アイスクリームシンドローム

Chiot

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act2:始まった日々を踏みしめて

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    ヴェルディアナがメイド見習いとして、働き始めて、数週間が過ぎた。エリアスに言われた通り、見習い期間を設けられたヴェルディアナは、早く1人前になれるように今日も仕事に励んでいた。

「ねぇ」

    キッチンにて、洗った皿やカップを棚に戻していたヴェルディアナに料理長である、リナトが声をかけた。

「何?リナトくん」

「これ、発注ミスしてる」

    すっとリナトがヴェルディアナに差し出したのは、1枚の発注書だった。恐る恐る、ヴェルディアナが紙に目をやると、リナトの指摘通り、発注数が足りていなかった。

「ご、ごめんなさい!!」

「……発注くらい、ちゃんとしてよね」

  「足りない分はルキアが買いに行ってくれてる。後でお礼、言っておいて」と冷たい視線と共にリナトはキッチンから出て行った。

「はぁ………。またやっちゃった………」

    1人、キッチンに残されたヴェルディアナは、深いため息を吐いた。働く事は嫌いではないのだが、どうもドジな所が災いしてか、毎回ミスをしてしまうのだ。

「このままじゃ、ここから追い出されてしまう……」

    そう考えると、ゾッとした。せっかく、ルキアに拾ってもらって、ここで働かせてもらっているというのにこのままでは見習い期間を終える前にここを追い出されかねない。

「そうなってしまったら、私は………」

    サァーと顔から血の気が引いていくのを感じたヴェルディアナは、頭に浮かんでくる悪いイメージを振り払うように頭を振った。

「そんなの絶対に嫌!!!」

    ヴェルディアナはダンっと机を叩くと、やり途中だった食器運びを再開した。体を動かしていた方が気が紛れていいと思ったのだが、自身の不運な体質はこんな時までついて回るらしい。
    一気に抱え込んだ食器は、ヴェルディアナが動く度に左右に大きく揺れ、棚までもう少しという所でバランスを崩した。

「キャー!!」

「危ねぇ!」

    声と共にヴェルディアナの隣を誰かが通り過ぎる。それは、本当に一瞬の事で、食器同様バランスを崩したヴェルディアナが尻餅をついた時には、食器は全て彼の手の中に収まっていた。

「悪ぃ、皿守るので手ぇいっぱいだった。大丈夫か?」

    泣きそうになっているヴェルディアナに、先程まで奥で在庫確認をしていた執事見習いのフェルディナントが言った。
    フェルディナントはヴェルディアナと同じく、ルキアに拾われ、ここで働いている1人だ。

「フェルディナントくん……」

「……俺がいない間に何があったんだよ。とりあえず、落ち着け」

    フェルディナントはそう言うと、自身の背後を親指で指し、「何なら、触るか?」と自身のふわふわな尻尾を揺らした。彼はワーウルフと呼ばれる獣人なのだ。

「……なるほど。またミスったのか」

    少ししてから、落ち着いたヴェルディアナが先程起きた事を話すと、フェルディナントは納得したと言わんばかりに頷いてみせた。その様子にヴェルディアナはまた落ち込んでしまう。

「昨日は書斎の本をぶちまけ、一昨日はトイレ掃除で洗剤間違えて、廊下泡だらけ……」

    指折り数えていくフェルディナントにヴェルディアナは「数えなくていいから!」と声を上げた。

「どうやったら、そんなに色々起こせるんだよ」

「私に聞かないで……」

「……ま、過ぎた事を気にしてても仕方ねぇか」

  「次行くぞ」とフェルディナントは、掃除道具を持つとヴェルディアナの首根っこを掴み、キッチンを後にした。

「えっと、次は………」

    落ち込んでいるヴェルディアナを他所にフェルディナントは次の持ち場である、渡り廊下へと向かう。
    今日は風が強いせいか、廊下には木の葉や小枝が落ちている。

「さっさとやっちまうか」

「えぇ」

「ん?フェルディナントにヴェルディアナか」

    早速、掃除に取り掛かろうとフェルディナントが腕まくりをしていた、その時、2人が歩いて来た方とは違う方からエリアスが歩いて来ていた。

「お疲れ様っス。執事長」

「お、お疲れ様です。エリアスさん……うわっ!?」

    エリアスに挨拶しようとヴェルディアナが駆け出そうとした瞬間、廊下に落ちていた木の葉を踏み、足を滑らせた。漫画のような出来事に我ながらに呆れてしまう。

「あんた、自分がドジだって自覚した方がいいぞ」

    転ぶ寸前でフェルディナントがヴェルディアナの腰を支える。そのおかげでヴェルディアナは転ばずに済んだ。

「うぅ……。また、やってしまった………」

    しかし、エリアスの前でこんな失態をしてしまったというショックは大きく、助け起こされたヴェルディアナは手で顔を覆った。

「相変わらずのようだな。ヴェルディアナ」

「す、すいません!!!」

    勢いよく、ヴェルディアナが頭を下げる。生まれて此の方、謝りっ放しの人生だったおかげか、礼の姿勢はびっくりする程綺麗である。

「頭を上げてくれ。別に怒っている訳ではないのだ」

    エリアスに言われ、ヴェルディアナが顔を上げると、そこにはまじまじと2人を見るエリアスがいた。その視線の意図が分からず、ヴェルディアナとフェルディナントは、ちらりと互いを見る。

「……お前達はいいコンビになるかもしれないな」

    フッと笑みを浮かべるエリアスに、フェルディナントは珍しいものを見たとばかりに目を丸くしている。一方のヴェルディアナは、最初に会った時同様、その笑顔に顔を赤らめていた。

「ヴェル、もう執事長行ったぞ」

「っ……!」

    ヒラヒラと目の前で手を振られ、ヴェルディアナはハッと我に返る。

「いいコンビ、ねぇ………」

    我に返ったヴェルディアナをじーっと見つめながら、フェルディナントが呟いた。
    ヴェルディアナよりも先輩である、フェルディナントはヴェルディアナとは違い、器用で要領も良く、その実力は口調さえ直れば、すぐにでも正式な執事になれるだろうと噂されている程だ。
   そんなフェルディナントといいコンビになれると言われた事を、今更ながらに疑問に思うヴェルディアナ。

「……ま、確かに俺がいたら、あんた、怪我しないもんな」

「……え」

「さてと、さっさとやっちまうか」

    仕切り直しと言わんばかりに、フェルディナントがパンっと手を叩く。

「ヴェル、慎重にやれよ」

「は、はい!」

    ヴェルディアナは返事をすると、掃除を開始した。出来るだけドジをしないように簡単な掃除も慎重にやっていくヴェルディアナとは違い、フェルディナントは慣れた手つきでテキパキと掃除していく。

「………頑張らないと」

「………ん?何か言ったか?」

   フェルディナントがこちらに振り返る。流石狼と言うべきか、小さな独り言までバッチリ聞こえているようだ。

「な、何でもないわ」

「そうか?何かあったら、言えよ」

    人懐っこい笑顔を浮かべ、フェルディナントはまた掃除をし始める。そんなフェルディナントを見て、やる気が出て来たヴェルディアナは「よし……」と意気込んだ。
    見習い期間はまだあるんだ。足掻けるだけ、足掻いてやろう。自分らしくない、前向きな思考にヴェルディアナはくすぐったさを感じていた。が、それと同時にこんな自分でも変われるような、そんな気持ちになっていた。
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