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19.のんびりと時間をかけて帰るそうです
ああ、もう、どうしてこうなったのでしょうか。
先触れは出したけれど、直ぐに着いたら相手も準備が整わないだろうと、城下を馬車でゆっくりと走りましたわ。
それも大通りとかは避けて、森林公園や植物園、美術館などが並ぶエリアを。
もちろん彼らにしてみれば予定外の行動でしょう。だから誰も馬車から降りたいとは言いませんでしたわ。でも、森林公園や植物園は広く、馬車のまま乗り入れても見学できるルートがあるのですって。わたくしは知りませんでしたわ。
ゆっくり、ゆっくり馬が散歩でもするかのように歩くので、本当にのんびりと窓の外を眺めることが出来ました。そうしますと色々な木々の緑が目を楽しませてくれますし、植物園では果実のなる樹木を集めたエリアもありました。
それこそ小さく可愛らしい花を咲かせる低木は、ラズベリーの実をつけるでしょう。あ、あちらの背の高い木はヤマモモですわね。まあ、マルベリーの木も植わっていますのね。
「うふふ、レオノーラ様は植物が好きでいらっしゃるのね」
などと、アリソン様が仰いました。わたくしは、もちろんとお答えします。だって、実のなる木は、領民たちの大切な食料にする事が出来るんですもの。
春の季節に花を咲かせ、初夏や夏に実をつけるラズベリーやブルーベリーは、そのまま食べても美味しいですけれど、たくさん取ってジャムにすれば保存食になります。白いお砂糖は高額なので、我が領では畑でてんさいを育て、その絞り汁を使いますけれど。
これもまた沢山灰汁が出るので領民は1日がかりで、薄茶色の砂糖を作ります。白い砂糖に比べれば甘さも控えめですけれど、それを使って作るジャムは美味しいんですのよ。
酸っぱいレモンもオレンジも、乾燥させれば少し甘くなりますし、日持ちも良くなるんです。秋になれば栗の実もなりますし、山ぶどうも、アケビも、シイの実だって食べられますわ。
そんな話をいたしますと、皆様驚かれたようです。
「シイの実って食べられますの?」
「ええ、虫食いがないか確認しながら、固い皮をむいて茹でて灰汁は捨てて、すり潰して粉にして小麦に混ぜれば嵩増しにもなりますし、荒く砕いてクッキーやパンに混ぜても美味しいですわよ」
得意気に話す事ではないかもしれません。けれど、我が領では大事な食料になるものです。
わたくしのお父様は土壌を豊かにしようと研究をしていらっしゃいますが、それと共に我が領に広がる大いなる森の、その恵みを探すのも好きなんです。時々、はずれを引いてお腹を壊しているようですけれども。わたくしも、できるだけお父様のようになりたいと思っております。
「……それは、どこの森でも手に入るものなのだろうか」
ふとクストディオ殿下にそう問われました。
「そうですわね。寒い地域と暑い地域とでは異なりますし、周辺諸国のどこかではパンノキなるものが生えている場所があるとか。クストディオ殿下がどの地域を気にされているのか、わたくしには分かりませんが、一度その地域を父に見て貰えればある程度分かるかもしれませんわ」
「そうか……まだ時間はあるような気がしていたが、今から動いた方がいいかもしれん」
クストディオ殿下のお眼鏡に叶った答えを、わたくしは答えることが出来たのでしょうか。わたくしの隣でぶつぶつと呟く殿下の表情は真剣でございました。
それにしても、とわたくしは考えます。
何気に楽しい時間を過ごさせていただいてしまっておりますが、気になるのは家にいるだろう妹の存在です。
余程の事がない限りは、今の時間ならお母様もお兄様もお義姉様もいらっしゃるとは思います。きっと今頃は殿下の先触れで混乱してはいるでしょうが、お出迎えの準備をしているはず。
けれど妹は何をしているでしょうか。
わたくしの制服やバッジを欲しがり、どうしても手に入らないと分かると不貞腐れて部屋に籠っておりました。まあ、そのおかげで学園に来ることが出来たのですけれども。
きっと帰ってくるわたくしを虎視眈々と待っていたと思うのです。しかし、そこに王子殿下方がタウンハウスを訪れるという先触れが届いたわけで。
考えれば考えるほど頭が痛くなってくるような気がしました。
何事もなく送って頂いて、休憩代わりにお茶を飲んでお帰りいただく事が出来ればベストだとわたくしは思います。たぶんお母様やお兄様もそう思っている事でしょう。
できれば妹は部屋に閉じ込めておいてくれないかしら。なんて思うのは、わたくしの我儘でしょうか。
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