1 / 52
『キジンの復活』編
第1話 ① 旅は道連れ、世は情け
しおりを挟む
──木々の葉が緑色に輝き、そよ風に揺れている。木漏れ日が、鏡のように清らかな泉の水面に反射して、今日も煌めいていた。
泉の畔に建つ小さな祠の中には、ひとふりの古めかしい剣が祀られている。
オレは見慣れた景色の一部として、ぼんやりとそれを眺めていた。
「──『英雄剣』か」
「どうしたんだ? ガウル?」
オレがつぶやくと、首をかしげてオレの名を呼ぶのは、同じ村の自警団に所属するライド。同じ村で兄弟のように育った幼馴染みだ。
オレ達は今、祠の中の剣──英雄剣を警備している。
「どうしたもこうしたも、あの剣ってさ、本当にすごい剣なのか?
オレ達が生まれる前から祠にあって、オレ達が生まれる前から村の皆で守ってて、今はオレ達が守ってる。
そこまでして守る価値がある物だとは到底思えないんだけどな」
「村に伝わる古くからの仕来り、習わしってやつだろう。
村の人達だって皆が皆、あの剣のことを真剣に考えてるわけじゃないさ。今のお前みたいにな」
と、ライドは笑う。
英雄剣とは、『戦女神』と呼ばれる神様の力をその身に宿した『英雄』が振るったとされる伝説の剣であり、今から二千年ほど前、この世界で魔族が人間を滅ぼすために起こした戦争を終わらせた剣。
次にまた魔族が戦争を起こそうとした時、戦女神は再び降臨し、新たな英雄と共に立ち上がって人間達を救うであろう──そんな伝説のもと、『剣守り』の一族と呼ばれるオレ達は、あの剣を二千年もの間ずっと守っている。
だけど、そんなのただの伝説だ。それが本当かどうかなんか誰もわからない。そんな剣を日夜守り続けて、一体どうなるっていうんだ。
しかも、一族の男は死ぬまで村から出ることは許されない。ホントに馬鹿げた仕来りだ。
「だが、ガウル。都会の方じゃ魔族が暴れだしてるって聞いたぞ。いよいよあの剣の出番かもな」
明らかに冗談半分でライドは笑っている。
確かに魔族達の王──いわゆる『魔王』の復活が近くて魔族達の行動が活発になったとか聞いたけど、今まで魔族なんて見たこともないし、実在しているという実感はない。
でも、もしもその話が本当なら、戦女神と英雄剣も本当に伝説通りなのか……?
直後、耳をつんざく爆発音に、オレ達は驚いて周囲を見回す。
「な、なんだ!? 爆発!?」
「ライド! 村の方からだ!
戻っ──」
オレがライドの方へ振り向いた瞬間、黒い霧か靄のようなものがライドの胸で爆発して、ライドの体を大きく吹き飛ばす。
一瞬、事態がつかめずにオレはそれを呆然と見届けてしまう。
泉の畔に倒れ込んだまま動かなくなってしまったライド。
その反対側に気配を感じて振り向くと、そこにはいつの間に現れたのか、濃い青紫色の肌と羊のように巻いた角を持ち、背中にはコウモリのような翼がある人間が──いや、あれは……
「ま、魔族……」
絵でしか見たことがなかった魔族が目の前にいる。ライドを吹き飛ばした霧も、あいつの仕業か。
敵いっこない──とオレは直感する。そりゃ自警団として剣の戦闘訓練は受けている。
だけど、所詮は辺境の村の自警団員にすぎない。そんなオレが怪しげな魔法を使う魔族に敵うわけがない。
でも、よくもライドをっ!
「あいつは……、あいつはいい奴だったんだぞっ!」
剣を抜き放ち、オレは魔族に向かって突進する。敵わなくたって、せめて一撃。
渾身の力を込めて振ったオレの剣が魔族の脇腹をとらえた瞬間、何かバリアのような魔力の膜に阻まれ、剣は弾かれてあっさり折れてしまった。
魔族は呆然とするオレに向かって手の平をかざす。そこに集まる黒い霧の渦。
──終わった。オレがそう察した瞬間、『上』から女の声が響き渡る。
「こ、このタイミングで始まるの!?」
「は……?」
声がした方を見上げると、長い黒髪をなびかせながら女が空中に浮かんでいて、オレを見下ろしながらアタフタと動揺している。
その女の服装は、白いウェディングドレスのようなヒラヒラしたドレスの上に鋼の胸当てをつけている。なんともミスマッチなファッションだ。
いや、待てよ。確か戦女神の絵も、あんな格好の黒髪の女だったような……?
「ゲッ! 何よ、この服、センス悪っ!」
女は空中で自分の服装に自分でつっこんでるが、緊張感もないし、何がしたんだよ。
「な、なんだ。お前……」
「わわっ! やっぱり私のこと、もう見えてるんだ!」
「あ、ああ。スカートの中も丸見──」
「天誅っ!」
女が急降下してオレを踏み付ける。
勝手にオレの頭の上に現れておいて、理不尽極まりない。
「な、何すんだよ! お前誰だ!
って、ド突き漫才してる場合じゃない! 今、オレは魔族に襲われてて……あ、あれ?」
魔族は手の平をオレに向けたまま制止している。
というか、空には逃げ惑う鳥達が、飛んでる途中で空に貼り付いてしまったかのように浮かんでいて、まるで時間が止まってしまったかのような──
「って、ホントに時間が止まってるのか!?」
「ゲームの始まりだから敵は止まってるのね」
「ゲーム……の始まり?」
「ん? 私から説明しなくちゃいけないんだ。
このゲームは『エンター・クロス・ファンタジー』っていって、通称ExP。
物語の主人公とコミュニケーションしながら、クリアを目指すって体験型RPGなんだけど──」
「待て待て! いーえくす……ぴーじー?
な、何言ってんだ? お前、というかあなた様は伝説の戦女神じゃないのか?」
さすがは神様の仰せの言葉。さっぱり意味がわからん。
でも、一応敬語を使ってみたけどゲームとか体験型とか、なんか神様って感じがしないんだけど。
「私が戦女神!? あ、そういう設定なんだ」
「なぜ驚く。というか、設定って?
それに物語の主人公ってどういうことだよ?」
「主人公、あなたでしょ? あれ、自覚ないの?
もしかして、これって言わない方がよかったのかな。『あなたは作られた物語の主人公』ですって」
「わざわざ念を押してまで言い切るな!」
どういうことだろうか。つまりオレは作られた物語の──ゲームの中の登場人物? 架空の存在?
ちょっと待て。オレは確かに村から出たこともないけど、ちゃんと今ここに生きてるぞ。子供の頃からの記憶だってあるし。
それが全部作られた物語なわけがないだろ……?
なんだ、このいきなり最終回的な展開は。いや、最終回ってなんだよ、既にのまれ始めてるぞっ、オレ!
「あの~……、思考停止状態になっちゃってます? ごめんなさい、知ってるものだとばかり思って、つい……」
「ついじゃねぇよ! とにかく今は悠長に話してらんねぇだろ!
お前が戦女神なら魔族を倒せる方法がわかるはずだ! 教えてくれ、早く!」
「ちょっと待って、急かさないでよ。
えっと、英雄剣を取りに行って! そうしたらバトルチュートリアルが始まるはずよ!」
「バトルチュートリアル……? もっとオレにわかるように言ってくれっての!
とにかく剣を取ればいいんだな!?」
なんかもうわけがわからんが今は従うしかない。英雄剣は祠の中だ。
祠に駆けつけるや否や、オレは英雄剣をつかみ取る。
「英雄剣を取っても、これは鞘から抜けないはずだが……」
子供の頃に抜こうと試したことがあったが、鞘にくっついているかのように抜けなかった。もちろん、勝手に触ったことをあとでひどく怒られたが。
「まさか、戦女神が現れた今なら抜けるのか?」
「いいから早く抜いて! 敵が動き出しちゃった!」
「おいおい、いつの間にっ!
ええい! もうどうにでもなれ!」
力一杯に引くと、剣はゆっくり鞘から抜けて激しく輝いた。
その光を浴びた魔族は動けなくなってる。今がチャンスだ!
「……って。おい! 剣を抜いたらオレの体も動かなくなっちまったぞ!」
まるで立ったまま金縛りにあったみたいに、オレは首から上しか動かせない。
「英雄剣を抜くと私に操作が移るのよ」
「操作……?
って、まんまとオレの体を乗っ取ってんじゃねぇよ! これが狙いだったのか!」
「違うわよ。これから戦うんだからちょっと黙ってて!」
「どあっ、体が勝手にっ──」
意思に反して勝手に走り出したオレは、前方に立つ魔族に向かうと思いきや、途中で斜めに逸れて、そばの立ち木の幹に全速力で激突する。
「ぶっは! い、痛ってぇ……って、なんで見えてる木に真正面からぶつかってくんだよ!」
「仕方ないでしょ! コントローラーにまだ慣れてないんだから!」
「コントローラーだと!? ふざけるのも大概にしろ。体を乗っ取ったんだったら走るくらいまっすぐ走──」
オレがまだしゃべってるのに、体が勝手に飛び退いて魔族の攻撃を避けた。
「って! しゃべってる途中でいきなり動くな! 舌噛むだろ!」
「あんた、ちょっとうるさい! 集中させてよ!」
目を据わらせた戦女神がオレをにらみつける。勝手に体を乗っ取っておきながら、この理不尽。
「おい、敵の動き止まってるぞ。こっちの様子をうかがってるみたいだな。今がチャンスだろ?」
「ええ。言われなくてもわかってるわよ。いくわよ、必殺っ!」
戦女神の威勢のいいかけ声と共に、オレの体はおもむろに『防御の体勢』をとる。
「…………」
心なしか唖然としてこちらを見ている魔族と、攻撃もされてないのに防御するオレ。
そんな気まずい時間が数秒間続いたあと、戦女神の声が響く。
「ごめん。押すボタン間違えたわ」
「今……、ボタンで動いてるのか……オレ」
驚愕の事実と絶望感に疲れた。もう、疲れたんだよ。早く普通の男の子に戻りたい……
と、現実逃避してる場合じゃない。冗談じゃねぇぞ、この状況!
「テメェ、戦女神のくせに戦闘経験ねぇだろ!?」
「ゲームするのは久し振りなんだから仕方ないでしょ!」
「ゲーム感覚で人を戦わせるなっ! まっすぐ走ることすらできない奴に体を乗っ取られてるこっちの身にもなってくれ!」
「……ここでこのボタンね」
「人の話を聞け!」
と、次の瞬間、オレの手にある英雄剣が再び輝きだす。その光を浴びた魔族は再び動きが鈍る。
「今度こそ! いくわよ、必殺剣!」
「やっとかよ……」
あきれ果てて頭を抱えたい気分だが、今も自力で手が動かせない。
オレの体、終わればちゃんと戻ってくるんだろうな?
泉の畔に建つ小さな祠の中には、ひとふりの古めかしい剣が祀られている。
オレは見慣れた景色の一部として、ぼんやりとそれを眺めていた。
「──『英雄剣』か」
「どうしたんだ? ガウル?」
オレがつぶやくと、首をかしげてオレの名を呼ぶのは、同じ村の自警団に所属するライド。同じ村で兄弟のように育った幼馴染みだ。
オレ達は今、祠の中の剣──英雄剣を警備している。
「どうしたもこうしたも、あの剣ってさ、本当にすごい剣なのか?
オレ達が生まれる前から祠にあって、オレ達が生まれる前から村の皆で守ってて、今はオレ達が守ってる。
そこまでして守る価値がある物だとは到底思えないんだけどな」
「村に伝わる古くからの仕来り、習わしってやつだろう。
村の人達だって皆が皆、あの剣のことを真剣に考えてるわけじゃないさ。今のお前みたいにな」
と、ライドは笑う。
英雄剣とは、『戦女神』と呼ばれる神様の力をその身に宿した『英雄』が振るったとされる伝説の剣であり、今から二千年ほど前、この世界で魔族が人間を滅ぼすために起こした戦争を終わらせた剣。
次にまた魔族が戦争を起こそうとした時、戦女神は再び降臨し、新たな英雄と共に立ち上がって人間達を救うであろう──そんな伝説のもと、『剣守り』の一族と呼ばれるオレ達は、あの剣を二千年もの間ずっと守っている。
だけど、そんなのただの伝説だ。それが本当かどうかなんか誰もわからない。そんな剣を日夜守り続けて、一体どうなるっていうんだ。
しかも、一族の男は死ぬまで村から出ることは許されない。ホントに馬鹿げた仕来りだ。
「だが、ガウル。都会の方じゃ魔族が暴れだしてるって聞いたぞ。いよいよあの剣の出番かもな」
明らかに冗談半分でライドは笑っている。
確かに魔族達の王──いわゆる『魔王』の復活が近くて魔族達の行動が活発になったとか聞いたけど、今まで魔族なんて見たこともないし、実在しているという実感はない。
でも、もしもその話が本当なら、戦女神と英雄剣も本当に伝説通りなのか……?
直後、耳をつんざく爆発音に、オレ達は驚いて周囲を見回す。
「な、なんだ!? 爆発!?」
「ライド! 村の方からだ!
戻っ──」
オレがライドの方へ振り向いた瞬間、黒い霧か靄のようなものがライドの胸で爆発して、ライドの体を大きく吹き飛ばす。
一瞬、事態がつかめずにオレはそれを呆然と見届けてしまう。
泉の畔に倒れ込んだまま動かなくなってしまったライド。
その反対側に気配を感じて振り向くと、そこにはいつの間に現れたのか、濃い青紫色の肌と羊のように巻いた角を持ち、背中にはコウモリのような翼がある人間が──いや、あれは……
「ま、魔族……」
絵でしか見たことがなかった魔族が目の前にいる。ライドを吹き飛ばした霧も、あいつの仕業か。
敵いっこない──とオレは直感する。そりゃ自警団として剣の戦闘訓練は受けている。
だけど、所詮は辺境の村の自警団員にすぎない。そんなオレが怪しげな魔法を使う魔族に敵うわけがない。
でも、よくもライドをっ!
「あいつは……、あいつはいい奴だったんだぞっ!」
剣を抜き放ち、オレは魔族に向かって突進する。敵わなくたって、せめて一撃。
渾身の力を込めて振ったオレの剣が魔族の脇腹をとらえた瞬間、何かバリアのような魔力の膜に阻まれ、剣は弾かれてあっさり折れてしまった。
魔族は呆然とするオレに向かって手の平をかざす。そこに集まる黒い霧の渦。
──終わった。オレがそう察した瞬間、『上』から女の声が響き渡る。
「こ、このタイミングで始まるの!?」
「は……?」
声がした方を見上げると、長い黒髪をなびかせながら女が空中に浮かんでいて、オレを見下ろしながらアタフタと動揺している。
その女の服装は、白いウェディングドレスのようなヒラヒラしたドレスの上に鋼の胸当てをつけている。なんともミスマッチなファッションだ。
いや、待てよ。確か戦女神の絵も、あんな格好の黒髪の女だったような……?
「ゲッ! 何よ、この服、センス悪っ!」
女は空中で自分の服装に自分でつっこんでるが、緊張感もないし、何がしたんだよ。
「な、なんだ。お前……」
「わわっ! やっぱり私のこと、もう見えてるんだ!」
「あ、ああ。スカートの中も丸見──」
「天誅っ!」
女が急降下してオレを踏み付ける。
勝手にオレの頭の上に現れておいて、理不尽極まりない。
「な、何すんだよ! お前誰だ!
って、ド突き漫才してる場合じゃない! 今、オレは魔族に襲われてて……あ、あれ?」
魔族は手の平をオレに向けたまま制止している。
というか、空には逃げ惑う鳥達が、飛んでる途中で空に貼り付いてしまったかのように浮かんでいて、まるで時間が止まってしまったかのような──
「って、ホントに時間が止まってるのか!?」
「ゲームの始まりだから敵は止まってるのね」
「ゲーム……の始まり?」
「ん? 私から説明しなくちゃいけないんだ。
このゲームは『エンター・クロス・ファンタジー』っていって、通称ExP。
物語の主人公とコミュニケーションしながら、クリアを目指すって体験型RPGなんだけど──」
「待て待て! いーえくす……ぴーじー?
な、何言ってんだ? お前、というかあなた様は伝説の戦女神じゃないのか?」
さすがは神様の仰せの言葉。さっぱり意味がわからん。
でも、一応敬語を使ってみたけどゲームとか体験型とか、なんか神様って感じがしないんだけど。
「私が戦女神!? あ、そういう設定なんだ」
「なぜ驚く。というか、設定って?
それに物語の主人公ってどういうことだよ?」
「主人公、あなたでしょ? あれ、自覚ないの?
もしかして、これって言わない方がよかったのかな。『あなたは作られた物語の主人公』ですって」
「わざわざ念を押してまで言い切るな!」
どういうことだろうか。つまりオレは作られた物語の──ゲームの中の登場人物? 架空の存在?
ちょっと待て。オレは確かに村から出たこともないけど、ちゃんと今ここに生きてるぞ。子供の頃からの記憶だってあるし。
それが全部作られた物語なわけがないだろ……?
なんだ、このいきなり最終回的な展開は。いや、最終回ってなんだよ、既にのまれ始めてるぞっ、オレ!
「あの~……、思考停止状態になっちゃってます? ごめんなさい、知ってるものだとばかり思って、つい……」
「ついじゃねぇよ! とにかく今は悠長に話してらんねぇだろ!
お前が戦女神なら魔族を倒せる方法がわかるはずだ! 教えてくれ、早く!」
「ちょっと待って、急かさないでよ。
えっと、英雄剣を取りに行って! そうしたらバトルチュートリアルが始まるはずよ!」
「バトルチュートリアル……? もっとオレにわかるように言ってくれっての!
とにかく剣を取ればいいんだな!?」
なんかもうわけがわからんが今は従うしかない。英雄剣は祠の中だ。
祠に駆けつけるや否や、オレは英雄剣をつかみ取る。
「英雄剣を取っても、これは鞘から抜けないはずだが……」
子供の頃に抜こうと試したことがあったが、鞘にくっついているかのように抜けなかった。もちろん、勝手に触ったことをあとでひどく怒られたが。
「まさか、戦女神が現れた今なら抜けるのか?」
「いいから早く抜いて! 敵が動き出しちゃった!」
「おいおい、いつの間にっ!
ええい! もうどうにでもなれ!」
力一杯に引くと、剣はゆっくり鞘から抜けて激しく輝いた。
その光を浴びた魔族は動けなくなってる。今がチャンスだ!
「……って。おい! 剣を抜いたらオレの体も動かなくなっちまったぞ!」
まるで立ったまま金縛りにあったみたいに、オレは首から上しか動かせない。
「英雄剣を抜くと私に操作が移るのよ」
「操作……?
って、まんまとオレの体を乗っ取ってんじゃねぇよ! これが狙いだったのか!」
「違うわよ。これから戦うんだからちょっと黙ってて!」
「どあっ、体が勝手にっ──」
意思に反して勝手に走り出したオレは、前方に立つ魔族に向かうと思いきや、途中で斜めに逸れて、そばの立ち木の幹に全速力で激突する。
「ぶっは! い、痛ってぇ……って、なんで見えてる木に真正面からぶつかってくんだよ!」
「仕方ないでしょ! コントローラーにまだ慣れてないんだから!」
「コントローラーだと!? ふざけるのも大概にしろ。体を乗っ取ったんだったら走るくらいまっすぐ走──」
オレがまだしゃべってるのに、体が勝手に飛び退いて魔族の攻撃を避けた。
「って! しゃべってる途中でいきなり動くな! 舌噛むだろ!」
「あんた、ちょっとうるさい! 集中させてよ!」
目を据わらせた戦女神がオレをにらみつける。勝手に体を乗っ取っておきながら、この理不尽。
「おい、敵の動き止まってるぞ。こっちの様子をうかがってるみたいだな。今がチャンスだろ?」
「ええ。言われなくてもわかってるわよ。いくわよ、必殺っ!」
戦女神の威勢のいいかけ声と共に、オレの体はおもむろに『防御の体勢』をとる。
「…………」
心なしか唖然としてこちらを見ている魔族と、攻撃もされてないのに防御するオレ。
そんな気まずい時間が数秒間続いたあと、戦女神の声が響く。
「ごめん。押すボタン間違えたわ」
「今……、ボタンで動いてるのか……オレ」
驚愕の事実と絶望感に疲れた。もう、疲れたんだよ。早く普通の男の子に戻りたい……
と、現実逃避してる場合じゃない。冗談じゃねぇぞ、この状況!
「テメェ、戦女神のくせに戦闘経験ねぇだろ!?」
「ゲームするのは久し振りなんだから仕方ないでしょ!」
「ゲーム感覚で人を戦わせるなっ! まっすぐ走ることすらできない奴に体を乗っ取られてるこっちの身にもなってくれ!」
「……ここでこのボタンね」
「人の話を聞け!」
と、次の瞬間、オレの手にある英雄剣が再び輝きだす。その光を浴びた魔族は再び動きが鈍る。
「今度こそ! いくわよ、必殺剣!」
「やっとかよ……」
あきれ果てて頭を抱えたい気分だが、今も自力で手が動かせない。
オレの体、終わればちゃんと戻ってくるんだろうな?
0
あなたにおすすめの小説
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
盾の間違った使い方
KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。
まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。
マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。
しかし、当たった次の瞬間。
気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。
周囲は白骨死体だらけ。
慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。
仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。
ここは――
多分、ボス部屋。
しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。
与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる
【異世界ショッピング】。
一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。
魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、
水一滴すら買えない。
ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。
そんな中、盾だけが違った。
傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。
両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。
盾で殴り
盾で守り
腹が減れば・・・盾で焼く。
フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。
ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。
――そんなある日。
聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。
盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。
【AIの使用について】
本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。
主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。
ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜
KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。
~あらすじ~
世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。
そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。
しかし、その恩恵は平等ではなかった。
富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。
そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。
彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。
あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。
妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。
希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。
英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。
これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。
彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。
テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。
SF味が増してくるのは結構先の予定です。
スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。
良かったら読んでください!
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる