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動揺を悟られたくなくて歯を噛み締めていると、ふと男の雰囲気が軽くなった。
「余計な疑いをもたせたようですね。すみません、もう聞きません。……最後に一つだけ。あなたは、この国をどう思いますか」
今度は何を言い出すんだ。
訝しげに思って男を睨む。だがこの男は、ただカニサレス家目の敵に近寄ってくる連中とは違う気がする。
ギルバート・セバーク。この男は何者か。何にせよ、私がこの問いに答える必要はない。沈黙でこの場を抜けようとしていると、先にギルバートが口を開いた。
「私は、この国が嫌いです。頭が腐りきった貴族に支配されるこの国が、恨めしい」
その言葉に目を見開く。まさか貴族の身分で、そんなことを言う人がいると思っていなかった。
……もしかしてこの人も、私と同じ?
今まで貴族の中で、現状の国を批判する人と出会うことがなかった。おかしいと感じているのは私だけで、この世界に強い味方はいないのだろうと諦めてさえいた。だけど、この人がもし私と同じなら、それは。
「わ、私も……です」
藁にもすがる思いで、口蓋を切った。
「私はこの国の奴隷制が一番憎らしい。私の使用人に奴隷の子がいるのです。その人は聡明なのに、身分のせいでまともに教育を受けることがなかったの。そして、その身分のせいで他の使用人にいじめられてる。……守っているのですが限界があるわ。彼らが傷つく度に、この国が恨めしくなる」
厳しい稽古や懲罰の合間に私の寄り添ってくれたのが、奴隷出身の使用人たちだった。人の顔色を見ることに長けた彼らは私が疲れた顔をしてることにすぐに気づき、差し入れをしてくれる。鎖に繋がれた私に人目を盗んで施しを与えた。
彼らに比べれば私の暮らしなんて幸せな方なのに、誰よりも愛情をくれた。実の親よりも親だと思っている彼らに、いつか報われてほしい。
「ならば、わたしと手を組みませんか」
「といいますと?」
「実は今回私がこのパーティに来たのは、貴族たちが裏で行っていることを探るためです。あなたはあのカニサレス家のご令嬢だ。あなたなら、多くの情報を持っているのでしょう」
これはこれは、大きく出たものね。このことを私が誰かに告げ口したら、大変なことになるでしょうに。
相手は自らの弱みを私に差し出した。それだけ覚悟を持って私と手を組みたがっているのだ。
ゆっくり息を吐いて、心を落ち着かせる。相手のペースに飲まれるな。自分に不利なことはないか、確かめないといけない。
「協力すれば、必ずあれらを壊してくれるの」
「はい」
「仮にあなたの目的が達成されたら、私はどうなるの」
「あなたの立場が悪くなるようなことにはしません。……いっそのこと、その使用人を連れて私の家に逃げて来ればいい。どうせ、家でも両親に縛られた生活を送っているのでしょう?あいにく領土は余っているので、好きに使わせてあげましょう」
「は?」
「わかりませんか?これは求婚です」
「……あなた、もう少し考えてから行動したほうがいいわよ」
「あなたにような素晴らしい女性に魅力を感じない男は居ないでしょう」
「…………」
「繰り返します。私と手を組んで頂けませんか」
……と、とんでもない男だ。
どうしようもない時は逃げ場を提供してやる、ということらしい。ここまで条件を揃わせてもらえるなら、私の返事は決まり切っている。
「良いでしょう」
差し出された手に自らの手を重ねる。彼がどこまでやってくれるのかわからないけど、賭けてみる価値はある。それに何より、家を提供してくれることが魅力的だった。今後の父親の私への仕打ち次第では、直ぐにでも家を出ていくことになるかもしれない。
けど。
「……ただ、結婚の件はまだ保留させてちょうだい」
「そうですか?」
流石に相手の情報も禄にわかってないまま、この場で婚約するのはリスキーに思えた。
「余計な疑いをもたせたようですね。すみません、もう聞きません。……最後に一つだけ。あなたは、この国をどう思いますか」
今度は何を言い出すんだ。
訝しげに思って男を睨む。だがこの男は、ただカニサレス家目の敵に近寄ってくる連中とは違う気がする。
ギルバート・セバーク。この男は何者か。何にせよ、私がこの問いに答える必要はない。沈黙でこの場を抜けようとしていると、先にギルバートが口を開いた。
「私は、この国が嫌いです。頭が腐りきった貴族に支配されるこの国が、恨めしい」
その言葉に目を見開く。まさか貴族の身分で、そんなことを言う人がいると思っていなかった。
……もしかしてこの人も、私と同じ?
今まで貴族の中で、現状の国を批判する人と出会うことがなかった。おかしいと感じているのは私だけで、この世界に強い味方はいないのだろうと諦めてさえいた。だけど、この人がもし私と同じなら、それは。
「わ、私も……です」
藁にもすがる思いで、口蓋を切った。
「私はこの国の奴隷制が一番憎らしい。私の使用人に奴隷の子がいるのです。その人は聡明なのに、身分のせいでまともに教育を受けることがなかったの。そして、その身分のせいで他の使用人にいじめられてる。……守っているのですが限界があるわ。彼らが傷つく度に、この国が恨めしくなる」
厳しい稽古や懲罰の合間に私の寄り添ってくれたのが、奴隷出身の使用人たちだった。人の顔色を見ることに長けた彼らは私が疲れた顔をしてることにすぐに気づき、差し入れをしてくれる。鎖に繋がれた私に人目を盗んで施しを与えた。
彼らに比べれば私の暮らしなんて幸せな方なのに、誰よりも愛情をくれた。実の親よりも親だと思っている彼らに、いつか報われてほしい。
「ならば、わたしと手を組みませんか」
「といいますと?」
「実は今回私がこのパーティに来たのは、貴族たちが裏で行っていることを探るためです。あなたはあのカニサレス家のご令嬢だ。あなたなら、多くの情報を持っているのでしょう」
これはこれは、大きく出たものね。このことを私が誰かに告げ口したら、大変なことになるでしょうに。
相手は自らの弱みを私に差し出した。それだけ覚悟を持って私と手を組みたがっているのだ。
ゆっくり息を吐いて、心を落ち着かせる。相手のペースに飲まれるな。自分に不利なことはないか、確かめないといけない。
「協力すれば、必ずあれらを壊してくれるの」
「はい」
「仮にあなたの目的が達成されたら、私はどうなるの」
「あなたの立場が悪くなるようなことにはしません。……いっそのこと、その使用人を連れて私の家に逃げて来ればいい。どうせ、家でも両親に縛られた生活を送っているのでしょう?あいにく領土は余っているので、好きに使わせてあげましょう」
「は?」
「わかりませんか?これは求婚です」
「……あなた、もう少し考えてから行動したほうがいいわよ」
「あなたにような素晴らしい女性に魅力を感じない男は居ないでしょう」
「…………」
「繰り返します。私と手を組んで頂けませんか」
……と、とんでもない男だ。
どうしようもない時は逃げ場を提供してやる、ということらしい。ここまで条件を揃わせてもらえるなら、私の返事は決まり切っている。
「良いでしょう」
差し出された手に自らの手を重ねる。彼がどこまでやってくれるのかわからないけど、賭けてみる価値はある。それに何より、家を提供してくれることが魅力的だった。今後の父親の私への仕打ち次第では、直ぐにでも家を出ていくことになるかもしれない。
けど。
「……ただ、結婚の件はまだ保留させてちょうだい」
「そうですか?」
流石に相手の情報も禄にわかってないまま、この場で婚約するのはリスキーに思えた。
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