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 宴を一足先に抜け出した私は、急いで家に帰る。ちょうど良く父親が起きていたようなので、失礼を承知して話をしに行った。ヘルミンから話が行く前に、私から伝えておきたい。

 夜遅くに部屋に訪れたことを詫た後、先程のことをすべて話した。公然の場で婚約破棄を宣言されたこと、彼には他に愛する女性がいること、ヘルミンの行動はグランド公も予想外のことだと推測できること。それらを話すと、父親はあからさまに不機嫌になった。

「グランドめ。向こうから婚約を婚約をと言って来ておったのに、突然このような……。しかし婚約破棄されたのは、お前の責任でもあるのではないのか。エルバ」
「申し訳ございません、お父様」

 頭を下げる。従順の私の様子に、父は鼻で笑った。

「まあいい。この件の責任はいくらでも相手側に押しつけられる。これ以上は不問にしてやろう。おそらく近いうちにグランドが泣きついてくるだろう。ククッ、あやつ、どんな面を下げてここに来るんだろうな」
「…………」
「だが、今回のことはカニサレス家の名前に泥を塗った。婚期の女性がこのタイミングで婚約破棄される……カニサレスの令嬢は不出来なやつだろうと言われるだろうな」
「……はい」
「ここまでの恥をかかせたんだ。罰が必要だと思わないか?」

 その質問に求められる答えは、イエスのみ。
 突然の悪報に、父親は大変ご立腹のようだ。ああ、面倒なことになった。









 どのくらい時間が経っただろうか。体感では、まだ一日経ってない頃だけど。地下の温度の低さに、身体が揺れる。肌寒いくらいだから我慢出来ないことはない。

 当然のごとく地下牢に閉じ込め得られた私は、あのパーティで着た正装のまま硬い床にへたり込んでいた。

 これは見せしめのようなものだ。他の兄弟への、見せしめ。

 殺すほどのことはしないだろうから、心は割りと落ち着いている。いらいらしてるから穏やかではないけど。まったく、女子の体は繊細だっていうのに、こんな仕打ちったらないわよ。

 だけど、奴隷の使用人たちの境遇に比べたら些細なことだ。彼らの悲痛な表情を思い出して、私は唇を噛み締めた。

「……約束の日を遅らせておいて良かったわね」

 あのギルバートという男とは、一週間後に会う約束をしている。本当は次の日にでもと言われていたのだが、罰則のことを考えて日にちを遅らせたのだ。

 予想では2日、もしくは、グランド大公が私に会いに来たときに、地下牢から開放されるだろう。

 ………もう、眠っていよう。眠れば時間がすぐに経つから。そう思って目を閉じたところで、地下牢に靴の音が響いた。仲のいい使用人が、食事でも持ってきてくれたのだろうか。鉄格子に方に目を向けると、昨夜ぶりの赤い目があった。

 ギルバート……!

「どうしてここに」
「ああ、すみません。個人的な用事でこの屋敷の立ち寄っていたもので」

 にこやかに答える男に、怪訝な表情をせずにいられない。普通にここに訪れたって、地下牢にたどり着くはずがない。周囲をちらりと見てみたが、案内人も護衛もつけていないようだった。明らかに、裏からここまで侵入している。

「見つかったらどんな目に合うかわからないわよ」
「おや、物騒ですね。私としては望むところなのですが」
「馬鹿言わないでちょうだい」

 名の知られていない貴族が、うちの家に勝てるわけがない。無謀というものだ。

「手助けしましょうか」
「結構よ。余計なことしないで。約束の日は一週間後でしょう」
「それは失礼」

 相変わらず食えない男だとは何が面白いのか、にこにこしながら私を見下ろしている。気に要らないわね。

「私なら、あなたとあなたの友人たちをここから連れ出すことができますが」
「…………」

 何を言っているのか、一瞬わからなかった。どうやらこの家から出ていかないか、ということらしい。馬鹿なの、とまた言いそうになった。

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