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WORLD WAR
極東決戦編その18
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新聖暦五九三三年
ウチの両親は魔法使いではない。ごく普通の家庭で育てられたウチは八歳の誕生日を祝ってもらった。ローストビーフと八本のロウソクが灯った誕生日ケーキと両親に囲まれとても幸せな気持ちだった。そのとき、ふと母の笑顔を見ると「今月はこれで赤字だわ。」という声が聞こえた。父の笑顔を見ると「そのうち直ぐに親離れていくのか。」という声が聞こえた。これは魔法だと直ぐにわかった。ウチは人の心が読める魔法使いになれたのだ。学校で習ったとおりに魔法の発動後は慎重に行動するようにした。特に心理把握系の魔法は扱いが難しい。両親、友人、先生にも言わずに魔法学を学び続けた。マナ素粒子の操作次第ではどうやら記憶も操作できる可能性がある。人の脳の海馬体に干渉できるように電磁力学を学び始めた。何回も「場の理論」でつまずいた。卓上の理論ではうまく計算される特殊相対性理論と量子力学。光速度不変の原理に基づいて時間の僅かなズレまでミンコフスキー空間で表現した。世界線のずれは量子力学を使って確率で表し、1%の誤差は無視した。質量が50kgならばほぼ完璧だが、脳内の電気信号は本当に微量なためこの計算ではうまくいかなかった。実際に動物の脳の神経と神経の間にあるシナプスに干渉しようとすると何も起こらなかった。うちの魔力が不足しているのだろうかと疑った。何度も小さなネズミやウチより小さい低学年に魔法をかけようとしたが全くうまくいかなかった。
相手の心が読めるというのは便利なように思うかもしれないが、実は不便でもある。相手の考えていることはすぐにわかるし、ウチのことを本当の親友だと思っている人が学校にいないのは九歳までにわかった。誰が誰を好きで、嫌いなのかもわかるようになっていた。
新聖暦五九三五年
十月十二日
「ハンナは、十二宮学園へ進学したいのか?」
「んあ~、はい。父さん。ウチはまだまだ未熟者ですがエレメンタルクラスを受験します。」
「今のご時世だとそのほうが安全だろうな。アミラル将軍がクーデター未遂で投獄された意味はわかっているな。」
「戦争ですか?人間は話し合って決められる生き物だと思っていましたけど。」
「いつの時代になっても人間はアホなのさ。一度、本気で殴り合わないと相手の本心がわからない生き物なのだと思うよ。」
軽い口調で父は言ったが、ウチにはその感覚がわからない。相手の心などお見通しだ。難しいのは魔法と科学の理論だ。
十月十三日
「君の魔法学の成績はよく理解している。君はまだ十歳なのに風や火の魔法ではなくもっと小さい微粒子の方に興味があるようだね。」
「んあ~、そうですね。」
「君が文系の学問に興味がないのは分かっているが、この成績ではどこの大学にもいけないぞ。」
「んあ~、そうですね。」
ウチが魔法学を勉強している間に世界情勢は大きく変化していた。議会制民主主義が崩壊し軍事政権に変わっていた。敵対する国家はそれぞれのイデオロギーを掲げて憎悪を煽る報道が毎晩続いていた。同時に冷静を保つように訴える人々の情報がネットワーク内で拡散し民意は二分していた。どちらが正しいかなんて答えのない問題に答えを求めるのはおかしなことだ。弁証ゲームが流行り始めた。同じ意見のグループが反対意見のグループを論破していくものだ。白黒を付けるのはネットワーク内のすべての人々である。いつでもどこからでも参加できるゲームである。ウチがたまたまゲーム内を閲覧していると「来るべき種族」という書物に登場する「古の魔女」が存在するかどうかというゲームを見つけた。
I「そろそろ、結論をださないかJK」
S「魔女なんていない。魔法は突然変異だろ」
H「魔法は人類の進化が常識だろ。数万年のスパンで起こりうることだろ。」
I「それな」
A「いやいや。一人の魔女が全人類に影響を与えた。最初の突然変異個体は少ないのが常識だろ。大昔の進化論でも説明できる。」
くだらないと思いつつも「最初の魔法使い」である「魔女」については興味が沸いた。生きているならば是非ともあってみたい。そしてウチの魔法の問題を解決して欲しい。やはり、魔法使いにとってどのように魔法を応用するかは重要だしその理論がわかっていないと計算ができない。ウチは十二宮学園の魔法学部に入学することを決心した。ここにきてさらにその志望動機は増していた。記憶操作の魔法を完璧にしたい!
十月十四日
十二宮学園の一次入学試験までは五日に迫っていた。数学と科学は完璧なのだが文系科目はサッパリ分からなかった。足切りにあってしまう。しかし、十歳で受験して合格する人など滅多にいない。今年がダメでも来年、再来年がある。十二宮学園のエレメンタルクラスに入学するのは多くが十二歳か十三歳ぐらいである。年齢制限はない。十二宮学園の資料を取り寄せると「十二の宮と三十の学部、百を越える学科」とあり本当に学べない学問はないのだ。気付いたのだが魔法学部は資料には書いていない。ネットワーク内とメディアの間では秘密の学部と言われている。本当に何も書いていない。
(http://sosd.web.fc2.com/gallery/school/index.html を参照して欲しい。)
「父よ。魔法学部は本当に存在するのか?」
「大丈夫だ。志望する宮に何も書かなければいいのだよ。」
「んあ~、何も書かないのか?でも無記述の場合は学園側が試験結果で宮を決めると書いてあるぞ。」
「ハンナが本当に魔法学部にいきたいと頑張っているのを学園はきっとわかっている。」
父の心を読んだが、正直、父もよくわからないのである。どこの宮に所属している学部であるか誰も知らないのだ。
ウチの両親は魔法使いではない。ごく普通の家庭で育てられたウチは八歳の誕生日を祝ってもらった。ローストビーフと八本のロウソクが灯った誕生日ケーキと両親に囲まれとても幸せな気持ちだった。そのとき、ふと母の笑顔を見ると「今月はこれで赤字だわ。」という声が聞こえた。父の笑顔を見ると「そのうち直ぐに親離れていくのか。」という声が聞こえた。これは魔法だと直ぐにわかった。ウチは人の心が読める魔法使いになれたのだ。学校で習ったとおりに魔法の発動後は慎重に行動するようにした。特に心理把握系の魔法は扱いが難しい。両親、友人、先生にも言わずに魔法学を学び続けた。マナ素粒子の操作次第ではどうやら記憶も操作できる可能性がある。人の脳の海馬体に干渉できるように電磁力学を学び始めた。何回も「場の理論」でつまずいた。卓上の理論ではうまく計算される特殊相対性理論と量子力学。光速度不変の原理に基づいて時間の僅かなズレまでミンコフスキー空間で表現した。世界線のずれは量子力学を使って確率で表し、1%の誤差は無視した。質量が50kgならばほぼ完璧だが、脳内の電気信号は本当に微量なためこの計算ではうまくいかなかった。実際に動物の脳の神経と神経の間にあるシナプスに干渉しようとすると何も起こらなかった。うちの魔力が不足しているのだろうかと疑った。何度も小さなネズミやウチより小さい低学年に魔法をかけようとしたが全くうまくいかなかった。
相手の心が読めるというのは便利なように思うかもしれないが、実は不便でもある。相手の考えていることはすぐにわかるし、ウチのことを本当の親友だと思っている人が学校にいないのは九歳までにわかった。誰が誰を好きで、嫌いなのかもわかるようになっていた。
新聖暦五九三五年
十月十二日
「ハンナは、十二宮学園へ進学したいのか?」
「んあ~、はい。父さん。ウチはまだまだ未熟者ですがエレメンタルクラスを受験します。」
「今のご時世だとそのほうが安全だろうな。アミラル将軍がクーデター未遂で投獄された意味はわかっているな。」
「戦争ですか?人間は話し合って決められる生き物だと思っていましたけど。」
「いつの時代になっても人間はアホなのさ。一度、本気で殴り合わないと相手の本心がわからない生き物なのだと思うよ。」
軽い口調で父は言ったが、ウチにはその感覚がわからない。相手の心などお見通しだ。難しいのは魔法と科学の理論だ。
十月十三日
「君の魔法学の成績はよく理解している。君はまだ十歳なのに風や火の魔法ではなくもっと小さい微粒子の方に興味があるようだね。」
「んあ~、そうですね。」
「君が文系の学問に興味がないのは分かっているが、この成績ではどこの大学にもいけないぞ。」
「んあ~、そうですね。」
ウチが魔法学を勉強している間に世界情勢は大きく変化していた。議会制民主主義が崩壊し軍事政権に変わっていた。敵対する国家はそれぞれのイデオロギーを掲げて憎悪を煽る報道が毎晩続いていた。同時に冷静を保つように訴える人々の情報がネットワーク内で拡散し民意は二分していた。どちらが正しいかなんて答えのない問題に答えを求めるのはおかしなことだ。弁証ゲームが流行り始めた。同じ意見のグループが反対意見のグループを論破していくものだ。白黒を付けるのはネットワーク内のすべての人々である。いつでもどこからでも参加できるゲームである。ウチがたまたまゲーム内を閲覧していると「来るべき種族」という書物に登場する「古の魔女」が存在するかどうかというゲームを見つけた。
I「そろそろ、結論をださないかJK」
S「魔女なんていない。魔法は突然変異だろ」
H「魔法は人類の進化が常識だろ。数万年のスパンで起こりうることだろ。」
I「それな」
A「いやいや。一人の魔女が全人類に影響を与えた。最初の突然変異個体は少ないのが常識だろ。大昔の進化論でも説明できる。」
くだらないと思いつつも「最初の魔法使い」である「魔女」については興味が沸いた。生きているならば是非ともあってみたい。そしてウチの魔法の問題を解決して欲しい。やはり、魔法使いにとってどのように魔法を応用するかは重要だしその理論がわかっていないと計算ができない。ウチは十二宮学園の魔法学部に入学することを決心した。ここにきてさらにその志望動機は増していた。記憶操作の魔法を完璧にしたい!
十月十四日
十二宮学園の一次入学試験までは五日に迫っていた。数学と科学は完璧なのだが文系科目はサッパリ分からなかった。足切りにあってしまう。しかし、十歳で受験して合格する人など滅多にいない。今年がダメでも来年、再来年がある。十二宮学園のエレメンタルクラスに入学するのは多くが十二歳か十三歳ぐらいである。年齢制限はない。十二宮学園の資料を取り寄せると「十二の宮と三十の学部、百を越える学科」とあり本当に学べない学問はないのだ。気付いたのだが魔法学部は資料には書いていない。ネットワーク内とメディアの間では秘密の学部と言われている。本当に何も書いていない。
(http://sosd.web.fc2.com/gallery/school/index.html を参照して欲しい。)
「父よ。魔法学部は本当に存在するのか?」
「大丈夫だ。志望する宮に何も書かなければいいのだよ。」
「んあ~、何も書かないのか?でも無記述の場合は学園側が試験結果で宮を決めると書いてあるぞ。」
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