28 / 37
第24話 6月24日
しおりを挟む
「あ、成浩。学校着きそうな時間に連絡するから、ちゃんと携帯見ててね」
「…なんで?」
「なんで? って、あんた、今日、保護者面談じゃない」
「…あ」
「あ、ってこの子…」
玄関先で母さんに言われるまで普通に忘れていた俺に、母さんはまったく、と小さくため息をつき、「とにかく、ちゃんと待ってなさいよ」と念を押した。
「え、忘れてたの」
「うん、普通に」
「オレなんて昨日からビクビクしてんのに!」
「嘘つけ」
授業が午前中で終わりで、ラッキーぐらいにしか思っていなかったが、今日から4日間、保護者面談のある週で、俺は初日の二番目だった。
「ちなみにオレは明日の一番手」
「あたしはその次で、帆夏は、今日の四番目だから千家の次の次ね。んで、多分、善人は怒られる」
そう言って、けらけら、と寺岡さんは笑う。
「はじろんの家はもちろんだけど、なるの両親も怒らなさそうだよなぁ。いいなぁ」
「あんたが怒られすぎなのよ」
いいなぁ、と言った善人に、寺岡さんは呆れながらツッコミ、善人が「うっせ」と口を尖らせながら答える。
「俺はどっちかと言えば、呆れられてると思う」
「そうかなぁ」
「まったくもう、って母さんにしょっちゅう言われるし」
「あ、うん。言われてそう」
もはや母さんの口癖なのではないか、と思うくらいに言われる言葉に、寺岡さんが笑いながら同意する。
「なるはちょっと抜けてるからなあ」
「そんなつもりは無いけどな」
「本人は自覚なし、と」
「そこがいいんじゃん」
善人の言葉に、そんなことない、と自分で答えれば、寺岡さんは笑いながら反応し、善人がへら、と笑いながら頷く。
「まぁ、でもこれが終われば、校外学習だし!」
ひゃっほー!と楽しそうに言った善人に、「そのあと定期テストだけどな」とツッコミを入れれば、「うあああ」と耳を塞いで善人は現実逃避を始めた。
「千家くんは、お母さんがくるの?それともお父さん?」
「母さんが来るって言ってた。羽白さんは?」
「うちもお母さんが来るって。でも、お母さん、ちょっとおっちょこちょいだから心配で」
そう言って羽白さんはほんの少し困ったように笑う。
「そうなんだ?」
「うん。この前なんて、ご飯できたよー、っておかずも、全部作り終わってたけど、炊飯器のスイッチ入れてなくて」
「…ああ、うん」
それは、ちょっとドジかもしれない、とこっそりと頷けば、「だからお母さん、ちゃんと来れるか心配で」と、ちら、と窓の外を見やる。
「俺も、母さんに着いたら連絡するからケータイ見ときなさいって朝、すごい念を押された」
「ふふ、うちと逆だね」
「…多分」
くすくす、と笑った羽白さんが、「あ」と校舎の外を見て、小さな声をもらす。
「どうかした?」
「お母さんだ」
「……ん?」
「ほら、あそこに」
窓のところに立つ羽白さんの横に並び、指をさす方角を見れば、確かに女性が一人、こっちへ向かって歩いてくる。
「随分はやく着いたみたいだね?」
「そうみたい……」
もう、とため息を交えたながら息を吐いた羽白さんに、「迷わなかっただけ、良かったってことで」と伝えれば、「そうだね」と羽白さんが俺を見上げて笑う。
そこで、ふいに、ものすごく近い距離に羽白さんが立っていることに気付き、思わず顔が熱くなるものの、特に羽白さんに変化は見られず、ホッ、と隠れて短く息をついた。
「で、成浩、あの可愛い子とはどういう関係なのよ」
羽白さんのお母さんが学校に到着したのと、ほぼ変わらずに、俺も母さんから連絡があり、二人揃って下へと降りれば、やけにニヤニヤと母さんが笑っている。
「どういうって、なに」
「彼女? 彼女?」
「あのねえ」
妙に楽しそうに聞いてくる母さんに、「行くよ」と先に歩きだせば、「あ、ちょっと成浩! ちゃんと聞かせなさいよー」と母さんがしつこく食い下がってくる。
「あんまりしつこいと兄貴に言うよ?」
スマホを取り出して、ある意味の脅し文句を母さんに告げれば、「お兄ちゃん怒ると怖いからやだ」と母さんは口を尖らせながら、「ちぇー」と言って、羽白さんのことを聞くのを、やっとやめた。
「あ、ねぇ、成浩」
「なに?」
「さっきの子さ」
「母さん?」
止まった、と思ったら、またか、と若干、眉をひそめながら呼べば、「そうじゃなくて」と母さんがひらひらと手を振る。
「いやね、からかってるんじゃないのよ。あの子、母さんどこかで見たことある気がするんだけど…同じ中学にいた?」
「小三まで一緒のクラスだった、らしいよ」
「らしい?」
「俺、覚えてなくて」
「あら、そうなの。なんて子?」
「…羽白さん」
「…羽白…はじろ…ほのちゃん?」
「そうだけど…って、何で母さんが下の名前、知ってるの」
母さんの発言に、驚き思わず二度見すれば、「あら、だって」と母さんは不思議そうな顔をする。
「あんた、ほのちゃんにだけは優しかったじゃない」
「…はい?」
「他の女の子には全然だったのよねぇ」
ふふふ、懐かしいわぁ、などと言いながら、俺の肩をぺちぺちと叩く母さんの言葉に、記憶を全力で探るものの、いまいち出てこない。
「…それ、ほんとに俺?兄貴じゃなくて?」
「やだ、お兄ちゃんだったら、犯罪でしょ」
「…確かに」
俺と兄貴は10歳の年の差がある。もし、俺じゃなくて兄貴だったとしたら、犯罪の気配しかしない。
いや、でも。子どもにもモテる兄貴ならあり得なくも…
「ないと思うわよ?」
「あ、だよね」
ちらり、とそう考えていた俺の考えを、母さんは笑いながら否定する。
「それにたぶん、うちに写真あるわよ?」
「…マジで」
「帰ったら見る?」
「…うん」
アルバムを見たい、などと言ったことの無い俺が、素直に頷いたことに、母さんは驚いたらしい。
ぱちり、と瞬きをしたあと、「どこにあったっけなぁ」と楽しそうな顔で、思案し始めた。
【6月24日 終】
「…なんで?」
「なんで? って、あんた、今日、保護者面談じゃない」
「…あ」
「あ、ってこの子…」
玄関先で母さんに言われるまで普通に忘れていた俺に、母さんはまったく、と小さくため息をつき、「とにかく、ちゃんと待ってなさいよ」と念を押した。
「え、忘れてたの」
「うん、普通に」
「オレなんて昨日からビクビクしてんのに!」
「嘘つけ」
授業が午前中で終わりで、ラッキーぐらいにしか思っていなかったが、今日から4日間、保護者面談のある週で、俺は初日の二番目だった。
「ちなみにオレは明日の一番手」
「あたしはその次で、帆夏は、今日の四番目だから千家の次の次ね。んで、多分、善人は怒られる」
そう言って、けらけら、と寺岡さんは笑う。
「はじろんの家はもちろんだけど、なるの両親も怒らなさそうだよなぁ。いいなぁ」
「あんたが怒られすぎなのよ」
いいなぁ、と言った善人に、寺岡さんは呆れながらツッコミ、善人が「うっせ」と口を尖らせながら答える。
「俺はどっちかと言えば、呆れられてると思う」
「そうかなぁ」
「まったくもう、って母さんにしょっちゅう言われるし」
「あ、うん。言われてそう」
もはや母さんの口癖なのではないか、と思うくらいに言われる言葉に、寺岡さんが笑いながら同意する。
「なるはちょっと抜けてるからなあ」
「そんなつもりは無いけどな」
「本人は自覚なし、と」
「そこがいいんじゃん」
善人の言葉に、そんなことない、と自分で答えれば、寺岡さんは笑いながら反応し、善人がへら、と笑いながら頷く。
「まぁ、でもこれが終われば、校外学習だし!」
ひゃっほー!と楽しそうに言った善人に、「そのあと定期テストだけどな」とツッコミを入れれば、「うあああ」と耳を塞いで善人は現実逃避を始めた。
「千家くんは、お母さんがくるの?それともお父さん?」
「母さんが来るって言ってた。羽白さんは?」
「うちもお母さんが来るって。でも、お母さん、ちょっとおっちょこちょいだから心配で」
そう言って羽白さんはほんの少し困ったように笑う。
「そうなんだ?」
「うん。この前なんて、ご飯できたよー、っておかずも、全部作り終わってたけど、炊飯器のスイッチ入れてなくて」
「…ああ、うん」
それは、ちょっとドジかもしれない、とこっそりと頷けば、「だからお母さん、ちゃんと来れるか心配で」と、ちら、と窓の外を見やる。
「俺も、母さんに着いたら連絡するからケータイ見ときなさいって朝、すごい念を押された」
「ふふ、うちと逆だね」
「…多分」
くすくす、と笑った羽白さんが、「あ」と校舎の外を見て、小さな声をもらす。
「どうかした?」
「お母さんだ」
「……ん?」
「ほら、あそこに」
窓のところに立つ羽白さんの横に並び、指をさす方角を見れば、確かに女性が一人、こっちへ向かって歩いてくる。
「随分はやく着いたみたいだね?」
「そうみたい……」
もう、とため息を交えたながら息を吐いた羽白さんに、「迷わなかっただけ、良かったってことで」と伝えれば、「そうだね」と羽白さんが俺を見上げて笑う。
そこで、ふいに、ものすごく近い距離に羽白さんが立っていることに気付き、思わず顔が熱くなるものの、特に羽白さんに変化は見られず、ホッ、と隠れて短く息をついた。
「で、成浩、あの可愛い子とはどういう関係なのよ」
羽白さんのお母さんが学校に到着したのと、ほぼ変わらずに、俺も母さんから連絡があり、二人揃って下へと降りれば、やけにニヤニヤと母さんが笑っている。
「どういうって、なに」
「彼女? 彼女?」
「あのねえ」
妙に楽しそうに聞いてくる母さんに、「行くよ」と先に歩きだせば、「あ、ちょっと成浩! ちゃんと聞かせなさいよー」と母さんがしつこく食い下がってくる。
「あんまりしつこいと兄貴に言うよ?」
スマホを取り出して、ある意味の脅し文句を母さんに告げれば、「お兄ちゃん怒ると怖いからやだ」と母さんは口を尖らせながら、「ちぇー」と言って、羽白さんのことを聞くのを、やっとやめた。
「あ、ねぇ、成浩」
「なに?」
「さっきの子さ」
「母さん?」
止まった、と思ったら、またか、と若干、眉をひそめながら呼べば、「そうじゃなくて」と母さんがひらひらと手を振る。
「いやね、からかってるんじゃないのよ。あの子、母さんどこかで見たことある気がするんだけど…同じ中学にいた?」
「小三まで一緒のクラスだった、らしいよ」
「らしい?」
「俺、覚えてなくて」
「あら、そうなの。なんて子?」
「…羽白さん」
「…羽白…はじろ…ほのちゃん?」
「そうだけど…って、何で母さんが下の名前、知ってるの」
母さんの発言に、驚き思わず二度見すれば、「あら、だって」と母さんは不思議そうな顔をする。
「あんた、ほのちゃんにだけは優しかったじゃない」
「…はい?」
「他の女の子には全然だったのよねぇ」
ふふふ、懐かしいわぁ、などと言いながら、俺の肩をぺちぺちと叩く母さんの言葉に、記憶を全力で探るものの、いまいち出てこない。
「…それ、ほんとに俺?兄貴じゃなくて?」
「やだ、お兄ちゃんだったら、犯罪でしょ」
「…確かに」
俺と兄貴は10歳の年の差がある。もし、俺じゃなくて兄貴だったとしたら、犯罪の気配しかしない。
いや、でも。子どもにもモテる兄貴ならあり得なくも…
「ないと思うわよ?」
「あ、だよね」
ちらり、とそう考えていた俺の考えを、母さんは笑いながら否定する。
「それにたぶん、うちに写真あるわよ?」
「…マジで」
「帰ったら見る?」
「…うん」
アルバムを見たい、などと言ったことの無い俺が、素直に頷いたことに、母さんは驚いたらしい。
ぱちり、と瞬きをしたあと、「どこにあったっけなぁ」と楽しそうな顔で、思案し始めた。
【6月24日 終】
0
あなたにおすすめの小説
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
これって政略結婚じゃないんですか? ー彼が指輪をしている理由ー
小田恒子
恋愛
この度、幼馴染とお見合いを経て政略結婚する事になりました。
でも、その彼の左手薬指には、指輪が輝いてます。
もしかして、これは本当に形だけの結婚でしょうか……?
表紙はぱくたそ様のフリー素材、フォントは簡単表紙メーカー様のものを使用しております。
全年齢作品です。
ベリーズカフェ公開日 2022/09/21
アルファポリス公開日 2025/06/19
作品の無断転載はご遠慮ください。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
たとえ夜が姿を変えても ―過保護な兄の親友は、私を逃がさない―
佐竹りふれ
恋愛
重なる吐息、耳元を掠める熱、そして——兄の親友の、隠しきれない独占欲。
19歳のジャスミンにとって、過保護な兄の親友・セバスチャンは、自分を子供扱いする「第二の兄」のような存在だった。
しかし、初めてのパーティーの夜、その関係は一変する。
突然降ってきた、深く、すべてを奪うような口づけ。
「焦らず、お前のペースで進もう」
そう余裕たっぷりに微笑んだセバスチャン。
けれど、彼の言う「ゆっくり」は、翌朝には早くも崩れ始めていた。
学内の視線、兄の沈黙、そして二人きりのアパート――。
外堀が埋まっていくスピードに戸惑いながらも、ジャスミンは彼が隠し持つ「男」の顔に、抗えない好奇心を抱き始める。
「……どうする? 俺と一緒に、いけないことするか?」
余裕の仮面を被るセバスチャンに、あどけない顔で、けれど大胆に踏み込んでいくジャスミン。
理性を繋ぎ止めようとする彼を、翻弄し、追い詰めていくのは彼女の方で……。
「ゆっくり」なんて、ただの建前。
一度火がついた熱は、誰にも止められない。
兄の親友という境界線を軽々と飛び越え、加速しすぎる二人の溺愛ラブストーリー。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話
【完結】小さなマリーは僕の物
miniko
恋愛
マリーは小柄で胸元も寂しい自分の容姿にコンプレックスを抱いていた。
彼女の子供の頃からの婚約者は、容姿端麗、性格も良く、とても大事にしてくれる完璧な人。
しかし、周囲からの圧力もあり、自分は彼に不釣り合いだと感じて、婚約解消を目指す。
※マリー視点とアラン視点、同じ内容を交互に書く予定です。(最終話はマリー視点のみ)
【完結】後宮の片隅にいた王女を拾いましたが、才女すぎて妃にしたくなりました
藤原遊
恋愛
【溺愛・成長・政略・糖度高め】
※ヒーロー目線で進んでいきます。
王位継承権を放棄し、外交を司る第六王子ユーリ・サファイア・アレスト。
ある日、後宮の片隅でひっそりと暮らす少女――カティア・アゲート・アレストに出会う。
不遇の生まれながらも聡明で健気な少女を、ユーリは自らの正妃候補として引き取る決断を下す。
才能を開花させ成長していくカティア。
そして、次第に彼女を「妹」としてではなく「たった一人の妃」として深く愛していくユーリ。
立場も政略も超えた二人の絆が、やがて王宮の静かな波紋を生んでいく──。
「私はもう一人ではありませんわ、ユーリ」
「これからも、私の隣には君がいる」
甘く静かな後宮成長溺愛物語、ここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる