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第25話 6月25日
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「全っ然覚えてない」
結局、昨日、母さんに見せてもらった写真と、母さんから聞いた話で、どうやら、やはり小さい頃の俺は、それなりに羽白さんと仲が良かったらしい。
「好みは変わってないのねぇ」と楽しそうに言った母さんの言葉は聞かなかったことにして、とりあえず、記憶を掘り起こす作業をしてみる。
ただ、アルバムの写真を見ても、俺がコレ、だというのは理解できるものの、俺の隣にいる小さな女の子が、彼女だと言われても、はいそうですか、とも言い難い。
当たり前のことだが、随分と小さかったんだなぁ、と写真の自分と羽白さんだと思わしき少女を見やる。
「そうそう、成浩は、ほのちゃんと近くの公園で遊んで帰ってくることが多くて」
「公園って、小学校のすぐ傍の?」
「じゃなくて、うちから近いほうの」
「へえぇ…」
昨日の母さんの話だと、その公園で、よく二人でブランコに乗っていた、らしい。
「あら、でも残念。お兄ちゃんと二人のやつはあるけど、ほのちゃんと二人でブランコにいる写真は無いみたい」
「…いや、無くてもいいんだけど」
「あら、あったほうがいいんじゃない?」
俺を見てふふ、と笑う母さんを無視し、何か思い出すかもしれない、と兄貴とブランコで遊んでいる自分の小さい頃の写真を携帯で撮る。
俺は一体何をしているんだろう。この一連の謎の行動に若干、可笑しくなるものの、気になるものは気になるし、と割り切ることにした。
駄菓子屋の店番のアルバイトも22日で終了したし、保護者面談がある今日は、図書室も空いていない。善人は今日これから面談でまだまだ帰れそうにないし。
来月あたまに、すぐに定期テストがあるから、本当は帰宅して勉強したほうがもいいのだろうけど、なんとなく、すぐに家に帰る気にならなくて、昨日聞いた公園へと、自転車を走らせた。
「うっわ、懐かし」
なんとなく、記憶に残っている道を進んでいけば、案の定、小さな公園が住宅街の一角にあって、ほんのわずかに電車の走る音も聞こえる。
滑り台に、鉄棒。ベンチと、ブランコ。
まさに公園、といった公園らしい遊具が設置してある。
公園がとても広かった記憶があったここも、いま来てみれば、なかなかに小さい公園だった。
自分が小さい時は、公園が遊び場だったような気がするが、いまは、昼間のこの時間であっても、小さい子は全然いない。
むしろ、この公園にいる人自体が少ない。
時代の変化、というやつか、と公園の中を歩きながら思う。
なんとなく、ブランコに乗ってみるか、と思い近づいてみるものの、案外、小さい気がする。
座るのは無理でも立つのはできるぐらいか、と足をかけてみて、なんとなく乗ることは、はばかられて、ブランコを揺らすだけに留めた。
キコ、キコ、と金具の音が静かな公園に響く。
「言われてみれば、確かに誰か、こっちに居たような」
二つあるうちの、右側を使っていたような気がするし、もう片方のブランコに、誰かがいつも居た気がする。
兄貴はいつも俺の後ろか、前にいたから、横に座っていたのは兄貴ではないはずだ。
ブランコの後ろの冊に寄りかかりながらゆっくりと揺れる様子を眺めていれば、「千家くん?」と小さな声に名前を呼ばれた。
「なんとなく、気になって」
「ふふ、私も」
人の少ないこの公園に現れたのは、俺がさっきまで思い出そうとしていた羽白さんで、どうやら羽白さんも、お母さんに俺のことを言われて、こっちまで来てみたらしい。
「どうしてお母さんのほうが覚えてるんだろうね。私、公園のこと、全然思い出せなくて」
「…俺は公園も、だけどね」
俺の発言に、ふふ、と羽白さんが笑う。
「ね、千家くん。ブランコ、乗ってみる?」
「…小さくない?」
「大丈夫だよ」
そう言って笑いながら、羽白さんが左側のブランコに腰掛け、振り向く。
「大丈夫だった!」と笑う彼女に、くす、と小さく笑い、冊に腰掛けていた身体を空いている右側へと動かせば、ブランコに乗ったままの羽白さんが、くすくす、と楽しそうに笑う。
「ブランコなんて、何年ぶりかな」
キコ、キコ、とゆっくりと動き出したブランコの音があたりに響く。
少し前かがみになって、こっちを見た羽白さんの姿に、なんとなく、見覚えがある、気がする。
「なるくん」
ふいに、そう呼ばれた気がして、瞬きを繰り返せば、ブランコの音とともに、羽白さんの楽しそうな横顔が目に映る。
「あんた、ほのちゃんにだけ、優しくてね」
「…ほの、ちゃん…ねぇ」
一人、口先だけで呟けば、羽白さん、と呼ぶよりも、呼び慣れているような気がしたことに、思わず戸惑う。
やっぱり母さんの言っていたことは合ってるのか、とブランコから降りようとした時に、こっちを見ていたらしい羽白さんと目が合う。
「ん?」
そう言って、羽白さんが首を傾げた時、急に、ブランコで遊ぶ「ほのちゃん」を思い出した。
「そう言えば、いつも、俺がこっち側、だったっけ」
今では、足を伸ばさないと座れないブランコもあの頃は、ようやく足が地面にしっかりついたくらいだった。
小学校から近い公園は、いろんなやつがいて、彼女が遊べなかったから、家から近い公園で遊んでいて。
夕方のチャイムが鳴る前に家に帰ること。それが彼女の家のルールだった。
「千家くん?」
不思議そうな表情で俺を見るのは、ほのちゃん、だけどほのちゃん、ではなく、大人になった羽白さんだ。
きょとん、とした表情も、あんまり変わってないのな、と一人、記憶の中と見比べて、小さく笑う。
時刻は、12時半を少し過ぎたところ。
今の彼女の門限には、まだまだ時間がある。
「羽白さん、昼ごはん、食べて帰らない?」
ブランコ越しに、彼女を誘えば、昔と変わらない満面の笑みが、返ってくる。
「どこ行こうか」
先に立ち上がって、羽白さんに、片手を差し出す。
「どこ、行こうか?」
笑顔を浮かべ、その手を取った君は、前と変わらない笑顔だけど、頬が赤い部分は、多分、前と違う、はず。
【6月25日 終】
結局、昨日、母さんに見せてもらった写真と、母さんから聞いた話で、どうやら、やはり小さい頃の俺は、それなりに羽白さんと仲が良かったらしい。
「好みは変わってないのねぇ」と楽しそうに言った母さんの言葉は聞かなかったことにして、とりあえず、記憶を掘り起こす作業をしてみる。
ただ、アルバムの写真を見ても、俺がコレ、だというのは理解できるものの、俺の隣にいる小さな女の子が、彼女だと言われても、はいそうですか、とも言い難い。
当たり前のことだが、随分と小さかったんだなぁ、と写真の自分と羽白さんだと思わしき少女を見やる。
「そうそう、成浩は、ほのちゃんと近くの公園で遊んで帰ってくることが多くて」
「公園って、小学校のすぐ傍の?」
「じゃなくて、うちから近いほうの」
「へえぇ…」
昨日の母さんの話だと、その公園で、よく二人でブランコに乗っていた、らしい。
「あら、でも残念。お兄ちゃんと二人のやつはあるけど、ほのちゃんと二人でブランコにいる写真は無いみたい」
「…いや、無くてもいいんだけど」
「あら、あったほうがいいんじゃない?」
俺を見てふふ、と笑う母さんを無視し、何か思い出すかもしれない、と兄貴とブランコで遊んでいる自分の小さい頃の写真を携帯で撮る。
俺は一体何をしているんだろう。この一連の謎の行動に若干、可笑しくなるものの、気になるものは気になるし、と割り切ることにした。
駄菓子屋の店番のアルバイトも22日で終了したし、保護者面談がある今日は、図書室も空いていない。善人は今日これから面談でまだまだ帰れそうにないし。
来月あたまに、すぐに定期テストがあるから、本当は帰宅して勉強したほうがもいいのだろうけど、なんとなく、すぐに家に帰る気にならなくて、昨日聞いた公園へと、自転車を走らせた。
「うっわ、懐かし」
なんとなく、記憶に残っている道を進んでいけば、案の定、小さな公園が住宅街の一角にあって、ほんのわずかに電車の走る音も聞こえる。
滑り台に、鉄棒。ベンチと、ブランコ。
まさに公園、といった公園らしい遊具が設置してある。
公園がとても広かった記憶があったここも、いま来てみれば、なかなかに小さい公園だった。
自分が小さい時は、公園が遊び場だったような気がするが、いまは、昼間のこの時間であっても、小さい子は全然いない。
むしろ、この公園にいる人自体が少ない。
時代の変化、というやつか、と公園の中を歩きながら思う。
なんとなく、ブランコに乗ってみるか、と思い近づいてみるものの、案外、小さい気がする。
座るのは無理でも立つのはできるぐらいか、と足をかけてみて、なんとなく乗ることは、はばかられて、ブランコを揺らすだけに留めた。
キコ、キコ、と金具の音が静かな公園に響く。
「言われてみれば、確かに誰か、こっちに居たような」
二つあるうちの、右側を使っていたような気がするし、もう片方のブランコに、誰かがいつも居た気がする。
兄貴はいつも俺の後ろか、前にいたから、横に座っていたのは兄貴ではないはずだ。
ブランコの後ろの冊に寄りかかりながらゆっくりと揺れる様子を眺めていれば、「千家くん?」と小さな声に名前を呼ばれた。
「なんとなく、気になって」
「ふふ、私も」
人の少ないこの公園に現れたのは、俺がさっきまで思い出そうとしていた羽白さんで、どうやら羽白さんも、お母さんに俺のことを言われて、こっちまで来てみたらしい。
「どうしてお母さんのほうが覚えてるんだろうね。私、公園のこと、全然思い出せなくて」
「…俺は公園も、だけどね」
俺の発言に、ふふ、と羽白さんが笑う。
「ね、千家くん。ブランコ、乗ってみる?」
「…小さくない?」
「大丈夫だよ」
そう言って笑いながら、羽白さんが左側のブランコに腰掛け、振り向く。
「大丈夫だった!」と笑う彼女に、くす、と小さく笑い、冊に腰掛けていた身体を空いている右側へと動かせば、ブランコに乗ったままの羽白さんが、くすくす、と楽しそうに笑う。
「ブランコなんて、何年ぶりかな」
キコ、キコ、とゆっくりと動き出したブランコの音があたりに響く。
少し前かがみになって、こっちを見た羽白さんの姿に、なんとなく、見覚えがある、気がする。
「なるくん」
ふいに、そう呼ばれた気がして、瞬きを繰り返せば、ブランコの音とともに、羽白さんの楽しそうな横顔が目に映る。
「あんた、ほのちゃんにだけ、優しくてね」
「…ほの、ちゃん…ねぇ」
一人、口先だけで呟けば、羽白さん、と呼ぶよりも、呼び慣れているような気がしたことに、思わず戸惑う。
やっぱり母さんの言っていたことは合ってるのか、とブランコから降りようとした時に、こっちを見ていたらしい羽白さんと目が合う。
「ん?」
そう言って、羽白さんが首を傾げた時、急に、ブランコで遊ぶ「ほのちゃん」を思い出した。
「そう言えば、いつも、俺がこっち側、だったっけ」
今では、足を伸ばさないと座れないブランコもあの頃は、ようやく足が地面にしっかりついたくらいだった。
小学校から近い公園は、いろんなやつがいて、彼女が遊べなかったから、家から近い公園で遊んでいて。
夕方のチャイムが鳴る前に家に帰ること。それが彼女の家のルールだった。
「千家くん?」
不思議そうな表情で俺を見るのは、ほのちゃん、だけどほのちゃん、ではなく、大人になった羽白さんだ。
きょとん、とした表情も、あんまり変わってないのな、と一人、記憶の中と見比べて、小さく笑う。
時刻は、12時半を少し過ぎたところ。
今の彼女の門限には、まだまだ時間がある。
「羽白さん、昼ごはん、食べて帰らない?」
ブランコ越しに、彼女を誘えば、昔と変わらない満面の笑みが、返ってくる。
「どこ行こうか」
先に立ち上がって、羽白さんに、片手を差し出す。
「どこ、行こうか?」
笑顔を浮かべ、その手を取った君は、前と変わらない笑顔だけど、頬が赤い部分は、多分、前と違う、はず。
【6月25日 終】
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