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思わず呆然とオースティン王太子殿下を見つめてしまいました。
「これが、その証拠だね」
トレバー様がテーブルの上に、幾つかの書類を広げて置いてくださいました。
「クライヴ・ランバートに与えられた家名は、ダーリンというものだ。よってクライヴ・ランバートはクライヴ・ダーリンと改名された。そして誠に申し訳ないのだが、我が妹リーリアの我儘により、クライヴとリーリアの婚姻が成されたのだ」
私に事情を説明してくださっているオースティン王太子殿下の表情は、かなり厳しいものです。なんだか私が怒られているような気分になってしまいますが、私の腕の中にいるアマンダはきょろり、きょろりと殿下を見たり、テーブルの上に広げられた書類を見たりしているので、緊張感がそがれます。
ですが、殿下の言葉をしっかりと理解している事を示さなくてはなりません。ですから私は確認のためにも口を開きました。
「……功績で男爵位を頂いて、その際に新しい家名を貰った、と。それでその新しい名前で王女様と結婚したという理解でよろしいでしょうか」
「ああ、その理解で概ね間違いはない」
オースティン王太子殿下は概ねの部分だけやたらと強調されましたけれど、それはいったいどういう事なのでしょう。けれど私の疑問が解消する間もなく姉がいきなり立ち上がりました。
「それは、家名が違えば別人だと判断されるという事でしょうか」
そして質問というよりは追及のような厳しさで、姉がオースティン王太子殿下に問いかけます。
「よしなさい、アメーリア」
父が慌てて姉を止めようとしましたが、オースティン王太子殿下は特に気にされていないようでした。
「よい、その質問は最もである。こちらでも法典などを漁ってみたのだが、こういう事例は初めての事で、これからその抜け道を塞ぐために法の整備をする事になっている。それで問題になるのが、そのアマンダ・ランバート嬢についてなのだ」
娘の名前を呼ばれ、私は何を言われるのか分からずに、びくりと身体を揺らしてしまいます。
「こちらの書類の日付を確認していただきたい。まずアマンダ嬢が生まれたのは、7の月の28日であっているか」
「はい」
「では、次にクライヴの新しい家名の申請書類だ。これは、7の月の20日に提出となっている。その数日前の7の月の18日に離婚届の書類が提出されているのだが、この記載に間違いはないか」
「……私はサインをした覚えはありません」
まじまじと手元に置かれた書類を見つめた私は、思いのほか冷静に否定の声を上げていました。
確かにそれは離婚の申請をする書類で、クライヴと私の名前が記入されています。けれど、どうみてもそのサインは私の字ではなかったのです。
となると誰の字かという事と、偽造書類ではないかという問題が浮かび上がってきます。
クライヴ、あなたは何をやっているの。
思わず私はそう叫んでしまいそうでした。
それに、夫は知らなかったと思いますが、この書類が提出された日付はアマンダの出産予定日とされていた日です。
元から予定通りに出産する人は稀だとお医者様にも言われていたので、出産日になっても陣痛が始まらず、なんとなくソワソワしつつ過ごしていた日に、この人は。
そう思うと目頭がじんわりと熱を帯び、今にも涙が溢れてしまいそうです。
けれど、あんな男の前で涙なんて流したくはありません。
だから私は、力の限り奥歯を噛み締めて涙を堪えました。
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