ダークエルフ姉妹と召喚人間

山鳥心士

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第4話 奴隷の少女

月夜に思う

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 紅色の月明かりが窓に差し込む夜。

 部屋にはイルザとスミレが同じベッドで寝ている、

 「起きてる・・・ですか?」

 イルザに背を向けて起きているかどうか尋ねる。差し込む月明かりのせいか、少しだけ感傷的になっている。

 「ええ、起きているわよ。寂しくなったのかしら?」

 ふふっと微笑み、後ろからそっと抱きしめる、

 温もり。

 誰かの体温を感じるのなんて初めてのことだった。スミレの記憶の中では。

 「いえ、その・・・」

 言葉に詰まる。何故こんなに胸が痛いのかわからない。

 いや、わかっている。

 彼女達に嘘をつき裏切っている。その罪悪感。

 頭では命令だからと理解しているが、心が理解してくれない。

 きっと、主によってかけられた魔術“隷属の鍵エスクラブ・オブ・キー”の効果が薄くなっているのだろう。

 普段は見えていないが、スミレの首には鍵穴がある。かつて、ホルグの死に際に浮き上がった鍵の模様と全く同じもの。

 この魔術をかけられたものは、命令に従順な木偶(でく)人形(にんぎょう)となる。

 ホルグが“妖精の輝剣アロンダイト”を狙ったのも“極光の月弓(アルテミス)”を受け渡した際、主の“隷属の鍵エスクラブ・オブ・キー”が込められた魔宝石をホルグに使用したからである。

 ホルグにかけられた命令は、“妖精の輝剣アロンダイト”の奪取。それに失敗し、死が確定した瞬間、証拠を消すために肉体を跡形もなく消し去った。

 そしてスミレにかけられた命令は一つ。

 “妖精の輝剣アロンダイト”の持ち主であるイルザを主の元へ連れていくことである。

 主はイルザを殺す気でいる。最初はイルザ達がどうなろうが関係ないと思っていた。

 だけど。

 イルザたちの温もりを知ってしまった。

 胸の奥が激しく痛む。

 「大丈夫、大丈夫」

 イルザは小鹿のように震えるスミレを落ち着かせるように、優しく声をかけながらギュッと抱きしめる。

 何に怯えているかはわからない。奴隷商人の元へ行くのが怖いのかもしれないし、あるいはただ単に夜が怖いのかもしれない。

 母が亡くなった後のエルザも、今のスミレの様に一人で震えていた。

 そのたびに私はただ抱きしめて、頭を撫でる。そうすると落ち着きを取り戻して静かに眠りについていた。

 だから、私に出来ることはエルザのときと同じように、スミレを抱きしめて撫でてあげること。

 気がつけば、スミレの震えは収まり寝息を立てていた。

 「ふふ。おやすみなさい」

 毛布を掛けてあげ、イルザも眠りにつく。

 紅く輝く月は雲に隠れ、森全体を闇で覆い、生物の休息を促すように静まり返る。


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