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7.
しおりを挟む「そして次の書類がリーリア王女との婚姻の書類である。提出日は7の月の25日」
こちらの書類は日付だけを確認する。
「オースティン王太子殿下」
父が力なく声をあげました。
「申してみよ」
「ありがとうございます。本来王女殿下の婚姻に関しては、王室の典礼では婚約期間を1年設ける事となっていたはずです。それに国民への周知も必要だとされていたように思いますが」
「さすがだな。ランバート侯爵の言うとおりである。先ほど私はクライヴ・ダーリンとリーリア・ベーヴェルシュタムの婚姻が成ったと言ったが、それは正しい言い方ではない。理由はこちらの書類を見て頂けると分かると思う」
もう1枚の書類は婚姻届けの書類でしたが、よく見るとこれは市井で広く使われているもののようです。それに、この書類にサインされている名前に家名の記載がありませんでした。
「これは……」
父もその事に気が付いたようで、あまりの事に絶句しています。
そして父から手渡された書類に目を通した姉は、その美しい顔が憤怒に染まりました。それはもう見事に。
「これは庶民が婚姻の際に教会に提出する書類ではありませんか! 王女と、仮にも男爵位を持つ貴族が交わす書類ではありません!!」
普段はおっとりとした淑女であるはずの姉の咆哮に、その場にいる全員があんぐりと口を開けてしまっています。もちろんオースティン王太子殿下もエヴァン第二王子殿下もケイリー第一王女殿下も。
この場ですました顔をしているのは、姉の夫であるトレバー様だけでした。どうやらトレバー様は姉の苛烈な面を知っているようです。
「……う、む……ファーナビー公爵夫人の言うとおりだ。これはリーリアと言う名の女性とクライヴという名の男性の婚姻の証明でしかない」
私は何を言ったらいいのか分からず、思わず殿下方の奥にいる夫へと視線を向けました。けれど彼の視線は下を向いたままで、ちらりともこちらの様子を伺う素振りもありません。
彼は何を考えているのでしょう。
騎士見習いとして騎士団に入団して、騎士と認められるまでの2年、そこから私との婚姻までの2年間、彼は真面目に騎士として活動していたはずでした。
けれど、私と結婚する直前の頃でしょうか、なぜか街にいた王女殿下が暴漢に襲われ、クライヴが助けるという事件が起こったと聞いています。
その話を聞いた時、私はまるで恋愛小説のヒーローとヒロインみたいね、と思わなくもなかったのですけれど。
まさか、そこで本物の恋に発展したとでもいうのでしょうか。
それに、男爵位と共に新たな家名を貰ったなど、私は夫……いえ、クライヴから聞いてはおりませんでした。きっと家族の誰も知らなかったと思います。
確かに徐爵には時間がかかるそうですし、共に家名を与えるとなれば、余計に時間がかかったのでしょう。
けれど、男爵位を賜った事も、家名を頂いたことも、この際どうでもいい事です。
それよりも、子供が生まれるというのに、勝手に離婚届を提出し、あまつさえ王女様と婚姻を結んでいたなんて、そちらの方が大問題だと思います。
それに、ここにある書類をみれば、オースティン王太子殿下の言うように、貴族としての正式な婚姻とは言えないはずです。
しかも、娘であるアマンダが生まれる前に、こんな不義理で非常識な事をするなんて。
これは私や娘に対する裏切りというよりも、ランバート家を軽んじ、彼の生家であるテレンス家にも害をなす行為だと、彼は気づかなかったのでしょうか。
しかも相手がこの国の王族だなんて、王家の醜聞になってしまいます。いえ、すでにそうなっているから、あなたは拘束されて、そんなところに居るのですね。
ではあの女性は、もしかして。
浮かび上がった可能性に、私は縋るようにオースティン王太子殿下を見つめてしまいました。
オースティン王太子殿下は目を逸らすことはなく、ただ痛みを堪えるかのように目を眇めています。
ああ、やはり。
オースティン王太子殿下の表情に、私は気が遠くなりそうでした。
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