セクシャルマイノリティを異世界召喚するなんて正気か⁉

村上かおり

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CASE1 広瀬 海翔

1-8 *

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「あー、さすがに、怠い」
「大丈夫か、カイト」
「んー、水、欲しい」

 いったいどれくらいそうしていたんだろう。

 気が付いたら、俺は偉丈夫の腕の中で微睡んでいた。その上、身体はさっぱりしているし、物凄く肌触りのいい寝間着のようなものも着ているみたい。

 そして目が覚めれば、偉丈夫が甲斐甲斐しく世話をしてくれる。

 水が飲みたいと言えば、ほんのりと果物の味がする水を口移しで。

 お腹が空いたと言えば、一口サイズのサンドウィッチが口元に寄せられる。

 それは時に果物だったりゼリーみたいなものだったりした。

「しっかし、俺たちどんだけセックスしてた?」

 偉丈夫を座椅子代わりにして、俺ははふうと息をつく。

 今までは熱に浮かされて、それこそただひたすらに快楽を貪っていたような気がするんだ。

「ああ、三日ほどこの部屋に籠っていたな」

 なんてことないように答えが返ってきて、逆に俺はびっくりした。

「は? 三日? その間ずっとセックスしてたの?」

 信じられない思いで問い質せば、偉丈夫はクスリの影響だな、なんて言う。

 クスリを盛られたのは分かっていたけれど、三日も続く強烈なものだった事が驚きだ。そして俺の体力も良く持ったなって思う。

「今回は、強制的に発情ヒートさせる誘発剤だったから、妊娠はしていないはずだ」

 しかも、妊娠なんてパワーワードが出てきて、俺は固まった。

「俺、男だから妊娠なんて」
「いやオメガだからこそ誘発剤が効いて発情ヒートがおきた。だから間違いなく妊娠できる」

 ああ、もう、本当に。

「ここが俺たちのいた世界とは別の世界で? 俺は男なのにオメガだから妊娠するってぇの? なんの冗談だよ」
「冗談ではない。それにカイトは、俺の…いなんだ」

 偉丈夫の胸に寄り掛かっているのに、彼の最後の言葉が聞こえなかった。俺はその事にイラっとする。

「なあ、言いたい事があるならはっきり言え」
「……カイトは俺のつがいなんだ」
「……」

 つがい。と言われて、分かった、なんて言えると思うか。また俺の分からない単語が出て来たよ。

 本当に、この世界は俺の常識からかけ離れていて、全く理解が及ばない。

つがいって何?」
つがいとは、竜人族や獣人族に見られる現象だ。お互いが互いの唯一であり、対であり、何より誰よりも惹かれ、焦がれ、愛しいと思う相手。別かたれれば気が触れるとも、衰弱するとも言われている」

 ぼそぼそと紡がれた言葉に、俺ははっきり言ってひいた。

 だって、別かたれればって別れたらって事だろう? なのに、気が触れるとか衰弱するとか信じられるかって思うから。

 そんな相手がいるんなら、人族のオメガを攫う必要なんてないだろうし、こんな風に異世界から拉致ってくる必要も……。

「え、だって俺、異世界から来たんだよ? なのに、つがいなの?」
「……獣人族であれば、つがいに出会う確率は高い。しかし竜人族はつがいに出会う事の方が難しいんだ」
「そんな事って」
「竜人族は血が濃ければ濃いほど長く生きる。だが、つがいもそうだとは限らない。人族である場合、生まれてもすぐ死んでしまう事もあるし、見つけた時には既に老齢になっていたという話もある。そしてカイトのように他の世界にいる可能性まで出てきた……だが俺はカイトに出会えた。なんという僥倖か」

 そっと腹に回された腕は、がっちりとしていて固い。筋肉もみっしりと詰まっている感じがして、俺のひょろりとした腕とは雲泥の差。なのに、その腕は温かいのに、ほんの僅かに震えていた。

「俺と出会えない方が長生きできた?」
「……馬鹿な事を言わないでくれ。出会えたことが僥倖なんだ。これほどの幸せがあるか。しかもカイトはオメガで、子を成す事もできる。だが、カイトを元の世界に戻すことは出来ない。なのに、俺はそれを嬉しいと感じている……すまない」

 そう言われて、俺は偉丈夫が震えている訳が分かった。

 この男はでかい図体をしている癖に、俺に嫌われるんじゃないかって怖がって震えている。

 異世界召喚だの、オメガだの、つがいだの、妊娠だのと色々情報過多すぎて、はっきり言ってしまえば俺の処理能力を超えてるんだ。

 それに番の愛が重すぎるのも、どうかと思う。

 だって竜人って長生きみたいだし、俺はどう頑張っても人間で、年齢だって30だから、きっとあと50年も生きられるかどうか。

 なのに、よくよく話を聞いてみれば、番を亡くした人は、相手を追うように死んでしまうらしいんだ。気が触れるとか衰弱するって話も怖いけれど、なんかそいつの命を背負わされた気分になる。

 他人の命を背負うなんて、それこそどれだけの覚悟をしたらできるんだろう。

 俺には恐ろし過ぎて無理って思うけど、俺は、いや俺たちはこの世界から元の世界には帰れないらしかった。

 そう言われてしまったら、この世界で生きて行く覚悟も決めなくちゃいけないってことで。

 もちろんオメガな俺たちが何の保護もなく放り出されたら、どうなるかなんて分かったもんじゃない、らしい。

 それこそ奴隷商人に捕まって、誰かに売られるか、山賊とか盗賊に捕まって一生飼い殺されるか、やっぱり売られるかするだろう、とも聞いた。

 もうそれだけでビビっちまう。

 それに、俺を抱きしめて震えている男がいるんだよね、ここに。

 どうせ、あっちの世界でも俺は家族に受け入れてもらえなかったし。まあ、母親は結構フラットで、俺がゲイでも気にしてなかったみたいだけど。父親と弟はダメだった。完全に拒絶された。

 それを考えると、別にこの世界で生きて行ってもいいかな、なんて。

 お気軽に考えてしまったりもする訳で。

 だって、きっと、この男は、俺の事を手放さない、はずだ。

 俺の記憶には朧げにしかないけれど、クスリで発情ヒートを促された三日の間、俺の側に常に居て、身体を慰め、快楽に溺れさせ、身体を清め、飲み物や食事を用意し、俺の面倒を全て見てくれたのは、俺に嫌われる事を恐れているこの男アスール

 体格のいい男くさい偉丈夫が、俺を番だと言い、甲斐甲斐しく世話をする姿は、端からはどう見えただろう。

 この世界の常識なんて俺には分からないから、そんな事すら気にかかった。

 けれど今さら、この男を手放せと言われて、俺は手放せるだろうか。

 だって今までは、どんなに欲しくても手に入れる事が出来なかったんだ。 

 俺の事を愛してくれて、俺が愛しても問題がない相手。

 そんな宝物のような相手が、今、目の前にいる。

 今までいた世界の、ゲイというマイノリティは、どこか刹那的で。

 愛して欲しいとこいねがっても、与えられるのは一晩だけの愛と快楽。

 ママさんと旦那さんみたいなカップルは少数派で、出会う人、出会う人、どこか諦めたような瞳でその場限りの恋愛を楽しんでいた。

 たぶん、俺もそうだったと思う。

 だって俺たちは、どんなに愛し合っていても、結婚することも、子供を産むことも、普通の男女なら当たり前なものが与えられないんだ。

「彼が事故で亡くなっても、あたしにはなんの連絡もなかったわ」

 そう寂しそうに言ったのは、常連客の一人で。

 お洒落も化粧も気合いが入った、とても素敵な姐さんだった。

 でも、その日の姐さんは黒っぽいシンプルなワンピースに、すっぴんかと思う化粧しかしてなくて。

「彼の友人の一人として、お葬式の連絡がきて初めて彼が死んだって、知ったの」
「今日ね、この子の彼氏の命日だったの。でも」
「お墓の場所も教えて貰えなかった。親御さんがね、息子がゲイだったなんて認めたくなかったらしくって。あたし、こんなんだしねぇ、お葬式の時に目をひん剥かれて、母親は気を失うし、父親は激怒するし」
「塩、まかれたわよね」
「ええ、そうね。まかれたわ」
「だから今日は二人で飲みに行きましょうって」
「マリアンなら、2人でしんみりしてても受け入れてくれるから」

 いつもならメイクも服装もバッチリと決めてくるそのその人が、シンプルな服とメイクでいた理由が分かって、俺もママさんも何も言えなかった。

 ただ、ゆっくりと思い出を語りながら、彼が好きだったというお酒を傾ける彼らに、俺は自分の未来を見たような、そんな気分になって。

 なんで、男が男を好きだと言うだけで、この世界はこんなに辛くて寂しいんだろう。

 愛したい、愛して欲しい、2人で一緒に過ごしたい。

 俺たちが望むものは、そんな単純なものなのに。

「……カイト……」

 背後から抱きしめられる腕に、少しだけ力が込められた。

 けれど俺の耳に届いた声は、カッコイイ偉丈夫とは思えないほどに、どこか頼りない。

「なぁ、俺は男だけど」
「それが何か関係があるのか」
「族長? の次男なんだろ、許嫁とかそういうの、いなかったのか」
「俺にはいなかった」
「……そっか」

 なのに、異世界に召喚されて出会った男が俺を番だと言った。

 まだ出会って三日って言って良いのだろうか。ほとんど快楽に耽っていて、実質一日にも満たない位しかお互いを知らない、のに、俺はこの男に許嫁みたいな存在がいなかったことが嬉しいと思ってしまった。

「俺、結構我儘だよ」
「番の我儘を叶えてやるのが私の甲斐性というものだ」
「ふふ、そうなんだ。だったらさ、今からまたシヨ」
「しよ、とは?」

 俺の言葉に、真面目に返してきた男に、笑ってしまう。

 俺はアスールに凭れかかっていた上体を起こして、彼の腕の中でゆっくりと向きを変えた。

 そしてアスールの首に両腕を巻き付ける。

「カイト?!」
「しよって、俺が誘ってるのに、しないの?」

 首筋に顔をうずめて、わざと耳元でそう言ってやれば、アスールは真っ赤になったみたいだ。だって触れているうなじや首が熱い。

「しようって、アレか」
「そうアレ。あ、でも、ヒート? とか言うのがないとダメなのかな」
「いや……問題はない!」

 またもや両脇を掴まれて、俺はそのままベッドの上へと押し倒された。そして啄むように口づけを落とされて、俺はようやく手に入れる事が出来たものに、うっとりとする。

「なぁ、もっと深いキスをしよう」

 俺がそう囁けば、アスールはぎこちなく唇を合わせてきた。

 どうやら、この男はこういうことに慣れてはいないらしい。

 これは、これで教えがいあるよな。

 俺は、そんな事を考えながら、合わせた唇の隙間から舌先を覗かせ、アスールの唇を愛撫した。そうするとアスールは、それを受け入れ同じように舌先を合わせてくる。

 ああ、こんな他愛もない触れ合いだけでも気持ち、いい。

 うん、そうだな。俺は、いいや。ここでアスールと生きて行こう。

 なんだか凄く現金なようだけれど、俺はすんなりとそう思った。

 でも、母親と、こんな俺でも受け入れてくれた、ゲイバー「マリアン」のママさんや旦那さん、常連客のみんなに会えないのは、はっきり言えば寂しいし、今頃心配してるだろうなぁとも思う。

 出来る事なら、「なんかかっこいい彼氏できた! 心配しないで」ってメッセージだけでも送れたらいい。

 自分で考えても恥ずかしいけれど、この愛あるセックスが終わったらアスールに聞いてみよう。

 どんどん深くなるキスと愛撫に、俺はそんな事を考えながら溺れて行った。



ーーーーーーーーーー

 切りどころが分からず長くなってしまいました。


 広瀬は一度ここで一旦終了。お次は薫ちゃんです。

 ただ少々お時間を頂くと思います。再開をご期待ください。
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