色彩色盲

カミーユ R-35

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注意喚起

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【西園寺視点】
本日のご招待頂いたお茶会も終わり、私はある者を追っていた。私の視線の先いるあの男の名は霧森 翔英。彼こそ、今回お茶会に潜入した真の理由である。椋橋様の親衛隊長としてお傍近くに仕えている。椋橋様が万が一お困りの場合は一番に駆けつけると同時に、身を挺してお守りする義務があります。(要は椋橋様の邪魔をしていないかチェクも兼ねて警戒していると言う事です)私は奴を射貫くような視線で奴を見る。一瞬の見逃しもしない様に…。
椋橋様をお守りするのはこの私です。そう、私は誓ったはず! しかし、いくら見ていても奴は私に気が付かない。それどころか他のチワワに囲まれて愛想よく笑みを振り撒いているだけで、今の処怪しい気配はしません。
(やはり噂通りの方なのでは?)と思うのは素人の考え。私からすれば、あの男の凝ったんなど丸見え。(きっと私がこうやって監視しているのを承知で態と見せつけているかの様に思えます)

??「あ、あの……。私、霧森様にお話があるのですが……」ほら、早速バカなチワワの一匹があの男に近づいて行ったではないですか。 私はすかさず奴に照準という名の眼力を合わせる。
霧森「ん? 何ですか?」奴が笑みを浮かべ答える。(その笑顔に騙されてはいけません。奴はきっと腹黒ですね、 そうに違いありません)私の直感がそう言っています。

「あの……。霧森様にその、質問があるのですが……」チワワの一匹がもじもじしながら言う。すると突然霧森はスッと立ち上がると「ここではゆっくり話も出来なさそうなので…」そう言って手を差し出しました。
これは!? まさか!!?(吊り橋効果!!)と私の本能が騒ぐ。と言う事は、あれは本当に単なる腹黒では無く、実はいい奴なのでは? と私は考えを改めるつもりはありませんが、逆にそんな奴に騙されるバカなチワワを憐れむ心も芽生えます。しかし、目の前で起こっている現実は非情なもの。
あの男は己の手を取ろうとしたチワワの手を握り、軽く微笑むと「取り敢えず……。場所を変えようか」と、そのままその手を引いて歩き出してしまいました。「あッ……」と、小さな悲鳴にも似た声を残し、手を引かれるまま連れて行かれる哀れなチワワ。私はそんな光景に思わず目頭が熱くなるが、同時にある疑問も浮かび上がった。(あれ? でも、あのチワワは確か……男では?)確かに見た目は可愛い女の子の様に見えますが、アレれっきとした男。(私と同じモノが付いている男)

つまり、あの男はそんなバカなチワワの手を引き、何処かへ連れ込もうとしているのでは?!この学園は普通とは違う特殊な学校。女性という者が居ない環境で、下の処理をするのは同じ同性になる。
西園寺「えッ!? まさか……!?あ、あのチワワが危ない!」私は咄嗟の判断で二人を追いかけたがしかし、その行動は一歩遅かった様。(くっ…… もう手遅れでしたかッ)
チワワを連れ去ったあの男は、そのまま人通りの少ない校舎へと消えて行きました。(あのチワワ既にあの男の毒に掛かったのかも知れません)




………。
アレから数時間……。見失った筈の2人之内一人が、視線の先に1人倉庫の陰でボーッと座り込む霧森が目に映る。(あれ?)と思いながら物陰に隠れ観察する。すると優雅に空を見上げていた。(そう言えば椋橋様もよく空を見上げていたな…)。私も同じく空を見上げていると、突如強風に煽られ前髪が乱れた。はぁ……痺れを切らした私はゆっくり奴に近づき、意を決して声をかけた。

西園寺「こんなところで、何をしてるんですか?霧森さん」私の存在に気づいた霧森はゆっくりとこちらに振り返った。
霧森「ああ、君か。ちょっと考え事をしてたんです」
西園寺「考え事……ですか。それにしては少々不審者の様ですが」眉間にシワを寄せたまま、ほんとか?とでも言いたげな目で私は奴を見下ろす。
霧森「はは、手厳しいてすね。あぁ……西園寺さんでしたっけ?もし宜しければ少し俺とお話しませんか?」と言う霧森の提案を(また色仕掛か?)暫し考えたのちに、(少しは探れるかも)今は受け容れるしかなかった。

西園寺「それで?お話しとは?貴方の様な方が私に何の用ですか?」急かす私は早速本題に入る。勘付かれても嫌なので、一様偵察をも微塵も感じさせない様にしたつもり。しかし、霧森の次の言葉で背筋を冷たいものが走った。

霧森「用があるのは貴方の方では?」そう言った霧森の目は猛獣さながらの目だった。見透かす様な目と含んだ物言いが余計に居心地の悪さを引き立てる。(この男、予想以上に警戒すべき対処かもしれない…)そう思うと相手を警戒してからか、無意識に霧森を睨んでいたらしい。「おやおや、怖い顔ですね。」と揶揄う様に言われたが、それを気にする余裕は無い。あの鋭く影のある双眸とした瞳に独特の近寄りがたい雰囲気があのチワワの時とまるで違った。

西園寺「私より貴方の方が何倍も怖い顔をなさってますけど」
気持ちを誤魔化す様に笑みを見せるが、上手く笑えているだろうか?と心配になる。しかし私の心境知らず、奴は可笑しそうにクツクツと笑った。(うざ…)

霧森「ククッ…西園寺さんってホント面白いですね。是非今後も仲良くしたいですね…」今回の事で一つ分かった事がある。それは、今後関わりたくない要注意人物に認定されたって事。
西園寺「生憎私には既に心に決めた(椋橋様)方が、居ますのでご遠慮致します」
淡々と答える西園寺に、霧森の黒い瞳が一瞬光ると心底残念だと言う口調で肩を竦めた。(野暮なやつ…)これも演技?そう思わせるには十分なほど、お茶会の時とは打って変わって霧森の雰囲気は違った。今の奴は、凛とした声が空気を震わせる程どこか冷遇にも思える。

霧森「時間も押してるので単刀直入に聞きますね。貴方は何故俺に会いに来たんですか?そして何を企んでいるんですか?」声のトーンは変わらない筈なのに、霧森が放つ冷酷と感じるほど異様な雰囲気は冷たかった。私は彼の言葉と雰囲気に圧倒されつつ、すぐに冷静さを取り戻す。(霧森の雰囲気に呑まれるな)

西園寺「私が貴方に会いに来たのは、ある人について聞きたかったからです」
霧森「ほう、それは興味深いですね。一体誰のことですか?」
奴の物言いに一瞬ドキリとした。一瞬でも魅せられた事実を消し去るように、少し目線を下に下ろし静かに口を開く。
西園寺「それは、私がお慕いしている『椋橋 憂様』についてです」と言った後、私は強気に奴を睨みつける。すると彼と私の間に数秒の沈黙が流れると…霧森はニッと笑ったまま私に冷たい視線を送った。「へぇ……なるほど」そして霧森は私から目を逸らすことなく言った。

霧森「貴方が俺のところまで来た理由と、何を企んでいる理由は、椋橋先輩の為だったんですね」
これ以上奴に変な刺激を与えたくなかった私は、自身の目的を明確に伝えることにした。
西園寺「何を企んでいる…とは、人聞きが悪いですね。私はただ、貴方が本当に椋橋様の邪魔をしていないかを確認しに来ただけです。ただ……それだけです」時折吹く風が、頬を撫で西園寺の緊張感をひんやりと冷ましてくれる。

霧森「本当にそれだけですか?」
西園寺「ええ…誓っても良いですよ。私は純粋に、ただあの方に幸せになって頂きたいだけですから」
すると霧森は目線を下げて考えるような仕草を見せると、再び視線を私に戻してから再度、彼は口を開く。
霧森「俺には貴方が嘘をついているように聞こえますが……まぁいいでしょう。とりあえず貴方の話は分かりました。貴方が敵か味方かは別として、貴方は俺に何を求めてるんですか?」

霧森はいったい私の何歩先を歩いているのだろう…。奴の方が年下の筈なのにそれを感じさせない威風堂々した姿から目が離せない。(────何故?)

西園寺「あなた自身に、要求している訳ではありません。
……私はただ、純粋に椋橋様がこの学園で快適に過ごされる為、尽力しているだけです。それに対して良いも悪いもありません。コレは私がしているだけで、椋橋様が止めろと仰ればいつでも止めます」一つ間違えばストカーっちくなこの発言をする私を、霧森はどう映っているのだろう。(図々しい?お節介?変態ちっく?ヤバイ人?)そう感じるのは私が気にし過ぎているからだろうか?

霧森「なるほど。つまり、俺が貴方のお慕いしている方の邪魔をしてないかチェクに入ったと」
椋橋「は?」(分かってんじゃん)なら…「違うのですか? ……いえ、貴方の様子から察して、貴方のお慕いしてる方が俺に好意を持って下さっているのかなと思ったのですが……俺の勘違いだったんですね。そうですよね、こんな俺なんかと……」霧森は独り言の様にぶつぶつと、自分を卑下する発言を繰り返し、自分の世界に入ってしまった。(コロコロと変わる表情だな…)

西園寺「違いますッ‼ それは絶対にありえません!」私がわざわざこの警戒すべき霧森に声を掛けてる理由は、霧森が椋橋様の邪魔をしていないかを確認する為であって、何をどうなったらこんな勘違いをするのか理解に苦しむ。(馬鹿なの?)
西園寺「私はただ、貴方が本当に椋橋様の邪魔をしていないかを確認しに来ただけですッ。ただ……それだけです」
西園寺はこの時、妙な感情が入り交じった。それは、霧森と最初に出会った時とは違った悪意では無い、妙な不思議な気持ちに陥る。
霧森「そうですか、それは良かった。ではこれで失礼します」
西園寺「はッ⁉ちょっと…」(意味が分からない)
霧森はそう答えると、何事も無かったかのようにその場を去っていく。私はその後ろ姿を見つめ、少しばかりの胸の痛みを感じた……。
西園寺「何なの? これは……」この痛みが何なのかは分からない。しかし、妙に不愉快な気分になるのは確かだった。
過ぎ去る奴の後ろ姿に眺めながら、冷たい風が西園寺の少し伸びた前髪を嬲る。
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