2 / 8
CASE1 広瀬 海翔
1-2
しおりを挟む「やーだー、この人小指立ててるぅ」
「きゃはははは、おかまさんですかぁ」
なんて事を考えてたら、耳に煩い高音が店の中に響いた。
だから、ここはゲイバーだっての。
声のする方に目を向ければ、薫く……んん、キャロルちゃんがソファ席の子たちに絡まれてる。
本当にさぁ、君たちが注文したお酒とおつまみを運んで行っただけでしょうが。それにキャロルちゃんはトランスジェンダーで心は女の子なんだから、あんな風に笑われたらきっと後で泣いてしまう。だって、すでに顔が泣きそうに歪んでるもの。
やれ、やれとソファ席の方に助けに行こうとすれば、カウンター席からも声がかかった。
「ねぇ、お兄さんもゲイなんでしょ? 男の人が好きなの?」
まるで、可愛子ぶってるっていうか、わざと空気読めない子を演じているかのような女の子が、そう聞いてきた。
「うん、そうだよ。俺は男の人が好き」
こういうところに来る女の子って、だいたい皆おんなじ質問をするから、俺はにっこりと笑って答えてやる。
男が男を好きで何が悪い?
別に付き合えって無理やり迫ったりしないし。時々ハッテン場は利用するけどさ。あんたらには何にも迷惑なんかかけてないよ。
「やっぱりそうなんだぁ、ジュリアンなんてどう? かっこいいでしょ?」
「ちょ、止めてヨ、まどか」
カウンター席にいるカップルは何が楽しいのか、そんな事を言ってくすくすと笑う。けれど、ジュリアンと呼ばれた金髪に青目の外人の表情には、ほんの少しの嫌悪感が滲み出ていた。
ああ、こいつは俺の父親と同じようなタイプか。
「じゃあ俺なんてどうっすか。お兄さんも綺麗っすよね」
なんて、さっきセシルちゃんを店外デートに誘っていたチャラ男が、へらへら笑って言った。
「趣味じゃない」
けれど、興味本位な男なんてお断りだ。バッサリと切り捨ててやれば、「うわー最悪、男に振られたぁ」なんて言って騒いでる。本当にもううんざり。
まるで、ノンケたちにはテンプレの教本でもあるんじゃないかと思ってしまう。
だって、誰も彼も似たような事しか言わないから。
できるなら、この店も女性はNGにできたらいいのに。
でも、そうするとママさんのお友達がお店に来れなくなっちゃうから、出来ないことくらい分かってるんだけどさ。
女性客OKにしていると、どうしたってこういう興味本位の男どもも来ちゃうから、本当に嫌なんだよね。
「あ、カイさん」
ソファ席から戻って来たキャロルちゃんが俺を呼んだ。
「なに?」
「ソファ席のお客様がね、あれ飲み終わったら帰るから、お会計お願いしますって」
「ああ、そう。分かった。計算しとく」
180センチを超える身長の持ち主の癖に、いつも自信なさそうに背中を丸めているキャロルちゃんは、こういった人種には恰好の餌食だ。
だからさっさとカウンターの内側にいれて、俺は会計票を集めてキャッシャーの方へと向かう。
伝票は結構な数になっているんだけど、金額はそこまでいってない。まあ、入店した時間も遅かったから仕方ないけどさ。これは完全に学生の飲み会だな。
大学生ね。
そう一人ごちると、ちょっとだけ嫌な思い出が蘇った。
俺も自分の性癖がおかしいんじゃないかって不安に思ってた時期があったわけ。
それがちょうど高校生の時。
でも、地方でそんな性癖持ちなんて出会えるはずもなく、大学へ進学して入ったサークルで知り合った先輩に好きだ、って言われて、そういう事になった。
まあ、新歓コンパで酒も飲んでたし、その先輩も格好良くて、なんか流されたんだけど。
今思うと、お手軽だったなって。
しかも、俺の初めてを奪った先輩は、散々俺を弄んでおきながら、就職したらあっさりと関係を絶ちやがった。
もちろん男同士で結婚できるなんて夢みたいなこと考えていた訳じゃないけどさ。
別れるなら別れ方ってあるだろ。
それに何年か後に、学生の頃から付き合ってた女性と結婚するって、メールが来たんだ。本人から。
ショックだったよね。
大学生の時、俺と付き合ってたんじゃなかったの?
学生の頃から付き合ってた彼女って誰?
つーか電話着拒してたよね?
ラ〇ンも削除されてたし。
色んな事がぐるぐる頭の中を回ったけど、一番ショックだったのは、そのメールが知人あての一斉メールで送られてきたってこと。
あの先輩が、一々メアドを細かく管理なんてするはずないから、俺のアドレスは最初から知人グループに振り分けられていたんだ。
身体の関係もあって、好きだと言っていたくせに。
本当は俺の事なんて恋人だとすら思ってなかったんだって気づいて、それがショックで。
俺もあのメールを貰ったときはまだ、社会人1年目で、ようやっと先輩の事を振り切れたと思った矢先だったから、ショックを受けている自分に更にショックを受けてさ。
メールアドレス変えとけばよかったって、その時初めて思ったよね。
ここで働き始めた時に、なんとなく初めての男の話になって、笑い話として話したらママさんにも言われちゃった。
「そんな最悪な男と別れたなら、携番とかメアドとか諸々変更しなくちゃダメじゃない」
うん、今なら分かるけど、あの頃はまだ俺も若かったのよ。他にも友人がいたし。
でも携番変えるなんて言ったらさ、何かあったって分かるじゃん。
まさか先輩に弄ばれました、なんて言えないし。言いたくもなかったし。
「カイさん、お会計お願いします」
多分、さっきのキャロルちゃんとの会話聞いてたんだろうな。カウンター席の女の子が、手をひらひらさせていた。
店内を見回せば、さっきまで煩かったのが嘘のように、俺たち3人と目の前にいる女の子だけになってる。
「あ、すみません、お待たせしちゃって……」
あれ、あの外人、彼女を置いて先に出ちゃったの? なんて思いながらも、一応、客商売だからな。
笑顔で合計金額を伝えようとしたその瞬間。
「え、なに?」
「ひぅ」
「わー魔法陣?!」
なんて皆の声が聞こえて。
俺たちは何だかよく分からないまま、光に渦に飲み込まれたんだ。
1
あなたにおすすめの小説
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
【完結】この契約に愛なんてないはずだった
なの
BL
劣勢オメガの翔太は、入院中の母を支えるため、昼夜問わず働き詰めの生活を送っていた。
そんなある日、母親の入院費用が払えず、困っていた翔太を救ったのは、冷静沈着で感情を見せない、大企業副社長・鷹城怜司……優勢アルファだった。
数日後、怜司は翔太に「1年間、仮の番になってほしい」と持ちかける。
身体の関係はなし、報酬あり。感情も、未来もいらない。ただの契約。
生活のために翔太はその条件を受け入れるが、理性的で無表情なはずの怜司が、ふとした瞬間に見せる優しさに、次第に心が揺らいでいく。
これはただの契約のはずだった。
愛なんて、最初からあるわけがなかった。
けれど……二人の距離が近づくたびに、仮であるはずの関係は、静かに熱を帯びていく。
ツンデレなオメガと、理性を装うアルファ。
これは、仮のはずだった番契約から始まる、運命以上の恋の物語。
上手に啼いて
紺色橙
BL
■聡は10歳の初めての発情期の際、大輝に噛まれ番となった。それ以来関係を継続しているが、愛ではなく都合と情で続いている現状はそろそろ終わりが見えていた。
■注意*独自オメガバース設定。■『それは愛か本能か』と同じ世界設定です。関係は一切なし。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる