常世と現世と月結び【第三章作成中】

杉崎あいり

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第一章

仕事仲間からの忠告

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「葉月ちゃーん!待ってたわよぉ!! 」

 小屋の裏側に辿り着いた私たちを出迎えたのは、長身の男性だった。
 しかもオネエ口調。

「……葉月ちゃん?」

 思わず葉月さんを見上げる。

「彼が先程の文の相手です。雪女の」
「雪女。女の子口調なのは、雪女という妖だからですか?」

 そういうさがなのかと納得しかけたが、葉月さんはなんとも言えない表情で首を振った。

「あれは彼の個性であって、妖どうこうといったものではありません。実際に同じ種族の男性は、普通に男口調でしたよ」

 2人して苦い顔をしていると、その男性の後ろにも誰かがいることに気づいた。
 一人は金の髪を三つ編みに結わえて横に流した男性で、もう一人は黒髪短髪の男の子だ。

「お待たせしてすみません」

 知った仲なのか、葉月さんの態度はあまりかしこまっていない。

「遅い」

 男の子が不機嫌そうな顔で文句を垂れた。
 なんというか、年相応な感じが安心する。

「こら、万咲希まさき。こちらが急に押しかけたのだから、そんなことを言うんじゃない。済まないな、葉月」

 三つ編みの男性が男の子を宥めつつ、葉月さんに軽く頭を下げた。

「いえいえ。とりあえず中へ入りましょう」

 この2人とも面識があるようで、葉月さんは大して気にした様子もなく招き入れた。

「まずは自己紹介しなくちゃね!」

 お茶を用意して一息つくと、オネエ口調の男性が私に向けて言った。

「まずあたしからね。あたしはゆずき。28よ。ゆずちゃんって呼んでね!葉月ちゃんと同じ薬師なの。次、さくちゃん」

 ゆずさんの視線につられて、その隣の三つ編みの男性を見る。

「俺は朔矢さくや。葉月と同い年だ。薬師の仕事が主だが、副業として情報屋もしている。よろしく」

 表情筋が機能していないんじゃないかというほど、朔矢さんは真顔で挨拶してくれた。

「万咲希。16歳。薬師見習い」

(うん、彼は絶対、朔矢さんの弟子だね。表情がそっくり)

「万咲希は俺の弟子だ」

 ……やっぱり!
 足りない言葉を付け加えた朔矢さんに、私は思わず頷きそうになった。

「私は結奈といいます。19歳です。葉月さんのところで薬師見習いをしています。よろしくおねがいします」
「へぇ、葉月ちゃん弟子とったの?初耳だわ!」

 口元に手を当てて驚いた顔をするゆずきさん。
 そんなに珍しいのだろうか。

 疑問に思っていると、顔に出ていたのか葉月さんが苦笑した。

「結奈さんが初めての私の弟子なのですよ」

 教え方が上手だった故に、驚愕の事実だ。

「薬学の知識は豊富な癖に、いつまでも弟子を取らないでいるから、あたし本当にもどかしかったのよ。でも良かったわ。これでまた1人、優秀な薬師が増えるわね」

 なぜ弟子を取らなかったのか、理由を聞いてもいいだろうか。
 気になることはなんでも聞きたくなる私だが、葉月さんの過去に繋がるのではと思うと聞にくい。

「ねぇ、そろそろ本題に移ったら?ゆずさん」

 聞こうか聞くまいか悩んでいたところ、万咲希くんによって打ち消された。

「そうだったわ。じゃあ、本題に入るわね」

 さっきまでの和やかな空気が一転、ピリッと張り詰めていく。
 ゆずさんの声も心無しか小さめだ。

「最近ね、薬師を狙って襲ってくる黄泉の妖が、桃源郷を彷徨いているの。特に湖や沼地のような、転送跡地付近の町でね。理由は分からないけど……。とにかく、薬師は個人で営業するから、あまり対策を立てられないでしょ?だから各々で注意して行動するようにって、他の薬師たちにも注意喚起しているの」

 転送と聞いて、私はゴクリと唾を飲み込んだ。
 なぜ薬師を狙っているのかは分からないが、私は自分に関係があるような気がしてならない。

「薬師だけが狙われているというのは、確実な情報ですか?偶然薬師が襲われた確率が多かったというわけではなく?」

 葉月さんもどこか声が硬い。

「薬師だけだ」

 今度は朔矢さんが答えた。
 恐らくこの情報を持ってきたのも彼だろう。
 静かな動作で懐から巻物を取り出して、座卓の上に広げる。

「ここ1週間で襲われた妖だ。全員、酷い損傷があったらしい」

 巻物に並んだ名前は十人以上。
 どの名前の下にも薬師や薬師見習いと書いてある。

「……こんなに」

 知り合いの名前もあったのだろう。
 葉月さん達は悲痛な顔をしていた。

「目的は何なのでしょう」
「さぁ。相手がどんな能力を持っているかも分かっていないらしいわ。目撃情報もなし。政府は何をやっているんだか。これじゃあ防ぎようがないわ」

 ゆずさんがお手上げのポーズをとった。
 場を和ませようと、敢えて明るいトーンで話しているのがわかる。

「護衛をそれぞれに付ける……というのも厳しいか」

 腕を組んで、難しい顔をしたまま朔矢さんが呟いた。

 護衛と聞いて思い出すのはタウフィークさんだ。
 確か彼の一族であるアルミラージは、護衛家業を務めていると言っていた。
 しかし、ゆずさんはその意見を一蹴する。

「残念だけど、足りなさすぎるわ。既にアルミラージの一族は全員駆り出されてしまった。薬師だけって言っているのに、それを信じられない人たちもいてね。羽振りの良い一家なんかが独占していっちゃったのよ。よくある話だわ」

 打つ手なし。
 恐らくここにいる全員の頭に浮かんだ言葉だろう。
 ため息をひとつ落として、ゆずさんが立ち上がった。

「また、何かわかったら連絡するわ。どこに何があるか分からないから、できるだけ口頭で伝えたいの。それと、なるべく外出は避けるようにして。いいわね?」

 私と葉月さんか素直に了解の意を示すと、3人は連れ立って帰っていった。
 残ったのは、重たい空気と緊張感だけ。
 昼間の穏やかな気持ちは、一瞬で消えてしまった。
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