ZODIAC～十二宮学園～

BATTLE IN TOKYO

極東決戦編その１１

私がしっかりとしないと。金牛宮副宮長として六人と一匹全員で十二宮学園に帰ることが任務です。オーディンについてはハヤテが意識を回復したら詳しく聞けます。問題は金城さんが何者なのかということです。連邦警察で調べられるだけ調べなくては。
「失礼します。水無瀬水鳥金牛宮副宮長です。」
「水無瀬くん、君に聞きたいことがある。これは何かね？」
そういうとブラウン警視は十二宮学園の生放送を見せてくれました。
「連邦屈指の名門校である十二宮学園で凄惨な殺人事件がおこりました。私たち報道陣は学園内に立ち入りできませんが、後ろに見えます校舎では金牛宮の学生たちによる懸命の捜査が続いています。殺害されたのは人馬宮法政経済学部社会学のシスカ・イリイチ教授で死後なんと二十五日以上経過し事件が発覚しました。家族や学生たちは異変に全く気づかなかったという不思議なことになっています。なお捜査は・・・」
「どういうことか説明してくれないか。水無瀬くんがまだ学園にいるときに既に害者は殺害されていたことになるぞ。しかも、全学生が気付いていないことなどあるのか？」
「わ、私は今、事件を知りました。」
「言い訳はいい。早く学園に帰り給え。」
「しかし、東京ドーム襲撃事件の捜査中です。」
「本件はハッキリ言うと君の管轄外だ。軍も関係しているようだし事態は緊迫している。」
「ではなおさら捜査官が必要ではないでしょうか？」
「水無瀬くんはまだ学生だ。優秀だと聞いているが今回の事件はイデアルの組織的犯行だ。民間人に武器を供給し、扇動した。我々にこれ以上の捜査は終わりだ。」
「捜査を打ち切るのですか？昨日、学園関係者が何者かに襲撃を受けました。」
「イデアルの犯行だな。」
「オーディンという人物をご存知ですか？」
「オーディン・・・そいつは人間どころか生物ですらない。だから、捜査権はない。学園都市と違い東京ではイデアルとの関係性が強い事件は難しいのだ。」
「了解しました。コタン副宮長の容態が回復するまで時間を下さい。」
とにかく金城さんについて情報収集をしないといけません。宗協連の情報室を使わせてもらいましょう。
「Ｋさん、宗協連に帰ります。」
「何かわかったのですか？」
「学園で事件があったそうです。テンくんにも相談して記憶操作の魔法について調べます。」
「それじゃあ、急いで宗協連に向かいますぜ。」
宗協連の本部に到着すると待ち構えていたかのように報道陣が私を囲みました。Ｋが人ごみをかき分けてくれました。一言も喋らずに宗協連の情報室に入り金牛宮に繋げると第一報に驚かされました。
「水無瀬副宮長、シスカ先生の殺害事件は目星がたった。そちらで光星明がイデアルに連れ去られたちゅうのほんまか？」
スバル宮長は犯人が誰だか目星をつけているみたいですね。金城さんの記憶操作が気になりますが。
「わかりません。ハンナ・ノルン・金城も失踪しました。」
「せやか。光の核石ごとイデアルの手に落ちたちゅうのか・・・。」
「シスカ先生の捜査資料をこちらに送ってもらえませんか？」
「構わへん。一人でやれそうか？」
「一人ではありません。ハヤテとテンくん、それに三江くんにも協力してもらいます。」
「好きにしろ。それと、精霊魔法の使用を許可する。以上や。」
情報通信内では『連れ去られた歌姫と光の巫女』、『学園が隠していた光の魔法使い、連れ去られる』、『十二宮学園の過失』と大衆の興味を引く内容が徒然踊っています。バーチャル空間では東京ドームのライブを再現し観客の気分が味わえるものや襲撃事件を生き残れるかといったゲームまで出ています。こういう不謹慎なものは心が痛みますが、構っている余裕はありません。
「テンくん、記憶操作の魔法とはどのような魔法なのでしょうか？」
「人間の『記憶』というのは様々なものに分類される。いずれも見たものや聞いたものが脳の神経細胞のネットワークに蓄積される。それが『記憶』の正体や。」
「ではその神経細胞を自由に操っているということですか？」
「そら無理や。神経細胞は一千億個以上ありそれらがさらに複雑に絡み合うてん。」
「ではどのように記憶操作をしているのでしょうか。」
「人間は必ず脳の海馬体ちゅう部位で記憶を整理しとる。必要なものや印象的なものは大脳皮質に送られてずっと残る。いらへんものは忘却される。ワイが思うに海馬体の神経伝達システムに干渉するのが記憶操作の魔法や思うで。」
「干渉する？マナ素粒子でそんなことができるのでしょうか？」
「神経と神経の間にはシナプスと呼ばれる隙間がある。ここを電気信号が伝わって神経伝達物質とよばれる化学物質が行き来してので。」
「なるほど。つまり、微細な電気または化学物質を操っているのですね。電気を操る魔法使いは何人もいますが・・・」
「電流は0.000000001Aという超微電流。繊細な電気使いやな。むせぇ、電子レベルではなく電波を操っとるのやないか？」
「それならマナ素粒子を操れる魔法使いの中に『電波』を操れる人がいてもおかしくないか・・・。そういえば『世界システム開発局』は電磁機器や電波塔を作っている企業も含まれていましたね。」
「シスカ先生が発表した論文の中には人を電波で操って世界を改変しようとする団体があり警鐘を鳴らしとった。」
そのとき、モニターに金牛宮からの連絡が入りました。もちろん、宝瓶宮であるテンくんには見えません。
「これは・・・」
「どうないしたん？くいな、顔色が悪いねん。」
 

逮捕状（通常逮捕）

被疑者：三江風翔　（白羊宮　宮員・エレメンタルクラス）
罪状：殺人・死体遺棄
引致する場所：東京　新宿警察署

上記の者を被疑事案により、被疑者を逮捕することを許可する。　天秤宮　宮長

 
「テンくんまた連絡するね。一旦切るよ。」
急いで金牛宮に切換えた。スバル宮長が毅然とした態度で口にした。
「現場の血の上に白羊宮の足跡と凶器のサバイバルナイフから三江風翔の指紋、検出された。犯人は三江風翔や。そっちで対処できるか。応援を送ってもええ？」
「結構です！」
私は十二宮学園の学生として誇りを持っていましたが、揺らぎそうです。E-ウォッチで三江くんの場所を確認すると連邦警察にいるようです。
「Ｋさん、連邦警察に急行してください。」
連邦警察に着くと既に三江くんは留置されていました。目は虚ろで魂が抜けたような印象を受けました。彼がこれほどまで追い詰められたのを見るのは初めてでした。
「ブラウン警視、取り調べは終わりましたか？」
「何分、急なものでまだやっていない。おとなしく署までついてきてくれたが、言葉も通じる者が少なく、この忙しいなか学園側は早く身柄を学園都市に引き渡すように言ってきている。」
「分かりました。私が話を聞きます。」
取調室はククルですべて録画、録音したものを後で提出することを条件に二人きりにしてもらいました。
「・・・」
「三江くん、あなたが人を殺せるとは思わないのです。犯人はハンナ・ノルン・金城さんですか？」
「・・・分からないのだ。思い出せないのだ。どこから記憶操作されていて、どれが真実なのか。もう俺には何が何だか分からくなってしまった・・・」
「私の水中結界の大きさで覆るには限界があります。このように魔法には有効範囲が必ずあります。連邦にいる全ての人が金城さんに記憶操作されていることはないでしょう。電子機器の履歴を変えることもできません。例えば、シスカ先生が殺された日時に誰かにメールやチャットをしませんでしたか？」
「始業式の日は覚えていると思う。四月五日の始業式に出席したのは間違いないはずなのだ。金さんにもそこで挨拶していた。同じエレメンタルクラスの人に聞けば・・・」
「聞いてみましょうか？」
「いや。自分は留年しているからクラスで馴染めずボッチだったよ。記憶をいじられたから、その時初めて金さんに会ったことになっている。」
「担任の先生に聞いてみましょうか？確か担任は・・・」
その時、異端審問官のマープル氏が事情を聞きたいと取調室の中に入ってきました。マープル氏は元十二宮学園の教授にして水姫お姉さまの師匠である。いつも和服姿でいる彼女は学園都市から派遣されてきたのでしょうか。ここでは目立つ格好です。
「連邦警察も調べたいことがたくさんあると思うけど、異端審問局も聞き取りがしたいの。」
「ハンナ・ノルン・金城という人についてですか？」
「あらあら、察しがいいわね。さすが水無瀬水鳥金牛宮副宮長。『ノルン』の意味を調べたかしら？」
「『ノルン』？知りません・・・。」
「運命の女神よ。この名を名乗れる人は連邦とイデアルでも限られているの。」
「私が戸籍を調べるのですか？」
「今は彼女の行方が重要だと思わない？」
E-ウォッチでは明ちゃんと金城さんの位置情報が表示されない。圏外に行ってしまったか壊しているかのどちらかです。
「今は三江くんの話を聞いたほうが早く行方が分かりませんか？」
「行ってくれ水無瀬・・・」
「三江くん・・・」
「俺はもう十二宮学園の学生ではいられない。こいつも返すよ。」
そう言うと握り締めていた白羊宮副宮長の階級バッジを机の上におきました。さらに、E-ウォッチを右手から外しました。
「あら、あなた左利きなのね。右手は動かないの？」
「マープルさん、三江くんは妹に自分の右手首の腱や筋肉を移植手術しています・・・。」
「魔法は使えないの？」
「魔法使いでもありません。」
「あらあら、うん。水鳥さんと一緒に戸籍を調べましょう。二人の方が効率いいわね。」
このまま成り行きでマープル氏と戸籍をひたすら調べる作業になりました。