僕たちは陽氷を染める

渚乃雫

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第21話 6月21日

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 6月21日。日曜日。
 その日は、一通のメッセージから、始まった。

「だからと言って、呼び出す時間、早すぎじゃないか?」
「だってさあ…」

『どうしよう!定期テストのこと、すっかり忘れてた!!!』

 朝一番に入ってきたメッセージに、起こされ、眠たい目を擦りながら時刻を見れば、朝の9時。

 まだ寝ていられた…と思うのと同時に、そんなに焦ることか?とメッセージを送ってきた善人よしとに疑問を抱く。
 数回のメッセージのやり取りをしたあとに、どうやら本気で忘れていたらしい。しかも授業中もよく寝落ちしていたせいで、ノートもあまり書けていないらしい。
『お願い!ノート写させて!!』というやり取りから、なぜだか、いつの間にかうちに来て、勉強をする、という話になり、じゃあ駅まで迎えにいくから、とため息混じりに答え、今に至る。

「オレ、歴史以外、いつも点数低いから早くやらなきゃっ!って思ったら、いてもたってもいられなくて」
「でもノートみたら何も書いてない、と」
「そういうことっ」

 へへっ、と笑う善人に、ベシ、と軽く一発ツッコミをいれれば、善人が半分泣きそうになりながら「だってぇぇぇ」と言葉を続ける。

「オレ、めっちゃ怒られるんだよ?母ちゃん超怖いんだから」
「知らねぇよ」

 ぶるぶる、と震えながら言う善人よしとに、呆れながら言えば「なるも会えば絶対わかるって!」と善人がまた震えながら言う。

「俺と善人だとあんまり成績変わらないんだし。斉藤とか頭いいんだから、そっちに聞けば良かったのに」
「いや、斉藤に言ったら荒井で手いっぱいだから無理って言われた」
「ああ……なるほど」

 あそこ、成績デコボココンビだったけ…?と善人の言葉に首を傾げるものの、いや、荒井って確か。

「荒井って成績いいはず…」

 あれだけ騒いで遊んでる二人だけど二人とも成績上位者でよく名前を見かける。勉強会をしていても可笑しくはないが、手いっぱいではないのでは。
 そう思い、「なあ善人」と隣に並ぶ友人の名を呼べば、善人が「てへっ」と頬に手をつけながら可愛いこぶる。

 その様子に、やっぱりなんとなく、何となくだけれども、善人の頭を叩いておいた。


「ただいまー」

 自宅へと戻り、玄関を開ければ、案の定、家の中は静かだ。

「なるの家も、共働き?」

 お邪魔しまーす、と言いながら入ってきた善人が、あまりにも静かな家に、首を傾げる。

「父さんが今日いるけど、多分疲れて寝てる」
「ああ、なるほど」
「俺の部屋は二階」

 そう言って、リビング横の階段をあがって、二階の自室に行けば、「おおおお」と善人が妙に感動した声をあげる。

「すっきりしてんねぇ。本以外。すっごい積んでるね」
「……そこは目をつぶれ」

 本棚に入らなかった積み本が、本棚の前を占領している。
 散らかっているのはそこだけで、他は必要なもの以外、何もない。

「つまらない部屋だと思うけど」
「そう? 人の部屋ってなんかワクワクするよね。怜那以外」
「さすが幼馴染み」
「そんな良いものでも無いよ?」
「へえ?」

 よいしょ、と腰をおろした俺を見て、善人も床に置いた小さいテーブルの反対側に座る。

「で、どこが分かんないって?」
「数学はほぼ全般」
「…おい」
「だってえぇぇ」

 ガバ、と見せてきたノートは、確かに泣きたくなるくらいに壊滅的な文字列が並んでいる。

「まぁ、自業自得といえば自業自得か」
「助けてっ!」
「はいはい。じゃあとりあえず」

 ノートの写しが最優先か、と壊滅的な数学や、読み下しが必要な古典などを善人よしとに渡し、自分もまた同じようにテストに向けての勉強を開始した。

 しばらくして、コンコン、と開けてある部屋のドアがノックされ、「なるひろー」と父さんが顔を出す。

「あ、ごめん。友達来てたのか」
「お邪魔してます!」
「どうぞどうぞ、ごゆっくり。父さん買い物行ってくるから、留守番よろしく」
「わかった」

 ひら、と手を振って階段を降りていった父さんを見送れば、善人が部屋から顔を出していて、思わずビクッ、と肩があがる。

「あ、ごめん」
「びっ、くりしたー…何してんの」
「いや、なるのお父さん、背高いね」
「父さん? ああ、そうだね。確か…180cm後半なんじゃなかったか」
「うわ、羨ましい!」
「ほんとな」

 兄貴も父さんも背が高く、家族の俺でも羨ましいくらいだ。
 高校に入ってからもまだ身長は伸びているから、俺もそれなりに伸びるか? と期待はしているが、多分、父さんほどに大きくはならないと思う。

「でも、なるだってオレよりは全然高いじゃん!」
「まぁ、善人よりは」
「その時点でオレは羨ましい!」

 口を尖らせながら言う善人よしとに、「まぁ、まだ伸びるだろ、多分」と買ってきた飲み物を飲みながら言えば、「適当か」と善人から軽くツッコミが入った。

 勉強会を始めてから数時間。自分の復習が終わっている分で、善人がノートの写しが終わらなかった分は、一旦、そのまま善人が持って帰ることで落ち着く。その他にいくつかの授業中に出された例題なども解き、分からないところを説明する。それを繰り返す内に善人の「うううんん…」という唸り声の回数もかなり減った。
 テスト対策プリントの答え合わせも終わり、ちらり、と善人を見れば、善人も問題をちょうど解き終わったらしく、はああ、と大きく息をはいている。

「お疲れ」
「おおおう…頭がぐるぐるする」

 へたぁ、とテーブルに突っ伏した善人に、くく、と小さく笑えば、ブブ、とスマホが何かの着信を告げる。

「なる、疲れてないの?」
「そりゃ疲れてるわ」
「だよね。良かったあ。オレだけかと思った」

 はああとまた大きく息をはいた善人に、画面を確認した俺は、「ちょっと下いってくる」と告げ、部屋を出ていく。

「あ、成浩なるひろ、きた」
「なに? 父さん」

『ご褒美を買ってきたから、終わったら降りておいで』という父さんのメッセージに、ちょうどいい区切りだった今、降りていけば、父さんがニコニコと嬉しそうな笑顔を浮かべている。

「何がいいか分かんなかったから、シュークリームとケーキ買ってきちゃった」
「…女子じゃないんだし」
「でもなるは甘いの好きじゃないか」
「いや、まぁ、そうだけど」
「まぁ、疲れた頭には甘いものってね。ハイこれ、持ってって」

 ハイ、と渡されたのは、スーパーの袋に入ったシュークリームとケーキで、袋の中にはフォークまで用意されている。

「ほら、行った行った」と階段のところまで押し出すように言う父さんに、「ありがとう」と告げれば、父さんは嬉しそうに笑う。

善人よしとー」
「なにー?」

 階段をあがりながら名前を呼べば、善人がさっきと同じように、ひょい、と部屋から顔をのぞかせる。

「父さんがケーキ買ってきてくれた」
「マジか!」

 疲れた顔をしていた善人が、一変して嬉しそうな表情へ切り替わる。

 そういや、こいつも甘党だった、と父さんの謎の勘の良さに感心しながら、部屋へと急いだ。






【6月21日 終】
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