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恋人は一緒に暮らすもの
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中央区域でも中心部にある高層マンションの最上階がホルツの住居だ。
専用エレベーターに乗って最上階につけば、エレベーターが開くとともに、つやつやした白いタイルに覆われた玄関が出迎えた。
「トイレは右の白い扉だよ。左の白い扉はシューズクロークになってるんだ。それで、真っ正面の白い扉は……」
靴からスリッパに履き替え、ゆとりのある玄関を進んで白い扉を開ければ、壁も床も天井も備え付けの家具すら白で統一された開放的な空間が眼前に広がる。
「見ての通り、リビングダイニングキッチンだ」
大きなテレビを挟むようにある対のスピーカーの向かいには、体格のいい男が眠れてしまうほど大きく座り心地のよいソファがある。
入ってすぐ左手側にある広いキッチンを通り過ぎると、左側の奥に三つ扉があった。ホルツは一番左の白い扉を指差すと告げた。
「あの一番左の部屋が私の寝室を兼ねた私室だ。その隣に二つ扉があるけど、どっちも空き部屋だから好きな方を使うといい」
「わ、わかりました」
ホルツの言葉にメルギスクはぎこちなく頷き、応えた。
「それで浴室だけど、右側にあるよ」
脱衣所と浴室に続いている白い扉に近づいて開けて中に入るよう促した。
メルギスクが戸惑いながら入ると目を見開き感嘆の声を上げた。
「風呂に浸かりながら景色を一望できるんですね。というか、テレビありのジェット風呂とかはじめて見ました」
「ここら辺の設備も自由に使ってくれてかまわないから。それじゃあ、リビングに戻ろうか」
「は、はい」
リビングに戻ってくると、再び緊張しているメルギスクにソファへ座るよう促す。
コーヒーを飲むとき以外使わないキッチンで白いコーヒーを白いマグカップに入れて持って行けば、まだ突っ立ていたメルギスクがためらいがちに聞いてきた。
「あの、俺。まだあなたの名前を聞いてないんですが」
「私はホルツ。研究部門の統括管理責任者をしている。ほら、気にせず腰をかけるといい」
ホルツがもう一度促せば、メルギスクはソファへ座ると居心地悪そうに口を開いた。
「もう知ってると思いますが、俺はメルギスクといいます。えっと、ホルツさんの部屋は家具含めてどこも白いですけど、白が好きなんですか?」
ホルツはメルギスクの分のコーヒーをローテーブルの上に置き、自分のコーヒーを片手にメルギスクの隣へ腰を下ろして一口飲んだ。
「ああ、好きだよ。白は潔白の色だからね。私にふさわしい色だろう?」
「……あんな非人道的な実験を命じているあなたのどこが潔白なんですか」
その時の光景を思い出したのか、メルギスクは尻尾を体に巻き付けてぶるっと体を震わした。
ホルツはコーヒーをテーブルに置くと長い足を優雅に組んだ。
「潔白だとも。きみのいう非人道的な実験のおかげで、かつて不治と言われた病も今や注射を一回打ったら治るものへとした。多くの人は私に感謝すれど、その過程を責めはしないだろうね」
「それは……」
淡々と告げればメルギスクは目を伏せて黙り込んだ。
おびえた小動物のような振る舞いが面白くて顔をのぞき込むと、そのままきつく引き結ばれている唇に唇を当てた。そうすればバッとメルギスクが飛び跳ねて距離をとった。
「な、な、なにするんですか!」
「キスだよ。きみは私の恋人になったんだ。なら、しても問題ないだろう」
たかが唇同士がふれあっただけなのに、なにをそんなに焦っているのか。メルギスクが顔を赤くしたり青くしたりとせわしない様子がわからない。
メルギスクはぐっと唇を引き結んだ後、ため息とともに緩めた。
「命を助けてもらったことには感謝してます。でも、俺はあなたのことをまだ恋人として受け入れられない」
「それは困るな」
少し考えた末、ホルツは端末を懐から取り出すとメルギスクへ差し出した。
「この端末をきみにあげよう。代金は私が支払うから欲しいものがあったらこれを使って好きなだけ買うといい」
ぽかんとして受け取らないメルギスクの手に端末とカードキーを押しつけて続けた。
「今や私の恋人であり、管理局公認の魔人となったきみの生体反応はすでに登録しておいた。この部屋に十九時まで必ず帰ってくるのなら出入りの自由も許可しよう」
「……は? いや、あの」
「それじゃあ、私はシャワーを浴びてくる。あ、キッチンも好きに使ってくれてかまわないからね」
戸惑う以外の感情をみせないメルギスクに飽きて立ち上がると脱衣所へと向かった。
シャワー浴び終わってでてくれば、メルギスクはまだソファに座っていた。端末の画面は真っ暗で、電源さえ入れてないようだ。
「おや、まだそこにいたのか。もしかして使い方がわからなかったのかい」
眉を寄せて真っ暗な端末を見つめるメルギスクに近づいて端末をのぞき込む。
だが、メルギスクはブンブンと頭を勢いよく横に振って、ずいっと端末を差し出してきた。
「これ、お返しします」
「どうして? ほしいものを買ってあげるのは恋人の役目だろう」
「その考えはある意味間違ってないですけど。これはなんか違うというか。とにかくお返しします」
「ふむ……」
もので手っ取り早く釣られてくれたら楽だったが、メルギスクは真面目とまわりから言われるだけあって無償の善意は受け取る気がないようだ。
「なら、欲しいものがあった時、きみはどうするんだい?」
「働いてお金を稼ぐだけです」
まっすぐにホルツを見つめて告げてくる。
一般的な回答としては満点だが、魔人としての回答であれば不正解だ。ホルツは自身の顎に手を当てるとすうっと瞳を細めた。
「魔人となった以上、人間としてのきみは死んだんだ。なら、雇うにあたって今のきみを保証してくれものはないのに、どうやって働くんだい?」
「それは……」
魔人の働き口は賞金稼ぎしかない。けれど、今まで平凡に生きていたメルギスクが賞金稼ぎとして生きていくのは不可能だ。
ましてや賞金稼ぎにもっとも必要な自分の身を守る術も相手を殺し、殺される覚悟もメルギスクにない。だが、それは普通のことで、そういった生き方をしなくても問題ない証でもある。
メルギスクも自身に覚悟がないことをわかっているのだろう。唇を噛みしめてうつむく。
ようやく見せた隙にすかさずホルツは切り出した。
「きみは不服かもしれないけど、どうか恋人として私に頼ってほしい」
「……」
感情に寄り添って共感すれば、メルギスクのようなタイプは時間がかかるが従順になっていくだろう。
面倒であるものの、メルギスクがホルツを好きにならないと愛を解明する足がかりすら始めることができないのだ。
しかし、メルギスクのプライドが許せないのか、顔を上げると真面目な顔つきでホルツを見つめてズイッと端末を差し出した。
「ホルツさんの心遣いは大変助かります。だからこそ、お返しします」
「……わかった。なら、これは一時的に預かろう。使いたくなったら遠慮なくいうんだよ」
「はい」
思ったよりも頑固なメルギスクに面倒を感じつつも端末を受け取ると、メルギスクがホッと息をついた。
そしてためらいがちに尋ねてきた。
「あの、俺もシャワーを浴びたいんですが、バスタオルや着替えは」
「きみがあがるまでには手配しておこう」
「ありがとうございます」
メルギスクはソファから立ち上がるとペコッと頭を下げて脱衣所へ消えていく。
ホルツはソファへと腰をかけ、メルギスクから返された端末に電源を入れる。適当に下着と寝間着、それとバスタオルいくつか購入すれば、一瞬で目の前に現れた。
ついでメルギスクの部屋へとなった隣の空き室へ入り、先ほどと同じようにベッドのほかいくつかの家具を購入する。
そうすれば、すでに組み立てられたベッドをはじめ、ほかの家具も的確な位置で配置された。
「これなら彼も満足するだろう」
さながら高級ホテルの一室のごとく、白を基調とした部屋は複数の灯りで淡い光に包まれている。大きく広いベッドは一度寝たらやみつきになると評判のものだ。ホルツは必要性を感じないが、念のため観葉植物も二つほど設置した。
やることを終えてメルギスクの部屋から出ると、脱衣所へバスタオルと着替えを置いて自室へ戻る。
端末をデスクへ置いて、お気に入りの一人がけ白いソファへと腰を下ろす。これからの参考に人気の恋愛映画を壁に映して眺めているとノックの音がした。
「すみません、入っていいですか?」
「ああ、かまわないとも」
ドアの方へと振り向かず、頬杖をついたまま流れていく映像を見つめて返す。
ためらいがちにドアが開かれ、息を殺したメルギスクの気配が背後からした。
「バスタオルと着替えだけじゃなくて、ベッドとかの手配までしてくださりありがとうございます」
「礼を言われることはしてないよ。私は必要だと思ったからしただけだからね」
「それは、俺があなたの恋人だから……ですか?」
「それ以外理由があるかい?」
ようやくメルギスクの方へ肩越しに振り返れば、メルギスクは視線をさまよわせた後、おずおずと続けた。
「いえ、なにも。……あの、図々しいお願いなのは承知なんですが、俺には弟が二人いるんだ。あいつらもここで一緒に暮らすのは」
「管理局の方で支援するから心配いらないよ」
子供がいたらそれは夫婦だ。ホルツが求めているのは恋人であって、夫婦ではない。
明確な拒絶にメルギスクは手を握りしめるとぎゅっと手を握りしめた。
「けど、あいつらはまだ小さくて、心配なんです」
「小さいと言っても、自分の意思で歩いたり話すことができるんだろう? なら、なにも問題ないよ」
現にホルツは両親を知らず、弟が勝手に独り立ちし突然孤独になったが、誰に頼ることなく今の地位まで上り詰めた。
だからこそ、メルギスクの心配は過剰に思えた。けれど、メルギスクはホルツとは真逆に感じたようだ。
「……ホルツさんはまるで機械みたいですね」
「そんなことはじめて言われたな」
少なくとも中央管理局でホルツと関わったものたちからの評価は、物腰が柔らかく誰にもでも公平な見た目が整っている研究者だ。
だからか、女職員から食事を誘われたりするが、好奇心対象以外はホルツにとって都合のいいときに利用できる道具、あるいは文字通りいてもいなくても困らないどうでもいい存在だ。
壁に掛かっている時計を見れば、深夜を回っている。ホルツは垂れ流しになっていた映画を止めるとソファから立ち上がった。
「さて、私はそろそろ寝るよ」
「長々とすみませんでした。俺も部屋に戻りますね」
時刻に気づいたメルギスクが勢いよく頭を下げて部屋から出て行く。
ホルツはベッドに横たわるとそのまま眠りについた。
専用エレベーターに乗って最上階につけば、エレベーターが開くとともに、つやつやした白いタイルに覆われた玄関が出迎えた。
「トイレは右の白い扉だよ。左の白い扉はシューズクロークになってるんだ。それで、真っ正面の白い扉は……」
靴からスリッパに履き替え、ゆとりのある玄関を進んで白い扉を開ければ、壁も床も天井も備え付けの家具すら白で統一された開放的な空間が眼前に広がる。
「見ての通り、リビングダイニングキッチンだ」
大きなテレビを挟むようにある対のスピーカーの向かいには、体格のいい男が眠れてしまうほど大きく座り心地のよいソファがある。
入ってすぐ左手側にある広いキッチンを通り過ぎると、左側の奥に三つ扉があった。ホルツは一番左の白い扉を指差すと告げた。
「あの一番左の部屋が私の寝室を兼ねた私室だ。その隣に二つ扉があるけど、どっちも空き部屋だから好きな方を使うといい」
「わ、わかりました」
ホルツの言葉にメルギスクはぎこちなく頷き、応えた。
「それで浴室だけど、右側にあるよ」
脱衣所と浴室に続いている白い扉に近づいて開けて中に入るよう促した。
メルギスクが戸惑いながら入ると目を見開き感嘆の声を上げた。
「風呂に浸かりながら景色を一望できるんですね。というか、テレビありのジェット風呂とかはじめて見ました」
「ここら辺の設備も自由に使ってくれてかまわないから。それじゃあ、リビングに戻ろうか」
「は、はい」
リビングに戻ってくると、再び緊張しているメルギスクにソファへ座るよう促す。
コーヒーを飲むとき以外使わないキッチンで白いコーヒーを白いマグカップに入れて持って行けば、まだ突っ立ていたメルギスクがためらいがちに聞いてきた。
「あの、俺。まだあなたの名前を聞いてないんですが」
「私はホルツ。研究部門の統括管理責任者をしている。ほら、気にせず腰をかけるといい」
ホルツがもう一度促せば、メルギスクはソファへ座ると居心地悪そうに口を開いた。
「もう知ってると思いますが、俺はメルギスクといいます。えっと、ホルツさんの部屋は家具含めてどこも白いですけど、白が好きなんですか?」
ホルツはメルギスクの分のコーヒーをローテーブルの上に置き、自分のコーヒーを片手にメルギスクの隣へ腰を下ろして一口飲んだ。
「ああ、好きだよ。白は潔白の色だからね。私にふさわしい色だろう?」
「……あんな非人道的な実験を命じているあなたのどこが潔白なんですか」
その時の光景を思い出したのか、メルギスクは尻尾を体に巻き付けてぶるっと体を震わした。
ホルツはコーヒーをテーブルに置くと長い足を優雅に組んだ。
「潔白だとも。きみのいう非人道的な実験のおかげで、かつて不治と言われた病も今や注射を一回打ったら治るものへとした。多くの人は私に感謝すれど、その過程を責めはしないだろうね」
「それは……」
淡々と告げればメルギスクは目を伏せて黙り込んだ。
おびえた小動物のような振る舞いが面白くて顔をのぞき込むと、そのままきつく引き結ばれている唇に唇を当てた。そうすればバッとメルギスクが飛び跳ねて距離をとった。
「な、な、なにするんですか!」
「キスだよ。きみは私の恋人になったんだ。なら、しても問題ないだろう」
たかが唇同士がふれあっただけなのに、なにをそんなに焦っているのか。メルギスクが顔を赤くしたり青くしたりとせわしない様子がわからない。
メルギスクはぐっと唇を引き結んだ後、ため息とともに緩めた。
「命を助けてもらったことには感謝してます。でも、俺はあなたのことをまだ恋人として受け入れられない」
「それは困るな」
少し考えた末、ホルツは端末を懐から取り出すとメルギスクへ差し出した。
「この端末をきみにあげよう。代金は私が支払うから欲しいものがあったらこれを使って好きなだけ買うといい」
ぽかんとして受け取らないメルギスクの手に端末とカードキーを押しつけて続けた。
「今や私の恋人であり、管理局公認の魔人となったきみの生体反応はすでに登録しておいた。この部屋に十九時まで必ず帰ってくるのなら出入りの自由も許可しよう」
「……は? いや、あの」
「それじゃあ、私はシャワーを浴びてくる。あ、キッチンも好きに使ってくれてかまわないからね」
戸惑う以外の感情をみせないメルギスクに飽きて立ち上がると脱衣所へと向かった。
シャワー浴び終わってでてくれば、メルギスクはまだソファに座っていた。端末の画面は真っ暗で、電源さえ入れてないようだ。
「おや、まだそこにいたのか。もしかして使い方がわからなかったのかい」
眉を寄せて真っ暗な端末を見つめるメルギスクに近づいて端末をのぞき込む。
だが、メルギスクはブンブンと頭を勢いよく横に振って、ずいっと端末を差し出してきた。
「これ、お返しします」
「どうして? ほしいものを買ってあげるのは恋人の役目だろう」
「その考えはある意味間違ってないですけど。これはなんか違うというか。とにかくお返しします」
「ふむ……」
もので手っ取り早く釣られてくれたら楽だったが、メルギスクは真面目とまわりから言われるだけあって無償の善意は受け取る気がないようだ。
「なら、欲しいものがあった時、きみはどうするんだい?」
「働いてお金を稼ぐだけです」
まっすぐにホルツを見つめて告げてくる。
一般的な回答としては満点だが、魔人としての回答であれば不正解だ。ホルツは自身の顎に手を当てるとすうっと瞳を細めた。
「魔人となった以上、人間としてのきみは死んだんだ。なら、雇うにあたって今のきみを保証してくれものはないのに、どうやって働くんだい?」
「それは……」
魔人の働き口は賞金稼ぎしかない。けれど、今まで平凡に生きていたメルギスクが賞金稼ぎとして生きていくのは不可能だ。
ましてや賞金稼ぎにもっとも必要な自分の身を守る術も相手を殺し、殺される覚悟もメルギスクにない。だが、それは普通のことで、そういった生き方をしなくても問題ない証でもある。
メルギスクも自身に覚悟がないことをわかっているのだろう。唇を噛みしめてうつむく。
ようやく見せた隙にすかさずホルツは切り出した。
「きみは不服かもしれないけど、どうか恋人として私に頼ってほしい」
「……」
感情に寄り添って共感すれば、メルギスクのようなタイプは時間がかかるが従順になっていくだろう。
面倒であるものの、メルギスクがホルツを好きにならないと愛を解明する足がかりすら始めることができないのだ。
しかし、メルギスクのプライドが許せないのか、顔を上げると真面目な顔つきでホルツを見つめてズイッと端末を差し出した。
「ホルツさんの心遣いは大変助かります。だからこそ、お返しします」
「……わかった。なら、これは一時的に預かろう。使いたくなったら遠慮なくいうんだよ」
「はい」
思ったよりも頑固なメルギスクに面倒を感じつつも端末を受け取ると、メルギスクがホッと息をついた。
そしてためらいがちに尋ねてきた。
「あの、俺もシャワーを浴びたいんですが、バスタオルや着替えは」
「きみがあがるまでには手配しておこう」
「ありがとうございます」
メルギスクはソファから立ち上がるとペコッと頭を下げて脱衣所へ消えていく。
ホルツはソファへと腰をかけ、メルギスクから返された端末に電源を入れる。適当に下着と寝間着、それとバスタオルいくつか購入すれば、一瞬で目の前に現れた。
ついでメルギスクの部屋へとなった隣の空き室へ入り、先ほどと同じようにベッドのほかいくつかの家具を購入する。
そうすれば、すでに組み立てられたベッドをはじめ、ほかの家具も的確な位置で配置された。
「これなら彼も満足するだろう」
さながら高級ホテルの一室のごとく、白を基調とした部屋は複数の灯りで淡い光に包まれている。大きく広いベッドは一度寝たらやみつきになると評判のものだ。ホルツは必要性を感じないが、念のため観葉植物も二つほど設置した。
やることを終えてメルギスクの部屋から出ると、脱衣所へバスタオルと着替えを置いて自室へ戻る。
端末をデスクへ置いて、お気に入りの一人がけ白いソファへと腰を下ろす。これからの参考に人気の恋愛映画を壁に映して眺めているとノックの音がした。
「すみません、入っていいですか?」
「ああ、かまわないとも」
ドアの方へと振り向かず、頬杖をついたまま流れていく映像を見つめて返す。
ためらいがちにドアが開かれ、息を殺したメルギスクの気配が背後からした。
「バスタオルと着替えだけじゃなくて、ベッドとかの手配までしてくださりありがとうございます」
「礼を言われることはしてないよ。私は必要だと思ったからしただけだからね」
「それは、俺があなたの恋人だから……ですか?」
「それ以外理由があるかい?」
ようやくメルギスクの方へ肩越しに振り返れば、メルギスクは視線をさまよわせた後、おずおずと続けた。
「いえ、なにも。……あの、図々しいお願いなのは承知なんですが、俺には弟が二人いるんだ。あいつらもここで一緒に暮らすのは」
「管理局の方で支援するから心配いらないよ」
子供がいたらそれは夫婦だ。ホルツが求めているのは恋人であって、夫婦ではない。
明確な拒絶にメルギスクは手を握りしめるとぎゅっと手を握りしめた。
「けど、あいつらはまだ小さくて、心配なんです」
「小さいと言っても、自分の意思で歩いたり話すことができるんだろう? なら、なにも問題ないよ」
現にホルツは両親を知らず、弟が勝手に独り立ちし突然孤独になったが、誰に頼ることなく今の地位まで上り詰めた。
だからこそ、メルギスクの心配は過剰に思えた。けれど、メルギスクはホルツとは真逆に感じたようだ。
「……ホルツさんはまるで機械みたいですね」
「そんなことはじめて言われたな」
少なくとも中央管理局でホルツと関わったものたちからの評価は、物腰が柔らかく誰にもでも公平な見た目が整っている研究者だ。
だからか、女職員から食事を誘われたりするが、好奇心対象以外はホルツにとって都合のいいときに利用できる道具、あるいは文字通りいてもいなくても困らないどうでもいい存在だ。
壁に掛かっている時計を見れば、深夜を回っている。ホルツは垂れ流しになっていた映画を止めるとソファから立ち上がった。
「さて、私はそろそろ寝るよ」
「長々とすみませんでした。俺も部屋に戻りますね」
時刻に気づいたメルギスクが勢いよく頭を下げて部屋から出て行く。
ホルツはベッドに横たわるとそのまま眠りについた。
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