死配人-壱骸の狂-ししゃかい

不幸中の幸い

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死配人-壱骸の狂-ししゃかい

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俺はYouTuberだ。特に、マイナー映画を紹介するのを得意としている。
メジャーな映画ではなく、マイナー映画に執着するのは、
俺だけが知っている優越感に浸るためでもある。
イイねや激励コメント来た時の爽快感は半端ない。

そうそう・・・
先日、街で妙な映画のチケットをもらっていたのを思い出した。
「おっと、、今日じゃねぇか」
上限四名の限定公開らしい。三部に☑が入っていた。
「俺は選ばれた観客ってことか…
四部制。一回当たり上限四名ってことかな?うーん…
ここからダッシュでいけば三部には間に合うよな。」
俺は映画館へ急いだ……
「はぁ?ここ?こんなところに映画館ってあったっけ?」
少し訝りながらも、思ったよりも立派な会場に入っていった。

駆け込みセーフ!何とか三部に間に合ったようだ。
会場に入る。先客が二人座っていた。
「既にお客さんいるじゃん。俺が三人目。もう一人くるのかな?」
入ると同時に、アナウンスが流れる。
「皆さまにゆったりと・・たの・・しんで・・いただくために・・
席を・・あ・・案内して・・おります」
ボソボソとした途切れ途切れの声質のため、聞き取りづらい。
確か……入り口の案内板にも同じこと書いてあったよな……。

薄暗い会場内で席を探していると、
入場口の近くで案内人が手招きをしているのに気づく。
「お‥客様…こちらの…せ‥席でございます」
抑揚のない途切れ途切れの声。
(聞き取りづれえなぁ。アナウンスもこいつがやってんのか?)
案内人の後ろにつきながら通されたのは、入り口と反対側の右よりの席。
(わざわざそこ? 他の客とはかなり離れているし、ゆったり座れる分、
まあいいけどな。)

俺は案内に従い、その席へ向かった。
あの案内人、どこにでもいそうな映画館のスタッフのようだが、
制服にはネームプレートや映画館の名前すら入っていなかったよな。
それと、これだけ広いのに、この案内人以外に、スタッフが誰もいないのか?
妙な気がしないでもなかった。

着席すると、暫くして先ほどの案内人も俺の座っている列の近くの席についた。
(はぁ・・・・?客席に座るのか?)
と思いつつ、チラリと横目で確認する。

髪の毛は長く、極度の細身。
中年か、いや、もう少し若い?
暗がりで顔はよく見えない。
が、男のように思えた。
口角の加減か、少し笑っているようにも感じる。

まあ、別にいい。
それよりも今は、この映画だ。
「どんな作品か、しっかりレビューしねえと。
 何か知らねぇがタイトルは書いてなかったんだよな・・。シークレットシネマ
 ってやつか?
 あ、、ライブ配信してやろうかなぁ、ゲリラで。
 いやそれは映画泥棒で俺が捕まっちまうか。ハハハ・・やめとこやめとこ・・」
館内が暗転し、上映が始まる。

———最初は何も気にならなかった。
だが、しばらくすると案内人の男が、ぼそぼそと何かを呟いているのに気がついた。
(……?)

耳を澄ます。
「し……し……」

ん?何だ?
何か言ったか?
「ま……し……し……ゃ…………が……ま……り……ねぇ」
聞き取れぬものの何かぞくりと寒気が走った。

気のせいか?
いや、そもそもなんでこいつは上映中に……。
不快感を覚えながらも、俺は気を取り直してスクリーンへ視線を戻した。
閉鎖的な空間で起こる惨劇・・
———物語が進むにつれ、奇妙な違和感を覚えた。


(え?まるで、この映画館で起こってるようなホラーじゃん)
その違和感は、映画の内容・会場内の様子に加えて、
館内の雰囲気そのものにも感じた。

最初に見渡したとき、二人いたはずの観客。
その誰からも、一切の物音がしない。
咳払いもなければ
身じろぎひとつない。
通常なら、多少の咳払い、ポップコーンを食う音、ささやき声、
確かに人数は非常に少ないが、何かしらの映画館特有の生活音があるものだ。
(みんな、映画に集中しているってことか?
こういう作品って熱心なファンが多いから、マナーがいいのかもな)
そう自分に言い聞かせたが、この場内は———
あまりにも‥‥静まり返りすぎている。

(……おかしい)
「何か、空気が重い……気のせいか?」
さっきまで、スクリーンの光でわずかに見えていた観客の顔が、
なぜか一様に暗闇に沈んで見えなくなっていた。
エンドロールが流れる。
場内が明るくなる。

不安感が背筋を凍らせた。俺はそっと周囲を見渡した。

———その瞬間。
「……!!?」

え!!!!か…か…観客が……死んでいる!?
二人供、無惨に。

血はどこにもない。
目をむき、口を開け、舌を出し…
苦痛に歪んだ顔のまま、ピクリとも動かない。
理解不能な恐怖で動けなくなる。

ふと、人が近づく気配を感じた。
そちらを見る。案内人の男がゆっくりとゆっくりと近づいてくる。

———ニタァ。
笑っていた。いや嗤っていた…


男は、嗤いながら底なしの空洞ような目で俺を見つめ、
かすかな臭気のするものを俺に噴霧した。
全身の力が抜ける……呼吸が、浅く……まぶたが……重い……
嗚咽を漏らそうとしたが、声が出ない。視界がじわじわと暗くなっていく……
手足が痺れ……動かせない。俺も……アイツらみたいに……!
薄れていく意識の中で、男の言葉がフラッシュバックした、
こいつが呟いていたのは…「また、ししゃかいが始まりましたねぇ」だったのか…
そして、死んでいたのは全員第一部と二部の観客たち…

「ししゃかい」が「試写会」から「死者会」へと変換された時、
男は薄い嗤いを浮かべながら、低い声で、はっきりと俺に言った‥
「死者会へようこそ……」

場内アナウンスが流れる。
『死者…会が・・間も・・なく始まります・・・ロビーに・・・お越しのお客様は・・・会場内に・・お入りください』

カツ……カツ……
ロビーから近づく靴音。

「失礼しまーす!選ばれた男でーす」
「どんな映画なんスかね?えへへ。
 あ、俺が最後?オオトリじゃん。待たせてすんませーん」
無防備に入ってくる、無邪気な若者の声。

「あ…あぁ……ぉ・・ぃ・・・・気・・づ・・・・逃げ・・・ぉ・・・」
俺が声にならない呻きを上げると、
男は最期の時を迎える俺を見下げながら、またどす黒い嗤いを浮かべた。
――――――暗転。

ゆっくりと、ゆっくりと、入り口に顔を向ける男。
「さて……第四部ですねぇ・・最後の四人目・・これで死者会が完成します」
ニタァーーーー
その顔に歪んだ嗤い———。
(完)
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