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心地よい風と満腹で眠くなったリヴンは残りの昼休みの時間を寝ることにした。
腕に巻き付いている髪はいつの間にか解けていた。大きなあくびを一つ、灯し木から降りる。木の上でじっと見ているエウェンにため息をつくと、両手を拡げた。
「抱きとめてやるからこいよ」
「いいの?」
「いいからしてんだろ」
いざ聞き返されると恥ずかしくなってきた。顔が熱くなるのを感じながら、早く来いというように腕を突き出す。エウェンの顔が無邪気に染まると、勢いよく飛びついてきた。
踏ん張ったつもりだが、勢いを抑えきれなかった。二人は盛大に芝生へ倒れた。リヴンにまたがっているエウェンが頬を緩めた。
「えへへ、このままお昼寝しちゃおーっと」
リヴンの首元に顔を当てた。リヴンが文句を言うより早く、すうすうと穏やかな寝息が首元をくすぐった。
「まじで寝やがった……」
間近で見るエウェンは植物種特有の美貌なのか、魔物として強いから美しいのか判断できない。
改めて見ると、ほんのり緑おびた白い肌の下は、魔力をおびた黄色の血液が通っているようだ。蔓草の髪を手に取れば、無意識なのか絡みついてくる。
試しに蔓草の髪がまとわりつく手を鼻先へ寄せてみた。
「かなり甘い匂いがするな……」
どこかで嗅いだ記憶がある。が、思い出せない。
葉は小粒で、新芽と思われるものには白や桃色に染まった斑が入っている。もう一度深呼吸をしてみる。しかし、わかるのは甘くていい匂いという事実だ。
リヴンはエウェンが落ちないように支え直した。指に絡みつく髪はさすが蔓草なだけあって幾重にも枝分かれしている。新しめの白い葉の中にツンと咲く赤みの強い桃色の新芽は美しさと同時になぜか卑猥に見えてきた。
サッとあたりを素早く見渡した後、興味本位で桃色の新芽を舐めてみた。しかし甘やかな香りに反して舌先に広がるのは植物特有の青々しさだ。
「青くさ……」
思いっきり眉を寄せて呻く。
がっかりしてため息をつけば、指に絡みついていた蔓草の髪がまるで怒ったかのようにリヴンの鼻先を軽く叩いた。
「いてっ!」
反射的に口にするが、痛みはない。
鞭のようにしなやかであるものの、勢いがないため少しむずがゆい程度だ。はじめての蔓草の髪の動きにいぶかしんで、視線を下ろす。
そうすれば、半目でふくれっ面のエウェンと目が合った。
「勝手に舐めて、その言い草はないんじゃないかな?」
ユラユラと揺れる蔓草の髪がペチペチと額を叩いてくる。しかし、痛みはなく、くすぐったいくらいだ。むず痒さに耐えきれず、蔓草の髪を掴んだ。
「悪かったって」
「本当に反省してる? 想像してみてよ。いきなり髪を掴まれて嗅がれた末に舐められて『青くさ』って言われた気持ちをさ」
言われたとおり、想像してみる。風呂に入っていないなら妥当かもしれない。しかし、入っていた場合、失礼極まりない発言だ。
フンフンと鼻息を荒くするエウェンへ尋ねた。
「前提として、お前は風呂入ってるのか?」
「リヴくんから見て、僕はそんな不潔に見えるの?」
逆に聞き返されてしまった。
エウェンから表情が消え失せ、完全に目が据わっている。エウェンが怒っている様子に、さすがのリヴンも焦りを覚えた。男らしい眉を寄せて、呻いた。
「悪気はなかったんだよ。けど、その。すまん」
「反省する心意気はいいけど、誠意が足りないな~」
これ見よがしにエウェンがため息をついた。のそっと起き上がった雰囲気からもう怒っていないようだ。内心ホッとしたのもつかの間、エウェンの指先がリヴンの制服のボタンを外し始める。
「……なにしてんだよ」
「ムラムラしちゃったから」
「は?」
リヴンがぎょっとしている間に制服を脱ぎ捨てた。それでとどまらず、ワイシャツのボタンを外し始める。あらわになっていく肌から目を離せないまま、混乱の末叫んだ。
「ここ、外だぞ?! 冷静になれよ! あれ、えっと立ち聞き料とかはどうなるんだよ!!」
もとはと言えば、それが原因でエウェンと付き合うはめになっているのだ。人通りが少ない場所とはいえ、見られる可能性はおおいにある。なによりエウェンに脅されて付き合っているのが、バレたらたまったものじゃない。
リヴンの言葉にエウェンの手がぴたりと止まった。エウェンは頬を膨らませ、ユラユラと蔓草の髪が不満そうに揺らしていた。
「でも、僕。えっちしたいなあ」
「お前の事情なんか知るか!」
ベルトに手をかけようとしたエウェンの手を慌てて掴んだ。魔物は人間と考え方や価値観が異なる。それでも、限度がある。なにより、今脱がされたら露出狂という称号を押しつけられるのはリヴンだろう。
反対にエウェンは嬉しそうに笑った。
「リヴくんやる気になった?」
「俺は人に見られてヤる変態な趣味はもってねえから」
「そうなんだ。僕、外でするのも好きだよ」
「お前の好みなんてきいてねぇし。つーか、今脱いだらお前変態か露出狂扱いだぞ」
リヴンの腕を押し返してくる。リヴンも負けじと押し返す。さすが魔物。見た目に反して力がある。
ただでさえ鋭いリヴンの目つきは、これでもかとつり上がっているせいで、凶悪さを増す。たいていのものなら萎縮する怖さだが、エウェンには効かないらしい。
目が眩みそうなほど色気をまといつつも、獰猛さをちらつかせてエウェンが囁く。
「僕がそうだとして、何か問題ある?」
「……」
少しぐらい思案すると思った発言をまるでものともしない。さすがのリヴンもどういえばいいかわからなくなった。
ひとまず、こんなところで服を脱がれてもリヴンは困る。いくらエウェンが端正な男でも、リヴンにはそういう趣味はないのだ。
「お前が変態なのは改めてわかった。だから、俺と一緒にいる時は外で脱ぐな」
「えー、僕の肌が他の人に見られるのそんなに嫌?」
小首をかしげる愛らしい仕草とは裏腹に、一瞬でも気を緩めれば押し倒されそうだ。リヴンは渾身の力を込めて言い返す。
「ちげーよ。一般常識的に、外でほいほい脱ぐ奴はいねぇだろって話」
一転して力を抜けば、体勢を崩したエウェンが思いっきり頭突きをしてきた。頭がのけぞり、傷みで視界が白く染まる。ズキズキと頭を揺さぶる傷みで眉を思いっきり寄せた。
しかし、すぐに動けず、襲われるなと諦めがついたところ、伸びてきた手はリヴンの額へ触れてきた。
「リヴくん大丈夫?! あぁ、真っ赤になってる……。痛かったよね? よしよし」
先ほどまでやる気に満ちあふれていたのが嘘のようだ。
かけてくる声は苦悶に溢れ、いたわっていた。演技と疑うよりも早く、リヴンの顔を胸へかき抱く。しなやかな指が何度もリヴンの頭を優しく撫でる。それだけでなく、柔らかな唇が額へ押し当てられる。
魔法をかけたのだろう。熱く鈍い傷みを持った額はゆっくりと引く波のように傷みが失せていく。
「これで少しはよくなったと思うんだけど、どうかな? もう痛くない?」
「お、おう」
それよりもエウェンの胸に顔を押し当てられるように、よしよしと慰められている状況に嬉しさと気恥ずかしさとまんざら悪くないという様々な気持ちが沸き立つ。
そういえば、こうやって小さな子供のように心配されたのはいつぶりだろう。十七なのだから、しないのが当たり前とはいえ、久しい守られている感覚に目の奥が熱くなる。
だが、そんな弱い自分を認めたくなくて、リヴンはエウェンの胸から無理やり顔を離した。
「俺のことはいいから、ちゃんと服着ろ」
「わかったよ……」
大きくため息をつくとエウェンは渋々シャツや制服のボタンを締めた。締め終わると、なぜか誇らしげに聞いてきた。
「これでいい?」
「それでよし」
「じゃあ、ご褒美ちょうだい?」
さあ、撫でろと言わんばかりにエウェンが頭を下げてくる。ためらいがちに頭を撫でた後、頬を撫でた。瞬間、頭に雷が走った。
思いのほか柔らかい頬は餅みたいだ。途端に、リヴンの険しい表情が緩む。昔から柔らかいものに弱いのだ。クッション、魔猫、餅はその代表だ。無心になってエウェンの頬を撫でていると、エウェンがくすぐったそうにはにかんだ。
「リヴくん、くすぐったいよ」
「そうかよ」
弟――ケリックの頬も柔らかくてよく撫でていたが、最近年頃のせいか嫌がられてしまう。
手だけじゃ満足できず、思い切ってエウェンの頬に摺り寄せる。エウェンが目を見開き、息を詰める。だが、すぐに花が咲くような笑顔を浮かべた。
「なんかリヴくん、大人しくて可愛いね。いい子、いい子」
「んー」
やや雑に頭をなでられ、明らかに幼児扱いだ。けれど、今はエウェンの頬の心地よさにすっかり抵抗する気は失せていた。どれだけ柔らかいのが好きなんだと言われるかもしれないが、こればかりはどうしようもないぐらい好きなのだ。
無意識のうちに、エウェンを力一杯抱きしめる。
「リヴくん、くすぐったいよ」
「んー……もう少し」
「甘えん坊さんで可愛いなあ」
エウェンが抱きしめ返し、ふふふと柔らかく笑った。
「リヴくんって僕のほっぺの感触よっぽど気に入ったんだね」
「まあな。お前はまだ好きになれないけど、お前のほっぺの感触は好きだ」
「うん、それでいいよ。最初は体の一部からってね」
エウェンも別段気にせずむしろ上機嫌だった。
リヴンはエウェンの蔓草の髪についている小さな葉を傷つけないようにそっと撫でる。
「リヴくんの手、気持ちいい」
「そうか?」
「うん、温かくて……すごく気持ちいい」
頭を撫で回していたリヴンの手を捕まえるとエウェンはぬるい頬に当て、熱い吐息をもらした。
「僕、こう見えてもけっこう手フェチなんだよね。あと、鎖骨とにおい。リヴくんはどれも僕好みだよ。くっきりでた鎖骨もこの無骨な手も。家はハーブを取り扱ってるのかな? すごく落ち着くいいにおいがする」
エウェンが頬を擦り寄せてきた。同時に昼休みを終了するチャイムが鳴った。
腕に巻き付いている髪はいつの間にか解けていた。大きなあくびを一つ、灯し木から降りる。木の上でじっと見ているエウェンにため息をつくと、両手を拡げた。
「抱きとめてやるからこいよ」
「いいの?」
「いいからしてんだろ」
いざ聞き返されると恥ずかしくなってきた。顔が熱くなるのを感じながら、早く来いというように腕を突き出す。エウェンの顔が無邪気に染まると、勢いよく飛びついてきた。
踏ん張ったつもりだが、勢いを抑えきれなかった。二人は盛大に芝生へ倒れた。リヴンにまたがっているエウェンが頬を緩めた。
「えへへ、このままお昼寝しちゃおーっと」
リヴンの首元に顔を当てた。リヴンが文句を言うより早く、すうすうと穏やかな寝息が首元をくすぐった。
「まじで寝やがった……」
間近で見るエウェンは植物種特有の美貌なのか、魔物として強いから美しいのか判断できない。
改めて見ると、ほんのり緑おびた白い肌の下は、魔力をおびた黄色の血液が通っているようだ。蔓草の髪を手に取れば、無意識なのか絡みついてくる。
試しに蔓草の髪がまとわりつく手を鼻先へ寄せてみた。
「かなり甘い匂いがするな……」
どこかで嗅いだ記憶がある。が、思い出せない。
葉は小粒で、新芽と思われるものには白や桃色に染まった斑が入っている。もう一度深呼吸をしてみる。しかし、わかるのは甘くていい匂いという事実だ。
リヴンはエウェンが落ちないように支え直した。指に絡みつく髪はさすが蔓草なだけあって幾重にも枝分かれしている。新しめの白い葉の中にツンと咲く赤みの強い桃色の新芽は美しさと同時になぜか卑猥に見えてきた。
サッとあたりを素早く見渡した後、興味本位で桃色の新芽を舐めてみた。しかし甘やかな香りに反して舌先に広がるのは植物特有の青々しさだ。
「青くさ……」
思いっきり眉を寄せて呻く。
がっかりしてため息をつけば、指に絡みついていた蔓草の髪がまるで怒ったかのようにリヴンの鼻先を軽く叩いた。
「いてっ!」
反射的に口にするが、痛みはない。
鞭のようにしなやかであるものの、勢いがないため少しむずがゆい程度だ。はじめての蔓草の髪の動きにいぶかしんで、視線を下ろす。
そうすれば、半目でふくれっ面のエウェンと目が合った。
「勝手に舐めて、その言い草はないんじゃないかな?」
ユラユラと揺れる蔓草の髪がペチペチと額を叩いてくる。しかし、痛みはなく、くすぐったいくらいだ。むず痒さに耐えきれず、蔓草の髪を掴んだ。
「悪かったって」
「本当に反省してる? 想像してみてよ。いきなり髪を掴まれて嗅がれた末に舐められて『青くさ』って言われた気持ちをさ」
言われたとおり、想像してみる。風呂に入っていないなら妥当かもしれない。しかし、入っていた場合、失礼極まりない発言だ。
フンフンと鼻息を荒くするエウェンへ尋ねた。
「前提として、お前は風呂入ってるのか?」
「リヴくんから見て、僕はそんな不潔に見えるの?」
逆に聞き返されてしまった。
エウェンから表情が消え失せ、完全に目が据わっている。エウェンが怒っている様子に、さすがのリヴンも焦りを覚えた。男らしい眉を寄せて、呻いた。
「悪気はなかったんだよ。けど、その。すまん」
「反省する心意気はいいけど、誠意が足りないな~」
これ見よがしにエウェンがため息をついた。のそっと起き上がった雰囲気からもう怒っていないようだ。内心ホッとしたのもつかの間、エウェンの指先がリヴンの制服のボタンを外し始める。
「……なにしてんだよ」
「ムラムラしちゃったから」
「は?」
リヴンがぎょっとしている間に制服を脱ぎ捨てた。それでとどまらず、ワイシャツのボタンを外し始める。あらわになっていく肌から目を離せないまま、混乱の末叫んだ。
「ここ、外だぞ?! 冷静になれよ! あれ、えっと立ち聞き料とかはどうなるんだよ!!」
もとはと言えば、それが原因でエウェンと付き合うはめになっているのだ。人通りが少ない場所とはいえ、見られる可能性はおおいにある。なによりエウェンに脅されて付き合っているのが、バレたらたまったものじゃない。
リヴンの言葉にエウェンの手がぴたりと止まった。エウェンは頬を膨らませ、ユラユラと蔓草の髪が不満そうに揺らしていた。
「でも、僕。えっちしたいなあ」
「お前の事情なんか知るか!」
ベルトに手をかけようとしたエウェンの手を慌てて掴んだ。魔物は人間と考え方や価値観が異なる。それでも、限度がある。なにより、今脱がされたら露出狂という称号を押しつけられるのはリヴンだろう。
反対にエウェンは嬉しそうに笑った。
「リヴくんやる気になった?」
「俺は人に見られてヤる変態な趣味はもってねえから」
「そうなんだ。僕、外でするのも好きだよ」
「お前の好みなんてきいてねぇし。つーか、今脱いだらお前変態か露出狂扱いだぞ」
リヴンの腕を押し返してくる。リヴンも負けじと押し返す。さすが魔物。見た目に反して力がある。
ただでさえ鋭いリヴンの目つきは、これでもかとつり上がっているせいで、凶悪さを増す。たいていのものなら萎縮する怖さだが、エウェンには効かないらしい。
目が眩みそうなほど色気をまといつつも、獰猛さをちらつかせてエウェンが囁く。
「僕がそうだとして、何か問題ある?」
「……」
少しぐらい思案すると思った発言をまるでものともしない。さすがのリヴンもどういえばいいかわからなくなった。
ひとまず、こんなところで服を脱がれてもリヴンは困る。いくらエウェンが端正な男でも、リヴンにはそういう趣味はないのだ。
「お前が変態なのは改めてわかった。だから、俺と一緒にいる時は外で脱ぐな」
「えー、僕の肌が他の人に見られるのそんなに嫌?」
小首をかしげる愛らしい仕草とは裏腹に、一瞬でも気を緩めれば押し倒されそうだ。リヴンは渾身の力を込めて言い返す。
「ちげーよ。一般常識的に、外でほいほい脱ぐ奴はいねぇだろって話」
一転して力を抜けば、体勢を崩したエウェンが思いっきり頭突きをしてきた。頭がのけぞり、傷みで視界が白く染まる。ズキズキと頭を揺さぶる傷みで眉を思いっきり寄せた。
しかし、すぐに動けず、襲われるなと諦めがついたところ、伸びてきた手はリヴンの額へ触れてきた。
「リヴくん大丈夫?! あぁ、真っ赤になってる……。痛かったよね? よしよし」
先ほどまでやる気に満ちあふれていたのが嘘のようだ。
かけてくる声は苦悶に溢れ、いたわっていた。演技と疑うよりも早く、リヴンの顔を胸へかき抱く。しなやかな指が何度もリヴンの頭を優しく撫でる。それだけでなく、柔らかな唇が額へ押し当てられる。
魔法をかけたのだろう。熱く鈍い傷みを持った額はゆっくりと引く波のように傷みが失せていく。
「これで少しはよくなったと思うんだけど、どうかな? もう痛くない?」
「お、おう」
それよりもエウェンの胸に顔を押し当てられるように、よしよしと慰められている状況に嬉しさと気恥ずかしさとまんざら悪くないという様々な気持ちが沸き立つ。
そういえば、こうやって小さな子供のように心配されたのはいつぶりだろう。十七なのだから、しないのが当たり前とはいえ、久しい守られている感覚に目の奥が熱くなる。
だが、そんな弱い自分を認めたくなくて、リヴンはエウェンの胸から無理やり顔を離した。
「俺のことはいいから、ちゃんと服着ろ」
「わかったよ……」
大きくため息をつくとエウェンは渋々シャツや制服のボタンを締めた。締め終わると、なぜか誇らしげに聞いてきた。
「これでいい?」
「それでよし」
「じゃあ、ご褒美ちょうだい?」
さあ、撫でろと言わんばかりにエウェンが頭を下げてくる。ためらいがちに頭を撫でた後、頬を撫でた。瞬間、頭に雷が走った。
思いのほか柔らかい頬は餅みたいだ。途端に、リヴンの険しい表情が緩む。昔から柔らかいものに弱いのだ。クッション、魔猫、餅はその代表だ。無心になってエウェンの頬を撫でていると、エウェンがくすぐったそうにはにかんだ。
「リヴくん、くすぐったいよ」
「そうかよ」
弟――ケリックの頬も柔らかくてよく撫でていたが、最近年頃のせいか嫌がられてしまう。
手だけじゃ満足できず、思い切ってエウェンの頬に摺り寄せる。エウェンが目を見開き、息を詰める。だが、すぐに花が咲くような笑顔を浮かべた。
「なんかリヴくん、大人しくて可愛いね。いい子、いい子」
「んー」
やや雑に頭をなでられ、明らかに幼児扱いだ。けれど、今はエウェンの頬の心地よさにすっかり抵抗する気は失せていた。どれだけ柔らかいのが好きなんだと言われるかもしれないが、こればかりはどうしようもないぐらい好きなのだ。
無意識のうちに、エウェンを力一杯抱きしめる。
「リヴくん、くすぐったいよ」
「んー……もう少し」
「甘えん坊さんで可愛いなあ」
エウェンが抱きしめ返し、ふふふと柔らかく笑った。
「リヴくんって僕のほっぺの感触よっぽど気に入ったんだね」
「まあな。お前はまだ好きになれないけど、お前のほっぺの感触は好きだ」
「うん、それでいいよ。最初は体の一部からってね」
エウェンも別段気にせずむしろ上機嫌だった。
リヴンはエウェンの蔓草の髪についている小さな葉を傷つけないようにそっと撫でる。
「リヴくんの手、気持ちいい」
「そうか?」
「うん、温かくて……すごく気持ちいい」
頭を撫で回していたリヴンの手を捕まえるとエウェンはぬるい頬に当て、熱い吐息をもらした。
「僕、こう見えてもけっこう手フェチなんだよね。あと、鎖骨とにおい。リヴくんはどれも僕好みだよ。くっきりでた鎖骨もこの無骨な手も。家はハーブを取り扱ってるのかな? すごく落ち着くいいにおいがする」
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