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恋人はデートするもの
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メルギスクを恋人にしてあっという間に一ヶ月経った。だが、二人の関係はまったくといっていいほど進展していなかった。
変わったことといえば、少し前からメルギスクは弟たちを心配して十九時ギリギリまで外へでている。
たいしてホルツも適当に寄り添って共感すればいいとわかっていても、食事をする時間もバラバラで会話らしい会話も最初に連れてきてからしてない。
心が無理なら肉体からと、てっとり早くセックスをすればいいと考えたが、生まれてこの方性欲を感じたことがない。
それどころか生物の本能へ導く性欲に嫌悪を感じる始末だ。
とはいえ、さすがのホルツもメルギスクとの距離がまったく縮まっていないことはわかっている。
「どうしたものか」
積み上げられた書類にサインする手を止め、息抜きにコーヒーを買いに行く。
自販機でカップにコーヒーを注がれているのを待っていれば、自販機の隣の休憩席で二人の女社員が飲み物を手に会話していた。
「ねえ、聞いて。明日、一ヶ月ぶりに彼氏とデートするんだ~」
「いいなあ、私の彼氏多忙で全然時間とれないんだよねえ」
話に夢中なのか内容も筒抜けだ。しかし、皮肉にも彼女たちの会話はホルツにとって寝耳に水だった。
「デートか……」
紙コップのコーヒーを手に統括管理責任者の部屋へと戻って、イスに腰を下ろす。
端末を操作してメルギスクの行動履歴を確認すれば、昼間から二人の弟のもとへ行っているようだ。
思い返せば、一緒にでかけたことがなかった。
そもそもホルツはこれまで誰かとでかけたことがない。出張も空間移動の異能を持つため一人が基本だ。プライベートに至っては端末ですべて補えることもあり、でかける意味がわからなかった。
デートをすると決めれば、書類をチェックしながらデートプランを組み立てていこうとしたものの、そこで考えが止まる。
メルギスクは魔人になって捕まるまでは二人の弟のために生きてきた家族思いの人間だ。そんな人物が家族に会う以外で喜びそうな場所とはどこか。
「変なものだ」
メルギスクの名前、身長、体重、過去、家族構成。それらを知っているのに、デートするためにほしい情報である趣味嗜好を知らない。いや、興味がなく、知ろうとしなかった。
依然として、メルギスクはホルツにとって愛を解明するために必要な相手、もっと露骨に言えば替えのきく実験道具だ。まずこの認識を変えなければいけない。
生ぬるく水っぽいコーヒーを飲み干すとカラになった紙カップをゴミ箱へと捨てる。
「面倒だな」
思わず言葉として漏れたものの、頭の中は爽快感を覚えるほどしゃっきりしている。
だからなのか、張り付いた形だけの笑みではなく、自然と口元に笑みが浮かんでいたことに気づかなかった。
「明日デートをしよう」
仕事を終えて早々、台所でお湯が沸くのを待っているメルギスクに告げた。
ヤカンからそっと顔を上げてホルツを見上げるメルギスクの顔は、なんで? どうして? と雄弁に語っている。
ホルツはカフェオレ色の瞳を無感情に見つめながら口を開いた。
「きみと私は恋人だろ? なのに、恋人らしいことをしていないと思ってね」
「はぁ……」
眉を寄せながらも眉尻を下げてじっと見てくる様はさながら虐待におびえる子供のようだ。
手荒に扱ったのは、恋人になった直後チップを埋め込んだ時だけだ。なぜそんな反応されるか理解できない。
それでも、あえて無視して言葉を続けた。
「私は以前言ったとおり、愛を解明したい。それにはきみの協力が必要不可欠だ。だが、きみは依然として私に怯え、避けている。これでは話にならないだろう?」
「だからデートですか」
「ああ。なにか問題でも?」
メルギスクはなにか言い足そうに口を開けたが、すぐに閉じ、かわりに耳を立てないと聞き取れないほどの小さいため息をついた。
「いえ、なにも」
「きみの服はこちらで用意しておこう。きみはいつも黒のつなぎだからね」
「俺の格好とか気にするんですね」
意外そうに返したメルギスクに、ホルツはパチパチと瞬きをするとにこっと優しく微笑んだ。
「恋人とはそういうものだろう?」
「……やっぱり前言撤回します」
メルギスクは目を伏せると肺の中の空気を押し出す勢いでため息をつく。おかしなことを言ったつもりはないが、要件は伝えた以上ここにいる必要はない。
ホルツは「それじゃあ明日十時まで起きておくように」と告げて部屋を出た。
変わったことといえば、少し前からメルギスクは弟たちを心配して十九時ギリギリまで外へでている。
たいしてホルツも適当に寄り添って共感すればいいとわかっていても、食事をする時間もバラバラで会話らしい会話も最初に連れてきてからしてない。
心が無理なら肉体からと、てっとり早くセックスをすればいいと考えたが、生まれてこの方性欲を感じたことがない。
それどころか生物の本能へ導く性欲に嫌悪を感じる始末だ。
とはいえ、さすがのホルツもメルギスクとの距離がまったく縮まっていないことはわかっている。
「どうしたものか」
積み上げられた書類にサインする手を止め、息抜きにコーヒーを買いに行く。
自販機でカップにコーヒーを注がれているのを待っていれば、自販機の隣の休憩席で二人の女社員が飲み物を手に会話していた。
「ねえ、聞いて。明日、一ヶ月ぶりに彼氏とデートするんだ~」
「いいなあ、私の彼氏多忙で全然時間とれないんだよねえ」
話に夢中なのか内容も筒抜けだ。しかし、皮肉にも彼女たちの会話はホルツにとって寝耳に水だった。
「デートか……」
紙コップのコーヒーを手に統括管理責任者の部屋へと戻って、イスに腰を下ろす。
端末を操作してメルギスクの行動履歴を確認すれば、昼間から二人の弟のもとへ行っているようだ。
思い返せば、一緒にでかけたことがなかった。
そもそもホルツはこれまで誰かとでかけたことがない。出張も空間移動の異能を持つため一人が基本だ。プライベートに至っては端末ですべて補えることもあり、でかける意味がわからなかった。
デートをすると決めれば、書類をチェックしながらデートプランを組み立てていこうとしたものの、そこで考えが止まる。
メルギスクは魔人になって捕まるまでは二人の弟のために生きてきた家族思いの人間だ。そんな人物が家族に会う以外で喜びそうな場所とはどこか。
「変なものだ」
メルギスクの名前、身長、体重、過去、家族構成。それらを知っているのに、デートするためにほしい情報である趣味嗜好を知らない。いや、興味がなく、知ろうとしなかった。
依然として、メルギスクはホルツにとって愛を解明するために必要な相手、もっと露骨に言えば替えのきく実験道具だ。まずこの認識を変えなければいけない。
生ぬるく水っぽいコーヒーを飲み干すとカラになった紙カップをゴミ箱へと捨てる。
「面倒だな」
思わず言葉として漏れたものの、頭の中は爽快感を覚えるほどしゃっきりしている。
だからなのか、張り付いた形だけの笑みではなく、自然と口元に笑みが浮かんでいたことに気づかなかった。
「明日デートをしよう」
仕事を終えて早々、台所でお湯が沸くのを待っているメルギスクに告げた。
ヤカンからそっと顔を上げてホルツを見上げるメルギスクの顔は、なんで? どうして? と雄弁に語っている。
ホルツはカフェオレ色の瞳を無感情に見つめながら口を開いた。
「きみと私は恋人だろ? なのに、恋人らしいことをしていないと思ってね」
「はぁ……」
眉を寄せながらも眉尻を下げてじっと見てくる様はさながら虐待におびえる子供のようだ。
手荒に扱ったのは、恋人になった直後チップを埋め込んだ時だけだ。なぜそんな反応されるか理解できない。
それでも、あえて無視して言葉を続けた。
「私は以前言ったとおり、愛を解明したい。それにはきみの協力が必要不可欠だ。だが、きみは依然として私に怯え、避けている。これでは話にならないだろう?」
「だからデートですか」
「ああ。なにか問題でも?」
メルギスクはなにか言い足そうに口を開けたが、すぐに閉じ、かわりに耳を立てないと聞き取れないほどの小さいため息をついた。
「いえ、なにも」
「きみの服はこちらで用意しておこう。きみはいつも黒のつなぎだからね」
「俺の格好とか気にするんですね」
意外そうに返したメルギスクに、ホルツはパチパチと瞬きをするとにこっと優しく微笑んだ。
「恋人とはそういうものだろう?」
「……やっぱり前言撤回します」
メルギスクは目を伏せると肺の中の空気を押し出す勢いでため息をつく。おかしなことを言ったつもりはないが、要件は伝えた以上ここにいる必要はない。
ホルツは「それじゃあ明日十時まで起きておくように」と告げて部屋を出た。
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