俺の幼馴染が魔王でドS?

めらめら

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第1章 魔剣覚醒

迫りくる影

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「滋賀県から転校してきた比良坂詩菜ひらさかシーナいいます。みんな、よろしうたのんます!」
 通学路でシュンとメイを舐めまわそうとした変態。
 転校生のシーナが、紅髪を揺らしながらニヘッと笑った。

「あいつは……!」
「あの子は……!」
 シュンも、メイも、呆れて言葉が出てこなかった。

「席はそうだな、如月の隣が空いているから、とりあえずそこだな」
「どーもどーも、よろしくですー」
 担任の緋川が、無情にもそう告げる。
 シーナは周囲の生徒に調子よく挨拶しながら、シュンの隣の机までやってきた。

「」

「おい、お前! 学校にまでストーキングかよ? それに、朝のアレは一体どーゆうつもりだよ?」
「ふっふっふ。『学校までストーキング』ね。ま、当たらずとも遠からず、やね」
 隣の机で、カバンからテキストを引っぱり出しているシーナを、シュンは小声で問い詰める。
 シーナは、涼しい顔をしてシュンに答えた。

「ウチはあのの……『秋尽メイ』の守護者にして監視者や。このウチが、初めて任された大仕事! 周りの連中から一人前と認められる、初チャンスなんや!」
「こいつ、本物の電波……!?」
 得意気な顔をして、訳のわからない事を喋り続けるシーナに、シュンは本気で怖くなってきたが、

「『任された』って……誰に? 『周りの連中』って……何?」
「ふっふ。知りたいかね? 彼氏くん?」
 具体性のグの字も出てこないシーナの返答に、そう突っ込んだむと、シーナが下世話なおばちゃん顔になってシュンをつっついた。

「か、彼氏って……別にそんなんじゃねーし……って、いや、違う違う! 知りたい、教えろ!」
「秘密や、教えられん!」
 一瞬動転しておかしなことを口走るシュンだったが、気を取り直して再びシーナに返答を迫ると、シーナはあっさりそう答えた。

「……ぐっ! こいつぅ……!」
 シュンは再び、シーナを殴りたい衝動に駆られた。

  #

 昼休み。
 シュンは教室で親友のワタルとダベっていた。

「まったく、本当に変な奴でさ、あいつ」
「うーん。確かに何だかおかしな気もするけどな……」
 シーナの奇行にブツクサ文句を言うシュンに、ツンツン頭のワタルも、腕組みしながら肯くが、

「ま、気にし過ぎじゃねーの? ただの虚言癖の電波女だろ。嘘が周りに飽きられたらまた、『幽霊を見た』とか『UFOを見た』とか別の嘘を騒ぎ立てるのさ」
「うーん……」
 なんとも辛辣な口調で、シーナの奇行を一蹴した。
 親友のワタルの物言いに、妙な苛立ちを覚えたシュンだったが、そこは何も言わずに唸っていると、

「ところでさシュン。例の『事件』、また新しい遺体が見つかったらしいぜ!」
「例の事件……」
 ワタルが目を輝かせて、シュンに顔を寄せて来た。
 シュンは更に苛立たしい気分になって来た。

 最初の事件が発生してから、もう一ヶ月。
 周辺地域を恐怖に陥れている、連日の通り魔殺人事件のことだ。

「なにしろさ、検死しようにも『遺体』は、ほんのチョッピリしか残ってないんだってさ!」
 ワタルが焼きそばパンを食べながら、嬉しそうに話を続ける。

「衣服や持ち物もズタズタにされてて、被害者の身元を確かめるのにも苦労してるんだって! 警察は『野犬』の仕業だと思ってるらしいけど、今の日本にいるか~? そんな犬?」
 親友の話を聞きながら、シュンは嫌そーな顔でほうじ茶をすすっていた。

「ワタル、もうわかったからその話はやめろって!」
 シュンは手をパタパタさせて、ワタルの話を止めた。
 この手の猟奇話はワタルに負けず劣らず大好きなシュンだったが……近所で実際にこんなことが起これば、暗い気持にもなる。

「そうか……それよりさ、知ってるか? 例の『お化け屋敷』に、誰か引っ越して来たんだってさ!」

 『お化け屋敷』?
 シュンは眉をひそめた。
 聖ヶ丘の中腹に構えられた大邸宅だ。
 もう何十年も誰も住んでいない、荒れ放題のお屋敷。
 通称『お化け屋敷』。
 長野の大富豪が東京に構えた別邸だと、まことしやかに唱える者もいるが、本当のところはよくわからない。

 あそこに人が……シュンはうなじの産毛がかすかに逆立つのを感じた。

 『見えないモノ』の数が、急に増えて来たと訴えるメイ。
 おかしな転校生。
 連続通り魔殺人。野犬のしわざ?
 『お化け屋敷』に住み着いた者。

 それぞれは全く無関係なようにも思えるが、これだけ色々なことが、一度に同時に起こるなんて……。
 何かが、気になった。

  #

 キンコンカンコーン……

 放課を告げる鐘が鳴った。

「うー寒みー!」
 聖ヶ丘中学の校門を出たシュンは、ブレザーの襟を押さえながら、一人家に向かって歩きだした。

 満開を迎えた街路の桜も、ドウドウと吹き抜く花冷えの風に、早くも薄桃の花びらを散らしつつある。
 いつもならワタルや他の友達と、公民館に寄ってテーブルトークRPGやトレーディングカードゲームで遊ぶのだが、今日はなんだかそんな気分ではなかった。

 シュンは通りかかった電気店のテレビモニターをのぞき込む。
 またもや近所で殺人事件が起きたというワタルの話は、本当だったようだ。

 うなじのあたりがチリチリする。
 何か、おかしな事が起き始めてる。
 そんな予感に、彼は恐ろしいような浮き立つような、妙な高揚を覚えていた。
 その時だった。

 ボフッ! 突然、シュンの背中を何かが叩いた。

「メイ!」
「シュン君、ごめん! 先に帰ろうとしたんだけど、実は、その……」
 シュンが驚いて振り向くと、そこにいたのはスクールバッグを両手で持ったメイだった。
 ショートレイヤーの黒髪を不安そうに揺らしせながら、メイはおずおずとシュンにそう切り出した。
 
「家まで、一緒に歩いて! やっぱり何かいる。何か、つけてくる……!」
「まてよメイ、何かって、何……!?」
 通学路を小走りに進みながら、切羽詰まった様子でそう言うメイに、シュンも小走りになってメイを追いかける。

「何か、大きな、黒い、毛が生えた、犬みたいな……!」
 メイがそう言いかけた時だった。

 ガサリ。

 2人の背後の緑道の生け垣から、何かの動く音がした。

「「あっ!」」
 メイが思わず声を上げた。

「犬……『野犬』!?」
 シュンは呻いた。

 夕日に赤黒く染まった生け垣から飛び出してきたモノ。
 夕日を背中にして2人の前に飛び出してきたモノ。
 逆光に黒く染められてその正体はわからないが、そいつは毛むくじゃらで四足の、確かに大きなケモノのような姿だった。


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