臆病者は片思いに終止符を打つ

天霧 ロウ

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「死ぬかと思った……」

 体の隅々までまだキーストンによって与えられた快楽の残滓が残っている。
 あの後、宣言通り何度も意識を飛ばされた。あまりの快感の暴力に泣きじゃくり、途中から許しをねだったが、キーストンは意地悪く「アンソニーのおねだりだろ?」と微笑み、やめるどころか返って興奮していた。
 喉がひりつき、うろんな目でぐったりするアンソニーに反して、キーストンは憎たらしいほど満面の笑みで見つめている始末だ。

「あまりにもアンソニーが可愛くてな」
「だとしても、もう少し手心ってのを覚えろよ」

 恨みがましく睨めば、キーストンがだらしなく頬を緩めた。

「お前の可愛いおねだりは貴重だから、恋人として全身全霊で応えただけだ」

 ぎゅっとキーストンがアンソニーを抱きしめた。そして、さんざんキーストンの高ぶりを味わっていた秘部へゆっくり高ぶりを入れ直すと、ゆるゆると抜き差ししてくる。

「ん…っ、ぁ、ああぁっ」
 
 永遠とも思える愛ある快楽地獄によって躾けられた体は淡い刺激すら今は絶頂の引き金だ。ビクビクと体を震わし、舌を突き出しながら緩やかな絶頂を味わっていると、キーストンがアンソニーの舌ごと口に含んで唇を塞いでくる。

「ん゛、ぅ~~~~っ」

 絶頂中にもかかわらず、ぬぽっ、ぬぷっと布団越しでも聞こえるほど音を立てて抜き差しされてしまう。精液どころか潮すら噴けないアンソニーの中心はもどかしそうにピクピク痙攣するだけだ。
 ぐりっと弱い場所を一段と強くえぐられれば、深い快感が全身を貫いた。

「――、~~~~ッ!」

 食いちぎる勢いでキーストンの高ぶりを締め付ける。潤んだ視界でキーストンを見上げていれば、じゅるるっと唾液ごと舌を吸われる。荒波のような快感が徐々に引いていくと、ようやくキーストンが唇を離した。
 アンソニーは潤んだ菫色の瞳で睨んだ。

「しつこい! 抜け!!」
「どうしてもか?」

 キーストンがシュンと男らしい眉を下げ、濡れそぼった魔犬のような雰囲気を滲ませてくる。キュンッと胸が甘く疼き「しょうがないな」と甘やかしそうになるが、ぐっと堪えた。
 互いに生活があるのだ。この調子で甘やかすわけにはいかない。乱れそうになる息を抑えながら、眉を寄せた。

「キーストンだってわかってるだろ? 俺たちは両思いになったけど、互いに生活があるんだし」
「それについてだが、一つ提案がある」
「提案?」

 汗ばむアンソニーの髪をうっとりとしながら嗅ぐキーストンを上目遣いで見る。目が合えば、キーストンは今まで見た中で最も晴れ晴れとした笑顔で頷いた。




「良かったのかよ」
「ああ、お前と一緒にいたいからな」

 昼の日差しが白っぽい砂色の床を白く照らす。
 必要最低限のものしかなかったアンソニーの部屋には、家具と観葉植物がいくつか増え、ベッドは二人で寝転んでも十分余裕があるものへ替えた。
 あの後、キーストンから提案されたのは、生活拠点をアンソニーが暮らすエルキュへ移すとのことだった。
 アンソニーとしては大変ありがたいが、それでもエルキュとレインバルク王国の行き来は三日以上かかる。そんなアンソニーの心配にキーストンはあっけらかんと返した。

「普通ならそのくらいかかるだろう。けど、俺は転移魔法が使えるし、それこそ転移装置を騎士団長室とこっちに設置すれば問題ない」
「そうだけど、毎日やってたら体に負荷かかるだろ」

 いくら鍛え抜かれ魔法の素質もあるキーストンでも、毎日となると体への負荷がジワジワとつもっていくはずだ。アンソニーの苦言にキーストンは一つ頷いた。

「ああ、だから。たまには向こうで過ごす日を作らないか。あっちなら思いっきりアンソニーも声を上げられるだろ」
「余計な一言が多いんだよ!」

 ベッドへ置こうと手にしていたクッションでキーストンの顔を叩こうとしたが、易々と避けられた。それどころか、すっぽりと腕の中に閉じ込められ額へキスをしてくる。

「悪い悪い、アンソニーにはもう隠し事をしたくないんだ」
「隠し事をしないのとあけすけになるのは別だっつーの」

 ドスドスとキーストンの腹にパンチを食らわすが、キーストンにとって子猫がじゃれついている感覚なのだろう。くすぐったそうに笑うばかりだ。そんなキーストンの笑顔にキュンキュンと胸が高鳴る自分も重症だ。
 腹にパンチをするのをやめ、服越しでも逞しい胸板に顔をすり寄せる。そして、ためらいがちに上目遣いで見た。

「あのさ、キーストンは本当に子供いらないのか? お前が欲しいなら今の体に女の性器を追加してもいいんだからな」

 男の自分をキーストンが愛してくれる。ただ、それだけで満ち足りている。しかし、キーストンはどうなのだろう。そんな不安がフッと湧いたのだ。
 何度も目をしばたかせるアンソニーに、キーストンはなんてことないよう返した。

「言っただろ。俺は男のお前を好きになったって。だから、体を変える必要はないし、お前が生涯ともに歩んでくれるならなにもいらない」

 キーストンの言葉を真に受け、愛されたいあまり女体化したアンソニーを思い出しているのだろう。くしゃっと顔を歪ませたキーストンはアンソニーの頬を優しく撫でた。

「血の繋がりがなくとも、俺とアンソニーが家族になれたんだ。子供が欲しくなったら養子を迎えればいい。それだけの話だ」
「そっか、そうだな」

 ケイオス教徒でも教義に対して柔軟に捉え、家族愛に溢れたアンソニーの家とは真逆がゆえに、キーストンにとって血の繋がりは一種の呪縛だと捉えているのだろう。
 おそらく根底に根付いた価値はこれからアンソニーと歩んでいってもきっと覆らない。それはアンソニーだって同じだ。

「というか、言い方だとこの間恋人になったばかりなのに、もう家族扱いかよ」
「恋人で家族も悪くないだろ?」

 アンソニーを抱きしめたままキーストンがベッドへ背中から倒れる。穏やかな顔をしてアンソニーを見つめるキーストンへアンソニーも頬を緩め、慈愛に満ちたほがらかな笑みを返した。

「うん、すごくいいな」

 頬と髭をそっと撫で、キーストンの唇を撫でる。そうすれば、キーストンが銅色の瞳を細め、アンソニーの髪に手を差し込み、引き寄せた。
 窓から流れてきた乾いた風がレースカーテンを揺らし、差し込んだ光が二人を柔らかく照らした。

 
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