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第一章
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しおりを挟むしばらくは平穏な日々が続いた。
とは言え、リーリア嬢は相変わらずである。
シンディーラ皇子に一生懸命、話しかけ笑いかけ、身体を摺り寄せているのだが、シンディーラ皇子はといえば、疎んじもしないし話しもしているのだが、リーリア嬢の望む形ではないようだ。
「おかしいなぁ、シンディーラもイライアスも好感度あげるイベントが全然起こらないし、っていうか、イライアスなんてどこに隠れてるのよ、会う事すらできてないじゃない! でも大丈夫、今の授業が終わったら一旦寮に戻るはずだから、ここにいれば絶対に会えるはずよ」
などと一人でブツブツ人気のない廊下の片隅で、リーリア嬢が呟いていたそうなのだ。
それを聞いてしまったのは、不運にもメイドのミーシャで、この時もどうにもリーリア嬢にスケジュールを把握されているらしいと、前もって経路を確認してくれて出くわしたらしい。
彼女も軽い認識阻害の術くらいなら使えるので、授業中に校内をうろつく時は常にかけるようにしていたおかげで見つからないで済んだようだ。
だが、言葉の意味は分からないものの、シンディーラ皇子に対しても、イライアスに対しても敬称すらつけずに名前を呼び捨てている事に加え、イライアスの場合は完全につき纏い一歩手前な状況となれば、さすがのミーシャも黙って見ている訳にもいかない。とは言え、監視対象でもあるリーリア嬢に、下手に危害を加えるわけにもいかず、寮に戻る別ルートを考えることにしたようだ。
「仕方がありません。あれは恐怖ですよ? 暗がりで一人ブツブツ呟く女。しかも皇族、王族に敬称なしで呼び捨てるなんて、他の誰かに聞かれたら、まず間違いなくコレです」
そう言って右手を首の前でスライドさせたミーシャに、ディノッゾもイライアスも引き攣り笑いを浮かべるしかなかった。
「あれ~? イライアス様、どこにいるの~?」
今日もまたリーリア嬢の声が教室内に響き渡る。とは言え、授業中にメイドは教室内には入ることができないので、一つ取り決めをした。
リーリア嬢が来たら、ミーシャの召喚獣が姿を現す。ただし言葉はない。
ただ、召喚獣が姿を現したら即座にイライアスは認識阻害の術を強めに掛けて、同じ授業を受けていた生徒が外に出る際、一緒に出てしまう事にした。そうすればイライアスが教室にいる事はないし、術を使っている事も周りにばれないだろう。
ミーシャとの連携で今のところリーリア嬢に捕まる事はなかったが、他のターゲットがいない時に現れる彼女の姿と声は、完全にイライアスの苦手なものになってしまった。
「本日はサロンの方にお越しください、と伝言を承っております」
二人して恐怖のつき纏いから逃げ出したところで、ミーシャが伝言を伝えてくれた。この伝言はアメリア嬢からのものだ。
あれからアメリア嬢とパメラ嬢からは、週に1,2度の昼食会やお茶会にお呼ばれするようになった。
パメラ嬢にイライアスの気持ちはバレてはいないようではあるが、どうやらアメリア嬢は気が付いたらしい。こうやってイライアスを呼んでは、さりげなくパメラ嬢と会わせてくれている。
だが、こちらも会えるというだけで上手くいっているわけではなかった。何しろパメラ嬢には婚約者がいる。もちろんアメリア嬢にもシンディーラ皇子という婚約者がいるのだが。
だからイライアスの望む、パメラ嬢と二人っきりなどは夢のまた夢で、結局は数名の令嬢と子息と交流会という名目でまとめて会っているだけに過ぎない。
でもそれでもいいのだ。
いま、気持ちを打ち明けたとしてもパメラ嬢を困らせるだけ。
リーリア嬢の報告書と共に、ディノッゾやミーシャからも王子がパメラ嬢に一目惚れしてしまいました、というパメラ嬢の身上書とルディラ伯爵家の調査書が、ラティーロ王の元に届けられたらしく、こちらで手を尽くしてやるから暫くはがまんしろよ、なんて手紙がラティーロ王からイライアスへと届けられた。
愚息よ元気か、お前、爆笑したぞ。
なんて書き出しの手紙に目を通す自分の気持ちも考えてくれ、と手紙を手にしたイライアスは暫くの間不貞腐れていたが、父が動いているのであれば、遅かれ早かれパメラ嬢の件は何とかなるだろう。
本当なら自分で何とかしたいとは思うけれど、今回の場合は相手が悪い。何せオズワルド帝国の宰相の息子だ。しかもルディラ伯爵家には嫡子がいるというのに、パメラ嬢とジェームスを結婚させ、伯爵家をジェームスに継がせろなどと言ってくる相手が面倒臭くないはずがない。
その話を聞いたとき、あまりにも無茶苦茶だとイライアスは思った。だってその家には既に嫡子がいるのだ。ルディラ伯爵家に嫡子がいないのならまだしも、嫡子がいる家に婿養子に入れさせて家を継がせろなんて正気の沙汰とは思えない。ただ、ルディラ伯爵は子爵位も持っているらしく、ジェームスとパメラ嬢の婚姻が整った場合は、息子に子爵位を譲渡するつもりだったらしい。
オズワルド帝国は皇帝一族と五つの領地を治める領主たちで成り立っている国だ。
そのために皇帝は、各領地から妃を娶る必要があり、皇妃と四人の側妃の力関係は、その時の領主たちの力関係でもある。
確かエルディーラ皇子とシンディーラ皇子の母君である現皇妃は、ドアブロ公爵家出身のはずだ。海岸線を領地に持つドアブロ領は、前々皇帝陛下時代にその当時の皇帝の二番目の妹姫が嫁した家のはず。そのお陰もあって、前皇帝陛下の時代まで宰相職についていたと記憶している。だが娘を皇妃にしたまでは良かったが、領地で災害が発生し、それで手一杯になってしまって宰相職を辞任、クルド家に宰相職を任せたのだったか。
なんとも面倒な話しだと思う。
現皇妃は皇子二人を生んでいるが、側妃にも皇子が何人かいると聞く。とは言え、十五に満たない子供たちばかりのようだ。となるとやはり第一皇子のエルディーラが次期皇帝の可能性が高いだろう。次に可能性が高いのが同母のシンディーラとなれば、母としては兄を助けるよう言い含めているはずだ。
それにシンディーラ皇子は、話してみると領地経営にやたらと詳しい。たぶんアメリア嬢との婚姻で、降下するつもりなんだろう。
王族も皇族も兄弟が多ければ関係もまた複雑になる。イライアスの場合は、同母の兄弟しかいないし、弟妹も一人ずつだ。多くはないが少ないとも言い切れない数。
妹はどこか国内の貴族に嫁すだろうし、弟にはできるなら王族として城に残り、是非とも政務を手伝ってほしいものだ。
そんな事をつらつらと考えながらサロンへと顔出したイライアスは、ホストであるアメリア嬢に笑顔で迎えられた。もちろんその隣りにはサポート役としてパメラ嬢の姿もある。
「お招きありがとう、アメリア嬢、パメラ嬢」
そう言ってイライアスが微笑めば、アメリア嬢はクスクスと笑い、パメラ嬢にイライアスを案内するように指示を出してくれた。
それが、ほんの僅かな二人だけの時間だ。しかもパメラ嬢はまだイライアスの気持ちには気づいていない。
けれど、彼女が自由になったら必ずこの想いを伝えようと、お茶会のためにクリームイエローのドレスを身に纏ったパメラ嬢の傍らを歩きながら、イライアスはそう心に決めたのだった。
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そ、そろそろデート回とか書いてみたい。しかしまだ婚約解消してないんだよねぃ。
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