ZODIAC~十二宮学園~

団長

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DARKNESS ENCOUNTER

極東決戦編その12

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五月二日
ダメだ。何かしてないと気が滅入ってしまう。水無瀬は階級バッジどころかE-ウォッチですら受け取ってくれなかったよな。こんなもの俺が持っていていいのか。自分でコタン副宮長に謝りに行くのか。「シスカ先生を殺してすいませんでした。」と言えるわけがない。送検されて管轄は連邦の法務局に変わったが、取り調べの内容に変化はない。留置所は拘置所や刑務所と違い自由が多い。施設内であればなんでもできる。今は逆になんでもできる自由な時間を何に使ったらいいのかわからず憂鬱になる。


五月三日
今日も取り調べが続くが言葉が通じない。言葉の勉強でもしようかと思ってしまう。日本の留置所にはテレビジョンという情報発信装置が未だに存在する。内容は何を言っているのか分からないが東京ドームでの金さんの歌が放送されている。


五月四日
精神的にキツイ。両親にはもう逮捕されたことが伝わっているだろうか。風璃に伝わっていたら死にたくなる。今日も金さんの歌が聞こえる。金さんはある意味で連邦の有名な人になったのではないか。


五月五日
就寝時間になっても眠れない。白羊宮の訓練で普段は疲れきってすぐ眠れるのに。深夜にも関わらず送検された人が次々に来る。本当に東京は治安が悪いのだな。


五月六日
何をすればいいのかわからない。罪を認めれば楽になるのだろうか。E-ウォッチを眺めているとチャットできることに気付いた。
かざと「着替えと勉強道具の入った鞄が宗協連に置いたまま。」
かざと「誰か届けてくれませんか?」
しかし、返信は来ない。当たり前だ。


五月七日
水無瀬水鳥が俺の私物を持ってきてくれた。これには驚いた。送検されたのだから金牛宮ではなく天秤宮の関係者がくるのが自然なのだが、捜査はまだ続いているようだ。だからといって状況は変わらないのだが。
「水無瀬、ありがとう。」
「三江くん、もうすぐ拘留期限です。法務局に延長の申請しておきますね。」
「水無瀬はさ、俺のこと犯人だと思っている?」
「いいえ。三江くんには動機がありませんし、命の重さを一番知っている人だと思います。私は信じています。」
「それは、金牛宮副宮長として・・・」
「連邦もイデアルも宗協連も学園でもない私の心があなたを信じています。」
驚いた。水無瀬水鳥は金牛宮に逆らって捜査しているのだろう。疲労からの充血と思われる涙目から送られる迷うことのない視線は答えを導き出そうとしている。
「誰も特別な人間はいません。今の三江くんは自分が特別ではなかったと諦めています。そんな特別な力を持った人間はいないのです。」
「俺、・・・バカだから勉強する。」
「バカでもありません。誰かの為に考えて答えを出せる普通の人間です。」
そう言って水無瀬水鳥と分かれて数学の複素解析の本を開いた。エレメンタルクラスでは必修科目であるにも関わらず昨年のテストは落第点だった。
「正則関数、コーシー・リーマンの関係式、コーシーの積分定理やら同値な条件が多いな。積分の計算は結局、特異点が重要なのか・・・。」
一から教科書を読み始めた。


五月八日
眠れないので勉強を続けている。数学なんて何の役に立つのかわからないが、やることもないので金さんの歌を聴きながら地道に読み進めていく。


五月九日
体がなまるといけないので教科書を読みながら訓練を思い出し全身の筋肉に負荷をかけていく。他の留置されている人々がこちらを見ている。


五月十日
教科書を読んでいると昨年の講義を思い出してきた。難しい積分の計算も複素変数で考えて積分経路を複素平面上に描いて解いていた。いくつかの簡単な定積分を解いてみる。実数で積分した答えと当然等しくなる。金さんの歌は聴き飽きたので歌詞の意味を考え始めた。


五月十一日
「時間を積分したのが人生である。」誰かが教えてくれた言葉だ。ふと列車内での事件を思い出し犯人の持っていた御札にも積分の問題があるのを思い出した。E-ウォッチで確認すると水無瀬水鳥のホルダーにメモの写真画像があった。

この問題を解くことにした。


五月十二日
拘留期限は再々延長できない。俺には時間がない。


五月十三日
積分経路と零点が√(-1) であることは分かったが分子の余弦関数の処理に頭を悩ませた。さらに、気になるのが6.626・・・と書いてある数字である。何かの近似値だろうか。


五月十四日
拘留期限まであと七日しかない。それまでの間に起訴されるだろう。起訴状が届く前に答えを出したい。金さんは確か御札を見て欲しいと言っていた。きっと金さんに繋がるメッセージだと確信している。水無瀬水鳥は言った。「信じている」と。俺は金さんを信じている。連邦やイデアルや宗協連や学園は関係ないのだ。


五月十五日
余弦関数を冪級数展開して考えてみるが無限和があらわれ問題をさらに複雑にしてしまった。金さんからのメッセージは連邦警察や宗協連に見抜かれてはいけないようにしているのだろうが、基本バカなので難しく考えてはいけない。


五月十六日
水無瀬水鳥が言うとおり金さんが昨年からエレメンタルクラスに入学していないとなると俺と金さんは十日ほどしか一緒に講義を受けていない。講義の中で金さんは俺にヒントを言ってくれていると思う。数学・・・オイラーの公式・・・たしか

だよな。変数は複素数まで拡張できるな。


五月十七日
正弦関数が奇関数であることに気付いた。分子が簡単な形となった。オイラー様ありがとうございます。分母の位数に注意して計算していく。いつもの癖で筋トレをしながら考えていた。
くいな「ハヤテが退院して金城さんの戸籍を調べるのを手伝ってもらっています。」
かざと「ハヤテ、退院おめでとう。」
ハヤテ「ずっと使いぱっしりだよ。」


五月十八日
積分の答えが出た。逆数をとるのでe⁄π となる。これが一体何を意味しているのだろうか。6.626・・・の数字が分からない。E-ウォッチで水無瀬水鳥のホルダーに御札の写真がないか探した。エールシュタットで新聖液を販売していたイースの逮捕状を取った時に御札も証拠のために記録したはずだ。


五月十九日
かざと「光星が書いた御札の数字と数式の原型を持ってない?」
くいな「小さな指数部分が擦れていて解読に時間がかかりました。添付します。」
 

何なのだ。この数字の意味が分からない。積分の答えと掛け算するにはやたらスペースが空いている。34という数字があるから数字を字音に当てはめるわけではないようだ。やけくそになって数字を直接E-ウォッチに入力して六人全員分のホルダー検索をした。しかし、何も出てこない。チャットでククルに調べてもらおう。
かざと「6.626・・・の数字をククルで検索して欲しい。」
くいな「『プランク定数』です。」
だから、どうしたということである。もう時間がない。プランク定数は ħ という記号で書く事はよくあるし、波動の問題でよく出てくる。いや、金さんがそんな難しいことは考えていないし後の積分の問題と結びつかない。金さんは別れる時に何と言った。確か「御札を必ず読んでね。」だった。子音に当てはめるのではなく読めばいいのか。ħ  e⁄π  を見ると鞄から古語辞典を取り出して調べてみる。円周率 π は大昔のギリシャという国の文字で他の文字と違う。アルファベットという二六文字の数学と物理で最も普及した文字になおすとPとなる。「 h e / p 」である。わざわざ逆数を示す指数があるということは分数の斜線も意味があるのだろう。アルファベットで斜線に一番近い文字はl(エル)である。つまり「help」となる。
かざと「金さんの居場所は分かった?速くして欲しい」
くいな「まだです。」
かざと「俺の拘留期限は?」
くいな「不起訴処分です。今すぐ迎えに行きます。」
すぐにハヤテ、水無瀬水鳥とククルがKと一緒に迎えに来てくれた。
「水無瀬、コタン副宮長は呼べる?」
「コタン副宮長はまだ完治していないと聞いています。」
「北に向かったのは間違いないのだ。病院によって急いで北に向かいたい。」
「北って、イデアルの領域に侵入するかもしれないぞ。」
「ハヤテ、それでも俺は行かなくちゃいけないのだ。ただ一人で助けを求めている人のもとに。俺にできることは全部したいのだ。」
荷馬車で病院に向かっているといきなり道端の軒先から大刀を持った大きな人があらわれた。
「久いのう。お前ら。」
「コタン副宮長!」×3
「あまり暇なので貴様達のやりとりを見ておった。」
当たり前だが、E-ウォッチでのチャットは六人全員に届くようになっている。コタン副宮長が荷馬車に乗り込むと北に向かって走り始めた。
「考えたら金さんは俺たちとの出会いも全て記憶から消すことができたはずなのにそれをしなかった。」
「ハンナが主犯ではないのか。」
「オーディンか?」
「わかりません。」
「水無瀬、何で俺は不起訴になったのだ?」
「マープルさんが金牛宮と天秤宮に証拠の不自然な点を指摘してくれました。」
「不自然?」
「凶器のサバイバルナイフは遺体の型と一致しました。付着していた指紋は三江くんの右手の指紋でした。」
「三江は右手じゃ人は殺せんのう。」
「三江くんが右手先を全く使えないことを知らない人物が真犯人となります。」
「俺は始業式の日に金さんに会っていた。理由を話して左手で握手もした。」
「金城さんも犯人ではありません。もっと記憶操作より強い魔法使いの犯行だと思います。」
「コタン副宮長、これをお返しします。」
そう言ってコタン副宮長の制服に白羊宮副宮長の階級バッジを付けた。
「三江が持っていてくれたのだな。ワシもこれで白羊宮副宮長復帰じゃ。全力で行くかのう。」
「あ、あまり無理はなさらずにお願いします。」
「ん?何かワシら以外の魔力を感じないか?」
「この感じは、明ちゃんの・・・」
「E-ウォッチでは確認できないぞ。」
俺の荷物の中が光っていた。急いで開けてみると制服の左ポケットにあるペンダントが光り、北東を指していた。
「これは光の核石なのか?」
「いや、違います。この感じは金城さんの核石ではないでしょうか。」
「持ち主を求めているのか?それともまた明の光の魔法か?」
「どちらでも構わん。K、この核石の指し示す方に向かえ。」
「三江くん、このペンダントはどこで手に入れたのですか?」
「分からない。シスカ先生が殺された日に家に帰ったら右ポケットに入っていたのだ。」
「血は付いていましたか?」
「付いていなかった。金さんが入れたのかな?始業式の右隣に金さんがいた。」
「金城さんについて調べましたが、戸籍が連邦にはないようです。」
「何もわからなかったの?」
「テンくんから『世界システム開発局』という組織が創っている電波塔について興味深いデータが手に入りました。」
そう言ってククルの真上に完成した電波塔が発する予定の電波の波形が表れた。
「そして、これが金城さんの使ったと思われる記憶操作の魔法のマナ素粒子の波形です。」
二つの波形はピッタリと一致した。
「この電波塔の電波はどの程度の範囲をカバーしておるのじゃ?」
「この地図を見てください。」
ククルはパンドラ大陸に存在する電波塔の位置を表示した。
「結構、多いのう。」
「それだけではありません。電波は障害物があると弱くなったり、逆に多すぎると干渉したりします。しかし、これらの電波塔はそれを計算した場所に建造されています。」
「魔法には有効範囲がありますが、これらの電波塔から同時に記憶操作の魔法を発すれば連邦とイデアルすべての国土がカバーできます。」
「世界を変える魔法か。」
「だけど、俺たちはまだ記憶操作されていないみたいだけど・・・?」
「金城さんがまだ魔法を使っていない、もしくはこれだけの電波塔に対して使えないのではないでしょうか・・・?」
「金さんは俺たちを待っているのだ。俺たちに助けて欲しいだよ。」
この御札は最初から金さんがわかっていて関係者にばら撒いたに違いない。
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