セクシャルマイノリティを異世界召喚するなんて正気か⁉

村上かおり

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CASE1 広瀬 海翔

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「やーだー、この人小指立ててるぅ」
「きゃはははは、おかまさんですかぁ」

 なんて事を考えてたら、耳に煩い高音が店の中に響いた。

 だから、ここはゲイバーだっての。

 声のする方に目を向ければ、薫く……んん、キャロルちゃんがソファ席の子たちに絡まれてる。

 本当にさぁ、君たちが注文したお酒とおつまみを運んで行っただけでしょうが。それにキャロルちゃんはトランスジェンダーで心は女の子なんだから、あんな風に笑われたらきっと後で泣いてしまう。だって、すでに顔が泣きそうに歪んでるもの。

 やれ、やれとソファ席の方に助けに行こうとすれば、カウンター席からも声がかかった。

「ねぇ、お兄さんもゲイなんでしょ? 男の人が好きなの?」

 まるで、可愛子ぶってるっていうか、わざと空気読めない子を演じているかのような女の子が、そう聞いてきた。

「うん、そうだよ。俺は男の人が好き」

 こういうところに来る女の子って、だいたい皆おんなじ質問をするから、俺はにっこりと笑って答えてやる。

 男が男を好きで何が悪い? 

 別に付き合えって無理やり迫ったりしないし。時々ハッテン場は利用するけどさ。あんたらには何にも迷惑なんかかけてないよ。

「やっぱりそうなんだぁ、ジュリアンなんてどう? かっこいいでしょ?」
「ちょ、止めてヨ、まどか」

 カウンター席にいるカップルは何が楽しいのか、そんな事を言ってくすくすと笑う。けれど、ジュリアンと呼ばれた金髪に青目の外人の表情には、ほんの少しの嫌悪感が滲み出ていた。

 ああ、こいつは俺の父親と同じようなタイプか。

「じゃあ俺なんてどうっすか。お兄さんも綺麗っすよね」

 なんて、さっきセシルちゃんを店外デートに誘っていたチャラ男が、へらへら笑って言った。

「趣味じゃない」

 けれど、興味本位な男なんてお断りだ。バッサリと切り捨ててやれば、「うわー最悪、男に振られたぁ」なんて言って騒いでる。本当にもううんざり。

 まるで、ノンケたちにはテンプレの教本でもあるんじゃないかと思ってしまう。

 だって、誰も彼も似たような事しか言わないから。

 できるなら、この店も女性はNGにできたらいいのに。

 でも、そうするとママさんのお友達がお店に来れなくなっちゃうから、出来ないことくらい分かってるんだけどさ。

 女性客OKにしていると、どうしたってこういう興味本位の男どもも来ちゃうから、本当に嫌なんだよね。

「あ、カイさん」

 ソファ席から戻って来たキャロルちゃんが俺を呼んだ。

「なに?」
「ソファ席のお客様がね、あれ飲み終わったら帰るから、お会計お願いしますって」
「ああ、そう。分かった。計算しとく」

 180センチを超える身長の持ち主の癖に、いつも自信なさそうに背中を丸めているキャロルちゃんは、こういった人種には恰好の餌食だ。

 だからさっさとカウンターの内側にいれて、俺は会計票を集めてキャッシャーの方へと向かう。

 伝票は結構な数になっているんだけど、金額はそこまでいってない。まあ、入店した時間も遅かったから仕方ないけどさ。これは完全に学生の飲み会だな。

 大学生ね。

 そう一人ごちると、ちょっとだけ嫌な思い出が蘇った。

 俺も自分の性癖がおかしいんじゃないかって不安に思ってた時期があったわけ。

 それがちょうど高校生の時。

 でも、地方でそんな性癖持ちなんて出会えるはずもなく、大学へ進学して入ったサークルで知り合った先輩に好きだ、って言われて、そういう事になった。

 まあ、新歓コンパで酒も飲んでたし、その先輩も格好良くて、なんか流されたんだけど。

 今思うと、お手軽だったなって。

 しかも、俺の初めてを奪った先輩クソヤローは、散々俺を弄んでおきながら、就職したらあっさりと関係を絶ちやがった。

 もちろん男同士で結婚できるなんて夢みたいなこと考えていた訳じゃないけどさ。

 別れるなら別れ方ってあるだろ。

 それに何年か後に、学生の頃から付き合ってた女性と結婚するって、メールが来たんだ。本人から。

 ショックだったよね。

 大学生の時、俺と付き合ってたんじゃなかったの? 

 学生の頃から付き合ってた彼女って誰?

 つーか電話着拒してたよね?

 ラ〇ンも削除されてたし。 


 色んな事がぐるぐる頭の中を回ったけど、一番ショックだったのは、そのメールが知人あての一斉メールで送られてきたってこと。

 あの先輩クソヤローが、一々メアドを細かく管理なんてするはずないから、俺のアドレスは最初から知人グループに振り分けられていたんだ。

 身体の関係もあって、好きだと言っていたくせに。

 本当は俺の事なんて恋人だとすら思ってなかったんだって気づいて、それがショックで。

 俺もあのメールを貰ったときはまだ、社会人1年目で、ようやっと先輩の事を振り切れたと思った矢先だったから、ショックを受けている自分に更にショックを受けてさ。

 メールアドレス変えとけばよかったって、その時初めて思ったよね。

 ここで働き始めた時に、なんとなく初めての男の話になって、笑い話として話したらママさんにも言われちゃった。

「そんな最悪な男と別れたなら、携番とかメアドとか諸々変更しなくちゃダメじゃない」

 うん、今なら分かるけど、あの頃はまだ俺も若かったのよ。他にも友人がいたし。

 でも携番変えるなんて言ったらさ、何かあったって分かるじゃん。

 まさか先輩に弄ばれました、なんて言えないし。言いたくもなかったし。

「カイさん、お会計お願いします」

 多分、さっきのキャロルちゃんとの会話聞いてたんだろうな。カウンター席の女の子が、手をひらひらさせていた。

 店内を見回せば、さっきまで煩かったのが嘘のように、俺たち3人と目の前にいる女の子だけになってる。

「あ、すみません、お待たせしちゃって……」

 あれ、あの外人、彼女を置いて先に出ちゃったの? なんて思いながらも、一応、客商売だからな。

 笑顔で合計金額を伝えようとしたその瞬間。

「え、なに?」
「ひぅ」
「わー魔法陣?!」

 なんて皆の声が聞こえて。

 俺たちは何だかよく分からないまま、光に渦に飲み込まれたんだ。
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