クズ過ぎる仲間に濡れ衣を着せられた上に、獄中でもDQNからいじめられている不遇冒険者ですが、前に助けた美少女から助けて貰えるようです

タダノヒト

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第四話

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 あの時の青年のように、何を言うこともせず少女は入り口付近に腰掛けようとした。しかし、そんな少女の動きを、どこかで聞いたことのあるフレーズが止める。

「おい嬢ちゃん。挨拶ぐらいしたらどうだ?」

 そう言うとやはり、茶髪の男が立ち上がり、少女の元に詰め寄る。しかし、そんな男に対して一切臆する様子を見せない少女は

「それはすまなかった。よろしく頼む」

 とあっけらかんと答えた。しかし、男にとってみれば本当に欲しいのは挨拶ではなく大義名分。今度は少女の口調について言及する。

「あっ?  『先輩』に向かってなんて口の聞き方してんだ。お前、女だからって殴られねぇとでも思ってんだろ。あんまり調子に乗るんじゃねぇぞ」

 そして、その言葉に対しての返答を待つこともせず、男は握りこぶしを振り上げた。それを見かねた青年はボロボロの体を立ち上がらせてそれを止めようとするも、残り二人の男に妨害され、動くことができない。

 少女の眼前まで迫る拳。避けようのない、男の暴力による支配の始まりを告げる遠慮のない一撃が少女の顔を捉えた。と、この場にいる少女以外の誰もが思っていた。しかし、現実は違った。

 男の拳は空を切り、視界からその姿が完全に消えたことにあからさまに戸惑う。そして、次の瞬間、男の右足に強い衝撃が走る。そして、何が起こったのか理解することもできないまま、その側頭部を地面に打ちつけていた。実際の少女の動作は、しゃがみこんだ後に、手を支点として男の足を払うような回し蹴りを入れる。というものだったのだが、その速さは電光石火とも言うべき驚異的なもので、男が何が起こったのか理解すら出来ないと言うのはある意味当然とも言えることだろう。

「があっ!? っ……いてぇ……」

 想像もしていなかった痛みにもんどりうつ男に対して、おもむろに立ち上がった少女は、

「女だから……か。一番嫌いな類いの言葉だ」

 と、男の軽薄な言葉を責めるように吐き捨てた。あまりの痛みに言い返すことすら出来ない男を尻目に、少女は青年の方へと歩き始める。

 二人の男は、目の前で起こったことが理解できず、青年の手を力無く握りしめていたが、少女の無言の圧力を受けてその手を自らの体の後ろに隠した。

 そして、青年の前までたどり着いた少女は、自分のことを助けてくれようとした彼に対しての感謝の意を告げる……つもりだった。

「……どうして、ここに。どうして、こんな所にあなたがいる?」

 少女のその言葉にはありとあらゆる感情が入り交じっていたため、その真意を知ることは出来なかったが、その口ぶりから青年に対して何らかの面識を持っていることは間違いなかった。当然、青年もそれを察して、目の前の少女との記憶を思い出そうと試みる。

「……あっ」

 青年の脳裏に、まだ幼かった少女の姿が思い出された。










「お願い……こっちに来ないで」

 後ずさりする少女に合わせて、じりじりと距離を詰める熊のようなフォルムの魔獣に、少女が震えた声で懇願する。しかし、魔獣が少女の言葉を理解する訳もなく、少女との距離は少しずつ少しずつ縮まっていく。

 あまりの恐怖に冷静な思考を失った少女は「魔獣に出会ったら絶対に背を向けてはいけない」という両親の教えも忘れて、森の中へと思い切り駆け出した。当然、少女の足では到底振り切ることなど出来る訳もなく、少女に合わせて走り出した魔獣は瞬く間にその距離を縮める。

 迫る足音に、少女は逃げ切れないことを察したが、それでも足を止めることは出来ない。死への恐怖が強制的に足を動かしているのだ。

 少女が逃げることの意義をしいて挙げるとすれば、誰かの助けが来るまでの時間を稼ぐこと位だろう。しかし、その時間も大した意味は持たない。そんなせいぜい数秒の時間を生き永らえた所で、それにより助かる可能性など奇跡でも起こらない限りほとんど無いに等しいのだ。

少女と魔獣の距離は、遂に人間の足でいう十歩分を切った。足音に加えて、その強靭な足で地面を蹴ることによって起こる地響きが少女の背中を捉えんと迫る。

もはや助からない。少女の脳内で死という意識がより強くその思考を支配する。しかし、この少女はその[奇跡]を起こすだけの運を持ち合わせていた。

「えっ?」

少女のすぐ横を、どこからともなく現れた影が横切る。そしてその直後。少女の耳に聞こえたのは魔獣の命が断たれたことを示す断末魔。

影の正体を確かめたくとも、振り返ることが出来なかった少女がこの時初めて足を止め、後ろを振り返った。

「大丈夫?  怪我してない?」

この時、そっと微笑みかけてきたまだ若い冒険者の姿は、少女の脳裏に強く焼きつくことになる。彼女の崇拝する対象として、彼女が人生をかけて追いつこうと決めた目標として。
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