隣の席のクーデレ美少女が世界の命運を握っていることを俺だけが知っている

タダノヒト

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プロローグ

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 高校三年の春。ソイツは突然やって来た。

「おぉ~お前ら、早く席につけ」

 定刻一分遅れで教室に入ってきた、恐らく三十そこそこの女性教員である佐原は、ボサボサの長髪をボリボリと掻きながら着席を促した。見た目こそ、そこそこ美人ではあるのだが、中身の方は完全におっさんのそれであり、品もへったくれもあったもんじゃない。まぁ逆にその親しみ安さから、教師としての評価はなんだかんだで高かったりはするのだが。

 立ち歩いていた生徒が、それぞれの席についたのを確認した佐原は、いつもと変わらぬ気だるそうな口調で話し始めた。

「うーし、それじゃあ今から転校生を紹介するからな~」

 転校生。その言葉にクラス中がざわめく。右隣の席に座る谷崎もその一人だ。

「おい、柳。転校生だってよ。かわいい娘だといいなぁ」

 そう言いながら、顔を近づけてきた谷崎を見ると、既に鼻の下が伸びている。恐らく、今のコイツの脳内では、まだ見ぬ美少女との生まれるはずもない青春が、鮮明な映像として再生されているのだろう。全くもっておめでたいやつだ。

 とはいえ、俺だって男子高校生の端くれだ。かわいい娘がいいというその気持ちは痛いほど分かる。

 「そうだな」と返そうとしたその時、再び佐原の声が教室に響いた。

「静かにしろ。うるせぇと零石が入りづらいだろうが。あっ、先に名前言っちまったな。まっ良いか。おーい、れいしー入ってこ~い」

 佐原が廊下の方に呼びかけると、「零石」は特に恥じらう様子も、緊張している様子もなく、ただ淡々と教室に入ってきた。

 透き通るような白い肌、腰まで伸びた白髪は、光を纏うのではなく、反射しながら輝いている。そして、他の何より印象深いのはサファイアの中に、一流の職人が瞳孔を書き込んだかのような、美しすぎるあまり、どこか人間味のない瞳。

「「「おぉ~」」」

 紛れもない美少女の登場に、谷崎を筆頭とした男子生徒は分かりやすく歓声をあげた。尤も、女子の汚物の塊を見るような視線と佐原の睨みによってすぐに鎮圧化されたのだが。

 俺も声こそ出さなかったが、内心はやはりちょっと嬉しかった。ただ正直なところ、あまりに完成されすぎた顔立ちに少し近づき辛さを感じたのも事実だ。まぁしかし、こういう近づき辛そうなヤツに限って、実際中身は……と言うのが世の常だ。

「それじゃあ、自己紹介な」

 佐原の言葉に零石はコクりと頷く。

「零石 遥」

「「「……」」」

 教室の中に二言目を待つ妙な間が流れる。しかし、零石はそんな俺達の予想を裏切り、佐原の方に視線を向けることで自己紹介がそこで終わりであることを間接的に伝えてきた。俺の中での世の常が一つ壊れた瞬間である。

「あ、ああ……それじゃあ、お前ら仲良くするんだぞ。零石の席はあそこな、一番後ろの窓際の所」

 流石の佐原も、これには少し困惑気味といった様子で、苦し紛れに話を終わらせると、座席についての話題に話を移した。まぁそれは良いのだが、ここで重大な問題が一つある。佐原の指が明らかに俺の方を、もっと正確に言えば俺よりもやや左の辺りを指しているのだ。

 俺の席の左を見ると……確かに一人分の席を置くだけのスペースが空いている。更に、その奥には春空を透かす窓もある。佐原の言う零石の席(予定地)がそのスペースであることは間違いなかった。

「で……柳は、この後の掃除の時に零石の机を運んどいてくれ」

「……えっ、あっ、はい」

 第一印象、そして先程の自己紹介だけで判断するのは明らかに早計だが、あえてここは断言しよう。俺と零石が親しくなれる可能性は0であると。

 俺達から遥か遠くの場所にいることが感覚的に分かってしまう。「零石 遥」とはそんな人間だった。
 
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