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第二幕
ep.12 試行の陸 -王国に巣食う闇- (1)
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ルイーゼの手の平がクラウスの手の甲へと重ねられ、干渉の魔力によって傷が癒やされていく。
彼女にとってはもう幾度目かになる隣国との戦だったが、今回は伏兵の存在を上手く伝えておいたことで、前回よりも更にクラウスの身に傷は少なかった。
「すまない、ルイーゼ。礼を言う」
治癒を終え、クラウスがルイーゼの手を包むように握る。
そっと握り返しながら、ルイーゼは少し申し訳なさそうに眉を下げた。
「いえ、戦場で魔装具を持たせた部下たちの治癒も試してはみましたが、あまり上手くはいきませんでした。やはり純粋な魔力持ちと、獣人とでは、脳の作りが違います。私の力は、生まれながらに魔力を持つ者にこそ強く作用するようです」
「ああ、ちょうど先日、グンターからの報告書を受け取ったところだ。ルイーゼ、繰り返すが無理はするな。お前も、そして彼らも、改革の為にその身を犠牲にすることを私は望まない」
少し咎めるような口調に、ルイーゼがクラウスの意図するところに思い当たって苦笑する。
「テオのことですね。念願の力を得たというのに、研究に傾倒して鍛錬を怠っては本末が転倒だと、他の隊士にも叱責を受けているようです」
隊士たちの多くは、魔装具による魔力という未知の力に興味を持ったが、テオの入れ込みようは他と比べるべくもなかった。
改めて釘を刺しておく、と続けてから、ルイーゼはクラウスの手を握る力を僅かに強めた。
「クラウス様こそ、どうぞお気を付けて。ミュラー侯爵より、暗殺計画に関する漏洩があったところでしょう。いよいよ貴方の理想には敵が多いようです。人間と獣人との共存、単純なようでいて、つくづくこの国では根深い問題なようですね」
「……ああ。この後は?」
少し思い悩んだようにクラウスは頷き、次いでルイーゼの予定を尋ねる。
ルイーゼは少し考えてから、クラウスの執務室があるのとは反対側の西の塔を視線で指し示した。
「宰相殿に、城の警護の件でお呼びだてされております。ついでに何か探ることができれば良いのですが」
「構わない。それよりも気を抜くな。宰相は以前よりお前の力に関心を持っている。魔装具の件はまだ伏せておけ」
「分かっています。それに、仮にこの身が囚われたとして、私の力はクラウス様の為以外には決して使いませんよ。いざとなれば――」
「ルイーゼ」
クラウスが微かな怒りを孕んだ声でルイーゼの言葉を遮る。
握られた手の小さな痛みに、ルイーゼは苦笑しながら詫びて、それを離すと執務室を後にした。
◇
宰相に宛てがわれた部屋へと向かいながら、ルイーゼは身に着けた魔装具の具合を確認する。
幾度も繰り返す試行の中で、初めに完成させた時よりも随分と洗練されたそれは、確かにルイーゼの稀有な魔力を一層強靭なものにしていた。
何度戻っても、グンターが手帳の中身に疑問を持ったことはただの一度もなく、目を輝かせて新たな研究に没頭する様を思い出し、ルイーゼが小さく笑う。
(カタリーナ様と、それにミュラー侯爵のおかげで、随分とデータも集まった。宰相殿は生まれつき魔力のお強いお方だ。理論上は、私の力の影響が及び易いはず……そろそろ本格的に、闇を突いてみましょうか)
足を止めず、通りすがる騎士や兵に何食わぬ顔で挨拶を返しながら、ルイーゼの頭は思考を続ける。
ふと、そういえばここのところあの豆粒が邪魔をしにこないな、と思った。
(もう飽きたのか……何か企てているのか……どちらにしても、考えても仕方のないことですね。もし邪魔をするのであれば、排除できるよう試行が増えるだけのことです)
少し重い頭を軽く振ってから、ルイーゼは辿り着いた一室の扉を叩いた。
彼女にとってはもう幾度目かになる隣国との戦だったが、今回は伏兵の存在を上手く伝えておいたことで、前回よりも更にクラウスの身に傷は少なかった。
「すまない、ルイーゼ。礼を言う」
治癒を終え、クラウスがルイーゼの手を包むように握る。
そっと握り返しながら、ルイーゼは少し申し訳なさそうに眉を下げた。
「いえ、戦場で魔装具を持たせた部下たちの治癒も試してはみましたが、あまり上手くはいきませんでした。やはり純粋な魔力持ちと、獣人とでは、脳の作りが違います。私の力は、生まれながらに魔力を持つ者にこそ強く作用するようです」
「ああ、ちょうど先日、グンターからの報告書を受け取ったところだ。ルイーゼ、繰り返すが無理はするな。お前も、そして彼らも、改革の為にその身を犠牲にすることを私は望まない」
少し咎めるような口調に、ルイーゼがクラウスの意図するところに思い当たって苦笑する。
「テオのことですね。念願の力を得たというのに、研究に傾倒して鍛錬を怠っては本末が転倒だと、他の隊士にも叱責を受けているようです」
隊士たちの多くは、魔装具による魔力という未知の力に興味を持ったが、テオの入れ込みようは他と比べるべくもなかった。
改めて釘を刺しておく、と続けてから、ルイーゼはクラウスの手を握る力を僅かに強めた。
「クラウス様こそ、どうぞお気を付けて。ミュラー侯爵より、暗殺計画に関する漏洩があったところでしょう。いよいよ貴方の理想には敵が多いようです。人間と獣人との共存、単純なようでいて、つくづくこの国では根深い問題なようですね」
「……ああ。この後は?」
少し思い悩んだようにクラウスは頷き、次いでルイーゼの予定を尋ねる。
ルイーゼは少し考えてから、クラウスの執務室があるのとは反対側の西の塔を視線で指し示した。
「宰相殿に、城の警護の件でお呼びだてされております。ついでに何か探ることができれば良いのですが」
「構わない。それよりも気を抜くな。宰相は以前よりお前の力に関心を持っている。魔装具の件はまだ伏せておけ」
「分かっています。それに、仮にこの身が囚われたとして、私の力はクラウス様の為以外には決して使いませんよ。いざとなれば――」
「ルイーゼ」
クラウスが微かな怒りを孕んだ声でルイーゼの言葉を遮る。
握られた手の小さな痛みに、ルイーゼは苦笑しながら詫びて、それを離すと執務室を後にした。
◇
宰相に宛てがわれた部屋へと向かいながら、ルイーゼは身に着けた魔装具の具合を確認する。
幾度も繰り返す試行の中で、初めに完成させた時よりも随分と洗練されたそれは、確かにルイーゼの稀有な魔力を一層強靭なものにしていた。
何度戻っても、グンターが手帳の中身に疑問を持ったことはただの一度もなく、目を輝かせて新たな研究に没頭する様を思い出し、ルイーゼが小さく笑う。
(カタリーナ様と、それにミュラー侯爵のおかげで、随分とデータも集まった。宰相殿は生まれつき魔力のお強いお方だ。理論上は、私の力の影響が及び易いはず……そろそろ本格的に、闇を突いてみましょうか)
足を止めず、通りすがる騎士や兵に何食わぬ顔で挨拶を返しながら、ルイーゼの頭は思考を続ける。
ふと、そういえばここのところあの豆粒が邪魔をしにこないな、と思った。
(もう飽きたのか……何か企てているのか……どちらにしても、考えても仕方のないことですね。もし邪魔をするのであれば、排除できるよう試行が増えるだけのことです)
少し重い頭を軽く振ってから、ルイーゼは辿り着いた一室の扉を叩いた。
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