ZODIAC~十二宮学園~

団長

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DARKNESS ENCOUNTER

極東決戦編その13

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五月二十日
荷馬車の中で日付と国境をまたいだ。そして、大きな電波塔にたどり着いた。
「この塔の中を示しています。」
光は塔の上の方を指し示していた。
「この塔は一体何なのだ?」
「二千フィート以上はありますね。」
「お前たちは少し離れていろ。」
コタン副宮長は入口が見当たらない塔の前に一人で歩いていき立ち止まった。虎杖丸を刀剣ホルダーに収めて深呼吸をした。周囲が沈黙に包まれたそのとき、居合抜きをした。美しい大太刀は塔の壁に人がはいれる大きさの穴を開けた。
「水無瀬副宮長、水中結界!」
四人と一匹で水中結界の中に入り塔の中に侵入した。
「神風、三江を背負って上まで飛べるか?」
「できます。」
ハヤテは俺を背負っていても風の魔法をいとも簡単に使い塔の上を目指した。コタン副宮長と水無瀬水鳥も風の魔法で後を追って塔を飛んで上がる。二人とも風の魔法は専門外だが空を飛べることは魔法使いにとって初歩的な魔法である。副宮長の二人にとっては朝飯前である。途中に妨害は一切ないまま開けた展望台に着いた。その途端に俺は魔法の圧力で押しつぶされそうになる。周囲には黒い影が蠢いていた。この感じは渋谷で光星明が連れ去られた時に感じた魔法の圧力である。
「貴様は、オーディン。相変わらず魔力だけは高いのう。いや、魔力だけではないか。」
「コタン副宮長、コイツの相手は俺も手伝わせてください。」
ハヤテが真っ先に志願した。しかし、コタン副宮長とハヤテだけで勝てる相手ではない。
「落ち着くのじゃ。戦神『オーディン』は人にあらず、ただ邪心を喰う化け物じゃ。」
「またコタン殿が遊んでくれるのかい?」
「大地よ。我が力となれ!大樹木の神(シランパカムイ)!」
コタン副宮長の精霊魔法は初めて見る。神々しい出で立ちで虎杖丸は見たことがない大太刀の姿になっていた。大きな巨樹のように大太刀の影に俺達三人は隠れてしまう程の大きさである。コタン副宮長は椚を抱えているようで大きすぎて本当にこれで戦えるのだろうか。
「そなたは邪心を糧に成長を続け、殺意を吸収・増幅させて打ち返すことができるらしいのう。」
「コタン副宮長、それではオーディンに攻撃は効かないのではないでしょうか?」
水無瀬水鳥の言うとおりだ。精霊魔法でもオーディンにはダメージを与えられない。
「攻撃する側が意志を持つ『動物』ならの話じゃ。これならどうじゃ!級の木(ニペシニ)!」
大きな地鳴りがすると床が割れて太い蔓がオーディンを包み込んだ。地面からだいぶ離れている塔の上にいるのに次々と真下から蔓が伸びてくる。よくわからない『植物』がオーディンの黒い影を捕えている。蠢いている黒い影は蔓がしっかりと絡み捕る。いつの間にか体を圧迫していた魔力が弱くなってきている。
「ここはワシが押さえておく。早く上に行け!」
ハヤテが俺を担ぐと水無瀬水鳥と一緒にペンダントが指し示す上の階へ向かった。コタン副宮長がオーディンを足止めできる時間は限られているだろう。
「ハヤテ、三江くん、E-ウォッチ見て!」
E-ウォッチを見ると金さんと光星明の反応が表れた。間違いなく金さんと光星明に近づいている。やがてペンダントが指し示す塔の最上階と思われる大きな広間に辿り着いた。俺はペンダントを左ポケットにしまい三人と一匹で着陸した。そこには一人の見覚えのある男が立っていた。
「ようこそ新しい世界へ。私が調整役の水戸部シモン(みとべしもん)です。」
「シモン先生・・・どうして?」
俺にはシモン先生がエレメンタルクラスの一般教養を教えていた記憶がある。
「私は学園都市の先生ではありません。」
「三江、ハンナの記憶操作の魔法だろ。よく思い出せ。こんなやつは学園都市の教諭ではない。」
「あなたが『世界システム開発局』のトップですか?明ちゃんと金城さんはどこですか?」
「トップではありません。新しい世界では全てのヒトが平等なのです。こちらからの記憶操作によりヒトの欲は制御されます。」
「お前、人間をなんだと思っているのだ。」
「ヒトは欲深い生き物ですよ。社会学者の先生方から新しい経済システムや政治システムが考案されるたびに我々は少人数のグループ社会に対して実験を行ってきました。社会主義や全体主義をご想像ください。それらはことごとく失敗します。人間が持つ業欲によって真に格差のない社会の実現にはいたりませんでした。あなたも学園入学者ならばご存知でしょう。格差がなぜ世界からなくならないのか。私達は今、新しい世界を作り上げるのです。それは真に平等で格差も貧困も病もない世界です。」
「そんなことできるわけはないだろ!魔法だって治せない病気がある。そんなこと言うなら俺を魔法使いにしてみろよ!風璃の病気を治してみせろよ!」
「可能です。世界システムでは魔法自体をなくします。格差を生み出す可能性のあるものを全てみなさんの記憶から消去します。ヒトが平等に生きることができる新しい社会です。」
「不可能だ。病気が治るわけはないだろ。」
「はい。治せる病気は今ある科学と魔法を使って全てのヒトに平等に適応させて治します。残念ながら治らないものに関しては冷凍保存によって治ることが約束される日が来るまで眠っていただきます。その間の知人たちの記憶は消去させていただきます。」
「じゃあ、風璃はどうなるのだ?」
「あなたの妹さんの病気は現在の魔法で治りますよ。しかし、悲しきことに手術代がないのでしょう。あなた達三江家は手術を受けさせようとしないじゃないですか。」
突然、背後に回られたので少し驚いた。こいつも魔法使いの可能性がある。
「あなた、風璃さんを本気で治させようと努力していますか?美しい兄妹愛を理由に右手だけ与えて何を考えているのですか?何故、修復できる細胞を提供しないのですか?」
この男の声がだんだん耳障りになってきた。結局、世界はどうなるのだ?
「私がここに来たってことはもうあなた達の計画は終わっています。」
「そうでしょうか?ボタン一つで今から新しい世界を体験してみますか?準備はもう整っているのです。学園や宗協連の方達にはご退場頂きましょうか。」
「お前はどうなるのだ?」
「私は管理者です。格差が生まれないように管理し続けるのです。ハンナ・ノルン・金城さんに助力致します。」
「金さんがそんな世界を望むわけがないだろ!目立ちたがり屋で、自分第一主義で、うるさくて、毎日毎日誰かに構ってもらえないと死んでしまう程弱い人間なのだ。」
「随分とハンナ・ノルン・金城と仲がよろしいようですがその記憶は消去させていただきます。」
「シモンさん、具体的には何をするのですか?」
「随分と落ち着いているな。流石、金牛宮副宮長。ただ、あなたたちに理解できることではない。物体の質量はどこから来るのか?生命の始まりに必要な条件は?全元素の置換な化学反応はどのようになっているのか?地震は予知できるのか?お前たちヒトが解決しなければならない問題は巨万とある。その一つにヒトが進化して手に入れた魔法がある。一億六百年前から猿人、原人、旧人、新人そして魔法使いへと進化してきたヒトの歴史に間違いがあった。急激な環境汚染、地球変動と死に対する恐怖から魔法を手に入れたヒト。これにより良好に進むはずだった社会、政治、経済、宗教と文化は少し間違った方向へ進んでいます。」
「間違った方向ですか?」
「大戦終結から水無瀬家はどこまで世界を支配するのだろう。これから先が楽しみだが少し我々の予想を超える行動をするヒトがいる。貴様もその一人だと自覚があるか?水無瀬水鳥。」
シモンは気持ち悪い声で水無瀬水鳥に迫るが彼女は微動にしない。こいつの言っていることは理想にすぎない。今更、マルクス・レーニン主義に頼るほど人類は落ちぶれていない。
「お前は共産主義者か無政府主義者なのか?」
「そんな空想に興味はない。私は管理者としてもっと根本的な話をしているのだ。」
「お前は、ひょっとして人間ではないのか?」
「おっと、進化するのが早すぎたようだな。その力は手に余る。我々が言うところの第七フェーズへの移行が早すぎた。よってフェーズダウンをおこなう。核兵器と苦悩する日々あたりに戻って出直すことだ。ではさようなら。神風疾風、水無瀬水鳥、三江風翔――。」




西暦二〇二三年
五月二十一日
「お兄、日曜日だからっていつまでも寝てないで。」
「・・・ん?なんだ?夢か・・・風璃・・・どっか調子悪くないか?」
「は?何言っているの?寝ぼけてないでご飯、とっとと食べてよね。」
「家か?確かに俺の家だ。」
朝昼一緒の飯を食べて、両親に説教されながら勉強を始めた。
「模試はE判定か。また志望校下げないとなあ。」
得意な科目が見当たらない俺にとっては点数を上げられそうな科目がない。従って、志望校のランクを下げるのが一番見栄えが良くなる。そうでもしなければ俺を六年間私立に通わせた両親に申し訳ない気がする。とりあえず一つでも高い級の英検に合格しておきたい。世間で騒いでいることは、七年後のオリンピック開催地と大学入試改革だ。
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