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第一章
仕事仲間からの忠告
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「葉月ちゃーん!待ってたわよぉ!! 」
小屋の裏側に辿り着いた私たちを出迎えたのは、長身の男性だった。
しかもオネエ口調。
「……葉月ちゃん?」
思わず葉月さんを見上げる。
「彼が先程の文の相手です。雪女の」
「雪女。女の子口調なのは、雪女という妖だからですか?」
そういう性なのかと納得しかけたが、葉月さんはなんとも言えない表情で首を振った。
「あれは彼の個性であって、妖どうこうといったものではありません。実際に同じ種族の男性は、普通に男口調でしたよ」
2人して苦い顔をしていると、その男性の後ろにも誰かがいることに気づいた。
一人は金の髪を三つ編みに結わえて横に流した男性で、もう一人は黒髪短髪の男の子だ。
「お待たせしてすみません」
知った仲なのか、葉月さんの態度はあまりかしこまっていない。
「遅い」
男の子が不機嫌そうな顔で文句を垂れた。
なんというか、年相応な感じが安心する。
「こら、万咲希。こちらが急に押しかけたのだから、そんなことを言うんじゃない。済まないな、葉月」
三つ編みの男性が男の子を宥めつつ、葉月さんに軽く頭を下げた。
「いえいえ。とりあえず中へ入りましょう」
この2人とも面識があるようで、葉月さんは大して気にした様子もなく招き入れた。
「まずは自己紹介しなくちゃね!」
お茶を用意して一息つくと、オネエ口調の男性が私に向けて言った。
「まずあたしからね。あたしはゆずき。28よ。ゆずちゃんって呼んでね!葉月ちゃんと同じ薬師なの。次、朔ちゃん」
ゆずさんの視線につられて、その隣の三つ編みの男性を見る。
「俺は朔矢。葉月と同い年だ。薬師の仕事が主だが、副業として情報屋もしている。よろしく」
表情筋が機能していないんじゃないかというほど、朔矢さんは真顔で挨拶してくれた。
「万咲希。16歳。薬師見習い」
(うん、彼は絶対、朔矢さんの弟子だね。表情がそっくり)
「万咲希は俺の弟子だ」
……やっぱり!
足りない言葉を付け加えた朔矢さんに、私は思わず頷きそうになった。
「私は結奈といいます。19歳です。葉月さんのところで薬師見習いをしています。よろしくおねがいします」
「へぇ、葉月ちゃん弟子とったの?初耳だわ!」
口元に手を当てて驚いた顔をするゆずきさん。
そんなに珍しいのだろうか。
疑問に思っていると、顔に出ていたのか葉月さんが苦笑した。
「結奈さんが初めての私の弟子なのですよ」
教え方が上手だった故に、驚愕の事実だ。
「薬学の知識は豊富な癖に、いつまでも弟子を取らないでいるから、あたし本当にもどかしかったのよ。でも良かったわ。これでまた1人、優秀な薬師が増えるわね」
なぜ弟子を取らなかったのか、理由を聞いてもいいだろうか。
気になることはなんでも聞きたくなる私だが、葉月さんの過去に繋がるのではと思うと聞にくい。
「ねぇ、そろそろ本題に移ったら?ゆずさん」
聞こうか聞くまいか悩んでいたところ、万咲希くんによって打ち消された。
「そうだったわ。じゃあ、本題に入るわね」
さっきまでの和やかな空気が一転、ピリッと張り詰めていく。
ゆずさんの声も心無しか小さめだ。
「最近ね、薬師を狙って襲ってくる黄泉の妖が、桃源郷を彷徨いているの。特に湖や沼地のような、転送跡地付近の町でね。理由は分からないけど……。とにかく、薬師は個人で営業するから、あまり対策を立てられないでしょ?だから各々で注意して行動するようにって、他の薬師たちにも注意喚起しているの」
転送と聞いて、私はゴクリと唾を飲み込んだ。
なぜ薬師を狙っているのかは分からないが、私は自分に関係があるような気がしてならない。
「薬師だけが狙われているというのは、確実な情報ですか?偶然薬師が襲われた確率が多かったというわけではなく?」
葉月さんもどこか声が硬い。
「薬師だけだ」
今度は朔矢さんが答えた。
恐らくこの情報を持ってきたのも彼だろう。
静かな動作で懐から巻物を取り出して、座卓の上に広げる。
「ここ1週間で襲われた妖だ。全員、酷い損傷があったらしい」
巻物に並んだ名前は十人以上。
どの名前の下にも薬師や薬師見習いと書いてある。
「……こんなに」
知り合いの名前もあったのだろう。
葉月さん達は悲痛な顔をしていた。
「目的は何なのでしょう」
「さぁ。相手がどんな能力を持っているかも分かっていないらしいわ。目撃情報もなし。政府は何をやっているんだか。これじゃあ防ぎようがないわ」
ゆずさんがお手上げのポーズをとった。
場を和ませようと、敢えて明るいトーンで話しているのがわかる。
「護衛をそれぞれに付ける……というのも厳しいか」
腕を組んで、難しい顔をしたまま朔矢さんが呟いた。
護衛と聞いて思い出すのはタウフィークさんだ。
確か彼の一族であるアルミラージは、護衛家業を務めていると言っていた。
しかし、ゆずさんはその意見を一蹴する。
「残念だけど、足りなさすぎるわ。既にアルミラージの一族は全員駆り出されてしまった。薬師だけって言っているのに、それを信じられない人たちもいてね。羽振りの良い一家なんかが独占していっちゃったのよ。よくある話だわ」
打つ手なし。
恐らくここにいる全員の頭に浮かんだ言葉だろう。
ため息をひとつ落として、ゆずさんが立ち上がった。
「また、何かわかったら連絡するわ。どこに何があるか分からないから、できるだけ口頭で伝えたいの。それと、なるべく外出は避けるようにして。いいわね?」
私と葉月さんか素直に了解の意を示すと、3人は連れ立って帰っていった。
残ったのは、重たい空気と緊張感だけ。
昼間の穏やかな気持ちは、一瞬で消えてしまった。
小屋の裏側に辿り着いた私たちを出迎えたのは、長身の男性だった。
しかもオネエ口調。
「……葉月ちゃん?」
思わず葉月さんを見上げる。
「彼が先程の文の相手です。雪女の」
「雪女。女の子口調なのは、雪女という妖だからですか?」
そういう性なのかと納得しかけたが、葉月さんはなんとも言えない表情で首を振った。
「あれは彼の個性であって、妖どうこうといったものではありません。実際に同じ種族の男性は、普通に男口調でしたよ」
2人して苦い顔をしていると、その男性の後ろにも誰かがいることに気づいた。
一人は金の髪を三つ編みに結わえて横に流した男性で、もう一人は黒髪短髪の男の子だ。
「お待たせしてすみません」
知った仲なのか、葉月さんの態度はあまりかしこまっていない。
「遅い」
男の子が不機嫌そうな顔で文句を垂れた。
なんというか、年相応な感じが安心する。
「こら、万咲希。こちらが急に押しかけたのだから、そんなことを言うんじゃない。済まないな、葉月」
三つ編みの男性が男の子を宥めつつ、葉月さんに軽く頭を下げた。
「いえいえ。とりあえず中へ入りましょう」
この2人とも面識があるようで、葉月さんは大して気にした様子もなく招き入れた。
「まずは自己紹介しなくちゃね!」
お茶を用意して一息つくと、オネエ口調の男性が私に向けて言った。
「まずあたしからね。あたしはゆずき。28よ。ゆずちゃんって呼んでね!葉月ちゃんと同じ薬師なの。次、朔ちゃん」
ゆずさんの視線につられて、その隣の三つ編みの男性を見る。
「俺は朔矢。葉月と同い年だ。薬師の仕事が主だが、副業として情報屋もしている。よろしく」
表情筋が機能していないんじゃないかというほど、朔矢さんは真顔で挨拶してくれた。
「万咲希。16歳。薬師見習い」
(うん、彼は絶対、朔矢さんの弟子だね。表情がそっくり)
「万咲希は俺の弟子だ」
……やっぱり!
足りない言葉を付け加えた朔矢さんに、私は思わず頷きそうになった。
「私は結奈といいます。19歳です。葉月さんのところで薬師見習いをしています。よろしくおねがいします」
「へぇ、葉月ちゃん弟子とったの?初耳だわ!」
口元に手を当てて驚いた顔をするゆずきさん。
そんなに珍しいのだろうか。
疑問に思っていると、顔に出ていたのか葉月さんが苦笑した。
「結奈さんが初めての私の弟子なのですよ」
教え方が上手だった故に、驚愕の事実だ。
「薬学の知識は豊富な癖に、いつまでも弟子を取らないでいるから、あたし本当にもどかしかったのよ。でも良かったわ。これでまた1人、優秀な薬師が増えるわね」
なぜ弟子を取らなかったのか、理由を聞いてもいいだろうか。
気になることはなんでも聞きたくなる私だが、葉月さんの過去に繋がるのではと思うと聞にくい。
「ねぇ、そろそろ本題に移ったら?ゆずさん」
聞こうか聞くまいか悩んでいたところ、万咲希くんによって打ち消された。
「そうだったわ。じゃあ、本題に入るわね」
さっきまでの和やかな空気が一転、ピリッと張り詰めていく。
ゆずさんの声も心無しか小さめだ。
「最近ね、薬師を狙って襲ってくる黄泉の妖が、桃源郷を彷徨いているの。特に湖や沼地のような、転送跡地付近の町でね。理由は分からないけど……。とにかく、薬師は個人で営業するから、あまり対策を立てられないでしょ?だから各々で注意して行動するようにって、他の薬師たちにも注意喚起しているの」
転送と聞いて、私はゴクリと唾を飲み込んだ。
なぜ薬師を狙っているのかは分からないが、私は自分に関係があるような気がしてならない。
「薬師だけが狙われているというのは、確実な情報ですか?偶然薬師が襲われた確率が多かったというわけではなく?」
葉月さんもどこか声が硬い。
「薬師だけだ」
今度は朔矢さんが答えた。
恐らくこの情報を持ってきたのも彼だろう。
静かな動作で懐から巻物を取り出して、座卓の上に広げる。
「ここ1週間で襲われた妖だ。全員、酷い損傷があったらしい」
巻物に並んだ名前は十人以上。
どの名前の下にも薬師や薬師見習いと書いてある。
「……こんなに」
知り合いの名前もあったのだろう。
葉月さん達は悲痛な顔をしていた。
「目的は何なのでしょう」
「さぁ。相手がどんな能力を持っているかも分かっていないらしいわ。目撃情報もなし。政府は何をやっているんだか。これじゃあ防ぎようがないわ」
ゆずさんがお手上げのポーズをとった。
場を和ませようと、敢えて明るいトーンで話しているのがわかる。
「護衛をそれぞれに付ける……というのも厳しいか」
腕を組んで、難しい顔をしたまま朔矢さんが呟いた。
護衛と聞いて思い出すのはタウフィークさんだ。
確か彼の一族であるアルミラージは、護衛家業を務めていると言っていた。
しかし、ゆずさんはその意見を一蹴する。
「残念だけど、足りなさすぎるわ。既にアルミラージの一族は全員駆り出されてしまった。薬師だけって言っているのに、それを信じられない人たちもいてね。羽振りの良い一家なんかが独占していっちゃったのよ。よくある話だわ」
打つ手なし。
恐らくここにいる全員の頭に浮かんだ言葉だろう。
ため息をひとつ落として、ゆずさんが立ち上がった。
「また、何かわかったら連絡するわ。どこに何があるか分からないから、できるだけ口頭で伝えたいの。それと、なるべく外出は避けるようにして。いいわね?」
私と葉月さんか素直に了解の意を示すと、3人は連れ立って帰っていった。
残ったのは、重たい空気と緊張感だけ。
昼間の穏やかな気持ちは、一瞬で消えてしまった。
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