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第1章 魔剣覚醒
夕闇の逃走
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「あれは、やっぱり『犬』!?」
シュンは呻いた。
連続殺人。
野犬。
メイをストーキングする謎の影。
シュンの頭の中で、何かが繋がった気がした。
歩道の生垣の陰から、いきなり飛び出した毛むくじゃらの四足の獣。
夕日を背にして道に長く黒い影を落とした大型犬ほどのサイズ。
正体の知れないそいつが、一歩、二歩とシュンとメイの方に近寄って来た。
「何か……やばい!」
「ちょっと、シュンくん!」
得体の知れない危険を感じたシュンが獣に背を向けると、咄嗟にメイの手を取った。
「メイ、離れるぞ!」
シュンは全力でその場から駆け出した。
シュンに手を引かれて、メイもまた駆ける。
2人は謎の影を振り切るため、夕刻の通学路を全力で走り抜けた。
ザッ……ザッ……ザッ
2人の背後から、そいつの足音が迫ってきた。
#
ハッ ハッ ハッ……!
夕刻、買い物をする人で賑わう聖ヶ丘商店街。
その商店街の真ん中で、シュンとメイがようやく一息ついていた。
2人を追ってきた気配は、2人が繁華街に近づいて道行く人の数が増えるに従い、いつの間にか消えていた。
「どうだっ! これだけ人が居る場所なら、変な真似できないだろ!」
「シュンくん、でもこれから、どうするの?」
肩で息をしながらそう呻くシュンに、メイも息を切らせながら、心細げにそう尋ねた。
「警察だよ! 変な『犬』に追われてるって、捜査してもらわないと!」
シュンは、必死に考えを巡らせてそう答える。
メイの気のせいではなかったのだ。
彼女は、本当に何かに狙われている。
メイの身を守らないと、安全策をとらないと!
「でも、信じてくれるかな? 変な動物に追いかけられた、なんて話……」
「信じるさ! 今だって街中で殺人が起きてて、野犬の仕業って噂で、警察だって……捜査に必死な……はずだよ!」
メイの緑の瞳が、不安に曇っていた。
声を荒げてそうまくし立てるシュンだったが、話している内に自分でもだんだん自信がなくなって来た。
そいつの正体をはっきり確認したわけでは無い。
姿を見たのは人通りのない通学路。
メイとシュンの2人だけ。
警察に話してもこんな話、とりあってくれるだろうか?
「うううう……」
「これはこれはお2人さん! 奇遇でんなぁ。道の真ん中、手ぇつないでハアハア駆けまわって、青春ですか? キャッキャウフフですか? あーウラヤマシー!」
シュンが途方に暮れていると、突然聞き覚えのある声。
イラッとくる変な関西弁で、2人にそう話しかけて来る者がいた。
「おまえは……!」
「あなたは……!」
シュンとメイが、息を飲んだ。
いつの間にか2人の前に立っているのは、燃え立つ炎のような紅髪を無造作に束ね上げた金色の瞳の少女だった。
いったん家に帰って、着替えて来たのだろうかか。
出で立ちは真っ赤でド派手なジャージ姿。
右脇に抱えているのは、ヒョウ柄の肩かけカバンという凄まじいファッション。
背中には、ボロ布でグルグル巻きにされた、何か、長い棒のようなものを背負っている。
転校生の変態。
比良坂シーナの姿だった。
#
「ングング……。どや、2人とも、これでウチの言う事、信じる気になったやろ?」
パティ六枚重ねのスペシャルバーガー『ギガモッグ』を頬張りながら、シーナがシュンとメイにそう言った。
3人は、駅前のハンバーガーショップ『モグモグバーガー』の店内で一息ついているのだ。
「おい待て。信じるって……お前まだ、何も話してないだろ!」
「ング? そうやったっけ?」
百円コーヒーを飲みながら、不機嫌そうに尋ねるシュンに、すっとぼけるシーナだったが、
「ま、特に彼氏くんは、見るまで信じないやろ思ってな、どや、おったやろ?」
シュンとメイを順繰りに見回して、そう言ってきた。
「「か、彼氏って……別にそんなんじゃないし……って、いや、違う違う!」」
動転して声を揃えるシュンとメイだったが、慌てて、
「「おったって、何が?」」
2人してシーナにそう尋ねた。
「妖怪や。お化けや。モノノケや!」
シーナは紅髪を揺らして、もどかしそうに首を振ると、
「さっき2人して、妙なのに追い回されたやろ! アイツや! アイツがその娘を、メイくんを狙っとるんや!」
メイを指差して声を張り上げた。
「妖怪? まさか……!」
あまりに馬鹿げたシーナの言葉に、顔をしかめるシュンだったが……
『みえるヤツら』……メイだけに、『みえるヤツら』……
シュンの頭をメイの言葉が、そして自分の幼かった頃の記憶が掠めて、シュンは続ける言葉を失った。
「メイくんは、もう解っとるやろ?」
シーナが、メイにそう言った。
「ウチと同じように、メイくんにもモノノケたちの姿が見えとるはずや! そして、その数がここ最近、特に増えて……勢いが増しとることも!」
シーナはメイに顔を寄せて、
クンカ クンカ クンカ……
またもやメイの身体をクンクン嗅ぎ出した。
「この『案件』、何か裏がある。『仲間』が次々殺されたんも、ウチが此処に遣わされたんも、『アレ』の封印が解かれたんも……そしてこの娘の匂いも……」
シーナはブツブツと訳の解らない事を呟きながら、
ペローン……
濡れた舌先を出して、朝のあの時みたいにメイに迫って来た!
「ひっ!」
メイが固まる。
だが次の瞬間、ゴチン!
シュンの拳固がシーナの頭頂部に命中していた。
「やめんか! 変態!」
「アタター! 何してくれるんや!」
シュンが再び拳を振り上げ怒号を上げる。
シーナは頭を押えて涙目でシュンを睨んだ。
「しゃーないやろ! 警護対象の人となりや行動パターンや身体的特徴をよりよく理解せなゆうウチの親心や! ウチはな、違いが判る女なんや。その者がモノノケか、この世のものか、ヒトに化けたモノノケか、モノノケに憑かれたヒトかが、大体判るんや。判別が微妙なケースでも近くで匂い嗅げば八割がた判るし、ひと舐めすれば百発百中やね! この素早い舌でさぁ~!」
「知るかそんなの! とにかくその舌をひっこめろ!」
ペロペロ舌を回転させながら、得意げにそう言うシーナに、しかめっ面のシュン。
「ひ、人を悪くなった牛乳みたいに言わないでよ~!」
メイも顏を真っ赤にしながらシーナに抗議する。
「ま、それはそうと……」
シーナは椅子にふんぞり返った。
「2人とも、これからどないするん?」
メイとシュンを見回して、彼女はそう尋ねてきた。
「この案件、警察に駆け込んだって無駄やで。連中は自由に姿消せるし、種類によっては壁を抜けたり、空を飛んだりするモンもおる。普通の人間が捕まえるのはまず不可能や!」
「まてよ。じゃあお前なら、その、なんとか出来るのかよ」
ジャージの懐からとりだした真っ赤な羽扇子パタパタ自分を扇ぎながらそう言うシーナに、訝しげな顏でシュンが尋ねると、
「アタボーや。ウチはそのためにコッチに来たんやで。モチはモチ屋。妖怪退治は『妖怪ハンター』に、やで!」
シーナは自分を指差して、得意げにそう答える。
「妖怪ハンター……!」
「ちょっと待って。その前に、なんで私が、そんなのに追い回されないといけないの?」
またもやシーナの口から飛び出してきた怪しいワードに、シュンが愕然としていると、メイがおずおずシーナにそう尋ねた。
「詳しい事情は知らんけどな。とっ捕まえて、口割らせるのが一番手っ取り早いやろ。ま、その為には……」
シーナが、メイの方を向いた。
「この娘の、メイくんの協力が必要やけどな」
「「協力??」」
シーナの言葉にメイとシュンは首を傾げた。
#
「め、メイを囮にして、化け物をおびき寄せて……捕まえる!?」
シーナの披露した「作戦」の内容に、シュンは愕然として声を張り上げた。
「そや。囮捜査や!」
シーナが、あっさりとそう答える。
「絶対に駄目だ! メイに何かあったら、どうするんだよ!」
「大丈夫、ウチがついとるから。絶対安全。顧客満足度200%保障やで!」
椅子から跳ね上がってテーブルを叩いてそう抗議するシュンを、涼しい顔で受け流すシーナ。
「またくぅおのぉ……適当な事を、根拠の無いデタラメを~~~!」
「シュンくん、私、やる!」
羽扇子でパタパタ自分を扇ぐシーナの顏を、ワナワナ戦慄きながら睨みつけるシュンだったが、メイは椅子から立ち上がって、シュンを止めた。
「メイ……だってそんな……!?」
驚いてメイの方を向くシュン。
「ここ最近、やっぱりおかしい。普通じゃない。私、知りたいの。周りにも、自分にも何が起きているのか……」
そう言ってシュンを見るメイの緑の瞳の奥には、固い決意の光があった。
シュンは呻いた。
連続殺人。
野犬。
メイをストーキングする謎の影。
シュンの頭の中で、何かが繋がった気がした。
歩道の生垣の陰から、いきなり飛び出した毛むくじゃらの四足の獣。
夕日を背にして道に長く黒い影を落とした大型犬ほどのサイズ。
正体の知れないそいつが、一歩、二歩とシュンとメイの方に近寄って来た。
「何か……やばい!」
「ちょっと、シュンくん!」
得体の知れない危険を感じたシュンが獣に背を向けると、咄嗟にメイの手を取った。
「メイ、離れるぞ!」
シュンは全力でその場から駆け出した。
シュンに手を引かれて、メイもまた駆ける。
2人は謎の影を振り切るため、夕刻の通学路を全力で走り抜けた。
ザッ……ザッ……ザッ
2人の背後から、そいつの足音が迫ってきた。
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ハッ ハッ ハッ……!
夕刻、買い物をする人で賑わう聖ヶ丘商店街。
その商店街の真ん中で、シュンとメイがようやく一息ついていた。
2人を追ってきた気配は、2人が繁華街に近づいて道行く人の数が増えるに従い、いつの間にか消えていた。
「どうだっ! これだけ人が居る場所なら、変な真似できないだろ!」
「シュンくん、でもこれから、どうするの?」
肩で息をしながらそう呻くシュンに、メイも息を切らせながら、心細げにそう尋ねた。
「警察だよ! 変な『犬』に追われてるって、捜査してもらわないと!」
シュンは、必死に考えを巡らせてそう答える。
メイの気のせいではなかったのだ。
彼女は、本当に何かに狙われている。
メイの身を守らないと、安全策をとらないと!
「でも、信じてくれるかな? 変な動物に追いかけられた、なんて話……」
「信じるさ! 今だって街中で殺人が起きてて、野犬の仕業って噂で、警察だって……捜査に必死な……はずだよ!」
メイの緑の瞳が、不安に曇っていた。
声を荒げてそうまくし立てるシュンだったが、話している内に自分でもだんだん自信がなくなって来た。
そいつの正体をはっきり確認したわけでは無い。
姿を見たのは人通りのない通学路。
メイとシュンの2人だけ。
警察に話してもこんな話、とりあってくれるだろうか?
「うううう……」
「これはこれはお2人さん! 奇遇でんなぁ。道の真ん中、手ぇつないでハアハア駆けまわって、青春ですか? キャッキャウフフですか? あーウラヤマシー!」
シュンが途方に暮れていると、突然聞き覚えのある声。
イラッとくる変な関西弁で、2人にそう話しかけて来る者がいた。
「おまえは……!」
「あなたは……!」
シュンとメイが、息を飲んだ。
いつの間にか2人の前に立っているのは、燃え立つ炎のような紅髪を無造作に束ね上げた金色の瞳の少女だった。
いったん家に帰って、着替えて来たのだろうかか。
出で立ちは真っ赤でド派手なジャージ姿。
右脇に抱えているのは、ヒョウ柄の肩かけカバンという凄まじいファッション。
背中には、ボロ布でグルグル巻きにされた、何か、長い棒のようなものを背負っている。
転校生の変態。
比良坂シーナの姿だった。
#
「ングング……。どや、2人とも、これでウチの言う事、信じる気になったやろ?」
パティ六枚重ねのスペシャルバーガー『ギガモッグ』を頬張りながら、シーナがシュンとメイにそう言った。
3人は、駅前のハンバーガーショップ『モグモグバーガー』の店内で一息ついているのだ。
「おい待て。信じるって……お前まだ、何も話してないだろ!」
「ング? そうやったっけ?」
百円コーヒーを飲みながら、不機嫌そうに尋ねるシュンに、すっとぼけるシーナだったが、
「ま、特に彼氏くんは、見るまで信じないやろ思ってな、どや、おったやろ?」
シュンとメイを順繰りに見回して、そう言ってきた。
「「か、彼氏って……別にそんなんじゃないし……って、いや、違う違う!」」
動転して声を揃えるシュンとメイだったが、慌てて、
「「おったって、何が?」」
2人してシーナにそう尋ねた。
「妖怪や。お化けや。モノノケや!」
シーナは紅髪を揺らして、もどかしそうに首を振ると、
「さっき2人して、妙なのに追い回されたやろ! アイツや! アイツがその娘を、メイくんを狙っとるんや!」
メイを指差して声を張り上げた。
「妖怪? まさか……!」
あまりに馬鹿げたシーナの言葉に、顔をしかめるシュンだったが……
『みえるヤツら』……メイだけに、『みえるヤツら』……
シュンの頭をメイの言葉が、そして自分の幼かった頃の記憶が掠めて、シュンは続ける言葉を失った。
「メイくんは、もう解っとるやろ?」
シーナが、メイにそう言った。
「ウチと同じように、メイくんにもモノノケたちの姿が見えとるはずや! そして、その数がここ最近、特に増えて……勢いが増しとることも!」
シーナはメイに顔を寄せて、
クンカ クンカ クンカ……
またもやメイの身体をクンクン嗅ぎ出した。
「この『案件』、何か裏がある。『仲間』が次々殺されたんも、ウチが此処に遣わされたんも、『アレ』の封印が解かれたんも……そしてこの娘の匂いも……」
シーナはブツブツと訳の解らない事を呟きながら、
ペローン……
濡れた舌先を出して、朝のあの時みたいにメイに迫って来た!
「ひっ!」
メイが固まる。
だが次の瞬間、ゴチン!
シュンの拳固がシーナの頭頂部に命中していた。
「やめんか! 変態!」
「アタター! 何してくれるんや!」
シュンが再び拳を振り上げ怒号を上げる。
シーナは頭を押えて涙目でシュンを睨んだ。
「しゃーないやろ! 警護対象の人となりや行動パターンや身体的特徴をよりよく理解せなゆうウチの親心や! ウチはな、違いが判る女なんや。その者がモノノケか、この世のものか、ヒトに化けたモノノケか、モノノケに憑かれたヒトかが、大体判るんや。判別が微妙なケースでも近くで匂い嗅げば八割がた判るし、ひと舐めすれば百発百中やね! この素早い舌でさぁ~!」
「知るかそんなの! とにかくその舌をひっこめろ!」
ペロペロ舌を回転させながら、得意げにそう言うシーナに、しかめっ面のシュン。
「ひ、人を悪くなった牛乳みたいに言わないでよ~!」
メイも顏を真っ赤にしながらシーナに抗議する。
「ま、それはそうと……」
シーナは椅子にふんぞり返った。
「2人とも、これからどないするん?」
メイとシュンを見回して、彼女はそう尋ねてきた。
「この案件、警察に駆け込んだって無駄やで。連中は自由に姿消せるし、種類によっては壁を抜けたり、空を飛んだりするモンもおる。普通の人間が捕まえるのはまず不可能や!」
「まてよ。じゃあお前なら、その、なんとか出来るのかよ」
ジャージの懐からとりだした真っ赤な羽扇子パタパタ自分を扇ぎながらそう言うシーナに、訝しげな顏でシュンが尋ねると、
「アタボーや。ウチはそのためにコッチに来たんやで。モチはモチ屋。妖怪退治は『妖怪ハンター』に、やで!」
シーナは自分を指差して、得意げにそう答える。
「妖怪ハンター……!」
「ちょっと待って。その前に、なんで私が、そんなのに追い回されないといけないの?」
またもやシーナの口から飛び出してきた怪しいワードに、シュンが愕然としていると、メイがおずおずシーナにそう尋ねた。
「詳しい事情は知らんけどな。とっ捕まえて、口割らせるのが一番手っ取り早いやろ。ま、その為には……」
シーナが、メイの方を向いた。
「この娘の、メイくんの協力が必要やけどな」
「「協力??」」
シーナの言葉にメイとシュンは首を傾げた。
#
「め、メイを囮にして、化け物をおびき寄せて……捕まえる!?」
シーナの披露した「作戦」の内容に、シュンは愕然として声を張り上げた。
「そや。囮捜査や!」
シーナが、あっさりとそう答える。
「絶対に駄目だ! メイに何かあったら、どうするんだよ!」
「大丈夫、ウチがついとるから。絶対安全。顧客満足度200%保障やで!」
椅子から跳ね上がってテーブルを叩いてそう抗議するシュンを、涼しい顔で受け流すシーナ。
「またくぅおのぉ……適当な事を、根拠の無いデタラメを~~~!」
「シュンくん、私、やる!」
羽扇子でパタパタ自分を扇ぐシーナの顏を、ワナワナ戦慄きながら睨みつけるシュンだったが、メイは椅子から立ち上がって、シュンを止めた。
「メイ……だってそんな……!?」
驚いてメイの方を向くシュン。
「ここ最近、やっぱりおかしい。普通じゃない。私、知りたいの。周りにも、自分にも何が起きているのか……」
そう言ってシュンを見るメイの緑の瞳の奥には、固い決意の光があった。
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