今さらやり直しは出来ません

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17 (香澄視点)

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なんで私がここまで『お金』に執着するのか。
それは遡る事、10年前…。


パンッ

乾いた音がリビングから響くのを私は2階の自室から聞いた。
もう少しで1年が終わろうとする12月の寒い朝の事だった。
外には雪が舞い、次第に窓の外に見える屋根に積もり始めると、その厚みを増していく。

「今のは?」

恐る恐る自室の扉を少しだけ空け顔を覗かせると、怒号が耳に届いてきた。

「あの女はなに!不倫しているなんて信じられない!!単身赴任を良いことに見つからないと思ったんでしょ!!」
「うるさいっ!お前が急にくる方が悪いんだ!!」

言い争う声はしばらく続き、次には物を投げつけているらしく、窓ガラスが割れる音や壁に何かが当たる音が続く。

そんな音を聞いた私はそっと扉を閉め、ベッドへと座った。

「……いずれこうなると思った」

1年前、会社の命令で住む関東から関西へと異動する事が決まってから心にその思いは生まれていた。

もう少しで小学校を卒業する私を連れ引っ越すのは、せっかく出来た友達と離れ離れとなり、また一から構築するのは可哀想という父の優しさから家族での移動は止めた。

でも、この異動は父にとっては良い転機だと受け取ったようだ。

異動して半年が経ったある日、母は家事を全くしない父の事だから、栄養面など気にせず好きな物ばかり食べ暮らしているはずと思い、連絡を入れずに会いに行った。
しかし、扉の前で若い女性を連れ、今まさに住むマンションの部屋に入ろうとする場面に遭遇した。

そして、あの言い合いへと発展していく…。

結局二人は離婚をし、住む家を追い出され、私は母と二人暮らしをスタートさせた。

私を養うため必死に働く母だったが、貯金も少なく、得られる食品スーパーのパート代だけでは生活はすぐに困窮し、借金だけが日に日に増えていった。

「お母さん、大丈夫?」

狭い賃貸アパートの一室で、送りつけられてくる催促状をすこし虚な目で見る母は、私の問いかけにゆっくりと口を開く。

「このままじゃ……いずれ……」

今にも自死を選んでしまいそうな母に私は投げかけた。

「私も働くよ」

小学生の私ができる仕事なんて新聞配達くらいしかない。
それでも暗く沈んだ母を放っておくなんて出来なかった…。

「ありがとう。でも、香澄は勉強をしなさい、なんとかするから」

振り向き笑顔を向けるが、その目の奥は全く笑っていない。
それから数日後、母はパートを止め、夜の仕事を始めた。

夜の仕事を始めてからの母は地味だった色合いの服を全て捨て、男性が喜びそうなスカートや胸元が開いた服を好んで着る様になっていった。

そんな母は毎日12時を超えて帰ってくるが、私は寝ず待つ日々が続いたある日、こう告げてきた。

「香澄、この世はお金よ。愛なんてまやかし。お金があれば全部叶う」

以前の暗く沈んだ目ではなく、とても生き生きとした目を向け語りかけてくる。
そして、こう付け加えてきた。

追うより追われる者になれ、と。





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