欠陥研究者は愛を解明したい

天霧 ロウ

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おまけ 理不尽を癒やす方法* 

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 ダイニングテーブルに顔を乗せてぼんやりとリビングを見渡す。
 サニーとレインが学校へ通うようになってからどうにも手持ち無沙汰だ。学校は二人からみて何もかも新鮮なのか帰ってくるたび今日はあれがあった。こんなことがあったといろんな話をしてくれる。
 それはとても喜ばしいことだが、兄として自分の庇護から飛びだってしまったような寂しさを覚えてしまう。
 なによりホルツと両思いなった翌日、今まで通り一緒に寝ようとしたら入っちゃだめ! と言われたのだ。
 その後の記憶がない。目覚めればホルツのベッドにおり、ホルツから気絶していたと説明された。それでもなお、サニーとレインは一緒に寝るのだめ! の一点張りだ。

「俺も弟離れしなきゃなのかなあ」

 ダイニングテーブルから顔を上げてはあっとため息をつく。
 おそらく今日も一緒に寝ようとしたらだめ! の一点張りだろう。もちろん、空いている部屋がもう一つあるためそこを私室にするという案もあるが――。

「俺だって別に一緒に寝るのが嫌なわけじゃないし……」

 ホルツは自室のベッドをいつのまにか新調していた。おかげで並んでも余裕があり、元々の防音もあって激しいことをしてもサニーとレインに聞こえる心配はない。
 だからこそ、困るのだ。

「あぁ、くそ。発情期を迎えた動物かよ」

 はじめてセックスしてからすっかりご無沙汰なのだ。むろん頭や体に渦巻くいかがわしい衝動が魔物の遺伝子によるものでないことは重々わかっている。
 しかしセックスがしたいなど口が裂けても言えるわけない。というのも、ホルツ――中央管理局は絶賛繁忙期だ。
 一般と管轄は違うらしいが、春は魔物の遺伝子密売横行が多く、戦闘員や非常時戦闘員である管理局直轄の魔人もかり出されるようだ。しかし、それでも手が回らず、賞金稼ぎに依頼したり、ホルツ自身が戦闘にでる事態が多々ある。当然書類チェックが遅れ、その分を処理して帰ってくる。
 そのせいかここ二週間は毎日二十三時を前後する始末だ。

「俺も戦えれば役に立てるかな」

 自分も直轄の魔人なのだ。であれば、戦う義務がある。だが、それをしなくていいのはおそらくホルツの配慮――あるいは戦闘経験のない一般人は足を引っ張るから不要が正しいかもしれない。
 そもそも魔物の遺伝子を注入する多くのものは、暴力を振るうことになれている。メルギスクのようなもらい事故の方が珍しい。

「戦う以外で俺にできること……」

 結局思いついたのは、ホルツが疲れて帰ってきた際、適温の部屋と温かい食事、そしてすぐお風呂に入って休める環境を提供するぐらいだ。

「結局、いつもどおりじゃん」

 悩んで出した答えにもう一度ため息をついた。



「おかえりなさい、ホルツさん。ご飯温めておきましたから」

 二十三時手前でホルツが帰ってきた。ここ最近遅いためか玄関で待つという行為はすっかり習慣になりかけている。驚くべきなのは、連日遅く帰ってきてもホルツの顔色が変わらないことだ。
 ホルツが目尻を下げるとすっかり慣れた調子で腰へ手を回してくる。

「ただいま、メル」

 言葉とともに唇が重なる。春といえど外の空気はまだ冷たいのか、かすかに触れた頬と唇が一瞬冷たい。
 夜遅くサニーとレインが起きてこないことをいいことに繁忙期からできた新たな習慣――ようするにおかえりなさいのキスだ。

「んぅ、ぁ、ホルツ、さん」

 いつもと違うのは、触れるだけのキスを何度か交わしながらホルツの手が尻尾の付け根を優しく撫でてくる。そのたびに尻尾が跳ね、久しぶりの刺激に体が勝手にうずき出す。
 明日休みといえど、ホルツは疲れているのだ。なら、疲れが残らないようゆっくり休ませるべきだ。なのに、久しぶりのホルツからの刺激に単純な体は勝手に火照り、秘部の中がじわぁっと濡れ始める。

「ホルツさん、ごは、んっ、ぅ」

 唇がかすかに離れた合間になんとか告げれば、やっとホルツがキスするのをやめた。そのことにホッとして、今度こそ食事をさせようと先に歩き出そうとすれば、体が微動だに動かない。

「ホルツさん?」

 がっちり抱きしめられている体はまるで岩にくくりつけられたみたいだ。こわごわと顔を上げれば、見慣れた笑顔だ。だが、気のせいか目が据わっている。
 自分の中の魔物の遺伝子が危険だと警報を鳴らしているが、理由はわからない。戸惑いを隠せず見つめていれば、ホルツがようやく口を開いた。

「食事はあとで食べるよ」
「じゃあ、お風呂どうぞ。沸かしておきましたので」

 念のために沸かしておいてよかったとほっとしたのもつかの間「そうだね」とホルツは続けた。

「じゃあ、一緒に入ろうか」
「俺もう入りましたよ? 二人で入ったらさすがに少し狭いと思うので、ホルツさん一人で入ってください」

 ゆったり湯に浸かれば少しは疲れがとれるだろう。そんな計らいで告げたが、ホルツはなぜか残念そうにため息をついた。

「わかった。じゃあ、私の部屋で待っていてくれるかい?」
「ホルツさんの部屋にですか? ……わ、かりました」

 ホルツの部屋で待つ。それだけで顔が熱くなり、ほんの少し期待してしまう。そんな感情を思い起こした自分が恥ずかしくて目を伏せる。だからか、ホルツが頬を緩ませて「いってくるよ」と嬉しそうに囁いてきたこと気づけなかった。
 ホルツが風呂場へ向かったのを見送った後、ぎこちなくホルツの部屋へ向かう。部屋に入れば、ふわっと爽やかな匂いが鼻腔をくすぐり、部屋の隅には以前よりも主張の強い広いベッドが目に入った。
 それを見れば、やはり期待してしまう。バクバクとうるさい心臓をなだめようと深呼吸を繰り返すが、かえってうるさくなるばかりだ。ベッドランプをつけてそっとベッドに腰掛けるとうつむいた。

「やっぱり俺も風呂入ればよかった」

 どうせセックスしたらどちらも汗だくになるが、それとこれは別の話だ。そんなことが思いつくと慌てて頭を振った。

「いや、セックスすると決まったわけじゃないだろ!」

 すっかりセックスする気になっている自分に言い聞かせる。だが、口ではそういうもののやはり期待してしまうのだ。落ち着かなくてそわそわと尻尾の先を揺らしてどのくらい経ったか。
 音もなく扉が開き、細い光が差し込んだ。ハッとして顔を上げるとバスローブを着たホルツが入ってくる。まるで映画のワンシーンに見えて呆然と見とれていれば、ホルツが片眉をあげて微笑んだ。

「どうしたんだい、メル」
「え、いえ。なにも……」

 パッと視線を外して再びうつむけば、ホルツが隣に腰を下ろしてくる。かすかにベッドが沈み、尻尾がぴくっと跳ねる。

「メル」

 名前を呼ばれておずおずと顔を上げると身をかがめてきたホルツと唇が重なった。
 風呂上がりで血行がいいおかげだろう。温かな唇は心地よく、じんわりとお互いの唇の温度が移り合って境界線が曖昧になっていく。激しいキスも気持ちがよくて好きだが、やはりこの瞬間が一番好きだった。

「ん……」

 自然と眉がさがり、だらしなく尻尾が伸びてしまう。
 唇以外にもホルツに触れたくてそっとバスローブを握れば、ホルツの手がメルギスクの手を包むように優しく握ってくる。そしてホルツの舌がメルギスクの舌を捕まえるとねっとりと絡んできた。

「ふっ、ぅ、ぁ…、は、ぁ」

 音を一切出さないでできるホルツがわざと音を立ててすることに気づいてからは甘い痺れが腰から脳天を何度も貫くのだ。しっとりと肌が汗ばみ、茹だった頭が意識を曖昧にする。
 それを見計らうようにホルツの唇が離れ、メルギスクを抱き上げて膝の上へと乗せた。そのまま服を脱がされれば、ホルツが脇腹を撫でながら汗ばむ首筋や鎖骨を食んできた。

「ぁ…、はっ、ぁ」

 ずり落ちないとわかっていてもホルツの頭を抱きしめてすがりつく。そうすると、脇腹や腰を撫でていたホルツの手が尻を撫で、やんわりと掴んできた。

「んっ」

 尻を左右に広げれば、あらわになった秘部も横に広がるのがわかる。期待で秘部がひくつき、とろぉっと滴が糸を引いて垂れ落ちる。体もいっそう火照り、はっはっと息があがって心臓がうるさくてしょうがない。
 ホルツの指が秘部の縁をなぞると口の端をつり上げた。

「はじめての時よりも粘度があるね。おや、また垂れ落ちた」
「いわないで、くださぃ…っ! ひっ、んん゛」

 ぬぷぅと中指が秘部の中に入ってくる。たったそれだけで背中をのけぞらして絶頂してしまう。きゅうきゅうと指を締め付けて味わっていると、ホルツの片手が尻尾の付け根をなぞってきた。

「ん゛ぁ! ァ、どうじは、だめっ…だ、め――!」

 緩い絶頂から逃れられず、ガクガクと体が震える。すっかり高ぶった中心からトプトプと熱を吐き出すが、ホルツの指がぬちゅぬちゅと音を立てて抜き差しすれば、体の奥から湧き上がる快感にのけぞった。

「ほるつさん、それ、だ、め…、~~~~ッ」

 ホルツの腹や胸元に向けてプシャァアッと勢いよく潮が吹き出る。粗相をしたような恥ずかしさと気持ちよさにホルツの膝から崩れ落ちそうになったが、ホルツの腕が抱き留めた。

「メル、気持ちよかったかい」
「は、ぃ……」

 快感でグズグズになった理性から自然と素直な気持ちが転がり出る。力なくホルツの首にもう一度腕を回せば、ホルツは淡い青緑の瞳を細めた。

「じゃあ、今度は一緒に気持ちよくなろう」

 ぐっと腰を捕まれて持ち上げられると腹につきそうなほどそそり立つホルツの高ぶりが秘部に押し当てられる。とろついた秘部はまっていたと言わんばかりにちゅうちゅうとホルツの先端に吸い付いた。

「ぁ、あっ……」

 久しぶりにホルツと一つになれる。その事実に頭がいっぱいになり、心臓が壊れる勢いで鼓動を打つ。はっはっと息を荒げて視線を下ろしていれば、ホルツが唇の端をつり上げた。

「ほら、メル。腰を下ろしてごらん。私のが入っていくよ」
「ん、ぁ…、ぁ゛、んぅう」

 ホルツに腰を支えられながら言われたとおり下ろせば、秘部を限界まで広げてホルツの高ぶりがゆっくりと入ってくる。

「あ゛っ、あぁ……! ほるつさ…ん、はぁっ、んん゛……いくっ、ィくっ!」

 トロトロになった中とホルツの高ぶりがこすれるたび何度も絶頂が全身を駆け巡り好き勝手に締め付けてはまた強い絶頂を味わう繰り返しから抜け出せない。
 ホルツも抜け出させる気はないのか半分ほど入ったところでズルルッと引き抜いてはいれてを繰り返す。

「だ、めっ…、ほるつさん、おれっ、あたま…へんになっちゃ、~~~~ッ」

 気持ちよさからボロボロと涙が勝手に溢れてくる。ホルツが顔を寄せてくると目尻に浮かぶ涙を吸って詫びるようにメルギスクの腰を一気に下ろさせた。

「ひ゛っ、ぅ…、ぁ゛、~~~~ッ!」

 寂しがっていた最奥へ突然の刺激とあまりの気持ちよさに顎から力が抜けて舌をだらしなく突き出して嬌声を漏らす。すがるようにぎゅうぅっと締め付けながら最奥がちゅうちゅうとホルツの先端に吸い付く。
 ホルツはかすかに眉を寄せると腰から手を離し、かわりに力いっぱい抱きしめてくる。メルギスクもホルツの腰に足を絡めてしっかり抱きしめ返す。

「メル…、メル……」

 うわごとに呟きながらとちゅとちゅと下から突き上げられる。
 ホルツが自分を求め、快感を得ているのがまた嬉しくてメルギスクはぎゅっとホルツの首元に顔を埋めた。

「ほるつさん、きもちぃいっ…! それ、すきっ、ぁ――、~~~~ッ」

 ビクッビクッとホルツの高ぶりが中で大きく跳ね、ぐりぐりと最奥に先端を押しつけてくると勢いよく熱が注がれた。一滴も漏らさないよう締め付けて、じんわりと広がる熱さに多幸感が全身の末端まで満たしていく。
 出し切ったホルツは熱のこもった息をゆっくり吐くと顔を上げてメルギスクにキスをしてくる。

「ん、ぅ…はぁっ、はーーっ」

 メルギスクもやり返せば、ホルツの高ぶりが中でまた硬さを取り戻しはじめている。

「ホルツさん、きょうは…も、ぅ」

 メルギスクとしてはまだしたいが、ホルツは連勤で疲れているのだ。ただでさえ疲れているのにこれ以上疲れさせるわけにはいかない。そんなメルギスクの考えなどお見通しと言わんばかりに、ホルツはあえて意地悪な質問をしてきた。

「メルは私とのセックスが嫌いになったのかい」
「そ、んなこと、あ゛りえま…せん、ぁ、あぁ゛!」
「なら、まだ続けよう。私はまだメルの中に出し足りないよ」

 ホルツはメルギスクをしっかり抱きしめてベッドにあがるとそのまま仰向けになる。そうすればホルツの上へまたがる形になり、自重でさらにホルツの高ぶりが奥へ入ってきた。

「ぁ゛、すごぃ…、ぉく、きもちぃいっ…! ぁ、ひっ、だめ、だ、め――っ」

 濡れそぼった秘部にホルツの茂みが密着し、最奥をこれでもかと押し上げられる。今までにないほど深いつながりに再び絶頂を味わっていると、ホルツがメルギスクの手首を掴んできてぐんっと下から突き上げてきた。
 絶頂中の刺激にのけぞってガクガクと震えれば、小刻みに何度も突き上げてくる。

「ひ゛、ああぁ! ほるつさ、ん゛っ、まっでッ、ぃくっ…イ゛…でる、からっ!」
「好きなだけイくといい」

 はーっはーっと舌を突き出して喘ぐメルギスクにホルツはいちだんと甘く微笑み返した。結局セックスは朝日が昇りかけるまで続いた。



 ハッと目を覚まして勢いよく起き上がれば、体は綺麗になっており、新しい寝間着に身を包んでいた。

「俺、いつのまに」

 セックスをしている時にどうやら気を失ったようだ。だが、体は心地よい疲労感とかすかにだが奥にホルツの熱が残っているのがわかる。そのことが嬉しいと思ってしまうのはホルツが好きだからこそだろう。
 ちらっと隣を見れば、ホルツが眠っている。

「ホルツさんの寝顔……」

 はじめてというわけではないが、珍しさにまじまじと眺めてしまう。あまりにも見つめていたせいか、かすかに目蓋が震え、ゆっくりと持ち上がる。焦点をメルギスクにあわせるとホルツはふっと笑った。

「そんなに私の寝顔が珍しいかい?」
「寝顔もどきなら見たことありますけど、寝顔ははじめてですし」

 のそっと起き上がるホルツを目で追いながら返せば、ホルツは目を瞬いた。

「そうだ、メル。きみに言っておくことがある」
「なんですか?」

 ドキッとしてこわごわと聞き返す。だが、ホルツから返ってきた言葉は思いもよらないものだった。

「私が繁忙期でもいつも通りで過ごせるのは、メルが私のために行動してくれてるからだよ。昨日のセックスだって、私が我慢できなかっただけなんだ」

 そこで一度区切るとホルツの指がそっとメルギスクの指へと絡めやんわりと握ってくる。

「いつもありがとう、メル」
「……っ」

 ホルツにとって事実を伝えただけだろう。けれど、それだけでここ数日重くのしかかっていた無力が嘘のように和らいでいく。溢れてくる涙を手の甲で乱暴に拭うと眉を下げてホルツに微笑んだ。
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