ZODIAC~十二宮学園~

団長

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DARKNESS ENCOUNTER

極東決戦編その14

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五月二十二日
白いワイシャツ、青のチェックのスラックス、藍色と白のチェック柄のネクタイを締めてグレーのブレザーを羽織ると急いで風璃と一緒に家を出た。田舎なので列車は朝夕でも一時間に二,三本しかない。いつもとかわらない道を風璃と走りながらギリギリの時間に駅に着くと列車に乗り込んだ。風璃は同じ制服の友人の中に入っていったが、俺はいつもボッチを決め込んでいる。岩村田の駅を降りると風璃は中学に向かうために友人とバスに乗車していった。俺は駅から続く真っ直ぐな坂道をトボトボと歩いていると後ろから声を掛けられた。
「三江、おはよう。」
「おはようございます。三江くん。」
「ハヤテ、水無瀬、おはよう・・・。その、何だ・・・予習ノートを見せてくれないか?」
「相変わらず怠けているな。もっとシャキッとしろよ。」
「返す言葉がないな・・・。思ったのだけど水無瀬は苦手なこととかあるのか?」
「普通に駅伝部、野球部や吹奏楽部の方々には勝てませんよ。」
「いや。そうじゃなくて勉強の話。」
「そうですね。最近、視力が落ちてきて困っています。眼鏡にしようかコンタクトレンズにしようか困っています。」
この頭脳優秀かつ容姿端麗なお嬢様に眼鏡要素が加わったら無敵なのではないだろうか。
「それに私より秀才の方々はたくさんいますよ。テンくんとか。」
あ~、双葉テンか。学校創設五十九年来の天才児かつ変人だ。何を考えているのかよくわからない顔で好きな時に好きな勉強をしている。定期テストでは常に最上位にいる。上を見ていると自分が悲しくなるので、話をそらしたい。
「聖祭(ひじりさい)はうちのクラス何をするのだろうな?」
「先週までは定期テストで手一杯でしたから何も考えていませんね。」
「早くしないと他のクラスの出店とダブるぞ。」
「そういうのは実行委員に任せておけばいいじゃない。適当にやって受験勉強した方がいいと思う。」
「三江、お前は受験勉強だって適当だろ。」
「そうだな。その場しのぎで定期試験を乗り越えて、こんな感じで受験も終わってしまいたいと思っているよ。」
「相変わらずのやる気のなさだな。」
「いやいや。お前たち二人が異常によくできるのだよ。普通の高校生は楽をして遊ぶことしか考えていないのが普通だよ。」
自分にそう言い聞かせて教室に入った。席に着くと隣の席が空いていることに少し違和感を覚えたが、すぐに授業の時間になった。復習テストで簡単な化学の問題を解いていた。
問題:濃度0.01 [mol/L]の塩酸と硝酸をそれぞれ10[ml]とって混合した溶液のpHを求めよ。
とても簡単な問題だ。体積が2倍になるので酸の濃度はそれぞれ半分になるから

答えはpH 2である。これくらいなら俺でも解けるぞ。しかし、悩んでいる人も少数いる。確かに酸性のはずが混合物は塩基性になっている不思議が残るが化学の教科書にはそう書いてあったはずだから問題ないはずである。そのとき静寂を破って水無瀬水鳥が声を上げた。
「先生、条件が足りません。」
先生は先週と同じように25度で考えるように促すが、水無瀬水鳥から思いがけない言葉がでた。
「一価の塩酸の酸解離定数をK_aとすると平衡条件から

それと物質の収支条件から

あと電気的中性条件から

です。変数が4つの連立方程式ですから連立すると

の三次方程式を解けばいいのでしょうか・・・?」
教室内が異様な空気に包まれた。先生は水無瀬水鳥が言いたいことは理解しているのだが他の生徒に配慮しなければならない、なぜなら俺たちは何を言っているのかサッパリわからないのである。水無瀬水鳥はふと我に返ると周りを見つめて自分が孤立していることに気が付いたようである。
「あれ?私は確かにそう習った気がしていたのですが・・・教科書にも確か・・・」
水無瀬水鳥が教科書と資料集を見返しても全く記載がないようだ。Wi-Fiで検索してもなかなか出てこないことに焦り始めた。
「先生、くいなは疲れているみたいなので先進めてください。」
ハヤテが助け舟を出した。水無瀬水鳥は席に着くと何かを悟ったかのように黙っていた。休み時間、昼休みと水無瀬水鳥は腑に落ちないことがあるようで黙っていた。この謎の違和感の正体に答えを見つけ出そうとしているのだろうか。午後の体育の時間はソフトボールがおこなわれた。チーム分けの時点で勝負はついていると感じた。俺の相手チームはハヤテと双葉テンがいる。双葉テンがキャッチャー用の防具をつけられている。ハヤテがマウンドにいき予想通りの守備位置に付いた。このバッテリーを打ち崩すのは容易ではないことぐらい誰でも想像がつく。投球練習が始まると俺達のチームはタイミングを合わせてバットを振り始めた。かなり速い。球速計を見ると105[km/h]でている。野球の感覚では140[km/h]に近いスピードである。二アウトランナー無で回ってきた第一打席、右のバッターボックスに入ると双葉テンが立ち上がりマウンドに向かった。俺はそんなに警戒されているのだろうかと自負してしまった。一球目はボールから入るだろうか。とにかくバッターボックスでハヤテの球を見ないとバットは触れない。双葉テンが守備位置に戻りマスクを被るとインプレーの指示が出た。とりあえず球筋だけでも確認をしておきたかった。ハヤテが投球モーションに入ると俺も構えた。バットをホームプレートの上のギリギリで止めるとボールはその上を通過していった。
「ストライクやで。」
「確かにスイングかな?」
「ちゃうで。ボールがストライクや。」
主審に確認したかったが双葉テンの構えた通りのアウトコース高めいっぱいに決まっている。低めのボール球に見えるのだがかなり伸びてきている。
「ストレートだけしか投げられないからもっと短くバットを持つべきなのかな?」
「・・・せやね。」
これまでの打席を見ていれば分かるが103~110[km/h]のストレートしか投げていないように思える。二球目はまた外で来るだろうか。とにかくそいつをカットしていかないと内によってこないだろう。ハヤテがブラッシングするのと同時に、踏み込んでバットを出しに行こうとするとボールが顔の正面に向かってきた。慌ててのけぞるとその場に尻もちをついた。
「ブラッシュボールも使うのか?」
「そんないにたいそうによけることあらへんや。」
何事もなかったようにハヤテにボールを返すと双葉テンは表情一つ変えずに左膝を地面に付けて構えた。ランナーはいないのだからリラックスしていてもおかしくない。その構えならば外のボール球と予想した。二球目と同様にハヤテがブラッシングするのと同時に踏み込んで外の球をカットしようとするとボールが思ったより内側に入ってきた。ボールはバックネットを超えていったが、初めてハヤテの球にバットが当たった。「よし、当たる」と顔に出ていたかはわからないが喜んだのは間違いない。双葉テンがボールを主審からもらうとハヤテにボールを渡した。そして一瞬、双葉テンが下を向いたのを確認した。
「バットを長う持っとったらヒットになったかもね。」
確かにバットを長く持って腕をたたんでいたら内野の頭を超えていたかもしれない。だがそんな余裕はないほどハヤテの球は速い。短く持つことは変えてはいけない。四球目、バットを短く持ってハヤテがブラッシングするのと同時に踏み込みこんでバットを振ると空を切った。三振である。ボールのスピードが若干遅かった気がしたし、間違いなくボールはジャイロ回転して沈んでいった。
「縦スラかな?まあ、打てる球ではなかったな。」
「・・・せやね。チェンジや。」
その後も終始ハヤテと双葉テンのバッテリーの前に無安打無得点で試合終了した。ノーノーをされると流石にきつい。本当にどんな努力をしても、こいつらにはかなわないと思ってしまう。疲れたのでその後の授業は適当に聞き流して帰宅した。アパートの扉を開くと風璃のローハーが右の靴しかなかった。厄介なことになっている気がしたので一応、風璃にそれとなく話してみる。風璃の部屋には入らずに扉の前でささやいた。
「風璃、高校もエスカレーターでうちに来るのか?」
「はあ~、そうよ。お兄、あと部屋に勝手に入ってきたら殺す。」
「はい。はい。」
具体的に何かわからないが違和感を覚える。まぁ、でも平和である。


五月二十三日
英語の単語テストで赤点を取った俺は書き取りに追われていた。これはただ手を動かすだけの罰則である。文章を書き取りして意味、内容や文法が頭に入るわけがない。なぜなら、書き取りする量が尋常じゃないくらい多く、考えている暇などないからだ。思えば中高五年間書き取りして身についたものなど一切ない。この書き取りをする時間を有意義に勉強する時間に充てられないものだろうか。とりあえず書くだけ書いて遅れながら今日中に提出した。グラウンドでは野球部、体育館ではバスケットボール部、そして吹奏楽部の音が耳に入ってくる。とにかく今日は早く帰りたい。


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