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恋人は調達するもの
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双子の弟――クオルに子供ができた。しかし、ホルツの頭に浮かんだのは実験材料が増えたという感情だけだった。
「ふむ、私とクオルは双子のはずだが、どこで分岐したのだろうか」
町の至る所に設置されている監視カメラを通して、赤子を愛おしそうに抱くクオルとその伴侶であるルシアの和やかな映像をまじまじと見つめる。
クオルも自分と同じように人間として欠陥している。そんなクオルが人並みの幸せな生活を送っている光景はホルツにとって不思議でならない。
双子である自分たちの違いは――目つきや顔の傷の違いはあれど――大差ない。それ以外で大きな違いと言えば、特別な相手がいて、そのものから愛されているかどうかだろう。
「あい、アイ、愛、か」
生物に対する考えは、自分が求めたい結果にたいし利用価値があるかないかのどちらかだ。それはクオルでも変わらない。口では家族愛をうたうがその実、クオルのことは便利なもしもの自分、その程度の認識だ。
今までだったら気にとめることがなかったが、クオルが変化したきっかけというのもあり、研究者として解明したい。
愛を得るには相手がいる。とはいえ、職場から調達するのは面倒だ。
「そういえば、今日殺処分される魔人がいたな」
中央都市ではどんな理由であれ、魔物の遺伝子を取り込んだ人間――魔人は遺伝子を回収次第、殺処分となっている。
ただ珍しい魔物の遺伝子保持者は中央管理局の研究部門に回され、人類のために非人道的な実験を繰り返す。
そしてその研究部門の統括責任者であるホルツには毎回報告書がくる。
最終的に通常の魔人と同じように魔物の遺伝子を抽出した後は殺処分が決まっている。
白い机の端においていた書類を手に取り、先ほど転送された報告書を確認する。
名前はメルギスク。まわりからは真面目な青年として評判だった。
家は貧しく、二人の弟のために働いていたようだが、同僚が魔物の遺伝子を盗み、そのことがバレそうになったため当時風邪を引いていたメルギスクにたいし、風邪によく効く薬だと言って打ち込んだ。そして同僚の方はメルギスクに魔物の遺伝子を盗むよう脅されたとの証言だ。
はたからみれば冤罪でしかないだろうが、どんな過程であれ魔人になった。その事実だけで罪なのだ。
遺伝子を注入したその日確保したため、定着する前に九割の遺伝子を回収済。
特記事項には、摂取した魔物の遺伝子と適合率が極めて高かった影響かカメレオンに類似した尻尾が生え、爬虫類のような肌の表面をしている。擬態能力あり。と書いてある。
添付されている写真は、研究以外興味ないホルツからみても、目鼻立ちが整っており、顔のパーツは絶妙な位置にある――モデルと紹介されたら納得できる上品な顔立ちだ。
しかし人の良さそうな雰囲気と複数の色が踊る迷彩模様の髪にたいして、ありふれたカフェオレ色の瞳と同じ肌色をしている。そのチグハグさにホルツは親近感が湧いた。
魔人になれば、住民登録が抹消され、書類上は死人。仕事はおろか普通の生活は二度とできない。まさにいつ殺してもいい命なのだ。
ならば、彼を恋人にするのは名案だろう。
そうと決まれば、殺処分を担当している部署に連絡した。
「統括管理責任者のホルツだ。メルギスクという被検体はまだ生きているかな」
『ちょうど今から処分の準備に入るところでしたが、なにか不備がありましたか?』
宙にパッと浮かんだ映像越しから担当の人間が不安そうに聞いてくる。ホルツは穏やかな声で続けた。
「いいや、ないとも。ただ少し気になることがあったから彼の身柄は私が引き取る。かまわないね?」
『ホルツ様になにか考えがあるということですね。わかりました、被検体を部屋に戻しておきます』
「ああ、助かるよ。それと案内や付き人は不要だ」
『わかりました。ほかのものにも伝えておきます』
連絡にでた相手はホルツからのまさかの連絡に驚いたようだったがあっさり応じた。
映像をきるとホルツは帰宅ついでにメルギスクを回収しに地下へと向かったのだった。
エレベーターに乗って地下へつけば、そこは目が眩むほど真っ白な世界だ。よく見れば区画ごとに分けられており、扉には個体名と番号が割り振られたあじけのないプレートがついている。
まっすぐ白い廊下を歩いて行くと、やがて目当てのプレートを見つける。部屋のロックを開場するとノックを数回した。
「メルギスクくんだね、入ってもいいかな」
声をかけるものの返事はない。
もしかしたら、短期間で苛烈な実験をしすぎて息絶えてしまったのかもしれない。それなら後日、別の被検体をかわりに調達すればいい話だ。
とはいえ、わざわざ足を運んだのだから勝手に死なれては困る。少し考えた末、入ることにした。
だが、中に入ると薄いマットレスがあるパイプベッドと部屋の隅にトイレがあるだけだ。
「おや、これは……」
一歩踏み出した瞬間、背後からバン! と何かが閉じた扉にぶつかる音がした。振り返れば、かすかだが景色が揺らいでいる。
「そういえば、擬態能力を持つ魔物の遺伝子を得た、と報告にあったな」
寝転んでいそうな場所をめがけて思いっきり踏みつければ、くぐもった声が部屋に響いた。ついでなにもなかった場所には写真で見た迷彩模様の髪、カフェオレ色の瞳と同じ肌色をした青年――メルギスクが現れた。
どうやらホルツが踏んだのは彼の尻尾の先だったようだ。尾てい骨から伸びている肌と同じ色の尻尾は雑な縫合処理をされていた。
眉をこれでもかとよせたメルギスクはホルツをいぶかしげに睨んだ。
「あの、足をどけてくれませんか」
「ふむ……」
メルギスクをあらためてまじまじと眺める。
白い検査衣からのぞく足や腕には接合された白い縫い痕があちらこちらに目立つ。定着率がよかった魔物の遺伝子を回収されたためか写真でみたよりも全体的にやつれていた。
眺めているだけで足をどかさないホルツにメルギスクは眉を寄せた。
「あ、あの! お願いですから足をどけてくれませんか? 完治したといえど、傷跡を踏まれるのは痛いんです」
さっきよりも弱腰に、けれどはっきり主張してくるメルギスクを少し見つめ、足を上げた。素早く尻尾を引っ込めたメルギスクは尻尾を抱えると不安そうにホルツを見上げてくる。
「実験はもう終わったんじゃないんですか? 俺から魔物の遺伝子を回収し終えて用済みだから処分するって話してたのを聞いたんですけど」
「ん? ああ、きみは用済みだ。だから、今から私の恋人になってもらう」
「……は?」
ポカンと口を開けてホルツを凝視してくる。たいしてホルツは淡々と告げた。
「ちょっとした事情で私は愛というものを解明したいんだ。けれど、それには相手が必要だろう? そこできみの出番というわけだ」
「断ったら」
「殺処分行きだが」
サラッと言い返すとメルギスクの顔がさーっと青ざめる。先ほどまで殺処分の準備光景を思い出したのかブルブルと体を震わし、目からは今にも涙がこぼれ落ちそうだ。
「ど、どうして。俺は家族のために働いていただけのに。なんで、こんな」
「どんな経緯であれ、きみは魔人になった。理由なんてそれだけでじゅうぶんだろう。それでどうする? 私の恋人になりたくないのならそれでもかまわない。ここで新たに調達すればいいだけだからね」
形だけの意思表示を尋ねれば、メルギスクは信じられないと言いたげに見つめてくる。
「そもそも恋人って調達するものじゃないと思うんですけど。というか俺、男ですよ」
「ああ、報告書で確認済みだ。それがなにか問題でも?」
「恋人にするなら女性じゃないんですか? その、あなたはとてもかっこいいし、声をかければ応えてくれる人だっているかと」
「まあ、私は見た目がいいからね。きみの言い分もわかるよ」
メルギスクが言ったとおり、ホルツは自身の容姿が整っていることを自負している。
白いスーツの上から白衣を羽織ってもなおわかる、恵まれた長身と均等のとれた引き締まった体躯。
目が冴える赤い髪と淡い青緑の瞳はそれだけで印象が残る。だが、それをさらに引き立たせるのがホルツの顔だ。
どの角度から見ても映える輪郭に、黙っていると近寄りがたいが、つねに微笑んでいるからか独特の人なつっこさを抱き、誰もが好印象を持つのだ。
心が読める異能持ちなら見た目とは裏腹なヘドロのような本性を見抜くかもしれないが、あいにく見た目を最大限生かしたホルツの完璧な振る舞いに見とれて終わりだ。
そして、ホルツはその完璧な演技をあえてメルギスクの前でしないでいた。
「確かに女でも悪くないが、愛を解明する前に子供ができたら処分の手続きが面倒だ。その点、男ならそういったことに巻き込まれず解明しやすい。きみもそう思わないかい?」
にこっと爽やかに微笑むものの、真っ青な顔をしてホルツを凝視するメルギスクから返ってきた言葉はある意味至極まっとうだった。
「あなたは誰かに共感したり、寄り添ったり、責任をとるって気持ちがないんですか」
「必要ならばする。だからこうしてきみの身柄を引き取りにきたというわけだ、で、きみの応えは?」
白衣のポケットに手を突っ込んで、すうっと薄い青緑色の瞳を細める。
メルギスクはごくっと唾を飲み込むと観念したようにうつむいた。
「わかりました。あなたに協力します」
「協力感謝するよ。じゃあ、少しじっとしていてくれ」
メルギスクの背後にまわると懐からメスを取り出す。そして戸惑うメルギスクの頭を掴むとうなじにメスをいれた。
「い゛っ!」
「こらこら、暴れない」
突然の痛みにメルギスクが暴れようとするが背中にのしかかり、体重をかけて床に押さえつけた。切れ目にマイクロチップを押し込むと即効性の治癒薬を打ち込む。
急速に引いていく痛みに目を白黒させるメルギスクから下りるとホルツは唇の端をつり上げた。
「おめでとう、今日からきみは管理局公認の魔人になった」
「なにをいれたんですか」
メルギスクはズリズリと後退しながら、すでに跡形も傷がないうなじに手を添えて睨んでくる。
回復薬のおかげで体や尻尾に残る縫合の痕まで消えたのになぜ睨んでくるのか。不思議に思いながら答えた。
「自害機能つきの追跡チップだ。これからきみの行動はすべて私の端末に記録される。一般市民のためにきみの言動を管理するのはあたりまえだろう?」
「俺は人に危害を加えたりしません!」
「だとしても義務だから諦めてくれ。さて、用も済んだし、これに着替えて私の家に行こうか」
用意しておいた黒いつなぎを差し出して微笑めば、メルギスクはぎこちないながらも受け取った。
着替え終わったのを確認して先に歩き出すと、メルギスクが唇を噛みしめてしぶしぶついてきた。
「ふむ、私とクオルは双子のはずだが、どこで分岐したのだろうか」
町の至る所に設置されている監視カメラを通して、赤子を愛おしそうに抱くクオルとその伴侶であるルシアの和やかな映像をまじまじと見つめる。
クオルも自分と同じように人間として欠陥している。そんなクオルが人並みの幸せな生活を送っている光景はホルツにとって不思議でならない。
双子である自分たちの違いは――目つきや顔の傷の違いはあれど――大差ない。それ以外で大きな違いと言えば、特別な相手がいて、そのものから愛されているかどうかだろう。
「あい、アイ、愛、か」
生物に対する考えは、自分が求めたい結果にたいし利用価値があるかないかのどちらかだ。それはクオルでも変わらない。口では家族愛をうたうがその実、クオルのことは便利なもしもの自分、その程度の認識だ。
今までだったら気にとめることがなかったが、クオルが変化したきっかけというのもあり、研究者として解明したい。
愛を得るには相手がいる。とはいえ、職場から調達するのは面倒だ。
「そういえば、今日殺処分される魔人がいたな」
中央都市ではどんな理由であれ、魔物の遺伝子を取り込んだ人間――魔人は遺伝子を回収次第、殺処分となっている。
ただ珍しい魔物の遺伝子保持者は中央管理局の研究部門に回され、人類のために非人道的な実験を繰り返す。
そしてその研究部門の統括責任者であるホルツには毎回報告書がくる。
最終的に通常の魔人と同じように魔物の遺伝子を抽出した後は殺処分が決まっている。
白い机の端においていた書類を手に取り、先ほど転送された報告書を確認する。
名前はメルギスク。まわりからは真面目な青年として評判だった。
家は貧しく、二人の弟のために働いていたようだが、同僚が魔物の遺伝子を盗み、そのことがバレそうになったため当時風邪を引いていたメルギスクにたいし、風邪によく効く薬だと言って打ち込んだ。そして同僚の方はメルギスクに魔物の遺伝子を盗むよう脅されたとの証言だ。
はたからみれば冤罪でしかないだろうが、どんな過程であれ魔人になった。その事実だけで罪なのだ。
遺伝子を注入したその日確保したため、定着する前に九割の遺伝子を回収済。
特記事項には、摂取した魔物の遺伝子と適合率が極めて高かった影響かカメレオンに類似した尻尾が生え、爬虫類のような肌の表面をしている。擬態能力あり。と書いてある。
添付されている写真は、研究以外興味ないホルツからみても、目鼻立ちが整っており、顔のパーツは絶妙な位置にある――モデルと紹介されたら納得できる上品な顔立ちだ。
しかし人の良さそうな雰囲気と複数の色が踊る迷彩模様の髪にたいして、ありふれたカフェオレ色の瞳と同じ肌色をしている。そのチグハグさにホルツは親近感が湧いた。
魔人になれば、住民登録が抹消され、書類上は死人。仕事はおろか普通の生活は二度とできない。まさにいつ殺してもいい命なのだ。
ならば、彼を恋人にするのは名案だろう。
そうと決まれば、殺処分を担当している部署に連絡した。
「統括管理責任者のホルツだ。メルギスクという被検体はまだ生きているかな」
『ちょうど今から処分の準備に入るところでしたが、なにか不備がありましたか?』
宙にパッと浮かんだ映像越しから担当の人間が不安そうに聞いてくる。ホルツは穏やかな声で続けた。
「いいや、ないとも。ただ少し気になることがあったから彼の身柄は私が引き取る。かまわないね?」
『ホルツ様になにか考えがあるということですね。わかりました、被検体を部屋に戻しておきます』
「ああ、助かるよ。それと案内や付き人は不要だ」
『わかりました。ほかのものにも伝えておきます』
連絡にでた相手はホルツからのまさかの連絡に驚いたようだったがあっさり応じた。
映像をきるとホルツは帰宅ついでにメルギスクを回収しに地下へと向かったのだった。
エレベーターに乗って地下へつけば、そこは目が眩むほど真っ白な世界だ。よく見れば区画ごとに分けられており、扉には個体名と番号が割り振られたあじけのないプレートがついている。
まっすぐ白い廊下を歩いて行くと、やがて目当てのプレートを見つける。部屋のロックを開場するとノックを数回した。
「メルギスクくんだね、入ってもいいかな」
声をかけるものの返事はない。
もしかしたら、短期間で苛烈な実験をしすぎて息絶えてしまったのかもしれない。それなら後日、別の被検体をかわりに調達すればいい話だ。
とはいえ、わざわざ足を運んだのだから勝手に死なれては困る。少し考えた末、入ることにした。
だが、中に入ると薄いマットレスがあるパイプベッドと部屋の隅にトイレがあるだけだ。
「おや、これは……」
一歩踏み出した瞬間、背後からバン! と何かが閉じた扉にぶつかる音がした。振り返れば、かすかだが景色が揺らいでいる。
「そういえば、擬態能力を持つ魔物の遺伝子を得た、と報告にあったな」
寝転んでいそうな場所をめがけて思いっきり踏みつければ、くぐもった声が部屋に響いた。ついでなにもなかった場所には写真で見た迷彩模様の髪、カフェオレ色の瞳と同じ肌色をした青年――メルギスクが現れた。
どうやらホルツが踏んだのは彼の尻尾の先だったようだ。尾てい骨から伸びている肌と同じ色の尻尾は雑な縫合処理をされていた。
眉をこれでもかとよせたメルギスクはホルツをいぶかしげに睨んだ。
「あの、足をどけてくれませんか」
「ふむ……」
メルギスクをあらためてまじまじと眺める。
白い検査衣からのぞく足や腕には接合された白い縫い痕があちらこちらに目立つ。定着率がよかった魔物の遺伝子を回収されたためか写真でみたよりも全体的にやつれていた。
眺めているだけで足をどかさないホルツにメルギスクは眉を寄せた。
「あ、あの! お願いですから足をどけてくれませんか? 完治したといえど、傷跡を踏まれるのは痛いんです」
さっきよりも弱腰に、けれどはっきり主張してくるメルギスクを少し見つめ、足を上げた。素早く尻尾を引っ込めたメルギスクは尻尾を抱えると不安そうにホルツを見上げてくる。
「実験はもう終わったんじゃないんですか? 俺から魔物の遺伝子を回収し終えて用済みだから処分するって話してたのを聞いたんですけど」
「ん? ああ、きみは用済みだ。だから、今から私の恋人になってもらう」
「……は?」
ポカンと口を開けてホルツを凝視してくる。たいしてホルツは淡々と告げた。
「ちょっとした事情で私は愛というものを解明したいんだ。けれど、それには相手が必要だろう? そこできみの出番というわけだ」
「断ったら」
「殺処分行きだが」
サラッと言い返すとメルギスクの顔がさーっと青ざめる。先ほどまで殺処分の準備光景を思い出したのかブルブルと体を震わし、目からは今にも涙がこぼれ落ちそうだ。
「ど、どうして。俺は家族のために働いていただけのに。なんで、こんな」
「どんな経緯であれ、きみは魔人になった。理由なんてそれだけでじゅうぶんだろう。それでどうする? 私の恋人になりたくないのならそれでもかまわない。ここで新たに調達すればいいだけだからね」
形だけの意思表示を尋ねれば、メルギスクは信じられないと言いたげに見つめてくる。
「そもそも恋人って調達するものじゃないと思うんですけど。というか俺、男ですよ」
「ああ、報告書で確認済みだ。それがなにか問題でも?」
「恋人にするなら女性じゃないんですか? その、あなたはとてもかっこいいし、声をかければ応えてくれる人だっているかと」
「まあ、私は見た目がいいからね。きみの言い分もわかるよ」
メルギスクが言ったとおり、ホルツは自身の容姿が整っていることを自負している。
白いスーツの上から白衣を羽織ってもなおわかる、恵まれた長身と均等のとれた引き締まった体躯。
目が冴える赤い髪と淡い青緑の瞳はそれだけで印象が残る。だが、それをさらに引き立たせるのがホルツの顔だ。
どの角度から見ても映える輪郭に、黙っていると近寄りがたいが、つねに微笑んでいるからか独特の人なつっこさを抱き、誰もが好印象を持つのだ。
心が読める異能持ちなら見た目とは裏腹なヘドロのような本性を見抜くかもしれないが、あいにく見た目を最大限生かしたホルツの完璧な振る舞いに見とれて終わりだ。
そして、ホルツはその完璧な演技をあえてメルギスクの前でしないでいた。
「確かに女でも悪くないが、愛を解明する前に子供ができたら処分の手続きが面倒だ。その点、男ならそういったことに巻き込まれず解明しやすい。きみもそう思わないかい?」
にこっと爽やかに微笑むものの、真っ青な顔をしてホルツを凝視するメルギスクから返ってきた言葉はある意味至極まっとうだった。
「あなたは誰かに共感したり、寄り添ったり、責任をとるって気持ちがないんですか」
「必要ならばする。だからこうしてきみの身柄を引き取りにきたというわけだ、で、きみの応えは?」
白衣のポケットに手を突っ込んで、すうっと薄い青緑色の瞳を細める。
メルギスクはごくっと唾を飲み込むと観念したようにうつむいた。
「わかりました。あなたに協力します」
「協力感謝するよ。じゃあ、少しじっとしていてくれ」
メルギスクの背後にまわると懐からメスを取り出す。そして戸惑うメルギスクの頭を掴むとうなじにメスをいれた。
「い゛っ!」
「こらこら、暴れない」
突然の痛みにメルギスクが暴れようとするが背中にのしかかり、体重をかけて床に押さえつけた。切れ目にマイクロチップを押し込むと即効性の治癒薬を打ち込む。
急速に引いていく痛みに目を白黒させるメルギスクから下りるとホルツは唇の端をつり上げた。
「おめでとう、今日からきみは管理局公認の魔人になった」
「なにをいれたんですか」
メルギスクはズリズリと後退しながら、すでに跡形も傷がないうなじに手を添えて睨んでくる。
回復薬のおかげで体や尻尾に残る縫合の痕まで消えたのになぜ睨んでくるのか。不思議に思いながら答えた。
「自害機能つきの追跡チップだ。これからきみの行動はすべて私の端末に記録される。一般市民のためにきみの言動を管理するのはあたりまえだろう?」
「俺は人に危害を加えたりしません!」
「だとしても義務だから諦めてくれ。さて、用も済んだし、これに着替えて私の家に行こうか」
用意しておいた黒いつなぎを差し出して微笑めば、メルギスクはぎこちないながらも受け取った。
着替え終わったのを確認して先に歩き出すと、メルギスクが唇を噛みしめてしぶしぶついてきた。
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