ふたりでひとつの冒険記~ガンバる英雄とマイペースな女神

ナガサコ カズホ

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『キジンの復活』編

第1話 ②

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「…………?」

 だが、待てど暮らせど一向いっこうに技を使わない。
 剣を光らせたまま、またも変な間が数秒続く。

「おい、どうしたんだよ?」
技名わざめいを叫ばないといけないんじゃないの?」
「はぁ? 技名なんか知るわけねぇだろ?」
「これも私が教えるの!? 面倒くさいわね」

 英雄剣を抜いたのは今日が初めてだっていうのに、なんでオレが知ってると思ったんだろうか。

「いちいち技名を叫ばないと使えねぇ方が面倒くさいっての!
 で、なんて言えばいいんだよ?」

 オレの問いに戦女神は真顔でたった一言、返す。

「ヒロイック・スラッシュよ」
「…………」

 ダサい。絶望的にダサい。
 それを叫べと? 無理だ、恥辱ちじょくだ、絶句するしかない。

「言っておくけど、私が考えたんじゃないからね。
 ほら、早くしないと! いくらチュートリアルだからってやられちゃうわよ?」
「どんな状況だろうと〈ヒロイック・スラッシュ〉なんて叫べるかぁっ!」

 オレの声に反応した英雄剣の光は虹色に変化し、およそ人間業にんげんわざとは思えないほどの勢いで勝手に振り抜かれた剣から光の斬撃ざんげきが放たれた。
 魔族は再びバリアを張るが、斬撃はそれごと魔族を真っ二つに斬り裂いた。

「しまったぁ! 思わず叫んじまったじゃねぇか!」
「結果オーライ!」

 戦女神はクスクスと笑うが、オレは自尊心を傷付けられたぞ……
 そして、剣を鞘に収めるとオレは体の自由を取り戻す。

「やっと戻ってきた……。オレの体……」
「こんなに動かせないものなのね。新発売のゲーム機でコントローラーの形が変わっちゃったのが痛いわ。ちょっと練習が必要かも」
「ちょっとじゃねぇだろ。というか、マジでオレはこれからどうなるんだよ。こんな変な奴に取りかれて……」
「人をオバケみたいに言わないでくれる? こっちだってコミュニケーションゲームだと思ってたんだから。
 そしたらやたら初期設定は丸投げだわ、主人公はうるさいわ、何も知らないわ、言うこと聞かないわ」

 散々さんざん好き勝手言ってくれるな、こいつ。

「というか、あなたって反応が生々しくて、生きてる人間が中に入ってるみたいなのよね。最近のAIエーアイってすごいわ」
「えーあいだか言い合いだか知らねぇけど、中に入ってるどころかオレは中も外も生きてる人間だっつーの!」
「まあ、こういうのもこれはこれで面白そうかも。ちょっとうるさいけど……」
「さっきからお前の方が人の話を聞いてねぇだろ!」

 こいつ、オレのことをからかって遊んでるな。神様だからって横暴おうぼうだ。不愉快ふゆかいだ。

 とはいえ、魔族をあんなにもあっさり倒せるなら英雄剣の力は本物だ。これがないと世界は救えないだろう。
 つまりオレがこいつと一緒に伝説の英雄となって世界を救うしか──

「こいつと一緒に……? 無理そう……」
「何よ、不満そうに」

 見た目は可愛い女だ。だけど、このまま気を許すとたぶんマズい。好き放題やられるに決まってる。

「こいつとか失礼でしょ。
 私は『アスカ』、コウヤ・アスカよ。あなたは?」

 名乗って微笑む戦女神──改め、アスカというらしい。
 黙ってそうしていれば可愛いんだが。どうしたものか……

「コウヤ……アスカ? 名前の方が後ろなのか、変な名前だな」
「ホントに失礼ね。一応、本名なのに。
 それで、あなたの名前は?」

 と、にらみつけるアスカ。いや、にらみつけたいのはオレも同じなんだが。仕方ない、自己紹介くらいしてやるか。

「オレはガウル。ガウル・フェッセラースだ。
 とにかく、もっと詳しい話を聞かせてくれ。正直、まだ何が起こったのか理解し切れてないんだよ」
「それはいいけど。やられたお友達は放置?」
「あ……」

 見れば倒れたままのライド。すっかり忘れてたなんて口に出して言えない。
 倒れたライドに駆け寄って見てみれば、魔族の魔法が炸裂さくれつした服の胸の部分が破れている。

「まさか。村で一番強いライドがこんなにあっさり……」

 呆然とするしかないオレの横を通り過ぎて、アスカがライドの容体をる。

「見た感じ、ガウルより若そうだけど村で一番強いんだ」
「年上だよ。童顔だからそう見えるだけで……」
「そう。でも、死ぬには早すぎる年齢よね」

 と、ジッとライドの様子を看続けていたアスカが淡々たんたんとつぶやく。
 なげくこともなく、あきらめている感じではない。

「もしかして、生き返らせれるのか!」
「生き返らせる必要はないんじゃない?」
薄情者はくじょうものっ! 神様だったら、それくらい──」

 相手が神様だろうが女だろうが、親友を生き返らせる必要もないとか言い切られたら、オレだって怒るぞ……

「だって、彼。まだ生きてるから、生き返らせる必要ないでしょ?」
「は、早く言えよっ!」

 なんで肝心なことは後回しなんだ。
 これじゃ最初から死んだと思い込んでて、途中で存在を忘れてて、さらに今も死んでるって早とちりしたオレの方が薄情者っぽいじゃないかよ。

 いや、よくよく考えたらそれってすごい薄情者だな、オレ……
 と、ともかくオレもライドの様子をみる。確かに、まだ息はある。

「よかった……
 だけど、このままじゃどのみちライドは死んじまう」
「村の方でも爆発があったんでしょ? だったらすぐに救助の人は、ここに来られないってことじゃない?」
「ああ。今頃、村の方だって大変なことになってるに違いない。
 そうだ、アスカ。お前ならライドを助けられるんじゃないか?」

 全知全能の神様ならできないことなんかないはずだ。
 まあ、アスカが本当に戦女神かどうかってところが最大の問題だが。

「ごめん。今の私が使えるスキルじゃ、あなた以外に作用さようする技はないみたい……」
「つまり、オレは助けられるけどライドは助けられないってことかよ! それじゃ意味がないだろ!」

 オレの体を乗っ取ることもそうだが、戦女神のくせに、なんで使い道が限定的な無意味な力しかないんだよ……

「怒鳴らなくったって! そんなに大切な友達なの……?」
「オレは両親を早くに亡くしてる。ライドの親がオレを育ててくれたんだ。
 だから……、ライドは友であり兄弟のような奴でもあったんだよ!」

 ついさっきまで平和だったオレの人生。魔族とアスカが現れて一気に狂い始めた。
 いや、そうなる覚悟がなかったわけじゃないけど、目の前で誰かに死なれるのは──

「目の前で誰かに死なれるのは、辛いわ……」

 オレが心の中で思っていたことと全く同じことを、アスカは悲しそうにつぶやいた。さすがにそれには驚いた。

「ここは作られた物語、ゲームの中とか言ってたくせに辛いのか?」
「たとえゲームだって誰かが悲しそうにしてたら、辛いものは辛いでしょう?」
「そりゃそうかもしれないけど……」

 こいつ、何を考えてるんだ。ただゲーム遊んでるってことでもないのか、わからなくなってきた。

「あ、そうだ。ちょっと待ってて!」

 一瞬だけ姿を消したアスカが再び現れると、手には小さな小びんがあった。

「早期購入特典でもらえる課金アイテムがあったこと、すっかり忘れてたわ。今、交換コード入力してきたから、これならライドさんにも使えるはずよ」
「カキン……アイテム? 交換こーど?
 まあいい。ありがたく使わせてもらうぜ」

 アスカから受け取った小びんの中身の液体をライドの傷にかけると、傷はゆっくりふさがり始めた。かなり強力な回復薬のようだ。

「これで一安心だ。というか、こんな便利な物を持ってるなら先に出せよ」
「言っとくけどポンポン出せる物じゃないからね? 今回は特典で無料でもらえた物だったけど、本来なら『課金』アイテムなんだから」
「そのカキンとかいうやつはポンポンできないのか?」
「できるけど……。無計画にやったら身の破滅よ」

 深刻そうな顔でそう答えるアスカ。
 神様ならなんでもできるんだろって軽い気持ちでいたが、もしかしたら『カキン』というのは命を削るような、そんな危険なことなのかもしれない。

「身の破滅って。カキンって命に関わる儀式か何かなのか? 便利な物を手に入れる替わりに死ぬかもしれないとか……」
「儀式って言われるとなんか笑えるけど、ある意味そうね。そういう解釈で間違いないわ。
 下手したら普通に死にたくなるから、ご利用は計画的に」
「そうか……。すまん、よく知らなかったんだ。もうカキンの儀式を強要したりしないよ。
 それに薄情者とか言ったり怒鳴ったりとか、八つ当たりしちまったのも謝る。本当にすまん……」

 オレが罪悪感にさいなまれていると、アスカは吹き出して笑いだす。

「あはは。大丈夫よ、そんな深刻に考えなくても。
 これでクソゲーだったらゲームキャラに課金強要されたって、ゲーム会社をうったえてやるけど」
「クソ……? 実は怒ってないか。お前……」

 いきなり鬼のような顔になって目を光らせるアスカを見て、オレは察する。よくわからないけど、カキンの儀式はどうやら神の逆鱗げきりんれることなのだろう。
 さわらぬ神にたたり無し。カキンを強要したらタダじゃ済みそうにないからやめておこう……
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