Kという人物は一体何者なのだろうか。コタン副宮長の知り合いのようだが本名を語らないところから軍の諜報員だろうか。とりあえず観光は楽しみだ。
 数時間後にハヤテと光星明がKの荷馬車で帰ってきた。金さんの提案で四人は私服に着替えて東京の観光に出発した。なるべく人通りの多い大通りを進んでいくと廃墟ばかりではなく人が賑やかな街並みに変わった。しかし、『瑞風』の爆風のせいか、屋根がほとんどない建物ばかりである。派手にやらかしたのに地元の人はなんとも思っていないのだろうか。「また、爆撃か?」程度で考えているのだろうか。俺はこんな毎日だと頭がおかしくなりそうだ。俺には関係ないけど。
「ウチは服が欲しいな。あと東京で有名な詰将棋の本。」
「詰将棋?金さんが詰将棋出来てもしょうがないよ?」
「んあ~!フォー・フロンツで強くなるためよ。光星明、あんたに勝つためよ!」
おっと、驚いた金さんから初めて『光星明』という単語が出てきた。冷戦終結ですか。
「ふ~ん。将棋はあたしがいた世界の国ではかなり普及していたよ。いや、むしろあたしの国発祥のものだね。」
「んあ~。何でも自分が起源っていう人は可哀想。それしかないの?」
「刺身、美味しかったでしょ?」
「はい。話すりかえた。」
「二人とも喧嘩しないで。仲良く観光しよう。ハヤテからも何か言ってくれ。」
「俺は東京湾にある『戦艦』というものを観てみたい。海の上でどうやって戦うのだ?」
「よしよし、じゃあ順番に廻ろう。」
Kは渋谷という一番大きな街に連れて行ってくれた。目立ちたがり屋の金さんは一番目立つ服が置いてある店の前で足が止まった。ギラギラ色のトップスを手にとった。
「東京ではこういう服が売られているのね。風翔どう?」
「いや。ないでしょ・・・。」
「んあ~、じゃあこれは?」
今度は「大漁」とでかくプリントされたトレーナーだ。
「なしの方向で。」
ハヤテは何故か「大和魂」と「戦艦武蔵」とプリントされた二つのTシャツを欲しそうにしている。光星明は店主と何か楽しそうに話している。
「と、とりあえず無難な服を俺が三人分選ぶから。」
「あたしはスカート嫌だから。」
「ああ、そうだろうな。俺には関係ないけど。」
光星明は表情を顔にすぐ出す癖があることに加えて、ライブで分かったがスカートを履きなれていない感じだ。ロングかハーフパンツが似合いそうなボーイッシュな女性である。ノースリーブの青いワンピースに灰色のスリムパンツを試着してもらった。光星明は納得しているようだ。ハヤテは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている。アイドルオタクを見くびらないで欲しい。
「んあ~、馬子にも衣装だね。」
金さんらしい表現で冷戦は続いているようだ。次にハヤテの服を選ぶことにした。男の服を選ぶのは知識がなく苦手である。しかし、ハヤテはかっこいい。たぶん約七割の女性から好かれるルックスである。従って何を着せても似合う。真っ白い髪で肌も白く堀も深い。俺と同じ風の民の末裔なのにこうも違うと自己嫌悪に陥りそうになる。白いTシャツに黒いベストと灰色のクロップドパンツを試着してもらった。光星明と同じ感じにしてみた。二人でお揃いの格好である。だがそんなことでハヤテと光星明は動じない。ハヤテには水無瀬水鳥というたぶん意中の女性がいるのだから。それを俺たちは知っている。四人で東京を観光するのにハヤテと光星明が周りからどう見られていようが関係ないのである。最後に金さんの服を選ぶ。難しいが細身の身体を強調するためにピンク色の長めのタンクとTシャツに黒いミニスカートを試着してもらった。あとは装飾品で目立たせればいい。とにかく金さんは目立ちたいのである。大玉ネックレス、太バングルと金のイヤリングもしてもらった。
「まぁ、いいかな。」
コタン副宮長と水無瀬水鳥にも適当に似合いそうな服を選んだ。支払いは光星明の交渉で二割引の値段を金さんが支払った。俺はお金を持っていない。まぁ、俺には関係ないのだけど。Kの案内で昔の軍艦の甲板のカフェテラスで休憩した。
「あたしのいた世界では渋谷は港町ではなかったよ。街が水没しちゃったのかな?」
「地殻変動で地形が変わっちゃったのでしょ。それに今の東京は新聖暦になって新しく整備した街だし。」
海風が強くなり、急に空が曇りだした。
「二人とも服が濡れるとあれだし、ハヤテを探して屋根のあるところに移動しよう。」
ハヤテは軍艦の巨大な主砲を眺めていたが引っ張って渋谷にある大昔の電車のモニュメントに入ろうとしたとき大きな魔力が近づいてくるのを感じた。
「もう来ちゃったか・・・」
金さんが不意に口にした。その意味がこの時はさっぱりわからなかった。突然、魔法使いではない俺にも背後から全身に圧力がかかった。強力な魔力であることは間違いなかったが今まで感じたことない魔力である。とても冷たく、悲しみにみちた業に沈んだ人々の声がのしかかった。周りを見ると街中の人々がこの強靭な魔力に耐え切れずに倒れている。死んでしまっているのではないかと不安になった。
「金さん・・・、ハヤテ・・・、光星・・・」
「強大な魔力だ・・・息辛い。」
「気が・・・遠くなる・・・」
光星明はその場で倒れてしまった。ハヤテが近づいて声を掛けようとするが近づけない。それぐらい胸を締め付けられる圧である。心臓が押しつぶされそうになる。目線を上げると一人の大男が立っていた。どこから現れたのか全くわからないが、こいつがこの魔力を発する魔法使いであることは間違いない。
「・・・誰・・・?」
俺はとっさにE-ウォッチでコタン副宮長に連絡を入れた。金さんはどこにいるのかあたりを見回すと大男の方に向かって歩いていく。この魔力の圧力のなか平気なのか。そして、金さんは突然、笑顔でこちらを見下げると
「ごめんね、風翔。ウチは・・・」
「き、金さん・・・いったいこれは・・・?」
状況が飲み込めないでいる。金さんが謝ることなどあっただろうか。それにその大男はいったい誰なのだ。大男は俺たちのわかる言葉を発した。言葉というより頭の中に直接語りかけられている。
「そいつが光の巫女か?」
そう言って光星明の方に歩を進めた。ハヤテが気合で立ち上がり光星明を抱えようとしたときハヤテは広場の反対側にある出店まで一瞬で吹き飛ばされた。どんな魔法を使ったのか、ただ指ではじいただけなのか全くわからなかった。倒れた光星明の前に立った大男は膝をつき頭を下げた。その意外な行動に呆気をとられていると動けない街の人々の中を威風堂々と高速で見慣れた白羊宮の光る階級バッジを胸に付けたコタン副宮長が現れた。
「大地よ、我が力となれ。クトゥネシリカ!」
抜刀した虎杖丸は大男を斬撃し、地面を真二つに割った。しかし、大男は無傷でその場にいた。
「人ではないな。名を名乗れ!」
「大昔は、人間たちは我をオーディンと呼んでいたかな・・・。」
「ワシはアシリレラ・コタン白羊宮副宮長だ。オーディン、そちは戦神か?」
「そうだよ。我は人間の殺意、憎悪や怨恨による統合私怨集合体だ。そういう人間たちの魂でできている。今はもっと科学的に我の取扱書があるのかい?」
「東京中の人間を殺らなければそちは消えないか?」
「さあ?どうかな?」
「そちにはここで消えてもらう。参る!」
虎杖丸は剣圧だけでも斬ることができる大刀である。遠距離、接近戦両方とも使い手次第で戦えるカムイの剣である。しかし、オーディンの体は傷一つつかず太刀が通り抜けているように見える。斬っているという感触が全くないのだろう。コタン副宮長の額から汗が出始めた。
「コタン殿、そなたの殺意を返すぞ。」
そういうとオーディンは左手人差し指で虎杖丸を止めると右手を振りかざした。とてつもなく強大な魔力とともに斬撃がコタン副宮長を真正面から襲った。大地は足元から隆起し、血まみれのコタン副宮長を突き刺した。俺の目の前には大量の血と白羊宮の階級バッジが落ちてきた。あまりの衝撃とオーディンの力に怯えるしかなかった。その場で座り込んで金さんの方を見ると何事もなかったように北の方に歩き始めた。オーディンは気絶した光星明を担ぐと金さんのあとを追い歩き始めた。
「風翔、御札を必ず読んでね。」
そう笑顔で言うと北へ消えていった。俺はただ地べたで伏せているだけで何もできなかった。オーディンが遠ざかり魔力の圧力が弱まってもただただその場に放けているだけだった。
「何だよ・・・何なのだよ。本当に情けなねぇ・・・。同じ白羊宮の仲間がやられているのをただ見ているだけ・・・本当に何も変わっていないよ。入学前から一歩も前に進んじゃいない・・・。」
水無瀬水鳥とククルが駆けつけハヤテとコタン副宮長をKと一緒に急いで東京の病院に連れていった。コタン副宮長はかなりの重症で左の肺に穴が空き、左胸骨は四本折れている。東京の病院では対処が不可能であり、水無瀬水鳥は治癒魔法使いを探した。俺は病院で階級バッジを握りながら座っていた。何かしなくてはいけないという思いがあったが、俺に何ができる?水無瀬水鳥は宗協連の情報室から獅子宮に連絡して治癒魔法の魔法陣を教えてもらった。手を震わせながら陣を慌てて書いて病院に持ってきた。自分の魔力を絞り出してやったことのない高度な治癒魔法に全力を注いだ。


五月一日
病院の控え室で一夜を過ごした俺は悲嘆に暮れていた。水無瀬水鳥が朝食を持ってきてくれた。
「水無瀬は何も聞かないのだな・・・。」
「コタン副宮長が敵わない相手ですから。明ちゃんと金城さんはどこに行ったのでしょうね・・・。」
急に涙が出てきた。好きな人の前で泣くなどもう終わりだが、そんなこと考える余裕すらなく涙が溢れてきた。
「俺に見せていた笑顔は全部演技だった。金さんは・・・自分の意志で北に向かったのだ。」
「オーディンという大男に連れ去られたのではないのですか?」
「オーディンは気を失った光星だけ連れて行った。金さんの後をついて行ったのだ。」
「金城さんはやはり何かを企んでいたのですね。列車内での事件の犯人は黙秘を続けていますが、金城さんに命令されたのでしょうか。だから、医務室で左手だけしか使えない三江くんのことを知っていた。もしかしたら、東京ドームの襲撃事件も金城さんが裏で」
「もうやめてくれ!・・・やめてくれ水無瀬。考えたくないのだ。金さんが全部裏で学園も連邦も宗協連もの情報を流していたとすれば水無瀬の言う不審な点も辻褄が合う気がする。だけど・・・悪い一人にしてくれ。」
「私はククルと一緒に連邦警察に報告に行きますね。今日はちゃんと宗協連の本部に帰ってください。」
そう言って水無瀬水鳥は病院を出て行った。どうしてあんなに冷静でいられるのか不思議でしょうがなかった。しかし、泣きべそをいつまでも見られたくなかったし、慰められたら余計に涙が溢れてしまう。俺は今どうしたらいいのかわからない。
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