[完結]Good-bye Darling

村上かおり

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 そして今日もまた城からメッセンジャーがやってきました。

 仕事で暫く帰れないという伝言を運んでくる若手の騎士様の顔が引き攣っている事に、あなたは気づいているのでしょうか。

 中には、酷く悲しそうな表情で、夫が帰らない、仕事が忙しい理由を話して彼らは去って行くのです。

 何度、手紙を託した事でしょう。

 子供の名前を考えてくださいと書いた手紙にも、生まれましたというお知らせの手紙にも、顔を見てやってくださいというお願いを認めた手紙にも、夫は何も返してはきませんでしたし、私の待つ屋敷にも帰ってはきませんでした。

 確かに私は侯爵家を継いでいますから、両親も使用人もおります。ですから子育てが大変だとか言うつもりはありません。もちろん夫に子育てを手伝って欲しいなどと思ってもおりません。

 けれど子供は私一人で作ったわけではないのです。そしてこの子の父親は、私の夫である彼でしかあり得ないというのに。
 
 生まれた子供は女の子でした。

 この国では他国で見られるような長子継承でもなければ、男子継承という縛りもありません。

 ですから無事に出産できたことに父も母も泣いて喜んでくれました。

 そして子供の名前は、父が一所懸命考えてくれたアマンダ愛すべき者を選びました。だってたくさんの候補がありましたけれど、名前そのものに意味があるーーしかも愛すべき者、大切な人ーーなんて、とても素敵だと思いましたから。

 しかも、この子の髪は、私のライトゴールドの髪より少し明るい色をしていて、瞳の色はブルーグレイ。

 私が、まるでお父様の青い瞳の色とお母様の灰色の瞳の色を足したみたいね、と呟いたらお母様が感極まって泣いてしまったのには驚きました。

 私としては母が泣くとは思わず、私の瞳の色が両親のどちらともほど遠い色味だったので、父と母の瞳を混ぜたような娘の瞳の色が少しだけ羨ましかったのです。

 けれど瞳の色もそうですが、可笑しいのはアマンダには夫の要素が一欠けらもないことです。

 まあ、まだ生まれたばかりですし、成長したら変化するかもしれませんが、夫のブルネットの髪色もアンバーの瞳もアマンダは受け継ぎませんでした。

 あり得ない事だとは思いますが、私の身体が、夫を拒絶したのかもしれないですね。

 嗤えますわ。

 ただ、これだけ夫の要素が入っていない娘を見たら、あの人はどんな反応をするのか不安でもあります。下手をしたら不貞を疑われたりしないでしょうか。そんな可能性が頭を過りました。

 もちろん、私がそんな事をする理由などありませんし、出来る環境でもありません。

 婚家でも難しいとは思いますが、私は嫁いだわけではなく婿を迎え入れたのです。

 ですから、この屋敷には父も母もいますし、子供の頃から私の面倒を見てくれている使用人たちも沢山います。そんな場所で、どうやって不貞を働くというのでしょう。

 それに、自分でしていると他人もしていると思うそうですから、もし問われる事があったら私は聞き返してみたいです。

 でも、本当のところは、もうどうでもいいのです。

 私の恋は、随分と前から擦り切れていて、ボロボロの粉々になってしまいました。

 そして、その事に私が気が付いていなかっただけなのです。

 ですから私は、私の悲しい恋に、けじめをつけてあげなくてはなりません。

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